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LIU:2016発目の弾丸は君がために  作者: ウサギ様@書籍化&コミカライズ
第二章:不良と魔女と時々ゴリラ
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白熱! 歓迎会! 3-1


 利優の実家。 それが彼女にとって大した意味を持った誘いではないことは確かだけれど、嫌に緊張して喉が渇いた。

 夏というのもあるが、それにしても水分の摂り過ぎであることは間違いない。


 スーツといった物はほとんど使わないが、一応、組織の方の自宅には置いていたので取りに戻ろうとしたら、利優に止められた。


「蒼くんって案外常識ないですよね」


 まさか利優に言われるとは思っていなかった言葉だ。

 せめてもと、私服ながら出来る限り真面目そうに見える服を選ぶ。 こんなに服を吟味したのは初めての経験だ。


 俺も緊張し、真面目に見える服装をしているけれど、そんな俺を笑って見ている利優の服装も、いつもの適当な膝丈の半ズボンに比べて、幾分か小洒落ていて、どこか新鮮だ。


 実家に帰る服装がいつもよりもきちんとしている。 なんとなく利優の実家への思いが分かるようで、軽く頭を撫でてやる。


 少しだけ嬉しそうに俺の手に頭を押し付けて、利優は「えへへ」と笑った。


「一応、事前に連絡をしておいたので、そろそろ出ましょうか。 あ、お父さんは夜遅くまで仕事なので気にしなくても大丈夫ですよ」

「……ああ」


 情けないが、正直助かる。 利優の親が組織自体に悪感情を抱いている可能性があるし、それに加えて娘が連れてきた男など、不快も過ぎるだろう。

 だが、そうやって逃げるようなことを思う自分があまりよく思えないのも事実だ。


「よし、しゅっぱつしんこー! です!」


 家から出て、鍵を閉めてから駅に向かう。 そう遠い場所でもなく、通うことも出来そうな場所にあることに利優と両親の距離を感じる。


 うだるような暑さの中、利優の手が服の袖を掴んだ。


 家の距離が近いほど、人の距離が遠い。 不思議に感じるけれど、そのおかげで俺の近くに利優がいてくれる。 そう思い至って自己嫌悪に苛まれる。


「……利優。 親は好きか?」


 横断歩道の白線のみを踏んで進んでいる利優に尋ねる。 一瞬、間があって利優は頷いた。


「もちろん。 好きですよ」

「なら良かった」


 家を出てからずっと裾を掴んで緊張したようすだったから、あまり得意ではないのかと思った。

 まぁ、わざわざ休日に嫌いな奴の元に行くはずがないのだから当然か。


 電車で一時間。 そこからバスで二十分。 そして徒歩五分弱。 通おうと思えば、ここから高校でも組織でも通えるような場所に、利優の実家があった。


 利優は呼び鈴を鳴らして、その場で待つ。 少ししても扉が開くことはなく、どうやら不在らしい。

 能力を使って開けたりはしないようで、利優は不満そうに口を尖らせてから言う。


「んぅ、ちょっと時間を潰してからまた来ましょうか」


 ここに来る途中に見かけた喫茶店で時間を潰すことにする。 だいたいのくる時間も伝えていたのですぐに戻ってくると思ったが、家の前で待つにしては少しばかり夏が来ていた。


 ひやりとした冷房のおかげか、二人でゆっくりと一息吐いて、手作りらしいメニュー表を見る。


「……十時過ぎ……です。 パフェ食べたら、お腹いっぱいでお昼ご飯食べれなくなっちゃいますよね」

「昨日も菓子の食べすぎで食べれなかったしな」

「んぅ、ウチで残す分にはいいじゃないですか。 後で食べますし」


 利優は少し迷ったあとパフェを諦めたので、アイスコーヒーとオレンジジュースを注文した。

 コーヒーが来るのを待つ時間、利優がじっと俺の顔を見ていた。


「どうした?」

「あ、いえ、いつもより……というか、最近と違って穏やかな顔をしていたので、ちょっと安心して」

「最近、そんなに変な顔してたか?」

「少し、張り詰めたような……。 少し、だけ、怖い顔をしてました」


 今の方が余程緊張していると思うが……利優の感性はよく分からない。 確かに多少気は張っていたけれど、それはここでも襲われる可能性もあるので変わらないし、利優の親に会うことになって緊張もある。

