表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アネモネ  作者: 高槻泉
5/6

可能性〜仄かな熱を〜

彼と初めてデートをしてから13日目のことだ。俺たちはほぼ毎日遊んでいた。俺自身女装にはまってしまった部分もあり「私」を演じることは容易だった。母にも最近明るくなったと言われ怪しまれている部分もあるがそんなことはどうでもよかった。ただ、彼と会える時間が永遠に続けばそれでいいと「私」は思っていた。しかし、それは「私」を演じている時だけで普段はそろそろ切り上げないとまずいということを考えていた。だが彼の笑顔を見るたび、その笑顔に引き込まれ、そんな考えは消えていってしまう。もう会わないと言おうと考えるたびその考えとは裏腹に彼に会いたくなってしまう。俺は彼に恋をしたのだろう。可能性は極めて低いが多分そうだ。


今日、俺は彼との別れを切り出す。これは覚悟をしっかり決めた上である。別れる際彼を傷つけようとは思わない。もう思えないんだ。今日は午前10時から、いつもより2時間早い時間帯から遊ぶことになった。彼はいつもより長く遊べて嬉しいと言っていたが私には辛いだけだった。いつものようにファミレスで2時間ほど話し込み今日は動物園に行くことになった。猿山の前ではしゃいでる子供をみて「どっちが猿だかわからない」と言って彼が笑っていたのを今も覚えている。私は弱くはにかむことしかできなかった。心の中で俺が問いかけてくる。「このまま引き伸ばすと別れが辛くなるぞ」解ってる。

午後4時には動物園からでた。午後5時にいつも別れる。残された時間はあと一時間だ。この1時間で別れを告げなければまた引き伸ばされてしまう。「どした?」そう投げかけてきた彼からは相変わらず甘い匂いがした。今時の香水なのだろう。私は恐らくこわばった顔をしていたと思う。それに気が付いた彼は私に話しかけたのだ。とりあえず近くの公園のベンチで話すことにした。初めてくる公園。黄色いマリーゴールドの花がたくさん咲いていていつまでも見ていたかった。彼と一緒に。

彼は私に何かの話を語りかけてくれていたが私はマリーゴールドの花の事を考えていた。

マリーゴールド。花言葉は別れの悲しみ。この場面にぴったりだ。私は彼の話を遮り「もう会わない」 そう言おうとした。でも...だけど...視界がぼやけて声を出そうとしても出せなかった。私は泣いていた。「どうしたの?やっぱり今日おかしいよ」そう言って彼は私の頭を撫でてくれた。頭を撫でられたのは小学校の時以来だ。運動会で一等賞をとったとき母が撫でてくれた。もともと運動ができない俺が一等をとったことが嬉しかったんだろう。『もう会わない』たった6文字。それなのに言葉が出ない。出せない。辛苦、痛苦、深苦こころにのしかかる選択という錘は、私には耐えきれないものだった。それから30分たったが彼はずっと私の横顔を心配そうな顔で見つめていた。私は覚悟を決めた。「あなたと話せてよかった。あなたと話している時だけが唯一の楽しみだった。だからこそ私はあなたと会うべきじゃなかった」何言ってるんだと大きな声で彼は言ってきた。私はそれを無視して話を続けた「もうやめにしよう。あなたのことが好き。でもそれは叶えられないこと。何故かを言ったらあなたを傷つけてしまうし私も傷つく。でもこうなったのは全部私のせい。だからさよならしよう」彼は涙ぐんでたが私はさっき泣いたので涙は出なかったが心の中で泣いていた。私が彼に願うとすれば仄かな熱をロウソクに息を吹きかけるように消して欲しかった。ただそれだけ。彼も彼で覚悟を決めた。「元々僕が会いたいってワガママ言って会ってくれたから、もう会わないって言われたら僕は引くしかない。だから悲しいけど。解ったよ。でも願いを聞いてほしい。次、いつになるかわからないけどまたどこかで会えたとしたら、またこの関係に戻りたい。君と出会って僕の中の何かが変わった。僕にも秘密があるけどそれを言えば君を傷つける。君は僕が一歩前に進む勇気をくれた。ありがとう。さようなら」彼はそう言ってキスをしてきた。そして彼は帰っていった。


私は人目を気にせず泣きながら街中を歩いた。それも号泣で。心の中の俺も泣いた。公園で着替えメイクを落としたとき、もうこの格好になるときはないのだろうと思うとなおさら泣けてきた。家に戻ると母が帰っていた。母は俺の顔を見るなりなぜ泣いているの?という顔をしたが言葉にはしてこなかった。「ご飯にしよっか」それだけしか言わなかった。

晩飯の時、俺は母に学校に行くことを告げた。バイトもする。これからは母を支える。そう言うと母は泣きながら「ありがとう」と言ってくれた。

俺も前に進まないと。一歩ずつ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