激闘! 球技大会!1-2
利優に携帯電話を渡し、電話する機能の画面にまでしてもらう。
そのまま利優から距離を取り、ベランダにまで出てから慣れた電話番号を打ち込んだ。
数度のコール音の後に気怠げな声が携帯電話から発せられ、無事に繋がったことに微かに安堵する。
「もしもし、水元です。 夜分に失礼します」
「おー、昨日……いや、一応今日か。 の人形は助かった。 正直、俺の能力だと硬い相手は面倒なんでな」
それは俺も面倒だ。
幾ら押し付けられたとは言えど、一言礼を言われれば何かしら文句を言うつもりだった気も薄れ、仕方ないと頬を掻きながら話を続ける。
「今週末……金曜日ぐらいから利優……塀無を一度支部の方に帰らせようと思っていまして」
「どうしてだ? 喧嘩でもしたか?」
「いえ、昨夜の学校探索で危険に晒してしまったので、対象の能力者の捜索を本格的に行おうとするなら……言っては塀無に悪いのですが、いない方が確実に遂行出来ると思いまして」
上司は大きくため息を吐き出して、罵るように言う。
「ダメだ」
その言葉に眉を潜めながら尋ねる。
「理由をお聞きしてもよろしいでしょうか?
単純に人形遣いとの戦闘になれば貴重な『6』以上の能力者を危険に晒すことになります。
部屋に置いておくにしても、昨夜に顔を見られた可能性があるので危険は変わりません」
また深い息を電話越しに吐きかけられる。
「はあー、お前って真面目だけど、色々と駄目だよな。
何のためにお前達二人で行かせてると思ってんだよ」
「人事部の業務領分ですが、危険が伴うための護衛では?」
「俺は『お前達二人』と言ったんだ。 他の奴等ではない理由だよ」
少し考えてから答えた。
「日本人の若年層が不足しているからでしょうか」
「そりゃ当然その理由もあるけどよ、他にも何人かいるだろう」
「では、何故でしょうか?」
「自分で考えろ」
にべもなく断られ、それ以上の質問を聞かないというように電話を切られる。
仕方ない、人事部の方にも電話をしてみるか。
結果はあまり変わらなく、上司のように強く言われることはなかったが、やんわりと躱されてしまった。
人を守りながら戦うのは、非常に苦手なのだが……仕方ないか。 流石に隣町のホテルに泊まらせる、とかは領収書が下りないだろうし、毎週そんなことを出来るほど貯金があるわけではない。
俺と利優がこの任務を与えられた理由……か。
端的に言えば分からない。 このような環境下だと、俺の能力で出来ることなんて隠れて銃を使える程度で、銃の音などを考えたら、それも乱発は出来ない。
利優の鍵の開閉も、便利ではあるがもっとこの場に向いた能力者ならいたはずだ。
人選ミスとまでは言わないが、適材に放り込まれたとは言い難い。 俺の場合はどう考えても泥臭い戦場に放り込まれた方が役に立つだろう。
ベランダから、台所で料理をしている利優の姿を見る。
とりあえず聞いてみるか。 自分で考えろと言われたが。
「利優」
「んぅ、どうしたんですか? 先輩。
ご飯ならまだ炊けてないので少し待っていてくださいねー。 先輩の大好きなチンジャオロースですよー」
それは楽しみ……ではなく、質問である。
「利優は、なんで俺達がこの任務に就かされたか分かるか?」
「んぅ、それは、ボク達よりも適任がいたのではないか? ということでいいですか?」
俺が頷くと利優も頷いた。
「そりゃそうですけど、何かしら理由があるんじゃないですか? それとも、先輩はこの任務が嫌ですか?」
「……嫌では、ないが」
「先輩はボクのことが大好きですもんね。
じゃあ、それでいいんじゃないですか? 難しく考えても仕方ないですよ」
特に反論する気が起きない。
おそらく何かしら俺の能力が活かせるときが来るのだろうと決め付けて、納得する。
「先輩は真面目過ぎるんですよ。
あっ、お風呂にお湯入れておいてください。 あと、机の周りも片付けて食べる準備お願いします」
「真面目過ぎるということはないと思うが……分かった」
学校の用意とかも適当にしかしてなければ、真面目に勉学に励んでいるわけでもなく、現状任務でも何かしらの成果を上げることは出来ていない。
生活も利優に頼りっきりだ。
チンジャオロースの匂いを嗅ぎながら、風呂にお湯を流す。
付けっぱなしのテレビからニュースを聞き流し、軽く片付けをする。 利優の物が多いが適当に纏めておけば大丈夫だろう。
風呂のお湯が丁度いいぐらいに張った頃、利優が作り終わったと俺を呼ぶ。
利優の作った料理を机に運び、軽く手を合わせてから食べ始める。
「美味しいですか?」
「ん、ああ。 美味いよ」
嬉しそうに笑みを浮かべた利優を他所に、何処か温い空気に気まずさを覚える。
確かに、嫌ではない。 この任務は。
学校と任務の二重生活とは言えど、もう通うこともないと思っていた学校に通うことが出来て、そこでも人の良い奴等に会うことが出来た。
利優とは普段から仲が良いので、こうした生活も苦には思わない。 利優の方はどうか知らないが。
「先輩は……」
利優が食べる手を止めて俺を見つめる。 幼いかんばせを少し悲しそうに歪ませて、言葉を続けた。
「ボクと一緒にいるのは嫌ですか?」
「……嫌ではない」
「じゃあ、なんで帰らせようとしたんですか?」
それは、と言い淀む。
足を引っ張られたくない。 などと直接的な物言いが出来るわけもなければ、利優に気を使ってと嘘を吐くのも難しい。
「……変なことを聞いて、ごめんなさい。
鈴ちゃんから『喧嘩でもしたの?』ってメールがあって、理由を聞いたら……」
「いや、そんなことはないが……悪い」
利優は少し顔を朱色に染めながら続ける。
「違うって答えたら、鈴ちゃんが「ああ、それは水元くんが利優ちゃんがいない間に、利優ちゃんの私物に狼藉を働くつもりなんだよ」って返って来たんですけど……」
「あいつの中の俺はどんな変態だよ」
変なことを吹き込みやがって。
「するんですか……?」
「しない」
息を吐き出して、正直に答える。 変に誤魔化そうとして利優に変なことを吹き込まれるのは面倒くさい。
「戦うことになったら、邪魔だと思ったから、一度帰らせようと思った」
「……そうですか」
利優は少し悲しそうに微笑んでから、夕食を食べ終える。
「そういえば、球技大会のボクたちの参加する種目はテニスになるそうですよ。 他の競技は空きがないらしいので」
「そうか」
微妙に気まずいまま台所に向かい、食べ終えたあとの食器を洗う。
「利優は先に風呂に入ってろ」
「ん、お願いしますね」
利優は料理をしながら調理に使った物は洗っていくので、洗い物はそう多くなく直ぐに終わる。
寝巻きと下着、それにタオルを用意して横に置き、テレビニュースを見る。
悲しませてしまったか。
しばらくして利優が風呂から上がり、洗いざらしの髪をタオルで水気を取りながら俺の隣に座る。
利優の愛用しているらしいシャンプーの匂い、薄く熱っぽく色付いた顔に、普段着よりも少し薄い生地の寝巻き。
愛らしい微笑みを誤魔化すように風呂に向かい、脱衣所で脱いで風呂に入る。
当然のように、利優のシャンプーの匂いがしていた。
「……俺は、どうかしている」
風呂の栓を抜いて、そのまま冷たいシャワーを浴びて汗と共に身体の熱を取っていく。
本当に、どうかしている。