10. ロイド会議 2
ー アキヒサ -
ロイド君 2歳6か月
サーシャ母さんを巡ってタナー父さんに対して反抗期です。
「さ、サーシャ。たまには一緒に風呂でもどうだ?」
「もう。馬鹿な事言ってないで、そっちの道具片付けちゃってよね。」
「おかーさん、一緒にお風呂入ろ~。」
「そうね。ロイドちゃんいきましょか。」
「フ(嘲笑)。」
「む、息子に鼻で笑われた。」
サーシャ母さんは渡さん!
「ま、まあ待てサーシャ。それならロイドは俺が風呂に入れるぞ。お前も疲れているだろう?」
「あら、そう?じゃあお願い出るかしら?」
「そういうわけで行くぞ息子よ。フフン。」
「え~(心底嫌そうな顔)」
「こいつ、すげー嫌そうな顔してやがる」
「男って馬鹿ね~。」
…まあふざけてばかりもいられないんだけどね。
~半年前~
「ロイドお前に話がある。」
「なあに父さん?父さんが書斎の辞書に隠してたエッチなご本の事?」
「うふふ。タナーぁ。後で話があるわ~」
「お前、母さんの前で何つう話を!違う。真面目な話だ。」
「お前は、普通の人と違って、強化・放出どちらの魔法も使える適性を持っている。
そういった普通じゃない人の事を総称してギフテッドって言うんだ。」
「へ~。なんかかっこいいね。英雄みたい!」
「真面目な話だと言っている!」
タナー父さんが怒鳴り声をあげた。
「ヒッ!」
いつも僕らの奇行を見つけては、情けない声でビクついている父さんが、
エロ本を母さんに見つかっては土下座している父さんが、本当に真剣な顔をしていたんだ。
「お前のその力は鍛え上げれば強い兵器になるってことで、もし国に見つかったら、
強制的に兵隊にされちまうんだ。」
「そしてそうなったが最後、生きて戻ってこれたものはいない。」
「うう。」お母さんが泣いていた。
「幸いお前が両方の魔法に適性があることは誰にも知られていない。」
「2種類の魔法を使えるところを見られなければ、問題はないはずだが、無意識下でマナを取り込んで魔法を使うことがたまに起こり得るんだ。」
感情が極限状態の時なんかに起こりやすいらしいんだって。
「そうなったときに普段違った魔法が発動してしまったら、お前がギフテッドだってことが
バレちまう。」
「ご、ごめんなさい。お父さん。僕が勝手なことをしたから」
「いや、早めに判って良かった。人前でなら言い逃れができないところだったが、
幸い誰にも見られていないしな。」
「で、ここからが重要なんだが、これから外に行った時、お前は強化系って事で通せ。
放出系は絶対に使うな。」
「強化系?なんで?」
「放出系は母さんが教えられるから良いんだが、強化系は外に習いに行かなくてはならないんだ。」
なるほど。そう言うことか。
「分かった。お外では強化系以外使いません。」
「で、だ。万が一バレてしまった時のことを考えて、お前には生き残る術を教えていこうと思う。」
「さっき言った通り、母さんがお前に魔法の基礎と放出系の魔法を教える。
基礎が出来たら強化系を習いに行かせる。普通は5歳くらいから習わせるもんなんだが、お前は頭も良いから3歳くらいからか。」
「それから、俺は主に剣術と何かあった時の為のサヴァイバル知識だな。万が一があっても一人で生きていけるように徹底的に行くからな。」
「まずは、お前は体の使い方がなんだか変だから、まずそっから克服させるぞ。」
一人で生きていけるようにする。とても2歳児に言うセリフではない。
その言葉が重しのように圧し掛かってきたんだ。
その時、僕の事を父さんと母さんがギュッと抱きしめてくれたんだ。
「大丈夫だ。絶対にお前の事は父さんと母さんが守ってやる。」
「そうよ。ロイドちゃんは何も心配しなくていいわ。」
両親の愛と強さを感じた夜、僕とレイジはロイド会議を開いたよ。
「えらいことになっちまったな。」
「そうだね。」
「チートして大金稼ぐってのも無理そうかな。」
「うん。僕ら目立っちゃイケないだろうからね。」
「すまん。俺が軽率なことをしたばっかりに。」
「レイジのせいじゃないよ。父さんも言ってたけどもし知らないで2種類の魔法が発動してたら、
生き残る術も知らないまま兵士として徴兵されていたもの」
「母さん泣かせちまってたな。」
「うん。あれはきついね。」
もう、あんな顔をさせたくないよね。
「でも、手遅れじゃないよな。」
「確かに。不幸中の幸いって奴だよ。」
「まさか、2歳児で命の危機を迎えるとは思わなかったけど、
これからも協力して頑張るぞ、アキヒサ!」
「うん。宜しくレイジ。」
僕たちは運命共同体だってことを強く認識したんだ。
