白熱! 歓迎会! 3-4
「これが利優。 これも利優、こっちも利優」
「見たら分かりますよ」
利優の写真が大量に貼られているアルバムを見してもらい、利優の母親から説明を受けるが「これは利優」ばかりでいつに撮られた写真なのかが分からない。
0歳から16歳までの写真を1枚ずつ取り出して『これは利優ちゃんの0〜16歳までの写真17枚ですが、年齢順に並べてください』みたいな問題を出されたらだいたいの人は9歳から16歳までの写真を見分けることが出来ないだろう。
俺なら何とか正解出来るだろう。 12歳利優と13歳利優がどちらがどちらなのかは、非常に難しいが。
それに幼少期を過ぎた辺りから、改まって撮っている感じの写真が増えていて、構図が似ているので特に分かりにくい。
「じゃあ、利優はこれが何歳の利優か分かる?」
「……15? ですかね」
答えの確認のためか利優に目を向けられたので、首を横に振る。
「じゃあ、14歳ですか?」
「いや、これは12歳。 お母さんには丸わかりだ」
「……すみません。 たぶん、8歳です」
「ああー、確かにー」と誤魔化す母親を見て頬を掻く。
「よく分かりますね。 蒼くん。 愛の力です?」
「一応、俺が初めて会った3年前の14歳の時からのは分かる。 それに利優が鈴と会った10歳の時からは、写真で見たことがある。 俺が見たことない利優で、尚且つ微妙に背丈が小さいから、8歳だと予想出来る。 日焼けの具合と服装を見ると、5月か6月辺りだな」
「蒼くん、正直ドン引きしてるんですけど」
「利優が聞いたんだろ」
「蒼くん、正直ドン引きだよ」
「…………」
俺が利優を見分けるのを得意としているのではなくて、本人とその親が見分けられないだけなのではないだろうか。
利優は抜けているし、利優の親ということは抜けている可能性は高い。
「蒼くんは、年齢が分かるんだよね?」
「はい。 蒼くんはボクソムリエなんですから大丈夫ですよ!」
「なら良かった。 悪いんだけど、これ、一回ブチまけて順番グチャグチャになってしまったから、年齢順に並べてくれないかな……?」
「任してくださいっ! 蒼くんが責任を持って順番に並べますっ!」
勝手に責任を持たされた。 まぁ出来なくはないから、別にいいけれど。 100枚以上ある写真を見ながら、指紋が付かないように手袋を着用してから、床に新聞紙を敷き、写真をアルバムから取り出す。
「何で手袋?」
「手の脂が付いたら勿体無いだろ。 出来る限り傷や汚れが付かないようにしたい」
「先輩。 ぶっちゃけて言うとちょっと気持ち悪いです」
「何でだよ」
努めて平静を装いながら作業を開始する。
数えてみれば124枚。 特に組織に行ってからが多く撮られている。 寂しさを紛らわせたり、思い出の代わりかと思えば少し同情する。
最近から順に並べていく。 やっぱり、実際に見ていただけあって違いが分かりやすい。
「先輩、一切変化することのない真顔が逆に気持ち悪いです」
「どうしろと言うんだ」
16〜14歳の利優を並べ終えた後、次は反対に0歳から順に並べていく。
「何でこの順番なんですか?」
「分かりやすい順だ。 流石に何もなしで並べていくのは難しいから、まず考える必要のある枚数を減らす」
「はあ……とりあえず引いてもいいですか?」
「止めてくれ」
「じゃあ、これからが本番ですね! ボクソムリエの先輩なら間違えずに並べ替えてくれると信じてます!」
まず、利優にも判別付かないから間違えたかどうか判断出来る奴がいない。
だからと言って不真面目に適当に並べるつもりはないけれど。
「どうやって判別出来るんですか?」
「残っているのは、9〜13歳の利優だけど、12歳の利優からは外で遊ぶことがなくなったのか、服装が少し薄手でも日焼けが若干少ない」
「……日焼けしてます?」
「多少はしてる。 13歳の利優はオシャレに目覚めたのか、少し服装に気を使っている感じがする。 これで12.13歳の時のは判断出来る。 後は日焼けと服装の具合でだいたいの月日の判断がつく」
