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LIU:2016発目の弾丸は君がために  作者: ウサギ様@書籍化&コミカライズ
第一章:激闘! 球技大会! 編
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激闘! 球技大会! 4-1

 球技大会の当日、学校指定の体操服ではないジャージ姿でベンチに座り込みながら煽るようにお茶を飲む。

 熱気と激しい運動に疲労し、浅い息を繰り返しながら試合をしている利優の方を見る。


 当たり前だが、ほとんどの生徒はテニスをしたことがなく……利優は一回戦はシード権をクジで引いたので二回戦目ではあるが、もう一人もシードという適当なトーナメントのため、完全なド素人同士の試合となっていた。


 まず相手選手のサーブがコートに入らずにアウトになる。 利優が何度もボールを空振りしてアウト。 相手が空振りしてアウト。 利優のラケットがボールに当たったものの何故か後ろに飛んでアウト。 アウト、アウト。


 そして、またアウト。 先にサーブを打ったのは相手選手。 実際のテニスとは違い色々と時間短縮のために変えられていて、1ゲームでの試合にされていて、デュースもない。

 つまり、利優の勝利である。


「勝者! 塀無 利優!」


 他の生徒と違い、学校指定の体操服ではなくジャージを着用している利優はラケットを持ちながらぴょんぴょんと飛び跳ねる。

 俺の渡した髪留めで二つ結びにされた髪を振るいながら振り向くと、運動のしにくそうな多く余った袖をパタパタと動かした。


「先輩……ではなく、蒼くん! 勝ちましたよ!」

「お、おう。 よかったな」


 一度もサーブ成功していないけどな。 という言葉は喉の奥で飲み込みながら、ほとんど動いていないのに何故か汗を掻いている利優にタオルを差し出す。


「えへへ、気が利きますね」


 熱のせいか軽く頬が赤くなっているが、利優は他の女生徒と違い化粧などをしていないので汗をかいても妙なことになることはなかった。

 深呼吸をするように薄い唇から吐き出された利優の吐息が俺の頬を撫でて、俺の荒くなっていた息が深く吐き出される。


 シードだった利優と違い、俺にはしっかりと一回戦があり、しかも相手はテニス部員だった。

 決して長くはない、短いとしか言いようのない試合であったが、太陽の日差しが強い今日、本気で動き回れば体力の消耗が激しいのも当たり前のことである。


 それは他の生徒でも変わりがないはずだが……一人、余裕そうにラケットを振っている者がいる。


 全国大会常連のテニスプレーヤー、神林。 能力がなくともその実力は確かで、体力の消耗を避けるように容赦なく短期間で試合をこなしている。


「蒼くんは、テニス部の人に当たったのによく勝てましたね」

「あまり言いたいことではないが、神林との特訓の成果が大きいな。 それに、元々鍛えているうえに、運動は苦手ではないからな」


 相手が油断していたことに加えて、油断が致命傷となる特別な短縮ルールだったことも大きい。 ほとんどただでもらった先取りの一点がなければ勝つことは出来なかっただろう。


 何にせよ、神林のおかげである。

 神林のために神林と試合をして、そのために神林に師事をするという馬鹿みたいなことのおかげで、勝つことが出来た。

 決勝で会おうという約束だったが、トーナメントの組み合わせが悪く準決勝で会うことになるが……まぁそれは仕方ないことだろう。 格好は付かないが、そんなことに大した意味はない。


「二回戦の相手は……女子生徒か」

「んぅ、女子テニス部のエースである弥生ちゃんですね。

可愛いので有名ですよ。 蒼くん、可愛い女の子と試合出来てラッキーですね」

「いや、運悪いだろ」

「んっ、蒼くんは僕以外の女の子には全然興味ないですもんね」


 一回戦も男子テニス部員、二回戦は女子のエース。 三回戦の相手はまだ分からないが、そこまで残ったのならば、弱いことはないだろう。

 四回戦で神林に当たるまで勝ち残らなければならないことを考えれば、案外厳しい道程である。


 身体を解しながら、ジャージの上着を脱いで利優に預かってもらう。 ジャージの上を抱きかかえている利優の頭を軽くぐしぐしと撫でてから水を口に含み、テニスラケットの張りを確かめる。


