白熱! 歓迎会! 2-5
一時間半程経過してから、やっと利優と野空が教科書を机の上に置く。 あと半分ほどしか居られる時間はないが、いいのだろうか。
「あー、本当蒼は教えるの上手いな。 かなり捗った。 別の教科やるか」
「……まだ分かってないところばかりだろ。 まぁ、いいけど」
「えへへ、蒼くん上手ですよね。 ボクもいっつも家で習ってるんですけど、授業よりも分かりやすいです」
利優はそう言って笑いながらこっちを向く。
その言葉に反応したのは、話していた横野ではなく、野空だった。
「え……家で?」
利優が「あ」と口を塞いで、俺の方を見る。
まぁバレることはあるだろうと言い訳も既に考えていたので、それを話す。
「ああ、利優の親に頼まれて、防犯代わりに一緒にいるんだよ。 利優のような小さい奴が一人暮らしは危ないだろ」
「あー、そうだな。 でも、なんか同級生で同居ってエロいな」
「エロくねえよ」
なんだかんだ言って、二ヶ月経っているのに利優の下着も見たことない。 いや、そりゃそうなのかもしれないし、特に期待していたわけでもない。
野空がヤケに静かに俺の方を見ていて、気まずさに口を開く。
「……親戚だし、幼い頃から一緒にいたからな。 ほとんど兄妹みたいなものだから、特に違和感もなかったな」
「ふーん、そっか。 じゃあ、二人が付き合ったりとか、ないんだね。 ちょっと安心しちゃった」
野空の言葉に利優は野空から目を逸らして、俺の方を見る。
「え、あの……それは……」
「ないよ。 彼女を作るつもりもないからな」
利優の言葉を打ち切るようにそう言って、暗に野空と交際するつもりはないと伝える。
誤魔化すように教科書に目を向ける。
「わり、ちょっと勉強に飽きたから走ってくる」
横野はそう言って立ち上がって、勉強していた本やペンを置いて立ち上がり、外に出て行った。 ……あいつ、逃げやがった。
「……べ、勉強、しましょうか」
まだ一切進んでいないノートに目を向けて、利優は言う。 俺はそれに便乗して頷いて、無理矢理話題を変える。
野空も俺を諦めてくれたのか、何か言うことなく勉強を始めて、やっと一息つくことが出来た。
息を吐き出して、棚に何かのアニメのキャラクターなのか、フィギュア……人形が目に入った。
他の物に比べて異彩を放っており、周りにアニメやゲーム、漫画といった物がないからヤケに目立つ。
それについて尋ねようと思ったが、一瞬横野の言葉を思い出して、もう一人の幼馴染の事が頭に浮かぶ。
「あ、蒼ー、ここ教えてー」
面倒くさいと思いながらも教えて、時々利優に呼ばれて教える。
微妙に気まずい中、二人に教える。
「蒼ー」
「蒼くん」
同時に呼ばれて、一瞬だけ迷ったあと、面倒を回避するために野空の方を先に見ようとして、机の下に入れていた脚が小さな手で抓られる。
仕方なく利優の方を先に見てから、野空の方を教える。 確かに横野の方がまだ勉強が出来るらしく、頻繁に呼ばれて自分の勉強が出来ない。 まぁ必要もないが。
「……横野戻ってこないな」
「……そうですね」
「……まぁ、しばらくは戻ってこないと思う」
「……そうか」
まぁ、気まずい空気から抜け出した奴が戻ってくるのは、気まずい空気がなくなったあとだろう。
「あの、あのフィギュアのキャラ、ボクも好きなんですけど、葵ちゃんも好きなんです?」
「いや、友達からもらったから知らないかな」
「あっ、そうなんですね。あはは……」
「……最近会ってないんだけどね。 フィギュア? とか、そういうの好きだから、利優ちゃんとは気が合うかも」
また勉強に戻って暫くしていると、外が暗くなってきたので、教科書をしまって野空に向かって話す。
「そろそろ帰るな。 そろそろ暗くなってきたから」
「んー、また明日くる? 休みだし」
「いや、用がある」
利優も片付けて立ち上がって、野空にぺこりと頭を下げる。
「あの、今日は楽しかったです。 また一緒に勉強しましょうね」
「うん。 またね。送ろっか?」
「あ、蒼くんがいるから大丈夫です」
野空は微妙そうな表情をして家の外まで送ってくれ、少し薄暗い道を利優と一緒に帰る。
やっと気まずい空気から解放されたことで肩が楽になり、軽く解すように動かした。
「ん、蒼くん、女の子だったら誰でもデレデレしてません?」
利優は服の袖を引っ張って、不服そうに口を尖らせて言った。
「してない。 結構ハッキリ断っただろ」
「んぅ……でも、最初パンツ見てましたし、ボクよりも先に教えてあげようとしてましたし」
「見てないよ。 利優より早く教えようとしていたのは、そっちの方が角が立たないと思ってだよ」
「じゃあ、葵ちゃんより、ボクの方が好きです?」
「……そういうのは、せめて俺を好いているなら言ってくれ」
これで両想いであれば、利優の手を掴んで引き寄せてやれるのに。
今の利優の嫉妬は、そういった意味ではないだろう。
「……先輩や、鈴ちゃんや、葵ちゃんみたいな気持ちだったら、いいんですか?」
「ああ、友情とかではなく、恋慕とかそう言った……」
「……でも、三人とも別々じゃないですか。 好きって気持ちでも、全然違う「好き」じゃないですか。 なら、ボクのそれでもいいじゃないですか」
「俺は、利優に後悔してほしくないだけだ」
その場の感情でばかり動いている俺が言えることでもないけれど。
利優は俺の顔をジッと見つめて、俺は口を開くことも出来ずに目を逸らした。
「先輩って、いつも勝手です」
「悪い」
「他の女の子を見てデレデレしますし」
「してない」
「してます」
「……はい」
利優は不満そうに続ける。
「先輩がボクのことが大好きで仕方ないのも、だからというのも、分かってるつもりです。
先輩の気持ちは分かってますけど、なら変に他の人を見たりしないでください。 前にも言いましたけど」
「……俺は利優が好きだ。 そもそも、俺は乗り気じゃなかっただろ。 今回のも」
「パンツ見ようとしてましたし」
「偶々目に入っただけだ」
「先輩、パンツ好きですよね」
首を横に振る。
家に着いたので、利優に開けてもらって中に入る。
いつも通り手分けして風呂や食事の用意をしようとしたところで、利優が「あ」と声を出す。
「先輩、あ、蒼くん。 買い物行くの忘れてました……」
「買ってこようか?」
利優はパタパタと動いているので、置いていた財布を手に取ってから少し待つ。
「ん、一緒に行きますか?」
「一人で行かせられるわけないだろ」
「えへへ」
機嫌も直ったし、怯えられてるのもなくなったかな。 と一息吐き出す。
「蒼くんは、もっとボクに頼ってくれてもいいんですよ?」
「十分頼りにしている」
少なくとも、マトモな人間でいられているのは利優がいるからだと思う。
「蒼くんは、かっこつけですよね」
「利優に惚れられたいからな。 格好も付ける」
「えへへ、かっこ悪いです」
外は暗い中、二人で外に出る。
「明日、ボクの実家に来てくださいね」
「あれ、本気で言ってたのか」
「ん、ボクはいつだって本気ですよ。
明日は蒼くんの歓迎会をしてあげます!」
すごく気まずいから、正直行きたくない。