「……会う以前からストーカーとかしてました?」
「してない。 おそらく10歳からは髪の毛の感じが少し違うな。 急に変わっているから、そういうのを気にし出したのだと思う」
「やっぱりストーカーしてますよね?」
「してない」
「じゃあ、10歳と11歳は?」
「表情の作り方が若干違う」
「気持ち悪いです」
少々涙が出そうになりながら並べ終え、アルバムをウェットティッシュで軽く拭いてから、写真を中に入れていく。
あー、これ欲しい。 と合法的に手に入れる方法を考えながら作業を終えて、息を吐き出す。
とりあえず、これでいいだろう。 軽く伸びをしてから、アルバムを見ていく。 利優が俺の肩に顎を乗せて後ろから見てきたので、軽く肩を上げて利優を退ける。
「どうしたんです?」
「いや、気になったことがあってな」
大したことではないけれど、幼児の頃の利優の写真に違和感を覚えて、それを見る。
「……先輩、幾らボクが好きでも、その頃のボクに興味を持つのは引きますよ……」
「違う。 俺が見ていたのは……」
言おうとして、口を噤む。 気になったのは一歳頃のその一枚だけで、それ以降にそれらしい痕跡はないので……あまり触れない方がいいか。
途中で口を噤んだ俺を見て、利優は顔を顰める。
「もしかして、そこのボクのふとももが丸出しの写真です?」
「違う」
「……やっぱりとんでもないロリコンに」
「違うって……うん」
「気持ち悪いです……」
「そろそろ泣いていいか?」
利優が作った夕食をご馳走になって、風呂を頂く。 泊まる予定はなかったので、服は同じものを着なおした。
利優は普通に寝間着があったらしい。
照明の取り替えを頼まれたのでそれを終えたあと、利優を自室で寝かせる。
軽く頭を撫でたら、嬉しそうに「えへへ」と笑ってから、目を閉じた。
……写真のことを聞くために利優の部屋から出て、リビングの方に向かうと、もう照明が落とされていた。 母親も寝るの早いな。
俺も寝ようかと思ったけれど、寝る場所がない。 利優の部屋で寝るのは論外だし、リビングで寝ていたら、利優の父が帰ってきたときにすごく気まずいだろうし、いい気もしないだろう。 というか不快だろう。
仕方なく、リビングの灯りを点けて、アルバムを開いてそれを見る。
一歳頃の利優。 リビングに飾られている絵。 照明と同じ方向にある影。 それ以前の写真もよく見ればほんの少しだけおかしいし、乳児の頃に至ってはーーーー。
トン、と小さく扉が閉まる音が聞こえ、続いて鞄を置く音、靴を脱ぐ音と続いて聞こえた。
利優の父親が帰ってきたらしく、緊張しながら席を立つ。 リビングの扉が開いて、父親の軽く驚いた顔を目にする。
だが、父親が見ているのは俺ではなく、机の上、それもアルバムを見ていた。
「お邪魔しています。 利優さんの同僚の、水元 蒼です。
こんな夜分にお騒がせして申し訳ありません」
「いや……ああ、利奈から聞いていたから」
父親は慣れた様子でレンジで夕飯を温め直して、机に置く。 アルバムが汚れないように食べているところから離れるようにして置いてから、頭を下げて椅子に座る。
「……えと、水元くん。 だったよね」
「はい」
「……利優とは、どういう関係かな?」
利優の父親は、利優に似ておらず、結構背が高く身体もしっかりとしているように見えた。
俺を見る目も全く笑っておらず、威圧感を覚える。
「……同僚です。 友人でもありますが」
「……利奈からは、恋人だと聞いたが」
「……いえ、恋人ではなく、俺の……私の一方的な片思いです」
「……そうか」
感じる気まずさに頬を掻こうとしたが、それは無礼かもしれないと耐えて、小さく息を飲む。
食べ終えたが、寝るつもりはないらしく、キッチンの冷蔵庫に行ってビールを何本も持って戻ってくる。 これは逃げるなという合図だろうか。 それともいつも飲んでいるのだろうか。




