激闘! 球技大会!1-4
公式試合で能力って使って良かっただろうか。
そもそもそんなに知られたものではなく、知られていてもオカルト扱いなのだから禁止などされるはずもないか。
おそらく探していた人形遣いとは別の能力者だが、人を吹き飛ばせるほどの力を持っているなら無視は出来ないだろう。
最低でも、俺と同格の『4』以上の力はあるだろう。 利優の『6』ぐらいの力になると、自身がおかしな能力を持っていることに気が付かないはずがない。 『4』から『5』の下位程度か。
何も対処をしないのはあり得ない、かと言って下手をして人形遣いに……いや、もう散々やり合ってるから顔ぐらいばれているか。
「どうします?」
「とりあえず、普通に対処するしかないだろ。 あとで呼び出して」
「ボクが呼び出しましょうか? 先輩が呼ぶのよりも警戒されないでしょうし」
「……いや、俺が呼び出してみる」
利優がニヤニヤと笑いながら俺の横腹を突く。
「えへへ、ボクが呼び出したりしたら、告白っぽいですもんね。 先輩がヤキモチ妬いてしまいます」
「そういう話はしていない」
制服の上着を脱ぎ、掛けるところを探すと、利優が受け取ってくれる。
軽く頭を撫でた後、腕を動かしやすいように腕まくりをしておく。
「お、水元やる気満々だな」
「まぁな」
能力は使わない予定だったが、必要ならば別である。 神林とはテニスのことを機に話すことが出来るかもしれないのだから、ある程度テニスを出来るように見せかけた方がいいだろう。
能力を発動する。
銃を操るという固有の能力ではなく、空間を認識する能力者全てに共通する力を。
視界が色付くように景色が鮮明なものへと変わり、上下左右前後、全てがある程度ではあるが認識が可能となる。
テニスラケットを受け取り、その持ち具合を確かめ、風の流れ、コートの凹凸、ボールの動きをより深く認識。
「練習するか」
中島の言葉に頷く。
中島が打ったサーブを危なげなく打ち返し、能力発動時の感覚を確かめる。 返ってきたボールを次はネットに擦れるほどの低位置に打ち返す。
「お前、絶対経験者だろ」
また返ってきたボールを反対方向に打ち、ボールは一度跳ねてからフェンスにぶつかる。
「これは俺も本気出すか……」
◆◆◆◆◆◆
「か、完封……」
利優に渡されたタオルで汗を拭いながら、ラケットを次に練習する奴に手渡す。
能力による空気認識があれば、ボールの飛んでくる位置は余裕で分かる。 その位置に移動してボールを打つだけならばそう難しい話ではない。
勿論、もっと上手い奴には通じないだろうが、学校の球技大会程度ならこれでも充分だろう。
目当ての神林もこちらを見ていた。
「上手くいってますね」
「まあ卑怯なことをしたから、これぐらいは効果がないと」
中島には悪いことをした。
軽く神林に目を向けると、難しそうにこちらを見ているのが見える。
軽く笑ってみると、神林は獰猛な笑みを返してきた。
「……ライバル認定されました?」
「……そうみたいだな」
「熱血漢と、クールキャラでいい塩梅なんじゃないですか? スポーツ漫画みたいで」
「いや、どっちがどっちか分からないが、そういう話ではないと思う」
「せっかくなんで、部活で読みます?」
軽く頷く。 今日は顔合わせ程度で、早い内にちゃんと声をかけよう。
そう考えて近寄ると、神林の近くにいた奴からテニスラケットを手渡された。
「ん? これ……」
そう言っている間にコートから人が離れて、神林がコートの中に入る。
「Shall we dance?」
「お、おう?」
神林は何度かボールを跳ねさせて、俺を睨む。
どうやらテニスの練習を始めるらしい。 俺と。
「そういう流れなのか……」
神林は天高くボールを放り、俺に向かって強くサーブを打った。
速さはさほどでもない、すぐにボールに追いついて打ち返ーー重い。 ボールに触れたラケットが後ろに押されていく。
無理矢理に押し返すと、神林がニヤリと笑った。
「俺の初球を受け止めるとは、やるな!」
「そういうスポーツではないだろ!」
当然のように打ち返されたボールに追い付き、ラケットを振るう。 より力が入るように打ったそれは鋭い弾道を描いて神林側コートで突き刺さるように跳ねる。
「0・15」
いつの間にかいた審判の男がカウントを宣言する。
まずは一歩先制か。
驚いたような表情の神林にもう一度笑いかける。 それと同時に、コートの周りから歓声が聞こえる。
「お、おおお!! あの転校生神林から先制奪いやがった!!」
神林は楽しそうに笑いながら、ボールを拾って手に取る。
「やるな、転校生」
「……どうも」
なんとか一点取ったはいいが、完全に油断していたところをもぎ取っただけだ。 次はこうはいかないだろうし……何より、この男、普通にテニスがめちゃくちゃ上手い。
神林が打ったボールをはじき返し、打つ方向を予想してそちらに掛ける。
異常な重さを見せるボールの厄介さが霞むほど、危なげなくボールが取られ、予想外の場所に打ち込まれてしまう。
「15・15!」
「くそっ」
「俺も負けてられないんでね」
再び放たれたボール。
先までの物は手を抜いていたのか、非常に重たい。 まるで大砲から放たれた砲弾を受け止めているようだ。
ヨロヨロとはじき返したボールの先に、神林が腕を振り上げて待っていた。
直感的に、ラケットを前に突き出す。
「ーーーー終わりだ!」
神林の打ったボールが消えるーー否、目や能力で捉えることの出来ない速さで俺に迫っていた。
ラケットにボールが触れる。 両の手でしっかりと掴んでいたラケットがはじき飛ばされ、ボールが俺の腹にのめり込む。
「……?…………ぐぁぁぁぁああああ!!」
目の前が空に染まり、不思議な浮遊感に酔いしれる。
ボールに吹き飛ばされて悲鳴をあげたことに気がついたのは、フェンスに身体が叩きつけられてからだった。
「まだまだだな、転校生」
「KO! 勝者、神林 知刃!!」
あれ、テニスってこんな競技だったっけ……?
利優が心配そうに駆け寄ってきたので、身体の無事を示す為に立ち上がる。
「だだだ、大丈夫ですか!?」
腹が痛い。 吐きそう。 などと利優に言える筈もなく、フェンスにもたれかかりながら頷く。
「なぁ利優、テニスってKOありなのか?」
「……さぁ?」
神林がネットの近くで待っていたので、利優に軽く支えられながらコートのネットのところまでに近寄る。
健闘を讃え合うために握手でもするのかと思って手を出すと、神林に思い切り振り払われる。
神林は俺の顔を睨んだあと、利優を見つめ、俺の方に目を向け直す。
「転校生、お前には絶対負けねえからな!」
そう言って神林は去っていった。
利優と共に休めるベンチまできたあと、軽く腹の調子を確かめながら背をベンチに預けるように座る。
「先輩、やっぱりボクから話を通した方が早くないでしょうか?」
「それは止めた方がいいと思う」
「……先輩が行ったら拗れません?」
「……まあ、やってみる」
利優は呆れたように俺の顔を見て、やれやれと溜息を吐き出した。
「先輩はボクのことが大好きなんですから」