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転校初日2-1

 怯える利優が面白いのか、野空は楽しそうに他の七不思議を語っていく。


 一つ目、蟻の登校。

 二つ目、時ズレの時計。

 三つ目、動くよく分からないおっさんの像。

 四つ目、ヒップホップベートーベン。

 五つ目、伸びない校長の髪の毛。

 六つ目、大百舌。

 七つ目、校長室の教会。


 正直あまり怖くない。 幽霊っぽいのがよく分からないおっさんの像ぐらいだろう。


「二人は興味ある部活とかあるの?」


 俺は軽く首を横に振る。 とりあえず、隠れ蓑になるような部活なら何でもいい。

 それにしても必須でもない。


「ボクは……」


 軽く頬を掻いて、首を頷かせる。


「好きにしたらいい」


 利優は申し訳なさそうに野空の問いに答えた。


「今はあまり考えていません。 もしかしたら入るかもしれませんが、また学校に慣れてからにしようかと」

「あ、そうなんだ。 私バスケ部だから、二人ともあとで来なよ」

「……学校の案内とかしてて大丈夫なのか?」

「ん、まぁ弱小だからわりとゆるゆるなの」


 適当だな。 と思うが、部活動は強制ではなく余暇なのだからそういうものなのかもしれない。


 利優の様子は暗く、どうにも上手く伝わらなかったらしい。


「別にいいんだぞ?」

「別にいいんですよ」


 お任せします。 と言外に言われ、あれだけ楽しみにしていたのにと思ってしまう。 先ほどは少し釘を打ったつもりだったが、思ったよりも効きすぎた。


 部活動に入るとしたら、護衛としては合わせる必要があるので俺に任せてくれるのは気が楽だが……。


「運動部にはそんなに興味ないから、他の部活がいいな」

「あれ? 意外。 結構ガッチリ筋肉ついてるからかなり運動してるのかと思ってた」


 制服の上からなのによく分かる。 ちょっとした感心と、言い訳の面倒くささに内心毒吐きながら、気にしないフリをして答える。


「まぁ一応、色々手を出したんだけど、飽き性らしくてな」

「へー、じゃあ色々出来るんだ」

「何も出来ないんだよ」


 軽く溜息を吐き出して、野空に言うと、少し迷ったような表情を野空は見せた。


「んー、結構文化部って色々あるからなぁ。 この学校、部活作るのゆるゆるだから文化系溢れてるんだよね。

漫研とバトル漫研とアニメ研と美少女漫研と美少女アニメ研と第二美少女アニメ研と……」

「漫研一つでいいだろ」

「全然違いますよ!!」

「えっ、お、おう。 悪い」


 俺は漫画やアニメなどには興味はないがーー。 利優にしても意外な趣味だ。

 漫研など、似たようなものが色々とあるのならば、隠れ蓑として活動するのには都合がいいーー。


 と、考えてから頭を掻いて、強く拳を握り込む。

 利優の幸福や楽しさを神頼みした昨日の今日に、自分は仕事を優先しては馬鹿らしい話だ。

 せめて部活動ぐらい、利優の好きなようにさせてやりたい。


 仕事仕事と、自分の愚かな考えを振り払い、通じないだろうが利優に一言謝る。


「利優、悪かったな」



 漫画研究会(BL)に入部した。





報告書

日時:2016/5/9(月)

担当者:異能対策室 日本支部 異能処理班 低位庶務 水元 蒼

    人事部 日本支部 異能力者保護班所属 塀無 利優


概要:能力者(あるいは一般人)が行った連続傷害事件の犯人がいると思われる五良市立五良(コロウ)ミナミ高等学校に編入生として水元、塀無両名ともに2-2クラスとして潜入。

被害者である八名の五良南高等学校生徒は、同高等学校において快く思っていないものが多数存在、また入院したことにより生活環境に良い影響が発生したと考える生徒多数存在。 被害者生徒の学校生活態度が原因と見られる。

