白熱! 歓迎会! 1-2
リバーシ、チェス、将棋、五目並べ、囲碁、と、様々なボードゲームに付き合わされるが、どれも本気でやっているのに関わらず、一勝も出来ずにいる。
負けていることに違和を感じるのは、どうしようもないほどの差があるわけではなく、確かに俺よりかは強いのだが……こう、思考の裏のようなものが読まれているように感じる。
「ガム。 最初はグー、ジャンケンーー」
俺の眼を見て、ガムは手を出す。
「ポン!」
元気の良い金髪の声と共にお互いの手が出て、金髪の笑顔が俺の目に映った。
軽く息を吐き出して、頬を掻く。
「本当に強いな」
「ふふ、ふふん、当たり前デスね。 もはや私には死角がない! デス!」
うっざい。
多少探るつもりだったが、能力を発動するのは胸元からゲームボードを取り出す時と片付けることぐらいでそれ以上は分からない。
「せんぱ……蒼くんは、別のところに目が行ってるから勝てないんですよ。 ふん、こんな子供、ボクならチョチョイのチョイですよ」
「行ってない」
金髪の前を利優に譲り、角ともう一人の男のいるテーブルに座る。
珍しく利優がやる気満々の様子で、リバーシを手にしているのを見ながら、息を吐き出す。
「悪いな。 遊びに付き合わせて」
「いや、俺も楽しめたよ」
角と共に酒を呑んでいて、若いように見えたが成人はしているらしい。
酒を飲んでる男が二人、それに女子供がボードゲームをしているどうにも気が抜ける光景だが、一応は敵が二人である。
利優の作った料理があまり食べられていないので、とりあえず新入りの二人警戒しながら利優の料理をひたすら口に含む。
美味いんだけどな。 と、作ってもいない俺が少しだけ落ち込むのはどうしてだろうか。
とりあえず、利優が気がつく前に出来る限り減らしておくか。
利優が負けに負けて、悔しそうにしながら俺の元に戻ってきたので、席を利優に譲って立つ。
「あ、私もお酒飲みます!」
「日本は二十歳以上じゃないと飲んじゃダメですよ?」
「ギリギリセーフデス!」
「えっ、絶対嘘ですよ! 10歳とかです、絶対」
確かに驚きだが、利優も似たようなものなので、まぁそんなに驚くことはない。
「ふふん、私は大人のお姉さんなんデスよ!」
「むぎぎ……悔しいです、悔しいですよ先輩! あっ、蒼くん!」
勝手にしてろ。 利優にオレンジジュースを注いでやり、軽く頭を撫でる。
「それにしても」
ちびちびと酒を飲んでいた新入りのスピットが口を開く。
「随分と豪華に見える班だな。 こちらの支部でも噂に聞く奴ばかりだ」
「んー、まあな。 俺も若い頃は女に囲まれてキャーキャー言われるほどのハンサムボーイだったわけよ。 蒼よりもモテてたからな?」
「今もダンディでかっこいいデスよ!」
角の何故かドラゴンや化け物が出てくる武勇伝に呆れながら、席が足りないのでソファの方に寝転がる。
ガムに席を譲った利優が俺の元にきて、腹の上に座る。
「何すんだよ」
「知りません」
角の武勇伝、どこか聞き覚えがあって、おそらく昔人気だったゲームとかのことだろう。
そんな分かりやすい嘘の話に、新入りの二人は興味津々といった様子で聞いていて少し呆れる。
二十歳超えてるのに頭が悪いにもほどがある。 それが気に入られるためということであってもだ。
利優の体重がいくら軽いとはいえど、腹一杯に飯を詰め込んだところにのしかかられると辛いものがある。
一応、思春期の男としては、好意を持っている女子の臀部を振り落とすことも出来ず、吐きそうになりながらも我慢をする。
「利優もボロ負けしてたけど、何か別のところ見てたのか?」
「……」
「うぷ……体重掛けるのやめてくれ」
しばらく、俺と利優を覗いた三人は酒を飲みながら馬鹿な話をしていて、酔っ払いのノリについていけそうにないので、利優に乗られっぱなしのソファで過ごす。