「で、これからだけど。体を鍛えて、魔法を覚えるのは当然として、
僕らに出来そうなことって何かある?」
「そんなにパッとは出てこねーよ。…お前の生前の特技を何か活かしていくとかか?」
「占いにトランプマジックをどうやって役立てるの?」
「いや、そういったことじゃなくて、手先の器用さを上げることで、
例えば、もし捕まった気にピッキングとか出来たらいいなってな。」
「僕、鍵の構造なんてわからないよ。」
「たとえの話だよ。まあでも、手先の器用さを上げておけば、無駄になることは無いだろ。」
「そうだね。そういうことなら、レイジも体の柔軟性を高める努力はした方が良さそうだよ。」
「じゃあ、生前も含めて、今までやってきたことを無駄にしないで、長所を伸ばしていこうって事で。」
「了解です。」
それから半年間、飛んだり跳ねたり走ったりといった、体の基本動作を徹底的に行ったよ。
相変わらずレイジと噛合わなくて、生傷が絶えない有様だったけど、
今までと違って楽にお金を稼ごうとかじゃなく、命が掛かっちゃったから、
僕もレイジも真剣度がまるで違ったんだ。
毎日毎日汗だくになっても動き続けたおかげで、人並み程度には動けるようになった。
それから、魔法の習得を開始したよ。
「ロイドちゃん。まずは大気に満ちたマナの存在を知る所から始めるわよ。」
「見えないし、においもしないものをどうやって感じるの?」
「うん。だから、これを飲んでね。」
そう言って渡されたのは生薬が入ったお酒だった。
これを飲んでトランスすることで、マナとのチャンネルを開くらしいんだ。
でも、お酒なんて生前も飲んでないのに2歳児になって飲むなんて。
お酒は2歳になってから。
あ。なんか馬鹿な考えが浮かんできた。意識がふあふわしている。
「それじゃあ、ロイドちゃんの体にマナを流すわよ。」
お母さんが背中に手を当てた時、温かい、いや、熱い何かが流れ込んできた。
「わーーー!。熱い熱い!」
「我慢して。チャンネルが安定するまでの辛抱よ!」
背中がジューっていってる!
あ。なんか。降りてきた。
「ピポパピポピ。ピーゴロゴロプー」
「あ、ロイドちゃんが交信を始めた。」
その時、脳内に声が響いてきた。
『システムインストール開始。……終了しました。
メインシステム起動…チェック開始……コンディションイエロー。
コンディションの回復には管理者権限が必要です。管理者からのアクセス確認。…システム正常起動。
マナとの接続開始……成功。
システムインファルナへようこそ』
『ハロハロ~。アキヒサく~ん。元気してた~?』
か、管理人さん!?どうしてここに?
『いったでしょ~?ワタクシはこの世界の管理者だって。当然魔法も管轄内よ~。』
なるほど。言われてみれば、管理人さんが何を管理しているのか聞いてなかったよ。
「そうだ!管理人さんはこの状況になるって判っていたんじゃないんですか?」
『そうね~。昔は無垢で善なる魂に善意で特典を付けてあげていたのに~。そういった人を集めて、兵隊さんにしちゃうなんて~。人間ってホント救えないわね~。』
「昔ってどれくらい昔なんです?」
『うふふ。アキヒサクーン。死にたいのかな~?ワタクシの事を婚期を逃したオールドミスって言いたいのかしら。ってだれがオールドじゃこら』
「すスイマセン。何でもないです。」
たまに口調が変わるよねこの人。
まあ、最近じゃ空しくなって、あまり特典を付けなくなったらしい。
とにかく僕らにとっちゃ生きにくい世の中らしい。
『まあまあ~。あなたのパパとママは冒険者としては一流に近い腕を持っているから~。
そうそうおかしなことにはならないわよ~。』
「そうですね。両親には感謝してます。」
『そうそう、生きていればいいことあるわ~』
『兎に角~。これでマナとの接続は開始されたから~。頑張って魔法覚えてね~』
『あ、それとこれでステータスも確認できるようになったから~』
「え、ステータスって何ですか?」
『よくゲームとかにあるあれよ~。筋力とか知力とかを数値化したやつ』
へーべんりだな。
『ちゃーんとレイジちゃんとは別パラメータだから~。頑張って鍛えてね~』
そう言って管理人さんは消えていった。
「ロイドちゃん、ロイドちゃん!あ、気が付いたみたい」
「おかーさん?」
「ロイドちゃん何かと交信を始めたと思ったら倒れちゃったのよ?」
「うん。管理人さんとお話ししてた…」
「管理人さん?夢でも見てたの?」
お母さんは管理人さんを知らないらしい。
「さて、それじゃあ魔法の基礎を始めましょうか?」
こうして、魔法の習得がスタートしたんだ。
魔法とステータスに関しては次で。




