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LIU:2016発目の弾丸は君がために  作者: ウサギ様@書籍化&コミカライズ
第二章:不良と魔女と時々ゴリラ
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いつも抱える心 1-1

 過剰な戦力だ。 明らかに、異常だ。

 単体でどのような戦況でも変え得る存在。 世が戦乱であれば間違いなく英雄と呼ばれるであろう才腕。

 それが二人。 戦場から離れたこんな場所で人探し……探偵の真似事をしているなど、理不尽ですらある。

 戦力を考えれば引くべきだろう。 しかし、そのうちの一人を追い詰めた状態、次にこの好機がいつ来るのか。 これだけ損害を出して引けるのか。


 唐突に火炎が盛るように襲いかかり、空間ごと移動し回避をする。 焼かれた匂いと痛みに顔を顰めた瞬間、暑く感じたはずの空気が冷える。


「なん、で……」


 少女が驚愕した声が響く。 立っている。 「アレ」が幽鬼を思わせるように揺らりと揺られ、背筋が浸りと寒さに喰われる。

 全身総毛立ち、身体が動くことを拒否するように硬直し倒れる。


「立て、ガム」

「え、あ……」

「退却でいい。 もう一人は、完全に計算外だ」


 二人が去った、その数分後、パキリ、と空が割れた。


 蒼は拳を握り、辺りをキョロキョロと見回すが、空の様子がおかしいことには気がついていないらしい。


「先輩……」

「水元は……意識あるのか?」

「分からない、です。 あっても、なくても……こんなこと、しそうな人です」

「……まぁ、よく分からないけど反応ないし、たぶん意識ないだろうな。 ……ああ、たぶんここがなくなったら元の場所に戻るだろうから、どこにいたか教えてくれ」

「あの、喫茶店にいました。 ……学校に近い」

「そうか。 すぐに迎えにいくから、待ってろ。 下手に動かすと死ぬからな。 ああ、治癒能力者と落ち合う必要があるから……。 っても、俺にはパイプがないから」

「鈴ちゃんに、電話します」


 世界の終わりというに相応しいほど、周りの空間が砕けていく。

 事実、世界が終わったように利優は感じていた。


 自分の気持ちに気がついてしまえば……大切な友達に対する不義理も過ぎる。 おそらく、ずっと裏切っていたのだろう。

 その上、自分のせいでこんなことになった。


 空間が壊れていくのを見て、ああそうなのだ。 頷く。


◇◆◇◆◇◆◇


 平日。 昼間。 家。 一人。


 エアコンの音が煩くて消す。 遠くに蝉の鳴き声が聞こえて、すぐに蒸し暑くなった室温に軽く汗ばむ。


 引っ越しの用意だけど、物をダンボールに詰めて、あとは業者さんに運んでもらうだけの簡単な作業だ。


 自分の物が、きた時よりもすごく増えたことに気がつく。 学校での生活が楽しくて、ご機嫌で色々な物を買ってしまったからだ。 家が広いということもあって、考えずに買っていたけど、よく考えれば組織に戻ったら小さな部屋になるのだから置く場所がない。

 そんなことすら、楽しくて楽しく、気がつくことはなかった。


 先輩の私物は少ない。 ほとんど増えていない。 家財や家電を除けばダンボール一つに空きが出来るぐらい。

 傷が出来てしまったら悪いので新聞でも詰めようかと思ったけど、新聞は取っていないのでなかった。 代わりにぬいぐるみを詰めて、ガムテープで閉じる。


 お気に入りのぬいぐるみを入れてしまったことに気がつくけど、取り出す気にはなれなかった。


 先輩は意識が戻っていない。 身体としては治療を受けても能力の回復を受けても、まだ死にかけであることには変わらず大丈夫とは言えないぐらいではあるが、意識を取り戻してもおかしくないらしいが、能力の副作用で心がイデアに近づき過ぎたらしい。 ……単に眠るような状態が続いている。


 やんわりと、鈴ちゃんがボクを遠ざけるようにしようとしたように見えて、逃げるように荷造りをしにきた。

 鈴ちゃんのことは裏切った。 気がつかなかっただけで、鈴ちゃんを応援すると言っている間も、ずっと好きだったらしい。

 先輩には足手まといになった。 ボクのせいで死にかけ、辛い思いをし続けていた。


 合わせる顔がない。 多分、怒るどころか……二人ともボクに謝ろうとするから、余計。


 詰め終わる。 冷蔵庫の中の残りを使って何かを作ってしまおうと思ったけど、まだ結構残っているので食べきることは難しそうだ。 先輩がいたら、食べきるのも簡単だったけど。


 会いたくない。 ……好きになんてならなければ良かった。 と、色々な何かを否定する。

 多分、それはボク自身を否定したいだけだ。


 ソファの上に両膝を立てるように座り込んで、膝に顔を埋める。


 先輩はボクのことが好きだ。 ボクと一緒にいたがって、ひたすらボクに尽くすことに喜びを感じていて、ボクと触れ合いたがっている。

 非常に嬉しいけれど……本当にボクだから好きになったんだろうか。 偶々、本当に偶々、ボクと出会ったときが、そういったタイミングだっただけで……鈴ちゃんがそこにいたら、鈴ちゃんだったのではないか。

 それなら、何の迷うこともなかったのに。 ボクを庇って、死にかけるなんて、なかったのに。


 会いたくない。 会ったら、また庇われる。 また助けられて、また救われる。


 ガランと殺風景になった部屋がそこにあった。 どうにも寂しく思い、今からでも学校に行こうと思ったけれど、先輩はそこにいないのだから意味はなかった。

 この前までずっと一緒にいたから、一人というのは妙な感覚だ。 何かを飲むにしても、癖で二人分入れてしまいそうになる。


 掃除しよう。 立ち上がって、まだダンボールに入れていない掃除機で全部の部屋を掃除していく。 先輩の部屋を掃除している途中、ベッドの下にまだ荷物があったらしく、掃除機に引っかかる感覚がする。


 気まずく思いながらも残して置くわけにもいかず、ベッドの中に手を突っ込んで中の物を取り出そうとする。 カツンと、爪の先にそれが当たり、半ば肩までベッドの下に突っ込んでそれを取り出す。


 金属の箱で、中もスカスカとしていて軽い。 音の感じから中に紙類が入っているようだけど、本ではなさそうなので、何となく安心した。 重要な書類とかそういった物だろう。


 えっちな類の物であれば、顔を合わせることが出来なくなるところだ。 ダンボールの中に詰め直すのも面倒だけど、ついでにお気に入りのぬいぐるみを取り出すことも出来ると思えば手も動く。

 他に先輩の物がないかを隅々まで見てから、ダンボールの中に詰めて、代わりにお気に入りじゃないぬいぐるみを取り出す。


 ……こうでもしないと、逃げてしまいそうで。

 逃げた結果、また彼を追い詰めるようなことになるのは避けたかった。

 会いたい。 会いたくない。 相反する感情がどちらも自分本位でいやになる。


 比べて、鈴ちゃんは優しいし、いい子だ。 先輩も変わった人だけど、頑張り屋だ。 友達であること、それだけで自慢になる二人である。


「うん。 それがいい」


 何とかして、くっつけよう。 人の恋愛感情なんてあまりよく分からないけれど……動物とか、雄と雌を閉じ込めてたら勝手に番うし、どうにかなるだろう。

 なんか蒼くんって動物っぽいし。

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