白熱! 歓迎会! 1-1
「利優……そういうのがあるときはちゃんと言ってくれないと」
「すみません……すっかり忘れていました」
新しくきた二人のために歓迎会をする。 という話を利優が聞いていたらしい、一週間前に。
それを知ったのが一時間前で、一時間後には角達が新しくきた二人を連れてこの家にくる。
慌ただしく見られる可能性のある場所を掃除して、リビングにおいてある荷物を各自の自室に詰め込む。
だいたいは利優の小物と漫画程度なので、片付けにはそれほど時間が掛からないが、問題は料理だ。
「利優、何か料理の材料とか飲み物買ってきた方がいいよな?」
「ん、とりあえず適当に色々買ってきてください」
「適当に?」
「だいたいの物は焼けば食べれますから」
「ワイルドだな」
とりあえず、角は鶏肉が好きだから多目に買って、あとは何かしら高そうな物を買えばいいか。
靴を履いて、外に出ようとしたときに利優に止められる。
「先輩、先輩! ……ではなくて蒼くんストップです! 財布忘れてますよ!」
利優に財布を手渡され、礼を言ってから外に出る。 利優が料理をする時間も考えれば、可能な限り急いだ方がいいだろうと軽く駆ける。
近くのスーパーでとりあえず高い肉と野菜と飲み物を何種類か買って、走って戻る。
なんで敵の歓迎会のために暑い中走らされているのかと思わなくもないけれど、努めて気にしないようにして家に戻って利優に材料を手渡す。
部屋にエアコンを掛けて冷やし、玄関先の掃除をして脱ぎ散らかしていた靴を片付ける。
一通り終わったところで、走ってきたせいで汗に濡れた服を自室で着替えるために脱ぐ。
「蒼くん、角さん達きましたよ! って……なんで脱いでるんですか! 変態!」
「いや、自室で鍵をかけて着替えたんだけど……」
利優がパタパタと走って玄関に向かって行ったのを見ながら服を着なおして、俺も向かう。
どうやら新しくきた二人も角が連れてきてくれたらしく、見慣れない金髪の少女と黒髪の青年が角の後ろにいた。
「お邪魔しまーす、デス」
元気よく金髪の少女が家の中に入ってきて、俺の顔を見て微笑む。
利優よりかはまだ幾分か背も高いが、華奢な姿と快活な印象を受ける少女は嬉しそうに言った。
「初めまして、デス! 私はガム=ラスリウネスクといいます! よろしくデス!」
軽く会釈をしてから角の方を目を向けると、手にはコンビニの袋に入った酒を幾つも持っていて、飲む気が満々らしい。
利優は知らない二人に気後れしているらしく、徐々に下がって俺の後ろに隠れた。
「ああ、よろしく。 俺は水元 蒼。 こっちのは塀無 利優。
と、こんな玄関先で立たせておくのも悪いし、遠慮なく中に入ってくれ」
俺が案内する前に金髪の少女、ガムは中に入り込み、リビングに入っていった。
「……角さんと、そっちの方もどうぞ。 今、利優が料理を作っているから少しだけ待っていてください」
目配せをして利優をキッチンの方に逃がしてから、三人でリビングに入り、金髪の少女がソファの上でパタパタと跳ねている姿に半笑いする。
短いスカートがひらひらと揺れているのを目で追いそうになり、目を逸らしてから机がところにある椅子に、金髪以外の二人に座ってもらう。
「……悪いな。 こっちのツレが」
「いや、元気がある子がいると、元気がもらえていい」
利優は人見知りしているから大人しいが、普段なら一緒になって騒いでいるかも……いや、そんなに活発ではないか。
隣でお菓子を食べたりするぐらいだろうか。
「悪いな。 そう言ってもらえると助かる。
ああ、挨拶が遅れて悪い。 スピット=ノクスヴィアだ。 日本にきてからあまり時間が経っていないので、文化の理解が出来ていない可能性があるが、仲良くしてくれると助かる」
手を差し出されて何かと思ったが、どうやら握手だったらしく、それに答える。
そうしている間に角は机の一角でオリジナルのカクテルらしきものを作っている。 自由か。
「ああ、蒼。 あいつ、藤堂は今日腹痛と頭痛と腰痛で来れないってよ。 まぁ、多分来たくないだけだけど」
