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慟哭に咲いた花  作者: 柿崎みー君
王の御子
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-1-

 北の最奥にある(ぎょく)の国。

 統治する玉王(ぎょくおう)の下、夜星石(やしょうせき)と呼ばれる希少な鉱石を大地に宿し、それを採取、加工することで繁栄を保つ小国。

 冬には凍てつく寒さに覆われてしまうが、玉の民たちは王を慕い、慎ましいながらも幸せに暮らしていた。

 そんな王には三人の御子(みこ)がいた。

 一人は武勇に長け、一人は知勇に秀れ、そしてもう一人は二人に比べ武勇と知に劣っていたが、優しい心を持っていた…−−−。



 

 「はっ!」


 乾いた音を立て、木刀が宙を回りながら弾け飛んだ。

 刀身が欠けたのだろうか。木の乾いた匂いが、鼻を突いた。


 「そ、そこまで。勝者、るっちゃ…瑠璃(るり)!」


 ふぅ、と一つ息を吐き、振り上げていた木刀をゆるりと下ろすと、乱れた髪の毛を手櫛で整えた。

 

 「私の勝ちだな、シュリ。今日の飯炊きはお前に決まりだ」

 「っ、くそっ…」


 尻餅を付いたまま息を乱す珠璃(しゅり)に笑いかけると、珠璃は憎々しげに顔を歪め、自分を見下げる瑠璃をきっ、と睨んだ。


 「もう一回」

 「嫌だよ。その言葉で今のを含め、五戦もしたじゃないか」

 「その五戦、全てるっちゃんに全敗…」

 「ユーリお前は黙ってろ!」


 珠璃に怒鳴られた琉璃(ゆーり)は「ひゃっ」と小さく悲鳴を上げて、手にした審判旗で顔を隠した。


 「くそっ…俺の方が武に長けているはずなのに…」

 「口に出ているぞシュリ。…まあ、その傲慢さが今日の敗北を生んだのではないか?」

 「俺のどこが傲慢だ!」

 「そうやって、人に当たり散らしているところ…」

 「ユーリ!」

 「やめろシュリ。本当のことなんだからユーリに当たり散らすな。…ほら、立ちなよ」


 琉璃を睨み付ける珠璃を制し、未だ地に付いたままの珠璃に、瑠璃は手を伸ばした。

 しかし珠璃はよっぽど虫の居所が悪かったのか、手の甲で瑠璃の手を強く打ち払った。


 「シュリ…いくら何でもその態度は頂けないぞ。私だからいいが、他の人にはやるなよ」

 「うるさいわかってるお前なんか知らん」


 ふらつきながらも、自力で立ち上がった珠璃は、瑠璃に弾き飛ばされた木刀を拾うと鍛錬場を後にした。


 「全く…シュリの負けず嫌いさには感心はするが、その後の態度がなぁ…なあユーリ。お前はならんと思うが、あのような態度を人には取るなよ」


 鍛錬場を去る珠璃の背を見つめながら、審判旗を片付ける琉璃に瑠璃は話しかけた。


 「………」

 「? ユーリ、何か言ったか?」

 「る、るっちゃんは…」

 「私が、何だ?」


 ぼそりぼそりと、琉璃が言葉をゆっくり紡ぐ。

 

 「るっちゃんは、よくしゅうちゃんのこと、見ながら戦っている。のに、しゅうちゃんは、るっちゃんに勝つことしか見ずに、戦っている。から、しゅうちゃんは、負ける。今のままじゃ、しゅうちゃんは、るっちゃんに、勝てない。この先、ずっと。ずっと…」

 「ユーリ! 聞こえてんだよ!」


 どんな地獄耳を持っているのか?

 鍛錬場からかなり離れていたにも関わらず、珠璃は此方(こちら)を振り向き、琉璃を睨み付けていた。

 珠璃に睨みつけられた琉璃は小さく悲鳴を上げ、瑠璃の背後へと駆け寄った。


 「ルリ! 飯食ったら鍛錬場に来いよ!」

 「えー食後すぐに動きたくないんだけどー!」

 「うるさい! 皿洗い賭けて一戦だ!」

 「………るっちゃんが、勝つ」

 「ユーリ!」

 「やめろ二人共! 彼方(あちら)此方(こちら)で喧嘩をするな!」


 鍛錬場の外と中で言い争う二人を、瑠璃は呆れながら止めた。

 

 「わかったよ、シュリ。食後、皿洗いを賭けて一戦な」

 「ああ」

 「"一戦"、だけだぞ? それ以上はしない。例え、お前が負けようともな!」


 少々嫌味を含めて言い放つと、珠璃は「ふん!」と鼻を鳴らし、足早に鍛錬場を後にした。


 「るっちゃん…」

 「ユーリ。わざとシュリを煽ったな?」

 「だって…」


 瑠璃の

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