表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
慟哭に咲いた花  作者: 柿崎みー君
花一華(はないちげ) 「儚い恋」
1/3

風乃(かぜの) 花守の娘

 

 ある人は言った。


 「生きていることが、罪だ」と。


 ある人は言った。


 「死ぬことが、この世のためだ」と。


 「死ね」

 「殺せ」


 「花守(はなもり)!」

 


 

 花守(はなもり)

 かつて、様々な花を咲かすことの出来る不思議な力を持った一族があった。

 国々は花守をめぐって戦を起こし、戦の種となった花守は、迫害され、悲惨な運命を辿ることになった…。

 その呪われた一族の血を引いて生まれた私は、もちろん花守。

 私が咲かす花は、真っ赤な花一華(はないちげ)の花。

 私は、一族の不思議な力も、自身の咲かす花一華も嫌いだった。

 自分の生活に関係無く花を咲かせるこの力は、私を花守だと示すのに十分事足りた。

 そして、可憐な姿をしながらも全身に毒を持ち、手折れば手指を荒れさせ、心身ともに痛めつける…。

 真っ赤な色も嫌いだった。

 父も母も、赤に染まり、死んだ。

 ただ花守というだけで、何故こんなにまで貶められなければならない?

 私たちが何をした?

 お前たちが勝手に私たちの力を求め、勝手に戦を引き起こしたんじゃないか。

 嫌いだ…。

 人も、花守も、花一華も、みんなみんな、大嫌いだ!


 「花一華は、(そと)(くに)では "風の花" と呼ばれているんだって」


 咲き群れる花一華の中、男は言った。


 「春の風が吹き始める頃に花を咲かせ、風と共に春を呼んで来てくれるから、風の花」


 一陣の風が、柔く頬を擦る。


 「ぴったりだね」


 男は、花一華を愛おしげに撫でた。


 「風乃(かぜの)にぴったりの花だよ」


 そう言って、男は私に柔らかく、微笑んだ。


 「赤い花一華の花言葉は "君を愛す" …風乃。好きだよ。ずっと一緒にいよう」

 

 …あんなに嫌いだった花守の力が、花一華(はないちげ)が、好きになった。

 単純だと、馬鹿にされてもいい。

 私は彼の言葉で…彼のおかげで、真っ赤な色も、真っ赤な花一華も、彼の言葉で大好きになった。




 −ああ、それなのに、どうして?




 「風乃! 逃げろ!」

 「あの娘は花守だ! 絶対に逃がすな!」

 「うちの跡取りを誑かしやがった! ぶっ殺してやる!」

 「兄上! 行かないで!」


 −私はただ…


 「許さない…花守の分際で、彼を奪うなんて、許さない!」

 「殺せ! 花守は火に弱いという! 油をかけろ! 火矢を放て!」

 「やめろ! 風乃に手を出すな!」


 −私は…


 「いやあああああ」

 「違う…俺は、あの化け物に矢を…でも、こいつが、前に出て来て…」

 「兄上…兄上ええええ!」


 −いやだ。そんな……


 「風乃……逃げろ…生きて………」




 『風乃』

 『風乃』

 『風乃』

 『花守だからなんだ』

 『風乃は風乃だよ』

 『外つ国では花一華を "風の花" って言うんだ』

 『風の花。風乃にぴったりの花だ』

 『赤い花一華の花言葉は、 "君を愛す" 』

 『綺麗だね。風乃』

 『好きだよ。風乃』

 『風乃、一緒に生きよう』

 『俺が守ってやる』

 『だから風乃』

 『俺の』

 『妻になってくれ』




 「あああああああああああああああああああああああ」




 私は花守。

 血のように赤い、真っ赤な花一華を咲かす。

 赤い花一華の花言葉は "君を愛す"

 私は花守。

 生きていることが罪。

 花一華の花言葉は "儚い恋" "見捨てられた" "見放された"

 神よ。

 私は、今まで愛しい人たちを失いながらも、今日まで生きて来ました。

 でも、もう、この世に永らえたくありません。

 私を愛してくれる人も、私が愛した人もいない世で、生きる意味はあるのでしょうか…?




 気付けば、山の奥深くに佇んでいた。

 衣服は所々裂け、切り傷や火傷など、細々とした傷が肌に散っていた。

 辺りを一望すると、赤い赤い真っ赤な花一華が、自身の周りを覆うように咲き誇っていた。


 「…私の意志関係無く花を咲かせるなんて、本当に、嫌な力ね」


 くつくつと自嘲気味に笑み、赤い花一華を一輪手折った。

 手折った衝撃で、花弁が一枚地に落ちた。


 「赤い花一華の花言葉は "君を愛す" …」


 ぐしゃり。

 咲き群れる花一華に、足を踏み下ろした。

 花弁が(くう)を舞う。

 ぐしゃり。ぐしゃり。ぐしゃり。

 赤い花一華が纏まって地に伏した。

 "君を愛す" ぐしゃり。

 "君を愛す" ぐしゃり。

 "君を愛す" "君を愛す" "君を愛す" "君を愛す" "君を愛す" "君を愛す" "君を愛す" "君を愛す" "君を愛す" "君を愛す" "君を愛す" "君を愛す" "君を愛す" "君を愛す" "君を愛す" "君を愛す" "君を愛す" "君を愛す" …。

 地に伏したその様は、まるで血溜まりの様だった。

 もう、死んでしまいたい。

 あなたのいない世なんて、生きている価値など、無い。

 ふと前方を見ると、真っ赤な中に一輪だけ、赤とは異なる色が目に入った。

 覚束無い足取りで、それに歩み寄る。

 たくさん咲く真っ赤な中に、たった一輪だけ、"紫" の花一華が咲いていた。


 「紫の、花一華…」


 『風乃、知っているかい?』

 『花一華はね、色でも花言葉が変わるんだよ』

 『赤い花一華は "君を愛す" 白い花一華は "希望"』


 手を伸ばし、紫色の花一華を手折る。

 手折った衝撃で、花弁が一枚地に落ちた。


 『そしてね、風乃。紫色の花一華の花言葉は…』


 涙が一筋、頬を伝った。


 『あなたを』

 「信じて、待つ」


 喉がぐぅ、と鳴いた。

 両目から止めどない涙が溢れ、ぼろぼろと頬を伝い、膝に落ち、地を浸した。


 「あぁ…ああ、あああああああああああああああああああああ」




 私は花守。

 人の(なり)をした、花を咲かす化け物。

 かつて国に、戦華という名の花を咲かせた、呪われた一族の末裔。

 私は花守。

 私が愛したものは、私を愛したものは、みんなみんな、いなくなる。

 私は花守。

 あなたのいない今生で、私は、生きたくなど、無い。

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