激闘! 球技大会! 4-4
負けたのならばいる意味もなく。 悔しさに歯噛みしようとしたが、歯噛みするだけの体力がないことに気がついてそのままテニスコートを脱げ出して校舎に入り込んだ。
熱中症と能力の副作用。 原因が分かっているのでせめてもとスポーツドリンクを購入して口の中に入れる。
スポーツドリンクが喉を通りすぎていく音が自動販売機の前に響き、それが俺だけでなく俺の横でも起こっていることに気がついて横を向いた。
「神林……」
なんて言ったらいいのだろうか。 「負けてごめんなさい」と戦った相手に言うのはおかしい。
けれど健闘を称える言葉は喉から出ず、どうでもいい問いが出た。
「テニス、決勝あるだろ?」
「さっきのが決勝戦だ。 それでいいだろ」
何がいいのだろうか。 一応、種目ごとに順位に応じた点数が振られて、その合計点でクラスの優勝やらが決まることになっているはずなので、決勝で不戦勝などとなると責められることは間違いない。
そう思って神林を見ると、へらりと強面を崩しながら言う。
「同じクラスに男子の中でも二番目に上手い奴がいてな。 さっき準決勝に上がってたから問題ねえよ」
決勝は勝っても負けても同じか。少しだけ笑って、またスポーツドリンクを飲む。
喧騒から離れたくて、階段を登り、いつもの屋上の方へと上がる。
「あのさ、水元」
なんだと横を見れば、神林はその頭を深く下げていた。
「ありがとう。 俺はこの力に目覚めてから、全力で戦えた。 この力もあって、今年は全国大会でも勝てると思っていたがーー、それでも、そこでも俺は全力を出すことが出来ていなかった」
「……そうかよ」
やりきったのか。 やりきれたのか。
「さいっこうに、それこそ楽しすぎてぶっ倒れそうになるまで、楽しめた」
開きっぱなしの屋上の扉を開けば、汗に濡れた身体を涼めるような風が吹いた。
「俺も楽しかったよ。 テニスもいいものだ」
「当たり前だろ。 なぁ水元、テニス部に入れよ」
またやろうと、神林は俺を誘う。
魅力的な誘いではあったが、首を横に振る。
「ここには一応仕事で来てるからな。 最近あった、不良が襲われた事件の犯人を見つけないとダメだ。 利優の護衛でもあるしな」
「そうか……残念だ。 本当に……。
じゃあ、それが解決したあとは?」
「おそらく、ここを去ることになるな」
「なんだよ。 せっかく楽しくなると思ったのによ」
大の男が不貞腐れたように言い、俺は笑いながら返す。
「また時間があれば行くさ。 自由が一切ないってわけでもないからな」
「そん時は、今回みたいな簡単に決着が付くのではなくて、ちゃんとした試合するか」
「能力の使いどころが難しそうだな。 フルで使えるはずもないし」
軽く話し、話が終わってもゆっくりと屋上の風を浴びる。
そろそろ全ての競技が終わる頃かと立ち上がり、神林の方を見た。
「これからもよろしくな。 ライバル」
「ああ、次は勝つ」
少しだけ回復したので、能力で利優の髪留めの位置を確認してそちらに向かう。
◆◆◆◆◆
「蒼くんは酷いです。 ボクを置いて神林くんと話ししてたなんて」
幾分か汗のおさまっている利優の頭をぐしぐしと撫でると、利優は少しだけこちらへと身体を傾かせながら上目で俺を睨む。
「怒ってます。 無茶苦茶怒ってます」
「悪い悪い」
競技も終わったのでやっと帰れるかと思ったが、まだ結果発表があるとかで全校生徒がジャージ姿のまま運動場に並ぶ。
適当な順番で整列していて、結構遠くに神林がいるのに巨体が目立って仕方ない。
全員が並び終わったときに、朝礼台の上に体操着姿の少女が登っていった。
遠くからだが、その小さな身体は高校生のものではないように見える。 どこかから紛れ込んだのかと思ったが、誰も少女がマイクを握るのを止めることはなかった。
「あー、ああ、水元は見るの初めてなのか生徒会長」
軽薄な笑みを浮かべている横野が、案外近くにいたらしくヘラヘラと笑いながら前を一瞥する。
「生徒会長?」
「ああ、白野生徒会長さん。 まあ、小学生並みに小さいから驚くよな」
「そんなに小さいですか?」
「塀無ちゃんも小さいから、分かりにくいか。 というか結構二人似てるな」
遠目にだが生徒会長を見て、首を捻る。
「そうか? まぁ背丈は似てるけど」
「結構色々似てると思うけどな」
横野は共通点を挙げていくが、利優の方が可愛らしいので全然違うと思う。 あと生徒会長の方が色々と賢そうだ。
無駄話をしている間に色々と話は進んでいたらしく、生徒会長が言う。
「では、各競技の優勝、準優勝の代表者の方は前に出て来てください」
「あ、俺のとこ準優勝したからいってくるな」
案外やるもんだなと思いながら見送り、利優の頭でも撫でようとして、手が虚空を切る。
「テニス部門、準優勝、神林 炎。 おめでとうございます」
朝礼台から降りている生徒会長が必死に背伸びをしながら神林に賞状を渡し、神林が受け取っているのを見る。
利優が見当たらず見回すが、いつの間にかいなくなっていた。 まさか、敵に攫われーー。
「テニス部門、優勝、塀無 利優」
「はい!」
見つからないと思っていた声が前から聞こえ、前を向けば小学生が小学生に賞状を渡しているような微笑ましい光景がそこにあった。
ーーなんでやねん。
「蒼くーん」と言いながらパタパタと賞状を振っている利優の姿を見て、発したことのない言葉を発してしまった。
なんでだろうか。 何故なのか。
放心している間に利優は俺の隣に戻っていて「どうだ、すごいだろ」と言わんばかりの満面の笑みを浮かべていた。
何がどうなったのだろうか。
後で利優から聞いた話ではこういうことらしい。
一回戦:シード権を獲得したのでパス。
二回戦:俺も知っているが、お互いにサーブを成功させることがなく、結果勝利。
三回戦:相手の打ったボールが顔面に当たり、鼻血が出たら相手が謝りながら逃げ出して勝利。
準決勝:俺と神林の試合の隣のコートだったため、神林の打ったボールの余波の風により、相手のサーブが入らなくなり、何故か利優の打ったボールは神林の起こした風によって入り勝利。
決勝戦:神林が俺と屋上で話していたため不戦勝。
塀無 利優。 球技大会テニス部門、制覇。
俺は泣きそうになった。 神林はクラスメイトからはたかれまくったそうだ。
球技大会編、終了です!




