東の国の旅人
レオナルドはラヴェルをまっすぐ見て、それでいて無表情で言う。
「彼女は客人だよ。止めなさい。」
「しかし先生!どうしてそんなにこいつを信用出来るのですか?!前みたいに、あなたを始末しようとしているのかもしれないのですよ?!」
ラヴェルは荒々しい空気を鎮めると、レオナルドに駆け寄った。
レオナルドの足にしがみ付き必死に訴えている。
しかし、そんな小さな子供の姿よりも、私には沢山の疑問があった。
「ちょ、ちょっと待って!」
レオナルドとラヴェルの世界に割って入る。
レオナルドはキョトンと、ラヴェルはムッとして私を見た。
「ごめん、何もかも付いていけない。
まず、魔法?魔法が存在するのか?それから使い師って?そもそもなんでレオナルドは狙われているの?」
次々と浮かぶ疑問を二人に投げかければ、次第に二人の表情は変わっていった。
レオナルドは好奇心の結晶のようなキラキラと輝いた瞳に、ラヴェルは血の気の引いた真っ青な顔になっている。
「待ってくれよ、野蛮女、お前は一体どこから来たんだ?」
ラヴェルはレオナルドの足にしがみついたまま、疑り深い目を私に向ける。
「私か?私は東の国、蘭国のさらに東の海を越えたところにある、陽和国という国から来た剣術使いだ。向こうの言葉では“サムライ”と言う。」
「東の…さらに東?」
「………す、凄い…」
私は陽和国の儀礼と同じ様にその場に正座し、刀を右側に置くと、そのまま頭を下げた。
「挨拶が遅れたな。
私は陽和国松竹藩藩主梅田和豊様にお支えする風上家が長女、風上リンと申す。
今晩は世話になる。よろしくお願い致す。」
その行動にポカンと口を開く二人。
私が顔を上げてそんな二人を見れば、笑いが堪えられないわけで。
「ははは!こんな堅苦しい挨拶しても、訳が分からないだろう?だからあえてしなかった。
素性を説明しなくて悪かったが、そんな顔はしないでくれ。笑える。」
「ご、ごめんね。余りにも馴染みがないものだから…」
「だろうな。私はこちらに来て私と同郷の者は会ったことがない。」
私は笑いとともに足を崩した。
ラヴェルはレオナルドから手を離すと、私をまじまじと見た。
「に、人間を食べるのか?」
「食べるわけないだろう。」
そう言えば、顔を真っ赤にさせてリビングから勢いよく出て行った。
階段を駆け上がる音が聞こえると、やがてドタンバタンと激しく暴れる音が聞こえる。
「ラヴェルは勉強家でね。
よく本を読んでいるんだけど、内容が間違ってると分かるとすぐああやって処分し始めるんだ。」
一層激しくなる音に、いったいどれだけの本を処分しているのだろうか?
私は呆れながら上の天井を眺めた。
「さて、リンは自分の事を話してくれたし、僕たちの事も話そうか。
きっと国が離れすぎているから、こちらの事も全然知らないんでしょ?」