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LIU:2016発目の弾丸は君がために  作者: ウサギ様@書籍化&コミカライズ
第二章:不良と魔女と時々ゴリラ
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魔女と不良と時々ゴリラ 3-3

 飛んで跳ねて、撃って躱す。 水元(ミズモト) (ソウ)は、ただ強い。

 それは戦闘に向いた『銃を操る能力』、深く正しい『干渉深度』、多くの格闘技を複合させた『武術』、他の追随を許さない『戦闘経験』が組み合わさることにより産み出されるもの、ではなく、もっとより分かりやすい理由だ。


 人を殺すのが得意。

 正確に言えば、脳の作り自体が殺すことを得意としている。 先を読める知性、人の考えを理解し予測する推理、高い並列処理能力、何より、人の気持ちを理解出来ない共感性の極端な低さ。

 変えようのない脳味噌の構造自体がそれに特化しきている。 だからひたすらに強い。


 落下する石や岩を回避しながら辺りを見回す。 六人目は視認出来ないが、視認出来ている五人は動かしていないはずの物が見えて、これ以上にいることを認識する。

 能力による観測に線が走り、反射的にしゃがみ込む。

 避けたはずが、その線が曲がる。


「ッッ……! 弾丸……!」


 蒼は自身の動きに合わせて動いたそれを拳銃で弾き飛ばし、斜線を見る。

 狙撃手は見えないが、確かに存在している。

 最低、七人と認識を改め、思わず舌打ちをする。


 自分と同じ『銃を操る能力』であり、その上自分よりもレベルの高い能力者。 蒼を打倒するには適切な人選である。

 同じ能力者同士であれば、能力の出力が高いものの方が物質を動かすことが出来る。 蒼が銃を撃ったところで、最悪自分にぶつけられる可能性があるのだ。


 当然、遠くにいるため出力が落ち、それは難しいだろうが、近寄られた場合はその限りではなくなる。 いつ近寄られるかなど分かるはずもなく、何もされていないが、銃を封じられたも同然だった。


 突如、何処からか霧が発生する。 隠れていた能力者だろう。 余りにも濃い霧で、視界が塞がれる。

 蒼は利優のことを心配に思いながら、酷い視覚と、能力による観測で巨人の脚と落石を避けていく。


 だが、この場で苛立ちが募っているのは、蒼ではなくガムだった。


「何で……何でまだ倒せないっ」


 金属が砕ける音が、搭乗者の誰もに聞こえる。 巨人の足首が壊れた。 中の誰もが理解する。

 搭乗しているのは高い位置にある空間だ。 倒れてしまえばタダではすまないが、足首を補強するための魔法を使うほどの猶予はない。


 何故砕けてしまったのか、それを確かめる前にガムは能力を発動し、空間を歪め、外へと繋がる。


 外気に晒されて冷える唇。 それが乾くより前、巨人が倒れ、音が響く以前。 冷たい鉄が額に触れた。


 追い詰められるのがあまりに早すぎる。

 能力を使う? 否、その瞬間に殺される。

 逃げる? 否、当然殺される。


 少しでも生きたい。 ガムは震える唇を動かし、無理矢理に口角を上げる。


「んー、流石デスね。 それにしても、なんで壊れたんデスか? 結構硬いはずなのに」

「あんなデカブツが歩き回っていたら壊れるに決まっているだろう。 ……お前がそう感じたのだろう」


 自重による崩壊など、しっかりと考えていた。 何を間違えた。 あの程度の動きで壊れるはずがないーー。

 目線を動かす。 ガムが人質に取られているような状況、動く人はいない。 動かない全てを無視して巨人に目を向ける。


「壊れて……いない」


 弾丸が金属を壊す音と勘違いした? まさか、そんなはずはない、壊れていなければ観測で気がつくはずだ。

 生きるために答えを導こうとする中、ガムはあることを思い出した。


 靴に仕込まれた「観測の出来ない針」。 能力による観測を防ぐことの出来る能力者。


「は、はは……。 馬鹿らしい手ですね。 ……そんなことに気が付かないなんて」

「……殺したくはない。 利優に嫌われるから。 だから、引け」


 ガムは笑う。 そして、蒼に手を伸ばす。


「最近、やけーに、利優ちゃんに怖がられたりしませんか?」

「……は?」


 思わぬ言葉に呆気に取られる。 抵抗する様子もなく、けれど不思議と自信を持って言葉を紡いでいく。

 風のない世界の中、人も少なく、ガムの声だけが雑音のない場所に広がる。


「ありますよね。 だってそれ、私の仕業ですもん。 あ、この街から出た時は出来てませんけど、私の魔法で、蒼くんを怖く見えるようにしてたんですよ」


 身に覚えはあった。 だが、知らない間に緊張が顔に現れていたのだろうと思っていた。

 だが、唐突に能力ではなく「魔法」などと言われて信じられるはずもない。


「魔法っ ……? 何を言っている」

「身に覚えがあるんですね。 まぁ、この私が仲を引き裂こうとしてしたことだから当然なんですけどね。

魔法は魔法ですよ。 能力なんて非効率、非合理的なイデアル・ジーンの使い方じゃない。 体系化、合理化されたイデアル・ジーンの使い方……それが魔法です」

「……それで人の心を操れるとでも? あり得ない、人の心はイデアで操れる物ではない」

「直接は、デスよ。 それは。 例えばイデアル・ジーンの圧倒的な暴力で脅せば、イデアで人の心を操ることは出来るデスよ?」


 一歩、ガムは足を後ろに下がる。 蒼も一歩前に歩み、ガムは内心舌打ちをする。

 流石にそこまで馬鹿でもない。 単純な人間ではあるので、分かりやすいが。


「……利優との接触を許すはずがないだろう」

「そうデスか? 望遠鏡越しに覗くぐらいなら出来たデスよ?」

「それで何が出来るというんだ」

「人の心を操る……とか?」


 乾いた発砲音が響き、ガムの頰に線が生まれる。 血が流れ出て、瓦礫の上に垂れる。


「ふざけるな」

「ふざけてないデスよ? 光の魔法があって、デスね。 この通り」


 ガムは瓦礫に向けて光を発し、その光が色を変えて、写真のように利優の姿を映し出した。


「……これで俺が怒っている顔でも貼り付けたとでも?」

「そんなの効果ないデスよ。 サブリミナル効果って知ってるデス?

