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転校初日2-2

 七不思議の一つ目、蟻の登校。

 順に見ていくとして、とりあえず懐中電灯を点けて目的の場所に向かう。

 下駄箱などがある学校の入り口に着き、足元を見てみる。


「確かに、蟻が登校しているように見えますね」


 利優の言葉通り、何処かに蟻の巣があるらしく、蟻の行列を作っている。


「七不思議……これ、怪奇現象か? 確かに不思議は不思議だけど」

「蟻って、夜行性でしたっけ?」

「いや、基本は昼行性」

「不思議ですね、何処に続いてるんでしょうか?」


 この歳になって蟻の行列を追うことになるとは思わなかった。

 光で照らしながら黒い点々を追っていくと、下駄箱の下にあるすのこに集まっているようだ。


「靴の履き替えでしょうか?」


 利優のファンシーな言葉を無視してすのこを開けると、黒い塊りが幾つか見える。

 それに光を当てて眼を細めると、クッキーの欠片のようだ。


「クッキー? なんでこんなところに……」


 見ればそこ以外も酷く汚れていて、埃やらゴミやらが多い。

 一人納得出来て頷く。


「つまり、この玄関の掃除をしている奴がサボって、履いて集めたゴミをすのこの下に押し込んでたら、そのゴミの中にある菓子類を目当てに蟻が集まってたってことだな」

「ああ、なるほどです。 ……暇なときに、掃除でもしましょうか」

「いや、俺たちがやることではないだろう」


 利優はパシャパシャと携帯電話で写真を撮り、俺はその間にメモをしておく。


「報告面倒くさいです」

「利優の直接の上司って沖島さんだろ? 緩い人じゃなかったか?」

「仕事の報告は適当でもいいんですけど……。

まぁ、その、先輩には言えないことですけど、適当な人は適当なりに面倒くさいところがあるんです」


 一つ目の七不思議は問題なく理由が発見出来て良かった。関係ないとしたら、それはそれで都合がいい。 おそらく、ある程度の成果は出さないと他の人と交代させられるので捜査しないのはありえないけれど。


 二つ目の七不思議、時ズレの時計を見にグラウンドに向かう。 確か、夜中に時計を見たら時間がズレているという話だが……。

 懐中電灯で校舎の2階あたりに貼り付けてある時計を照らす。


 その時計を読むと、だいたい1時15分くらいだろうか。


「今は1時22分ですね……うわぁぁあああ!!」

「いや、ズレって7分だけ?」

「それはそうですけど、昼に見たときはぴったり合ってたのに……」


 確かに、夜中にだけ時間のズレる時計というのも妙な話だ。 電池切れなどが原因で、朝に手動で直している可能性も考えられるが、普通その時に電池も交換するだろう。

 長らくほったらかしにしていたら完全に電池が切れるはずだ。


「ひいい、お助け、お助けください!」

「利優、うるさい」


 とりあえず、登って確かめれば済むか。

 利優に懐中電灯を渡し、校舎に近寄る。


「ま、まさか、先輩オバケに挑むつもりですか!?」

「いや、ちょっと時計を見てくるだけだ」

「ボクを置いていかないでください!」


 利優を無視して校舎の壁に脚を掛け、地面を蹴って一気に上がる。 校舎の窓に手を引っ掛けて、身体を持ち上げて同じ場所に脚を掛ける。

 すぐに時計の元までたどり着き時間を確認すると、1時23分ほど。

 そのまま降りると時間は15分に戻っていた。


「だ、大丈夫ですか先輩!? 急に噛み付いたりしませんよね?」

「それ、幽霊じゃなくて吸血鬼とかゾンビじゃないか?

