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LIU:2016発目の弾丸は君がために  作者: ウサギ様@書籍化&コミカライズ
第一章:激闘! 球技大会! 編
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激闘! 球技大会! 3-3

 利優が戸締りをしている間に二人分の荷物を背負う。

 やっと使いこなせるようになった電話機能で神林に連絡をして駅前に集合することを伝える。


「ん、鈴ちゃんにも到着の予定時刻を伝えた方がいいですよ。 今日、楽しみにしていましたから」

「……そうだな」

「鈴ちゃんには優しくしないとダメですからねっ」

「なら、連絡しておく」


 扉を開きながら鈴の電話番号を打ち込んで、コール音を聞きながら待つが電話に出られることはなかった。


「まだ寝てるんだろ。 あいつ、休みの日はだいたい昼まで寝てるしな」

「ん、じゃあメール送っておくので、携帯電話貸してください」

「いや、メールアドレス? 作ってないから送れない。

変なことせずに自分ので送れよ」

「先輩は何も分かってないですね……。 まぁ仕方ないのでボクから送っておきますけど」


 利優が鈴にメールを送ってからやっと外に出る。

 五月の半ばとしては暑そうな利優の服装に目をやって、ため息を吐き出した。

 なんだかんだで戻ることになったな。 おそらく土日の間だけだけれども。


 暑い日に照らされながら駅前まで向かう。 待ち合わせの時刻にはまだ早いが、神林の巨体が見えたので軽く手を挙げながらそこに向かう。


「悪いな。今日は」

「……いや、感謝している。 このまま卑怯な手でテニスを続けるところだった」

「卑怯だとは思わない」


 勝てばいいとは思っていないが、ルールに則っているのでそれは問題ではないと思う。 神林が卑怯な手だと思うのならば、俺からはそれ以上に言うことは出来ないけれど。


「それで、俺はどうなるんだ?」

「ここから二時間ぐらい掛けて電車で移動したあと、車で組織まで送ってもらう。

ああ、連絡もしたが、今からなら交通費も飲食費も経費で落とせるから財布は気にしなくていい」

「……案外普通な移動方法なんだな。 ワープとかするのかと思っていた」

「テレポート系の能力はほとんどいない上にそんなに距離は移動出来ないからな。 それに人を連れてっていうのも無理だ」

「あ、出来る奴もいるんだな」


 三人分の切符を買い、電車までまだ時間があるのでホームで待つ。

 まばらに人がいるけれど、平日に比べるとやはり少なく二時間も立って電車に乗るのは避けられそうだ。 俺は大丈夫だが、利優は乗り物酔いをするからよかった。


「暑いな」

「飲み物でも買うか?」

「いや、自分の金で買う」


 律儀な奴。 軽く息を吐き出して、神林から投げ渡された缶ジュースを開ける。

 まずいな。 この炭酸。


「危なかったりはしないよな?」

「……まぁ普通に入れる場所ならな」

「危ない場所もあるのか?」

「詳しくは話せないが、機密を守っている場所があるからな。 問答無用に殺されることは多分ないが、妙なことはしない方がいい」

「物騒だな……」


 まぁ離れなければ問題ない。 そう締めくくってから、電車に乗り込み、二人掛けの椅子に俺と利優で座り、すぐ近くのところに神林が座った。


 眠たそうにしている利優が俺の肩に寄りかかって、寝息を立て始める。 神林は少し落ち着かない様子を見せていたので、問題ないと伝えておく。


「大したところではない。 適当に話を聞いて終わる程度だと思ってくれたらいい。

軽く説明すると、神林の相手をするのは日本支部の中で人事部と異能処理班だな」

「ああ」

「人事部は普通によくある会社とそう変わらない。 ……一応、神林のような自然発生している能力者の管理も業務だな」

「じゃあ、異能処理班というのは?」

「だいたい想像は付くと思うが、異能力の隠蔽と異能力者の保護を中心に活動している。

人事部が利優で、処理班が俺だな」


 駅で人が乗ってきたので説明はあとにして口を噤み、目的の駅に着くまで黙って待つ。

 二時間ほど揺られて、利優を起こして電車から降りる。


 利優が寝ていたために動くことが出来ず、凝り固まっていた身体を軽くほぐしながら、改札を出て外に向かう。


 もう既に待っていた車の前に行き、二人より一歩前に出る。

 開いたドアに向かって軽く頭を下げ、口を開く。


「異能処理班の水元です。五良南高等学校に潜入していたところ、別件ながら異能力者を発見したので連れてきました」

「あ、はい。 うん、じゃあ行こっか」


 車から出てきた女性は軽く神林に言葉を掛けたあと、車の中に入るように言った。

