ブックハンター登場 4-3
これほどの強さの人間はいつぶりか。スピッツやガムも厄介だったが、単体では一撃で終わらせられる程度だ。 この男と同じ類の能力者の横野もガム達よりも劣るぐらいだった。
おそらく、あいつらが日本の組織にやってきて一番だったことを思えば、それ以前か。
あちらの戦場の感覚が脊椎を伝り、首筋を撫でながら耳元で囁く。
「──面倒だ。」
聖堂内の廊下で走っている着ぐるみを目視する。 ニックの『観測』がこちらに伝わるが、それを俺の能力で捻じ曲げて回避する。
投げナイフを背に向かって数本投げ、それが着ぐるみに触れたと同時に発砲。 ナイフの柄に弾丸が当たり、ナイフが着ぐるみの中の男に突き刺さる。
三本のナイフが背中に突き刺さった頃にやっと振り返り、敵意を露わにしながら警戒するが、まともに相手をしてやる必要もなく、数歩後ろに下がる。
男がミミミを追えば俺が後ろから仕留めてやればよいだけだ、反対に俺を追えば、ミミミが取って逃げることが出来る。
ゆっくりと見せつけるように弾丸を詰め直し、片手にナイフを持ちながら男に向けて構え、口を開けた。
「あれを追えば殺す。 お前の「眼」があろうと、俺はそれを掻い潜ることが出来る。 追いながら俺を躱すのは不可能だ。 俺に来たら逃げるだけだ。 どうする?」
「……」
こうして迷って貰っている間にもミミミとシドが本を探すことが出来ている。
ニックが動く。 跳ねて天井を殴り付けたかと思うと、それをそのまま引っぺがして、地面に叩きつける。そんな行動を二度行ったかと思えば石を大雑把に動かして即席の壁を作り上げた。
「天井をぶっ壊して壁を作るって、マジか」
大聖堂の造りを思い出し、他に進入出来る場所がないかを探る。 幾らでもあるが、この間にも二人が追いつかれていることを思うと、効率良く動く必要があるだろう。
壊された天井を見上げ、ここから二階に上がるのが手っ取り早いと判断し、瓦礫を足場に二階へと上がる。 本の保管場所は一階の扉から入れたはずだが、絶賛着ぐるみが通れないように破壊しながら進んでいるので、窓などのまともな道からは入れないだろう。
大雑把ながら、存外に頭が切れると言うべきか……思い切りが良いというべきか。
真っ暗な二階の廊下を駆けて、破壊しているニックの近くに来てから拳銃を床に向ける。
組織に穴を掘って侵入してきた奴に向けた物と同じ能力。 銃を操る能力により、障害物から弾丸を透過させて撃つ技。
「想心拳銃」
床を透過した弾丸は刺さっていたナイフへと辺り、傷を抉ると共に深く突き刺す。 それでもまだ鈍った動きのない男に化け物を見るような目で見てしまう。
既に内臓の一つや二つは傷つけたはずだが、振る舞いがひどく余裕そうに見える。 まぁ、慣れれば大丈夫なフリぐらいは出来るようになるものだが、それにしても丈夫だ。
弾を込め直して、再び放つ。 次は回避され、それと同時にこちらへと跳ねて、天井を殴りつけてそれごと俺に攻撃をしようとするが、後ろに跳ねて回避して破片を銃身で叩き防ぐ。
何度か天井ごと攻撃されるが、大まかな場所しか分かっていないからだろう、雑な狙いで問題なく回避し、銃を撃って反撃をするがそれも避けられる。 『眼』が天井越しに俺を見ようとしたのでそれを能力により回避して拳銃を構え、放とうとした瞬間、嫌に正確な動きで俺の真下の床がしたから殴り抜かれる。
紙一重の回避をしたつもりだったが、多くの破片が散って俺に突き刺さった。
壊れて出来た穴から、跳ねて登ってきた着ぐるみを見て思わず苦笑いをする。
「本当に人間かよ」
多分違う。 投げ付けられた破片を避けて、目の前に迫ってきた手を横から弾きながら力を加えて投げ飛ばそうとし、ニックの体が反転したところで彼が天井を蹴って俺を弾き飛ばす。
外と同じように投げるのは無理か……。 そもそも、投げられながら壁や天井を蹴って力付くで技を外す奴なんて想定している技がない。
先程以上に投げが使えない。 ……いや、考え方次第か。
吹き飛んだ身体を立て直しながら、ニックの拳を先程と同じように投げ、壁を蹴って技を外そうとしたところで、能力を無効化させる能力を発動した足を出して蹴り飛ばす。
ニックが地面に倒れ、カウンターの蹴りは流石に効いたのかと思ったが、そのまま立ち上がってくる。
そこからくる、今までで一番早い蹴りを後ろに跳ねながら銃身を盾に受けるが思った以上に飛ばされ、背中に壁が当たり息が漏れ出てしまう。
迫ってくるネズミのマスコットの拳を横にズレて避ける。背にしていた壁が崩れ、本が舞い飛ぶのを横目で見る。
「ッ! ここは!」
驚きと同時に、ニックに蹴り飛ばされて壁の向こうの部屋に入らされた。 片側で髪を結んだ少女が俺を見上げていて、嵌められたことに気がつく。
俺を相手にして取るのを見逃すか、俺を無視して撃たれながら進むかをで、俺をぶっ飛ばして同時に相手取るという選択を作り出した。
地面に着地して、大量の本棚を見ながら、拳銃をしまう。
外した先にあるのが目的の本だったらそれだけで失敗だ。
「水元!? ちょっ、カッコつけて足止めするって言っただろ、お前」
「悪い。 あれは少しきついな。 殺さずにだとなかなか厄介だ」
「仕方ない。 いけ、シド」
「行かねえよ! というか何あの流血と返り血に染まったニック! 怖いわ、ホラーか!」
シドとミミミの持ち物を探すが、まだ見つかっていないのか、二人の手にはそれらしい物がない。
「どれぐらい探せた」
「さっき入れたところだよ。 鍵がなかなか開けれなかったから」
思ったよりも遅いな。 まぁ仕方ないか……ピッキングが出来るだけ上等だ。
ニックをこの場から追い出すつもりで、構える。
こちらへと駆けるニックは寸前で止まり、石を手に持っていて、それをシドに投げ付ける。 左手でそれを止め、骨が折れた音を聞きながらニックへと走り、目の前に来た瞬間に振るわれた拳を回避し、より内側に入り込む。
「対心」
拳を握ったまま、ニックの腹に当てる。 振り切ることはなく、ただ触れるように拳を当て、ニックの動きが止まった。
俺もニックも動かないまま時間が過ぎていき、彼は何もないと判断したのかこちらに拳を振るい……ゆっくりと倒れる。
流石の化け物でも、この技は効くのか。 立ち上がろうとするニックの頭を対心を込めた脚で踏み付けた。
「……あいつら、案外肝が据わってるな」
大暴れしているのに、普通に部屋の中を探索している。
とりあえずこのニックが動く様子がなければ俺も手伝おうかと思った時、踏んでいた脚が掴まれる。
身体が振り回されそうになり、急いで身体を捻ってその拘束から抜け出すが、その勢いで身体が投げられ、地面に身体が擦れながら吹き飛ぶ。
視界の端で脚をついているニックを見ながら、上半身を起こすと妙な布に阻まれて視界が遮られる。
「…………」
手で退けようとして気がつく。 これ、スカートだ。