相変わらず付き合いの悪い。 まぁ、そっちの方が楽でありがたいのだが。 一通りはしゃぎ終わったらしい金髪がトコトコとこっちに寄ってきて、角のカクテルに興味を示すように鼻をクンクンとさせている。
「あー、これ酒だから、お子ちゃまには無理だ。 蒼、なんか飲み物だしてやってくれ」
「はい。 ……何が飲みたいとかあるか?」
「とりあえず、ビール、デス!」
「酒はない」
「じゃあ、大人なブラックコーヒーの甘くてまろやかなものを!」
「……カフェオレでいいのか?」
「俺は……何か冷たいもので」
カフェオレとお茶でいいか。 カフェオレは確か利優が好きで時々飲んでいるから、市販品のものがあるはずだ。
調理している利優の後ろで、冷蔵庫から飲み物を取り出し、コップと一緒に持っていく。
「あ、先輩……じゃなくて蒼くん。 もう出来るので、取りに来てくれませんか?」
「了解……唐揚げって時間がかかるもんじゃないのか?」
「晩御飯の予定だったので。 おつまみでも大丈夫かなって」
まぁ、何でもいいか。 飲み物を持って行ってから、すぐに戻って唐揚げを持っていく。
「スリーカード、デス! んふふ、私の勝ちデス!」
「くそ、持ってけ泥棒!」
角とガムが二人でトランプを片手にコンビニで買ったらしいおつまみを掛けていた。
「何しているんだよ」
「あ、なんかゲームだったら何でも強いって言ってたから、せっかくだからやってみようかなってな」
「お兄さんもやるデス?」
「俺は能力の観測で引けるカードを観測出来てしまうからパスで」
「へー、ステージが高いデスね。 ん、じゃあこれで勝負しましょう」
金髪の少女は自分の服の胸元に手を突っ込んで、引き抜く。
「将棋盤?」
ヤケに本格的な将棋盤を取り出し、机の上に置いたあと、机の上に置くのはおかしいと気がついたのか、床の上に置きなおす。
明らかに服の中に入るようなスペースはなかったので、取り出したのはガムの能力だろうか。
敵対しているというにはあまりに無計画な見せびらかしに眉を寄せてしまいながら、少女が駒を並べていくのを見る。
まだやるとは一言も言っていないのだが。
駒を並べ終えた少女は俺に座るように床をパンパンと叩いて、面白そうに口元を緩める。
「せっかくだから、何か賭けるデス」
「賭けって……」
「そうデスね……。 どっちが先に、そこの唐揚げを食べれるか、デス」
まぁそれぐらいならいいか。 歓迎会なので、あまりに付き合いが悪いのも良くないだろう。
軽く頷いて、少女の前に座る。
「んふふ、では、勝負!」
「あ、その前に、銀ってどういう動きだった?」
「……そこからデスか……」
軽く駒の動きを習ってから、将棋を始める。
あまり詳しい方ではないが、こういったゲームは昔は得意だったような気がするので、まぁ多少はどうにかなるだろう。
そう思っていられたのは三分くらいであった。
「蒼……お前クソ弱いな」
「これ、俺が弱いんですかね」
「んふふ、まぁザッとこんなもんデスね」
ガムはそう言ってから、賭けの商品である唐揚げを先に口に含む。 ……やはりこの賭けは意味がないな。
「じゃあ、もう一回しましょうか。 お兄さんも、指し方がやっと分かってきたんじゃないデスか?」
このレベルの差だとどうにもならない気がするが、これも調査の一環だと割り切ってもう一度座る。
ガムも座り方を正座から体育座りに変えて、将棋盤越しに向き合いながら並べ直す。
短いスカートで、そのような座り方をすれば当然のようにその中が見えて、極力目にしないようにしながら将棋を指す。
そのようなつもりはなかったが、この少女よりも小さい利優に惚れてしまった影響か。 妙に白いそれが気になり、集中することが出来ない。
「……先輩、何見てるんですか」
「将棋の盤面」
いつの間にかこっちに来ていたらしい利優に見咎められ、ゲシッと腰を蹴られる。
「……ん、また作って持ってきますね」
「ああ、分かった」
不思議そうにやり取りを見ていたガムが指した一手に表情が歪む。 やはり、どうしようもないくらいには差があるらしい。
「……参りました」
「んふふふ、これだと私が強すぎちゃうみたいデスね!」
ドヤ顔がひどく鬱陶しく感じた。