 ぴょこぴょこと後ろで動いている利優に助手席に座ってもらい、俺と神林は後ろの席に乗り込む。

 迎えに来てくれたのは異能処理班の人ではなく、人事部の人で利優とは仲が良かったのか、俺と神林そっちのけで話をしている。


「あとどれぐらいで着くんだ?」

「30分ぐらいだな。混んでなければ」


 慣れた景色にため息を吐き出しながら答える。

 慣れた場所であるし、親しんだ土地ではあるけれど、どうしても鈴と会うのが気まずい。

 電話もするぐらいで、仲が悪いわけではないが仲が悪いわけではないからこそに色々と気を使ってしまう。


 そんなすぐ差し迫った気まずさに加えて、車内には隣に意気消沈している神林が座っていて、どうしたらいいのか分からずに無言を貫くしかない。

 直接ではないが目上の人の車の中というのもそれに拍車をかけている。


 これなら戦場で命のやり取りをしている方が余程やすらぐぐらいだ。


「神林くん……だよね?」

「ああ、おう」

「もうちょっとで着くけど、すぐに終わるし、少し時間が取られる以外には何も損害とかはないから安心してね。

一応、怪しい宗教団体とかでもないし。

利優ちゃんと水元くんは、荷物とか下ろしに社宅の方に戻っていいよ」

「……神林も知らない場所で不安だろうから、一応は知り合いである俺がいようと思います」


 「いい」と否定している神林の意見を無視して、人事部の社宅であるマンションの前で利優だけを下ろして、その近くのビルの中に入る。


 神林はビルの中を珍しそうにキョロキョロと見回しながら、小さく驚いたように声を漏らす。


「案外普通だな」

「まぁ、こんなものだろう」


 本当の日本支部はここではないが、対外的な処理はこのビルの中で行われる。

 湿った紙の匂いとインクの匂いのするビルの中に入って、エレベーターに乗った。


「もっと、重要施設の地下にあるとか……そういうのを想像していたんだけどな」


 自分の緊張を解すように言った神林の言葉を聞き、俺と人事部の女性は固まる。

 人事部の女性は何も言わずに俺の方を向くが、俺は首を横に振る。 違う、俺は神林に支部の場所を教えたりはしていない。


 微妙な空気のままエレベーターから出て、すぐ近くの一室に入った。


 元々ある程度来る準備はしていたのか、来客用に小綺麗にされた場所は開けられていて、空調も効いていて心地の良い空間になっている。


 人事部の女性が神林を座らせたところで、飲み物を注ぎに給湯室に向かう。


「あ、神林、茶とコーヒー、どっちがいい?」

「……白湯で」


 言われたままにポットから白湯を注ぎ、人事部の女性用にコーヒーも用意する。

 茶菓子と一緒に盆に乗せて、二人が座っている机に置く。


「神林くんは、彼らからどれぐらい聞いているの?」

「あー、超能力者を管理する団体がいるのと、俺が見過ごせないレベルの超能力者であるってことぐらいで」


 どこに座るべきか迷ったが、どこに座るにしても神林からすれば居心地が悪くなると思ったので近くに立って控えておくことにする。


「だいたいそれで間違っていないかな。

正確には超能力者ではなくーーまぁこれはいいか。

組織の具体名は伏せさせてもらうけど、神林くんからしたらそういう組織があって、そこに最低限在籍してもらうことになるんだけど」


「……水元のように、組織の人間になるってことか?」

「ん、まぁそういう道もありかな。

とは言っても、普通に家族が健在なら、学生の間は在籍だけしておいて、働き始めるころに、水元くんみたいに組織の人間として働くか、あるいは傘下企業で働くとかかな。

まぁ簡単に言うとものすっごい大雑把なコネ内定みたいな。

当然、全く関係ない場所で働くのも自由だけど……正直なところ、報告通りなら君ぐらいの力の子だと放置するわけにはいかないから、時々は顔を出してもらうことになるけどね」

「……公務員になれと親がうるさいんだ」

「あ、公務員なら全然いいよ」

「…………は?」


 この人事部の女性、とんでもないことを平気で口走ったな。 俺を見て軽く頬を掻く女性だが、口が滑りすぎだろう。

 助け舟を出すために口を開く。


「身元が分かれば問題ないんだよ。 会社が倒産してどこにいるかも分からない。 なんて状況にならなければどこでもいい」

「あ、ああそうなのか。 ……とりあえず、滑り止めの企業が出来たって喜べばいいのか?」


 知らない。 まぁ、その分自由が少し損なわれているのでいいとは思えないが、神林は少しだけ嬉しそうにしている。

 まだ高校二年生だが、進学ではなく就職をするつもりなのだろうか。


 人事部の女性は自分の失態を誤魔化すように、矢継ぎ早に神林へ組織のことを話し始めた。

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