 二つテニスコートがあり、どちらかが終われば俺の第二試合だ。 勝つしかない。

 火照っていた身体が冷めて、目が醒めるように冷静な思考を取り戻した頃、俺と相手の名前が呼ばれる。


「蒼くん、頑張ってくださいね?」

「なんで疑問系だよ」

「……だって……だって神林くんとテニスするの、危ないじゃないですか」


 拗ねたように利優は言い。 言い返すことも出来ず、利優に背を向ける。

 後ろで微かに聞こえる衣擦れの音は、俺の身を案じて預けたジャージを抱き寄せたからだろう。


 利優は負けてほしいと願っている。 けれど、空耳かもしれないが、微かに鈴を転がすような声が聞こえた。

 「がんばって」。 気のせいかもしれないが、モチベーションを保つには充分すぎる。


 目の前にいる、少し肌が小麦色に焼けている女子生徒の顔を見据え、軽く会釈をする。


「よろしくお願いします」


 どちらからとも言えず、お互いにその言葉を言ってからサーブ権を決めて所定の位置に着く。

 確かに少し可愛らしいが、惑わされるはずもなく、上に放られたボールを見詰める。


 あまりに早い、一瞬見失なう。

 だが、ボールを打った音、角度、腕の振り方。 ボールが跳ねる位置も、どこに飛んでくるかも理解出来る。


 素人丸出しの足運びでボールに追いつき、技も何もなくただ相手のコースに返す。

 相手コートから驚愕の声が聞こえるのは、俺の打ったボールが鋭いわけではなく、打ち返されたことだろう。


 この女子生徒は明らかに一回戦の生徒よりも高い技量を持っている。

 まさか経験者でもない素人に打ち返されるとは思ってもいなかったのだろう。 テニスは案外、素人であれば上手い人物のサーブを打ち返すこと自体が難しい。


 俺は素人であるが、あったが……この二週間ほど、全国大会の常連である神林を師事し、何度も神林の打ったスマッシュを受けてきた。

 それに比べれば、この女子生徒の球は酷く緩慢ですらある。


 打ち返されたものを打ち返し、また打ち返されて打ち返す。 女子生徒が決めようとして思いっきり打ってもそれに食らいついてなんとか相手コートに返す。


 俺は素人ゆえにマトモに球を決めて点を取ることも出来ないが、しかし、打ち返すことならば出来る。


 スマッシュを受けて、際どいコースを突かれ、左右に振られ、けれど確実にボールを拾う。

 緩急のあるシャトルランのようなものではあるが、ひたすらに続ける。


「ッ……しつこいなぁっ!」


 何分も続いたラリーに苛立ったような言葉と共に少女はラケットを振り被りーー俺は全速で前に進み、放たれたボールを一瞬の間隔すらなく打ち返す。


「ラブ-フィフティーン!」


 審判の言葉に頷きながら、テニスボールを受け取り、それを握りしめる。

 一点目でしかないはずが、ラリーがあまりに長く続いたためにもう既に女子生徒の息が切れている。 俺も疲れていて熱に身体が倦怠感を覚えるが、女子生徒よりか遥かに体力がある。


 続けて俺のサーブ。 それも余裕で受けられてほとんど先ほどと変わることなく、ラリーがただただ長く続くが、唯一先ほどとは違って女子生徒は警戒している。 間髪入れることなく、ボールを返されることを。


 そこから始まるのは、ひたすら続くラリー。

 二点目が入ることなく、隣のコートの試合が二つ終わるが、それでもまだ続く。

 女子生徒の顔が火照り、息が荒くなる。 けれど俺はまだ十全に動くことが出来て確実にボールを返すことが出来ている。


「ッ、体力の消耗狙いか」


 一回戦での男子テニス部員と俺の試合を見ていたのだろう。 俺の行動がそれの焼き増しであることも理解しているらしい。

 結局、技量で負けている俺が勝つ方法はこれだけしかない。 ただひたすらに長引かせて、削り倒す。


「悪いが、訳あって手加減はしてやれないんでな」


 打たれ、打ち返す。 繰り返されたそれにより、徐々にスマッシュの頻度が減り、ボールが左右に振られなくなる。

 反して俺は全速で走り抜け、受けやすくなったボールを相手の取りにくい位置に打ち返す。


「フィフティーンオール!」


 それでも技量の差から同点に追いつかれる。 またひたすらに相手プレーヤーとラリーの応酬を続ける。


「サーティ-フィフティーン!」


 1ポイント先制され、確かに俺の負けが近づいてくるがーー。

 相手の女子生徒は自分が負けているかのように、憎々しげな視線を俺に向けていた。

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