 今の方が余程張り詰めて怖い顔をしていることは間違いない。


 ストローを口に咥えて、オレンジジュースをのんでいた利優は、少しして顔を上げた。


「どうした?」

「あ、今、家の鍵が開いたので、帰ってきたみたいです」


 飲み物で時間を潰していただけだから直ぐに出れるが、利優はそれでもゆっくりと飲んでいるので、わざわざ焦らせる必要もないと合わせるようにゆっくり飲む。


「んー、先輩のことは一応伝えてるので、そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ?」

「ああ」


 利優の方が緊張しているように見えるが、言う必要もないだろう。

 徐々に飲むスピードが遅くなって、飲み終わったあと利優がトイレに向かったので、支払いを済ませて待つ。


 ……トイレを借りるのも、ここの方が気まずくないのか。 まぁ、人の家のトイレって微妙に借りにくい気持ちは分かるけれど。


 利優の実家に戻って、再び呼び鈴を鳴らすと、トントンと足音が聞こえ、扉が開いた。


 予想に反して、170cm近くありそうな長身の女性。 縦も横も大きく、女性にしてはかなり身体が大きい。

 顔も利優のように整っておらず、少しつり目がちで威圧感もある。


「おかえりなさい、利優」


 けれど声は穏やかで、アクセントや口調も少し似ているように思えた。


「えと、ただいま? です」


 ぎこちない笑みに向かって利優の母の手が伸びて、頬を何度か撫でるように触って、ムニムニと弄る。


「…………。 あ、利優、後ろの男の子は、言ってた蒼くん?」

「はい。 利優さんの同僚、いえ友人の水元 蒼です。 利優さんにはお世話になっていて」

「ん、蒼くん、そういうのはいいですよ……」

「そういう訳には……」

「あっ、やっぱり蒼くん! いつも利優が電話でかっこいいって話しているから、すぐに分かっちゃった!」

「話してません!」


 笑う大柄な女性が家の中に入っていき、俺たちにも入るように言ったので続いて入る。


「お邪魔します」


 二人でそう言ってから、靴を並べて置いてリビングのような場所に通される。


 机の前に座らされて、冷たい麦茶が並べて置かれる。


「最近どうなの? 高校に通っているって聞いたけど……勉強ついていけてる?」

「あ、はい。 蒼くんも教えてくれて、なんとか……。 昨日も、お友達と勉強会をしてたんですよ」

「そっか、よかった。 蒼くんも、自分のお家みたいに寛いでくれてもいいのよ? 利優の普段って、どんな様子なのか教えて?」

「はい。 ありがとうございます。

利優さんは熱心に勉強をしているので、入学当初より飛躍的に学力が上がっています。 まだ副教科はあまり進んでいませんが、それもすぐに良くなっていくと思います」

「……三者面談みたいね」


 三者面談ってなんだろうか。


「蒼くん、三者面談って何です?」

「分からないな。 雰囲気を考えたら、会社の面接とかの方法じゃないか?」

「あれ、学校とかでしない?」

「……すみません、分かりません」


 利優の母は少し不思議そうな顔をしたあと、納得したように頷いた。


「あ、蒼くんも利優みたいに何か事情があるの?」

「……そうですね。 これまで、あまり通えなかったので、勉強は未だしも、そういったことには疎く」

「そっか、じゃあ蒼くんも学校、楽しんでね」

「……ありがとうございます」


 蒼くん「も」……か。 利優が学校を楽しんでいることを知っていて、喜んでいるのか。

 「すぐに娘さんが学校を辞めれるようにします」などと言えるはずもなく、頷いた。


 利優は少し気まずそうだけど、それでも嬉しそうにしていて、机の下で俺の手を握ろうとする。


 流石に親の前でそんなことは出来ないので無視すると、利優は俺の脚に手を乗せて、満足したように息を吐き出した。


「仲良しね」


 普通にバレてしまっている。


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