6.家族の事、世界の事
ーレイジー
ロイド君6か月目。健やかに大きくなってるぜ。
「中指・薬指・小指・親指・人差し指・中指・薬指・・・」
うねうねとウエーブをつくる足の指。
ここまで長かった~。任意の指を動かせるようになるまで3か月かかると思わなかったぜ。
そこから更にスムーズに早く動かせるようなるまで3か月。
親指だけだけど軽く回せるようになったぞ。
まだまだ掴む力は弱弱しいけど、それは赤ん坊だししょうがないかな。
「サーシャ!ロイドの足の指がうねうねと気持ち悪く動いてるんだけど!?」
「タナー!自分の息子に気持ち悪いって何ですか!?」
あ、やばい。パパンにみられた。
自分でも奇妙な動きだと思ってるから人が近くにいるときはなるべくやらないようにしてたんだが、
ちょっと熱中しすぎたぜ。
で、タナー父さん慌ててサーシャ母さんに報告するも、逆に怒られてた。すまんね。
ここらで家族について説明するぞ。
タナー・ハーシュ23歳。元冒険者で剣士なんだけど、遺跡で手に入れたでかい宝石を元手に、
道具屋「モナン・サーシャ」を経営。順調に稼いでいるらしい。
お察しの通り店名は「愛するサーシャ。」ラブラブやね。
背の高さは180位かな。今でも中庭で剣を振り回してるから引き締まった体をしている。
…なんだけど、新米パパさんの典型のようにあたふたしているからちょっと頼りなく見える。
「今の時期はたくさんの刺激が必要な時期なんだから。ちょっと足の指が不気味に動いたくらい何よ?」
ママン今、不気味って言ったよね。本当自重しよう。
サーシャ・ハーシュ21歳。同じく元冒険者で魔法士。
魔法!そうだよ。この世界には魔法があるんだよ!今まで必死に足の指と格闘してたから忘れてた。
やっぱり異世界に来たからには魔法!絶対覚えるぜ。
あ、母さんの説明の途中だったな。
背の高さは150位なんだけど、出るところは出てるすごい美人さんだ。おっとりとした優しそうな目に薄いピンク色の唇、すっと通った鼻筋がちょっと前世ではいないレベルでかわいい。
おまけにポニーテール!自分の母さんながらドストライクだぜ。
…タナー。お前がラスボスかもしれない…。
幼馴染のタナー父さんと冒険者やっていたんだけど、子供が出来た事で引退。
今は道具屋の仕事を手伝いながら子育てを頑張っている。
「奥様、今日の夕飯の献立ですが。」
そう言って子供部屋に入ってきたのはプリムラ。メイドさんだ。
年は25歳くらいか。身長は高めの170㎝手前位。
かわいいというよりは綺麗。この世界、美男・美女しかいないのか?
メガネのせいで、少し冷たい印象があるから、メイドというより秘書に見える。
ちなみにアキヒサはプリムラ派らしい。あいつやっぱり業が深そうだな。
俺は少しだけ苦手。俺の世話もしっかりやってるんだけど、どこか機械的な感じがするんだよ。
「そうねえ。それじゃあ一緒に市場まで行きましょう。ロイドちゃんとお散歩もしたかったし。」
「はい、奥様。では坊ちゃまは私が」
「いいのよ。その重みが幸せなんだから。」
「ですが…。」
母さんとプリムラの仲は良好らしい。
「それじゃーロイドちゃんに決めてもらいましょうか?」
そういってベットを挟んでプリムラがいる方とは反対の位置に移動するサーシャ母さん。
「ロイドちゃん、ママとプリムラどっちがいーい?」
そりゃ当然ママンだろ。サーシャ母さんの方に体を向ける。
「サ、サーシャ!ロイドの上半身と下半身が反対の方を向いてる!」
再びタナー父さんの叫び声が響く。
あ。しまった。アキヒサと相談するの忘れてた。
ーアキヒサー
ロイド君7か月。ハイハイが出来るようになったよ。
これで、行動範囲が広がった。やったね。
プリムラに連れられて書斎に入る。
僕が文字を与えるとおとなしくなることを彼女は知っているんだ。
赤ん坊に貴重な本をと最初タナー父さんは難色を示したけど、
じっとページを見つめる姿を見てからは黙認されたんだ。
「だー。」
ページの中の単語を指さすとプリムラが意味を教えてくれる。
ちょっと冷たい印象のあるプリムラだけど、こちらが聞きたい事には真面目に答えてくれる。
おかげで簡単な文章なら読めるようになってきたよ。
そしてこの世界の事が少し理解できたんだ。
この世界の名前は「インファルナ」総人口は4億くらいらしい。
らしいというのは、国の人口ってそのまま国力につながるから、各国は正確な人口を公表しないんだ。
4億と聞くと少なく感じるけど、モンスターもいる中で住める範囲って限られるから妥当なところみたい。
その中にある大陸で、子供が描くキリンの頭みたいな形をしているのが、「アルティアール大陸」
顔の中央部にアルクス山脈をがそびえ立って、各国を分断している。
それから、首輪のような位置にハンプティール砂漠があるのが特徴かな。
で、アルクス山脈から見て北西にある「シルメリア王国」が僕の住む国らしい。
アルクス山脈から流れる「トルトメス川」から出来た、肥沃な土地が産む穀倉地帯が自慢の豊かな国だ。
そんなシルメリア王国の南東、エスティーナ伯爵領の「ドールマス」が僕らの住む都市の名前。
トルトメス川に面して発展した土地で、アルティアール大陸からすると
ちょうど目玉の位置くらいにあるから「アルティアールの目玉」なんてまんまな別名もある
交通の重要な都市だよ。
お隣の南にある「ピュセル王国」と東側の「カナハート連合国」との仲は悪くないみたい。
だけど、ピュセル王国の南側、アルティアール大陸の鼻先に位置する
「ウィリス帝国」は領土拡大を狙う困った国みたいで、ちょっときな臭いのが心配かな。
「だー。」
今読んでいるのはタナー父さんの持ち物の冒険小説だ。
実話を基にしていて、いろんな動植物の事とか遺跡の罠なんかが載ってるから
ちょっとしたファンタジー小説に思えて、とっても面白い。
「坊ちゃまは本当に本が好きですね。そこの意味は…坊ちゃまには早すぎます。」
ちょっと顔を赤らめてプリムラが言う。
あ、プリムラの照れた顔初めて見た。かわいい。
そしてタナー父さん。堂々と官能小説を書斎に置くな。
…今度は一人の時に読もう。