被害者生徒に接触は犯人に刺激を与える可能性があると判断。 その両項により捜査は難航を極める。

水元、塀無両名ともに捜査には生徒、並びに教職員との交流が不可欠と判断。 両名は同学級のY男子生徒、N女子生徒と接触、交流を開始。 彼等を足掛かりに同学年の交流の幅を増やすこと、並びに両名ともに部活動※1『漫画研究会(BL)』に入部、他学年生徒との交流を目的とする。

また、本日25時(明日1時)よりN女子生徒からの情報である※2『学校の七不思議』主に※3『三つ目、動くよく分からないおっさんの像』と犯人の関連性がある可能性の確認を目的として両名のみにて潜入を決行する予定としている。

上記の『学校の七不思議』潜入の報告書は明日の19時定時報告書とともに発信を行う予定とする。


※1『漫画研究会(BL)』……三年次生徒3名 二年次生徒2名 一年次生徒4名(いずれも女生徒)(水元、塀無は含まない)が在部している。 日本の漫画文化の中でもBL(男性の同性愛に対する表現)を主として研究している。


水元、塀無両名は強制的な部活動がないこと、担当教職員が育児休業中により校内にいないことから捜査の足枷にならず、尚且つ三年次、一年次における校内状況の把握に大きく貢献すると考え入部。


※2『学校の七不思議』……本報告書では五良南高等学校内における七つの怪奇現象を指す語。

 一つ目、蟻の登校。

 二つ目、時ズレの時計。

 三つ目、動くよく分からないおっさんの像。

 四つ目、ヒップホップベートーベン。

 五つ目、伸びない校長の髪の毛。

 六つ目、大百舌。

 七つ目、校長室の教会。

以上七つの怪奇現象である。 詳細は潜入の報告書に記載する予定とする。


※3『動くよく分からないおっさんの像』……『学校の七不思議』三つ目とされる怪奇現象。 五良南高等学校東門近くにある銅像が夜中に動くという話。

水元、塀無両名は犯人である能力者の能力(人形を操作する)と関連性があると考え、2016/5/9(月)25時(2016/5/10(火)1時)潜入を決行する予定とする。 詳細は潜入の報告書に記載する予定とする。





 くちゅん。 小さなクシャミをした利優に上着を被せてから、校門に触れる。

 当然しまっているが、そのような時のために今回の潜入には利優がいるのだ。


「じゃあ、開けますね」


 トン、トン、と利優が校門を開かないようにしていた南京錠に指を当てると、元々鍵がしまっていなかったように開き、人が一人通れるだけ開けた後二人で通り門を閉じる。

 利優はもう一度、トン、と南京錠に指を当てると先のように南京錠の錠は閉められた。


 おそらく今回の潜入に利優が選ばれた理由。 俺が銃の能力を持っているように、利優も能力を持っているということだ。

 端的に言ってしまえば鍵を開閉する能力。 指紋認証や生体認証、パスワード、物理鍵、銀行の金庫でさえ、どのような鍵であろうとも、物理的な理屈の外にあるもう一つの理屈を以って自由に開閉することが出来る。


 利優自身はこの異能力を監禁者(ストレンジャー)と呼んでいた。


「……周りに人気はないな」

「元々、人の少ないところに建てられた学校ですしね。 そんなに警戒しなくても」

「犯人がいる可能性もある。 一応、警戒は怠れない」


 数歩進み、足音もそれほど響いていないことを確かめる。


「先輩は馬鹿みたいに真面目ですねー。 ボクがいないと絶対過労で潰れちゃいますよ。 先輩ったら、ボクがいないとダメダメなんですから」

「だから「今は一緒にいてあげます」とか言って怯えてるのを隠す理由にするのか?」

「そそそ、そんなことないですから。 そそそそもそも幽霊とか信じてないですから」


 利優の言葉を聞き流し、昼に聞いた野空の言葉に従って一つ目の七不思議から順に捜査していくことにした。

 利優はよほど七不思議が怖いのか、それとも暗い場所が怖いのか分からないけれど、俺の服の裾をちんまりと摘まみ、早く終わらせるように言う。


 物音一つに怯え身体を震わせるのが、少しだけ面白い。

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