外を見れば真っ暗で、そろそろ利優がうとうととし始めた頃、三人は適当に解散して家から出て行った。
一応、必要はないかと思うが連絡先を交換したので、連絡を取ることは出来る。
飲み食い散らかされたものを片付けながら、利優が口を開く。
「……ボク、料理下手ですか?」
「いや、美味いよ。 角は酒飲むためにツマミばっかだったし、あの二人はおそらく……有栖川の言葉がどれほど信用出来るかは分からないが、敵だからな」
「……まぁ、先輩に聞いたらそう言いますよね。 先輩、ボクのこと大好きですから」
「ただの事実だ」
残った料理にラップをしてから、風呂にお湯を張る。
利優が部屋の片付けをしている間に洗い物をして、軽く気疲れしていることに気がつく。
「先輩、ボクのこと好き好き言うのに、あの子のパンツチラチラ見てましたし」
「言ってないし、見てない」
「見てましたよ。 鼻の下伸ばして……」
そりゃ、下着が見えてたら視界に入ってくるのは仕方ないことだろう。
そんな理屈が通用するはずもなく、利優はブツブツと俺に文句を言いながら部屋を片付ける。
「こんなに可愛い彼女がいるというのに……」
「彼女じゃない。 交際しないと言っただろ」
「ボクのこと好きなのに、ですか?」
「ああ。 利優は俺のためではなくて、自分のしたいようにしろよ」
「ボクのこと守ってくれるのに、ですか?」
「何も守れてはいないだろ」
「ボクがいないと、生きれないのにですか?」
「生きれる」
利優は拗ねるように俺を見たあと、呆れを含んだ声を吐き出す。
「言ってることと、やってることが一致してません」
「別に、好きな子にはかっこつけたいだけだ」
「ん、かっこ悪いですよ」
「格好悪いから、格好付けるんだよ」
「ボクのこと、好きなくせに」
「悪いか」
「かっこ悪いです」
ああそうだったなとため息を吐き出して、それでも無理だと首を横に振る。
「先に風呂入ってこいよ」
「ん、言葉だけだとなんかいやらしいです」
利優が見えなくなったところで、ソファに突っ伏して眼を閉じる。
ああ、付き合いたい。
濡烏の黒髪に、白魚のような肌。 そんな使い古された女性の美しさを表現する言葉が、ヤケにちゃちく見えるほどには利優は可愛らしい。
人の理想を詰め込まれたような人形染みた容姿はすぐに表情がコロコロと変わり、目を奪われてしまう。 彼女を見つめているだけで美術館をゆっくりと見て回るような感覚に陥りそうなくらい。
見た目だけでなく、純真で真っ直ぐな性格は好感が持てるし、子供のような駆け引きのなさには癒しを覚える。
人を思う優しいところも、俺の気が利優から離れない理由の一つだろう。
けれど、俺は利優に惚れられることはない。 いくら利優に惚れ込んでしまっても、彼女にとっての俺は、俺にとっての彼女のような愛おしい人ではない。
一人の友人。 利優が彼女とか何とか言うのは、利優の子供のような考えでは交際と友人の違いがはっきり出来ていないからだ。
友人に対する優しさや、思いやりからきた言葉で、決して俺と付き合いたいわけではない。
それでもまだ惜しく、惜しく思っているのが酷く情けない。
付き合いたい、キスしたい、抱きしめたい。
そんな馬鹿らしい欲が、格好付けるなと俺に囁くようだ。
風呂上がりの利優が、俺の隣に座り、寄りかかって俺に体重を預けた。
洗いざらしの髪の匂いに、柔らかい身体。 熱と湿気が肌に感じられて、彼女のことを意識する。
「ボク、蒼くんのこと、嫌いじゃないですよ?」
「知ってるよ」
「ボクのために、いっつも頑張ってくれていて、感謝してますよ?」
「お前のためだけじゃない」
「大切に思ってくれて、ボクも大切に思っていて。 だめなんですか?」
「そうだよ」
俺と利優の関係は少しだけ変わってしまったのかもしれない。 いや、変わらないか。
どうせ俺の片想いだ。




