剣術使いと鳥使い
初投稿です。
よろしくお願い致します。
陽気な街だった。
大通りは人で賑わい、大道芸や路上音楽家のちゃらちゃらとしたパフォーマンスは人々の足を止める。
屋台では色とりどりの野菜が並び、また違う屋台ではキラキラと光るアクセサリーが飾られている。
街に入った時は、その賑やかさに感動したものだが、今ではもうお腹いっぱいだ。味の濃いものはすぐ飽きるのと同じで、陽気過ぎるこの街に私の居場所が見つけられなかった。
「はあ…」
息とともに掠れた声が漏れた。
私がこの街に滞在を始めて3日が経った。本来ならば、目的地へ行くために旅を続けなければならないのだが、何しろ資金がもうない。底をついた。
そもそも、私はこの国に足を運ぶつもりは1ミリもなかったのだ。ただ森を抜けたらこの国の国境を越えていただけ。
まあ、つまりは不法侵入というやつなのだが。幸運にもまだばれてはいない。
「なんでだよ。ちょっとくらいいいだろ?そんなに持ってるんだからよ。」
3日もいれば、色々とわかってくることもある。例えば横のこの男。
私がここに来て毎朝この店のコーヒーを飲んでいる時に必ず近くに座る。そうして、その付近の金を持ってそうな奴に声をかけていくのだが…大体は失敗に終わる。
私がくる以前もそうだったのだろうか?マスターや他の客は見向きもしない。
私はコーヒーを飲みながら、横の席の男をみた。
「いや、僕も今日の用事の分しか持ってきていないので…」
相手の声は、いかにも気の弱そうな男の声だった。
それそのはず、少し猫背気味の男はひょろりと細く、髪は無造作にくるくると広がっている。服はヨレヨレで、同じくヨレヨレのリュックを背負っていた。そんな男は、朝食なのか明らかに自分の顔よりも大きなサンドイッチを食べようとしている。
対して、金の無心をしているであろう男は、明らかに体格が良く、腕の太さは軽く私の太ももくらいあるんじゃないかというほどの筋肉が見て取れた。
「おいおい、俺がなんの考えも無しに金を持ってなさそうな野郎に声をかけると思うか?
俺はさっき見ちまったんだよ、お前が転んで金ぶちまけてるところ。」
うわー、なにやってんだよこのヒョロ男。
私は飲んだコーヒーをぶちまけないように飲み込んでから隣に聞き耳を立てる。
こんな人の多い街で金ぶちまけるか?普通。
「いや、あれは、いつの間にか地面に石が転がってて……!」
「石ころはね、いつの間にか地面に転がるような物じゃないの。」
男はそう言うと、ヒョロ男の頭をがしりと掴んだ。ヒョロ男はなされるがまま、頭をゆらゆらと揺らされる。
「あの金を何人に見られたかな?20人に見られたとして、お前はその20人からいくらの金を守れるかな?俺はその大事な金を守ってやるって言ってるんだ。
………返す保証はないけどな。」
「いや、だから僕には用事が…」
「はあ…」
3日間、毎朝この男を見て同じことを聞いてきた。いい加減辛くなった。
あまりこの国で騒ぎを起こすつもりは無かったが、これにはもう我慢が出来ない。
「ねえ、おっさん。」
私は飲んでいたコーヒーをテーブルに置くと、目深に被ったフードを取った。
「あんた、毎回毎回ご苦労だよね。諦めも肝心だよ。」
「ああ?」
男は私を睨みつけると、テーブルを大きく揺らして立ち上がった。やはりと言うべきか、肩周りの筋肉が男を巨大に見せる。
「なんだお前、女か?」
私も静かに立ち上がった。
一つに縛った黒髪がフードからこぼれ落ちる。
「性別はお前の好きにとらえろ。もう会うことは無いんだからな。」
「なんだとこの野郎…!」