白熱! 歓迎会! 2-2
人形の能力者の捜索は、より確実な方法を選ぶことにする。
先日金髪の少女ガムの靴に仕込んだ物と同じように、弾丸を変形させて作った針を下駄箱に置いてある靴に刺し仕込む。
発信機代わりになるのはいいのだが、実のところ複数の物があればどれがどれか分からなくなるし、距離があればあるほど不確かになる。
俺自身、銃を操る能力よりも、観測する方が得意なのだが、それでもレベルの低さがネックになっている。
「蒼くん、その行動ちょっと変態っぽいです」
「言うな」
「あと、普通、学校に履いてくる靴と普段使うのだと変えませんか?」
「そういう奴もいるだろうが、夜遅くだからな」
「どういうことです?」
「二、三日に一度、一つの場所で三十分ほどのところに留まっている奴がいれば目立つだろ。 違う靴を履いていても、それならそれでいい。
基本は屋内でしていると思われる。 んで、屋内でしているなら自宅か、高校生なら店は使いにくいから別の家かだな。 それだけ遅ければそこに泊まることになるだろうし、そこに泊まるなら学校に履いていく靴も持っていくだろう」
「そうじゃなかったらどうするんです?」
「その時はその時で、妙な状況だから発見しやすい」
実際には生徒全員なんか出来るはずもないので、俺が個人的に違和を感じた数人と被害者の不良と不良の被害を受けてそうな奴等。 それに人形が出ることが多い場所の近くに住んでいるのも含めて……三十人弱か。
まぁ、あくまでも比較的可能性が高そうな奴であり、違うかもしれないが。
これで、操られた人形がきたときに、ある程度近くにいる奴以外を外していけば、近いうちに犯人が見つかるはずだ。
「……悪いな」
「ううん。 全部任せきりで、ごめんなさい」
利優に謝られて、余計に申し訳ない気分になる。 容易に利優を守れるだけの力があれば、もう少し居させてやれたのに。
◆◆◆◆◆◆
少し今までと趣向が変わって、コンクリートを無理矢理人型にしたような形だ。
明らかに以前より能力の扱いが上達している様子が見られ、動きが軽快である。
コンクリートの人形はボクシングのように拳を構えているが何処かぎこちなく、一体一では負けそうにない。
拳銃はマトモに通らないだろうから、拳銃を変形させて棒状に変える。
その重そうな身体には似合わない素早いフットワークで人形は俺との距離を詰め、拳を振るう。
身を躱しながら、拳銃を振るって動いている途中の手首の関節に当てる。
銅像の時と弱点は変わらないらしく、動いている際の関節は普通のコンクリートよりも少しだけ脆い。
不快な音を立ててコンクリートの手が落ちて、それでも構わず人形はなくなった拳を振るう。
その拳を銃の腹で受けて逸らしながら、反応が近くにない発信機を観測から外していく。
適当に攻撃を往なしながら後ろに下がり、利優の指示を受けて人のいない道の方に移動する。
しばらくして、攻撃の手が緩まった……というよりか、あまり踏み込んでこなくなったように感じる。 ここらへんが、人形遣いの能力の限界か。
もう一度、遠くにある発信機から能力での観測を止めて、人形に向かって踏み込み、振られた拳の手首を掴み、手前に引きながら脚を掛けて転ばせる。
転んだ背中を踏みつけ、能力によって硬度を増した棒状にした拳銃で立ち上がろうとして地面に付けた手を殴り壊す。
それでも力づくで立ち上がった人形の手のなくなった腕を掴み、人形が掴まれた腕を引いたところを同時に押して体勢を崩し、その体勢を立て直そうと力を入れたところで別の力を加えることで投げ飛ばす。
地面に叩きつけられた人形は、普通の部分はほとんど無傷だ、関節などの弱くなってしまっているところがところどころ欠け、それを狙って殴り壊す。
人形が動かなくなったところで拳銃を棒状からブレスレット状に戻して腕にはめ直す。
「結構、絞り込めたな」
これなら人形遣いを見つけるのもそう難しくはないか。
一応は朗報なので、顔を上げて利優の方を見れば、ほんの少しだけびくりと震えた。
「利優……?」
「えっ、あ、何でもないですよ! ……止め刺した方がいいんじゃないですか?」
「いや、立ち上がれないと判断したらしい。 能力が切れてる」
角に報告を入れてから、帰って寝るかと思い携帯電話を取り出して、利優の方に寄ったら、半歩、利優が後ずさった。
「えっ……」
「あ、いや、違います。 ちょっと脚がもつれて」
そう言ってからわざとらしく俺の手を取って、ぎゅっと掴む。
違うと言ったけれど、本当に違う場合には言い訳などするだろうか。
言い訳をするというのは、実際には違わないからだろう。 何が違わないのかーー。
ーー利優が俺に怯えた?
無理矢理押し倒しても怯えていなかったのに、この程度の相手はいつも倒していたのに、何故だ。
「利優……」
「いや、その……その、その」
問い詰めては悪いか。 怯えているのに近くにいさせるのは悪いと利優の手を払って、角に連絡を入れる。
「……ごめんなさい。 いつもより、怖くて」
思えば、今日はこんな化け物みたいな奴を相手に、銃を撃たずに倒した。
考えてもみれば……石の化け物を能力で倒したとか、拳銃で撃ち殺したとかなら、そうおかしくもないが、殴り壊すのは、怯えられても仕方ないか。
「いや、俺の配慮不足だった」
「そんなわけじゃ、ないです。 その……ボクがおかしいだけで……」
今までのことと違いを考えれば、利優の好きな漫画とかに近い倒し方なら、それほど怯えられないのだろう。
鉄の棒で何度も殴って壊すのは生々しさがあり、利優にとっての恐怖の対象になるようだ。
俺にとっては普通でも、利優はほとんどただの女の子で、普通よりも遥かに華奢で弱々しいぐらいだ。
仕方ないことだ。 仕方ない。
利優が俺の後ろで歩いているが、なんとなく振り返ることが出来ない。
歩幅を合わせるためにゆっくり歩いているせいか、ヤケに家が遠くに感じる。
やっと辿りついた家に、鍵を挿して扉を開けて、そのまま自室に入った。
一度入ったけれど汗もかいたことだし、風呂にぐらい入ろうかと思ったが……どうにも動く気になれず、そのままベッドに倒れ込んだ。
そう言えば、鍵で開けるの久しぶりだな。 そう思えば、利優に一言だけ言うことも出来なかった自分に気がつく。
もう今日は寝てしまおうと目を閉じるけれど、窓を開けていたせいか夜風が入ってきて寒く、窓を閉める。
夏になっているはずなのに耐えられない寒さで、ベッドの中に入って布団を被り、エアコンで暖房を掛けて目を閉じた。
能力によるものではないようなので、体調不良かもしれない。 明日、病院に行こうと決めて、眠れないので眠りやすいように寝返りを打って、寝やすい体勢に変える。
今日は少しだけ、寝るのに時間がかかった。