あと、別にオバケでも怪奇現象でもなかったぞ」


 不安そうに俺の顔を見る利優の頭を撫でる。

 年頃の少女らしいシャンプーの香りは一度風呂に入ったからだろう。 存外に触り心地がいいのは、それだけではなく利優元々の髪の性質かもしれない。


 撫でたはいいが、思ったよりも気恥ずかしくすぐに離す。


「今って夜だろ?」

「オバケですか……?」

「それに、上にあるから下から照らすことになるわけだ」

「オバケなんですね……!?」

「影だ、あれ、針の影が時間を指してるように見えてるだけだ」


 近くで見てみれば、薄い色の針が怪奇現象の光に照らされて地の色に溶け込んでいることと影の黒い針があることに気がついた。


「じゃあ、オバケではないんですね」

「ああ」

「わ、分かってましたよ! こんなのボクの頭脳にかかったらお茶の子さいさいですから!」

「……そうか」


 人気がないということは、それだけ周りが暗いということでもある。

 暗い中に目が慣らされていると、色が把握しにくくなる。 その中で目立つのは影の黒と地の白だけで、針の鈍い銀色は見え難くなっていたというだけの話だ。


 利優はパシャパシャと写真を撮り、俺はメモを取る。


 本命である三つ目の怪異に取り掛かろうというところで、俺のポケットにある携帯電話が鳴り響いた。


 「ひいっ」と、利優は小さな悲鳴と共に俺の身体に抱き付く。

 小さな利優の身体は脂肪も付いていないのに柔らかく、何処か気まずく感じてしまう。


「電話だ」

「わ、分かってましたし! 先輩がボクのこと大好きだから、ちょっとサービスしただけですからねっ」


 利優の言葉を無視し、応答ボタンを押して耳元に当てる。


「水元です」

「分かってるよ、お前まだ五良南高校にいるよな?」


 聞き慣れた上司の声。 何度も吐き出される吐息の音に嫌な予想をしながら答えた。


「はい、まぁいますが……」

「そこのグラウンドに押し込むから、手伝え」


 そのまま電話を切り、傍らにいた利優の肩を持ち抱きよせる。

 腕に付けているブレスレットが微かに熱を持ちながら、拳銃のパーツ毎に分かれて形状を変えていく。

 それを組み立て直し、ネックレスを千切るようにして弾丸へと形状を戻す。


 利優の鍵を開閉する能力と同じように、銃を操る能力。

 手に握られた弾丸を拳銃に込めながら、利優を背に隠して備える。


「なんか来るらしい」

「ーー来ました」


 飛来したのは先の二つの七不思議よりも遥かに怪異のように思える。 利優からすればそれはオバケとは違うのか、驚異を感じこそしても取り乱す様子はない。


 俺にとっては幽霊もこれも大した差がないと感じるが、それは俺が利優よりも遥かに低位の能力者であるせいだろう。 能力への理解度が低いために、怪異との差が分からない。


 見えたのは薄汚れた緑色の身体を持つ人型。 背中には薪を、手には本を携えてこちらを見ていた。

 飛来して、結構な勢いで落ちたはずだが、大したダメージは見られなかった。


「二宮金次郎……」

「銅像も動かせるんですね」


 二宮金次郎には敵として判断されたのか、こちらに向かって走ってくる。 流石に速く、利優を無理矢理抱き抱えながら横に跳ねて、引き金を引く。

 金属同士がぶつかる高い音が聞こえ、何の意味も成さずに向かってくる。


「えぇー……」

「二宮金次郎、超強いですね」


 まぁ当然なのかもしれないが、こうも聞かないと流石にちょっと凹む。

 吹っ飛んできたのはおそらく上司の能力でだろう、硬いからって押し付けられたな。


 後ろに下がりながら、二宮金次郎の動きを観察する。 人間のように走っているが、銅像の身体でどうなっているのか。


「先輩、邪魔なら放してもいいですよ」

「馬鹿か」


 拳銃を持った手を前に出し、利優を後ろに下げながら撃ち込む。

 接射を行う。 軽く凹んでいることを確認、意味がないと判断。

 利優を少し遠ざけるとそちらにも関心を示したように思われる。 人形遣いの情報を更新。 乗移遠距離操作型と仮定する。


「っ足首です」


 利優の言葉に従い、足首へと発砲を行う。 二宮金次郎像の足首に大きな欠損が発生、その欠損が元になり転倒。

 動いている途中の関節が弱点であると判断する。 二宮金次郎像が起き上がろうとした際に幾つか発砲をし関節を破壊、無力化に成功した。

 能力による拳銃の腕輪化は行わずに、周囲の警戒を続行。


「……先輩、怖いです」


 その言葉を聞き、集中が途切れる。 利優の見せた怯えの顔は幽霊に向けた物でも二宮金次郎像という驚異に向けた物でもない表情だった。

 それが俺に向けられていたことに気がつき、強張っていた顔を元に戻す。


「……とりあえず、もう他は来そうにないな」


 利優は頷く。

 怯えられたのは何処か気まずく、それを誤魔化すように少し笑って見せる。


「似合ってませんよ」

「うるさい」


 息を吐き出してから、拳銃を分解し、再びブレスレットに戻す。

 これ以上の捜査は、今日のところは打ち切った方がいいだろう。


 利優は電話をして、弾丸と二宮金次郎像の回収を頼んだ。 一欠片だけ銅像の欠片を摘み、ポケットに突っ込む。


「帰るか」

「帰りましょうか……」

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