子どもと家
レオナルドの後を追って暫く、周りは鬱蒼とした森林が続いていた。
辺りは静かで、時折動物の声がする。
やがて、背の高い木々が生えている地帯へとたどり着いた。木の葉は私たちのだいぶ上の方で太陽の光を浴びている。
「あれが僕の家。」
レオナルドはいきなり立ち止まると、ある一点を指した。
「随分と…個性的な家に住んでいるんだな……」
木々の間を縫って光が差し込んでいる先に、それはあった。
高い木々を軸としてロープを括り付け、それらにぶら下がるように丸い球体が宙に浮いていた。木の板を張り合わせたようなそれは、綺麗な曲線を描き、所々に窓のようなものが見える。突き出ている筒は煙突だろうか…。
呆気にとられる私を他所に、レオナルドは再び球体に向かって歩き出した。
「地面に家を置くと鳥たちが来にくくてね。
ここは邪魔な木がないし、鳥たちも僕のそばに巣を作れるから、この家はとても便利なんだよ。」
確かに、周りの木々の上には無数の巣らしきものが見え隠れしている。
「便利って言っても、あんただけね。」
私は決して便利だとは思わない。
やがて球体の下にたどり着くと、中に入るための梯子が用意されていた。
「ここから上がるよ。
腕は大丈夫?」
「心配は無用だ。一応鍛えてあるからな。」
私は怪我をしていない方の腕を振り回すと、得意げに梯子を上った。
ガコッと扉を開けると、
「なんだ、中は意外と普通だな。」
いたって普通のリビングが広がっていた。
暖炉まである。
こんなところで、山火事にならないのかな。
「あんまり片付いてないけど…
改めて、いらっしゃいませ、我が家へ。」
レオナルドは梯子を引き上げてから扉を閉めると、私に振り返ってニッコリと笑った。
「こちらこそ、よろしく頼む。」
私はそう言い、レオナルドに手を差し伸べた時だった。
「汚い手で先生に触るな。東の野蛮族め。」
足元から声が聞こえた。
なんだ?しかも、いつの間に?
下を見れば、私の足に子どもが引っ付いていた。金色の髪に青い瞳が印象的でとても綺麗な子どもだ。
「えーっと、レオナルドの子ども?」
「まさか!ラヴェル、今夜のお客様だ。ご挨拶は?」
「はい?東の野蛮族にする挨拶なんかありませんよ。」
子どもは生意気にも私の足の甲を踏みつけた。
地味に痛い…。
「おい、お前さっきからなんだ?
私に対して失礼すぎるぞ。」
私は、引っ付いている足を振りほどいた。
「お前こそなんだ!
オレは知ってるぞ!東の民は布を紐で結んだだけの衣を纏っていて、腰に差した剣を振り回して誰彼構わず斬り殺すんだろ!頭をわざとハゲにしたり、人間が人間を食べたりするんだ!ああ!恐ろしい!!」
子どもは身震いする素振りを見せると、レオナルドの影に隠れた。
「先生、こいつにどう言い寄られて家に招き入れたか知りませんが、構うことはありませんよ!
だいたいこんな女、夜伽の相手にもなりません!」
な、なに?!このガキ!
私が殴りかかろうとした時、先にレオナルドが動いた。
「こ、こら!お前はどこでそんな言葉覚えたんだ!!
それに言い寄られて連れてきたわけじゃなくて、僕が怪我をさせてしまったから連れてきたんだよ。」
顔を真っ赤にしたレオナルドが、私の腕を引っ張って見せた。
「今日はハヤテたちを放しててね、そうしたらこの人が襲われて怪我をしてしまったから、家に連れてきたんだよ。宿もないって言うし。」
「宿無し女か。
先生があまりにボケボケだからって、たかりに来たんだな。そう簡単にはいかないぞ。」
「おいガキ、話聞いてたか?」