ブックハンター登場 3-1
進入する場所が決まった。 すぐに何かをするような浅慮な真似はせず、一度様子見と作戦を決めることにし、ミミミに引きづり回されながらタイニーアイランドの乗り物に乗り続ける。
「……疲れたな」
「体力ないな、水元は」
「よくそんなに動けるな、お前らは」
夕暮れ近くになっているが、まだ全ての乗り物に乗ることは出来ていない。 ただ遊ぶだけの場所なのにここまで広く多いのは、随分自分と感覚が違う。 遊ぶのはそこまで重要でもないだろう。
ペッタリと汗ばんだミミミを見ると、服が汗で肌に引っ付いていて身体の線がよく分かる。 見ていればからかわれると思って目を逸らしてから、腕時計に目を落とす。
「そろそろ、帰った方がいいな。 1時間ほど前にも言ったが」
「泊まっていった方がいいんじゃない? 作戦とか立てないとだめだし、行き帰りの時間も馬鹿にならないしね」
一理ある。 結局は忍び込むのは夜間の方がいいだろう、それに夜中の警備がどうなっているかも確かめる必要がある。
だが、利優がもう夕飯を作っているかもしれない。 浮気を疑われていることもあり、泊まるのは個人的な理由で嫌だ。
「そもそも、空いてないだろ。 これだけの人数がいるなら、中も近場も予約で埋まっているんじゃないか? 下手なところを探して泊まるよりか、普通に帰った方が早い」
俺がそういうと、ミミミはニヤニヤと笑い、パンフレットの地図に指を指す。
「さっき、あの女の子の保護者が予定が変わって日帰りになったからって、予約してた部屋をくれたのだよ、ロリコン」
「ああ……一応確かめると、保護者ってゴリラだったか?」
「保護者がゴリラってなんだよ。 タイニーキャラにゴリラはいるけど、ゴリラの持ち込みは禁止だろ」
「……ゴリラじゃなかったのか」
まぁ、いない苗字でもないので、偶々迷子と神林という苗字が一緒だっただけか。
親戚などの可能性もあるが。
「とりあえず、二部屋あるから水元は廊下な」
「それなら普通に帰らせてくれ。 知り合いなら、お前ら二人が一部屋でいいんじゃないか?」
「え、やだよ。 襲われる」
「襲わねえよ! ……普通に、僕と水元でいいだろ。 少し気まずいけど」
帰りたかった。 ホテルに着いたら早めに利優か鈴に連絡をした方がいいだろうか。
諦めてランド内ホテルに入り、ミミミが手続きを済ませて別れて寝る前に三人で部屋に入る。
「じゃあ、一応まとめからするか」
「明日でよくない? 疲れたしさ」
「……そんなに時間はとらねえよ。 夕飯前には済む」
ゴロンとベッドに寝転がっているミミミを見てから、シドの前にもパンフレットの地図を見せる。
「一応、歩いて距離を測ったが地図は正確だから、これを使って話をするな」
「あとでいいよ。 急ぐ必要もないしさ。 水元も電話したいんでしょ? そわそわしてるし」
確かにそろそろ利優か鈴に連絡をしておきたいが、時間が経てば経つほと記憶は薄れてしまうし、情報の確認や作戦の立案は早い方がいい。
そう考えていると、初期設定のままの着信音が部屋に鳴り響いた。
「……出てもいいよ?」
「悪い。 この恩は忘れない」
「記憶力すごいなお前」
急いで立ち上がってからポケットにある携帯を取り出して部屋の外に出て応答のボタンを押す。 すぐに耳元に近付けると、利優の子供らしい声が聞こえる。
『もしもしー、蒼くんでーすか?』
「ああ、どうかしたか?」
『今日、鈴ちゃんとお泊まりでパジャマパーリーを決行するんですよ』
「分かった。 今すぐ帰る」
『いえ、そうじゃなくて、出前とか取るのでご飯の用意出来ないので、一緒に頼んでおこうかなって……それとも今日は遅いです?』