意識出来ないほどの刺激を与えて、潜在意識に影響を与える。 まぁ、端的に言えばほんの少し、簡単な印象を与えるぐらいなら、出来るんですよ。

例えば蒼くんが突然殴ってきたら、暴れたりするみたいな……気のせい程度ですけど、確かに効果があってデスね」

「脅しのつもりか」

「あ、やっぱり嫌われるように仕向けるのは脅しになるんデスね」


 蒼が引き金を絞ろうとし、ガムは言葉を続ける。


「これからは、蒼くんのことを好きになるように同じことをしてあげるデスよ?」


 蒼の手が止まる。


「蒼くんと話していたら、なんとなく安心して、ぎゅっとしたくなる。

蒼くんと一緒にいたらポカポカして、ずっと一緒にいたくなる。

ちょっとしたことでも嬉しくなって、嫌なことがあっても機嫌を直せる。

とか、どうデスか?」


 蒼の手が震える。 何を言っているのか、甘い言葉が脳を痺れさせて、その姿を思い浮かばせる。

 脳裏に映るのは可愛らしい少女だ。 性格もよく、幼い顔立ちだが整っていて、コロコロとした笑顔は花が咲いているようだ。

 手で寄せれば折れてしまいそうな華奢な身体。


 俺には遠い存在だ。 蒼はうすらと思っていた。


「恋人として手を繋ぐと、頰を染めて。 目を閉じて、身を任せるみたいに上を向いて、キスをねだる。照れを隠すように笑って、赤くなった顔を隠そうと蒼くんの胸に顔を押し付けるみたいに抱き締めて」


 ガムの声はどんどんと小さくなる。 近くであっても傾聴しなければ聞こえない程度の声なのに、蒼の耳には届く。


「もちろん嫌々じゃないですよ。 心の底から蒼くんが好きで、両想い。 もちろん他の男の子に笑顔は向かないし、蒼くんだけの物です」


 少し声色が変わり、慰めるようにガムの言葉が続いていく。


「今、蒼くんは幸せかな。 尽くして、尽くして、ずっと頑張って、なのに利優ちゃんは蒼くんを男の子として見ていない。

これからも続くかもしれないね。 ああ、いや、これからも続いたら運がいい方かな。

普通、他に好きな人が出来ると思うね。 それで、その人と交際を始めるの。 蒼くんはそれを知ってるけど、それで守るのを止めるような人じゃないよね。 利優ちゃんは蒼くんに守られながら他の男の子に微笑むの、それで「好きです」なんて言っちゃって。 蒼くんには申し訳なさそうな顔をするんだけど、それでも交際を止めることはないよね普通。 蒼くんが私達と戦って、痛い思いをしている間に、利優ちゃんは他の人に抱き締められるの。 蒼くんが感じたことのない、利優ちゃんの細くて華奢だけど柔らかな身体を、ぽっと出の男が感じるわけだね。 まぁ、当然、交際なんてしてたら男女の関係にもなるよね。 蒼くんは護衛をしないとダメだから、利優ちゃんが肩を掴まれて、利優ちゃんも身体を預けながら扉の奥に行く様子を見るんだけど、当然すぐ近くの外にいないとダメだよね。 扉を背にして利優ちゃんを守ろうとしてたら、話し声が聞こえるの、隠そうとくぐもった嬌声がちょっとずつ聞こえる、行為の音が聞こえる。 揺れを感じる。 君は近くに立っている。 あっ、利優ちゃんが幸せになるならって考えてちゃダメだよ? 普通に出会いと別れがあるものだからね。 結婚するまでに交渉する平均は七人らしいよ。 君の知らない利優ちゃんを七人も知ってるんだね。 君以外の男のことを七人も知ってるんだ。 ……嫌じゃない?」


 蒼が何を思っているのか、蒼自身ですら分からない。


「……言いたいことは、それだけか」

「私は、蒼くんなら利優ちゃんを幸せに出来るって思っていますよ。 蒼くんよりも利優ちゃんを思っている人がいますか? 蒼くんと一緒になったら絶対に幸せになります。 保証します。

利優ちゃんを想うなら、幸せにしてやろうって思いませんか?」

「言いたいことは、それだけか?」

「悪いようには絶対にしませんよ。 なんなら、蒼くん以外の男の人が利優ちゃんに絶対に合わない環境を作ってあげます。 ずーっと、蒼くんの物。 いいと思いませんか?」

「……いいに決まっている」

「一緒に来ましょうよ。 片時も離れなくていいように、手配しますから」

「最高だ。 理想的だ。 いい話だ」

「でしょう? きっと幸せになれます」

「……でも、きっとそれは……俺にとっての理想で、利優にとってのではない」


 蒼はガムに手を伸ばし、頚動脈を締めて意識を落とさせる。


「……会ったばかりのお前は知らないだろうけど。

利優は案外、正義感が強いんだよ。 悪いことをしているところだと、きっと胃を壊してしまう」


 蒼はヘラリと、空虚な笑みを浮かべる。 「そこがまたかわいいんだ」。 続けた言葉には、確かな後悔があった。



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