今から帰ろうか。 そう思ってしまうが……ここで戻るのはあまりに無責任だ。
作戦を立案する必要も、情報も共有する必要もある。
「いや……今日は任務で泊まり込むから、いらないな」
『え、僕がご飯を作らないからって家出を……!? 先輩が僕のこと好きなのは知ってましたけど……それはあまりにも……』
「違う」
『んぅ、じゃあ、また寝る前に電話してくださいね?』
「ああ」
名残惜しさに携帯の画面を見つめてから、溜息を吐き出す。
帰りたい。
少ししてから部屋に戻り、ミミミがいないことに気がつく。
「ミミミは?」
「もう一つの部屋でシャワーを浴びるって」
「……そうか」
「水元も汗をかいているし浴びとけば」
シドに言われ、確かに自分も汗をかいていることに気がつく。
「軽く運動してから浴びる。 少し場所を取るぞ」
道具を使ったりは出来ないので、自重によるトレーニングだけをしていく。
「お前も元気だな……」
「今日は動いていなかったからな。 多少動かしてないとすぐに鈍る」
「疲れたとか言ってなかったか?」
「気疲れだ」
上を脱いでから、治りきっていない身体に鞭を打ってトレーニングをしていく。 痛む身体ではあるが、動くのに支障はなく慣れた単純な動きは気を落ち着かせてくれる。
「……傷だらけだな」
「情けないが、怪我は多い。 この前もミミミの不意打ちを躱すことが出来なかったしな。 実力不足の情けないものだ」
「いや、あれは……パンツ覗いていたからだろ」
「……何を言っているのか、よく分からないな」
「パンツに見惚れて避けれなかっただけだろ」
「そんなわけないだろ。 あれは純粋な修行不足だ」
全身が温まったところでストレッチをして、もう一度トレーニングを繰り返していく。
「筋トレがしつこいな」
「自重しかないからな。 負荷が少ないから数をする」
「あと、今日もパンツ見ようとしてこけてたよな」
「……気のせいだ」
「結構間抜けだよな、お前」
「否定はしない」
「あとムッツリだよな」
「それは違う」
シドは窓を開けてからその近くの壁に背を預けて、溜息を吐き出した。
つまらなさそうにこちらに目を向けて、少し違う雰囲気を見せる。
「盗みなわけだろ、今回の依頼は」
「そうだな」
「なのにだ。 水元のやり方は警察に対する警戒がない」
「……まぁな」
「バックの組織がそれほど強大ってことだとして、なんであいつに依頼をしたのかってことだ。 そんなに大きいなら、いらないだろうしな。
考えてられるのはスケープゴートの鉄砲玉扱いとかのために依頼をしたとかな」
シドは疑うような目を俺に向ける。 汗を流すためにバスルームに向かいながら首を横に振る。
「単純に一枚岩じゃないから、これに割ける人手が少ないんだよ。
怪我を見りゃ分かると思うが銃創があるだろ。 見ての通り、非合法なことばかりをしているが捕まってはない。 捕まってるヒマがあればここまで傷は出来ないからな。
使い捨てとかはあり得ない。 捕まらないのは単純に揉み消せるのと、あと盗まれた相手が通報出来ないからな。 通報したら警察に内容を公開することになるから、持ち主もそちらの方が嫌がる」
「……盗まれるより公開される方が怖い本……か。 あまり信じられないな」
「どうしてもと言うなら、警察の前で拳銃を撃ってもいいが」
「……いや、いい」
一通り終えてからもう一度体をほぐしてからシャワーを浴びに向かう。 適当にシャワーを浴びてから体を拭き、先ほどまで着ていた服を着なおす。
多少気持ち悪いが諦めるか。 部屋に戻ると、既にミミミが戻って来ていて足をパタパタと動かしながらベッドに座っていた。
「……なんで着替えの服を持っているんだよ」
「備えあれば嬉しいなって言うよね」
言わない。




