はかない恋
5月7日晴れ。彼と会うのは昼12時からだがそれよりも7時間早い朝5時に起きた。部屋から出ると母が驚いた顔をしていた。「なに!学校さ行くの!?」いくわけないだろと言い、風呂場へ向かった。「今日遊びに行くから」風呂から上がりドライヤーをしている最中に母に言ったがドライヤーの音が遮り聞こえてなかったため朝ごはんの時に言うことにした。二人で食べる朝ごはんなんていつぶりだろうか恐らく二週間ぶりだ。ニート生活とはいえまだ2週間しかしてないんだ。退屈でもっと長い期間に感じていただけだった。こうして母と朝ごはんを食べるのもなかなかいいものだと気付いた。母は学校のことについて何も言わない。言いたいけど言えないんだろう。いつか学校に行かなきゃいけない日が来ることもわかってるしバイトしなきゃいけないことも分かっている。母を支えたい気持ちはあるがどうしても行動に移せない。だけどなぜ俺はレイラに会う行動をしようとしたのか自分でもわからなかった。「そういえばね、お花ちゃん買ったのよ!名前はリンノウ?だっけ」母はバカなところがある。物の名前をすぐ間違える。「リンドウだよ。なんで花屋までいってリンドウ買ったの?」そういうと母は「あなた今日誕生日でしょ。でもあなたの趣味とかわかんないから花がいいなと思って買ったのだ!感謝したまへよ!ちみぃ〜」といいほっぺをつねりそのまま玄関へ向かい靴を履き仕事に行った。この花は俺が世話しなきゃならないのか。とりあえずリンドウについて調べてみた。花言葉が出てきたのでぼんやりとして見てみた。リンドウの花言葉。あなたの悲しみに寄り添う。貞節。淋しい愛情。
母がこの花を俺にくれた意味が解り俺は涙を流した。午前6時30にだ。母は俺が落ち込んでいる時それを隠そうとする俺に気づき励ましてくれる。情のない言葉だと思っていた時もあったが俺は母が好きだ。そんな母を一度嫌いになったことがあった。家に毎回会社の上司を連れてきていた時だ。俺は母が父親のことを忘れて気持ちをもう切り替えたのかと感じた。父が死んでから数年経ったがなぜか俺は父を忘れようとしている母が許せなかった。後々聞くとただ仲が良かっただけで小説を貸しあったりしていただけらしい。「お父さんを忘れることなんてできるわけないでしょ。私は死ぬまでこのままでいいの!」母がそう言っていたのを思い出した。母をもっと思いやらないといけないと感じた。
午前10時。いつもの癖でこの時間まで寝ていた。慌てて支度をした。まずは中学生に使ったウィッグをつけた。その後にメイク、そして服は親の若い頃のを借りて着た。少し地味だが大丈夫だろう。鏡を見ると美少女が立っていた。自分自身に恋をすると思った。気づくと11時30分。急いで駅に向かった。
12時になる10分前についた。駅前の時計の前で待ち合わせだが彼らしき人はいなかった。それにしても俺自身また女装するとは思ってもなかったから周囲の目線が気になって仕方がない。「すいません」ちょっとチャラい男が話しかけてきた。レイラかと思ったがただのナンパだったので軽くあしらった。ナンパされるほどかわいいんだ。私は。
12時過ぎ、彼らしき人が現れた。横目でチラチラ見てくる。顔はなかなかイケメンだった。「レイラ...さん?」声をかけると明るい顔になりこちらに寄ってきた。彼からはなんだか甘い香りがした。「思った通りかわいい顔だ!本当に会ってくれてありがとうございます」こんなイケメンが引きこもりなわけがない。おそらくこの手口で女を食ってるんだろう。俺は...いや、私はまんまと罠にはまったんだ。それにしてもレイラは少し高い声だ。イケボというやつだろう。ますます怪しい。「とりあえずご飯食べに行きましょうか」慣れた手つきで私の手を取ろうとしたがそれを遮り「行きましょうか」と言い歩いた。ファミレスに着き注文をした。私は女っぽさを出すため野菜メインの物を頼んだ。「遠慮しなくていいんだよ?奢ってあげるから」そう言われてもここで間違った選択をしてしまえば男とバレる可能性が高まる。だからがっつり系の肉ではなくベジタブルな物を選んだ。彼は私と同じものを頼み、注文が届くまで私の目をじっと見ていた。「ごめんね。いきなり会いたいなんて言って。誰にでも会いたいって言ってる訳じゃないよ。これだけわかってほしい。」信じられるわけがない。まぁ最悪ホテルに連れられても裸になれば彼の心をへし折れるだろう。「イケメンなのに引きこもりっておかしいよね。本当にそうだとしたら人生損してるだろうしこんなにコミュ力ないよ」私は思ったことを言ってしまった。彼の顔は曇りトイレに行くと言って立ち上がった。注文が届き5分くらいたった。まだ彼は帰ってこない。ご飯も手をつけていないため冷め切ってしまっている。少し心配になった頃彼は帰ってきた。「ごめんね。ご飯食べてて良かったのに」そういう彼の目はなぜか赤くなっていた。私は彼を泣かしてしまった。私は彼を信じることにした。その日はとりあえずそのあと街をぶらぶらして公園で雑談していたのだが彼に缶コーヒーを渡されたときは困った。私はコーヒーが飲めない。だから一気飲みしたら彼は笑っていた。午後5時。お別れの時間になった。「また会おうね」そういったのはなぜか私の方だった。彼もびっくりしていたが喜んでいた。俺は公園のトイレで着替えてメイクを落とし家に帰った。家に帰ると彼から感謝の言葉がたくさん来ていた。相変わらずの長文。そして最後に「明日にでも遊びたい」と言ってたので「いいよ」と送りその日はそれきりで会話をやめた。
次の日起きると午後2時だった。昨日寝たのは夜中1時。10時間以上寝たことになる。久しぶりに外に出ただけでこんなにねれるものかと思ったが、今日は遊ぶ日だと言うことを思い出し、とっさに連絡を取った。彼は「忙しそうだからまた今度にしようか」と言ってきたが俺は待っててといい支度をした。結局着いたのは2時30分。彼をみつけしだい謝ったが彼は笑顔で迎えてくれた。なぜこんなに優しい人がモテないのか、引きこもりなのか、いじめられているのかわからなかった。けれど私はそれ以上踏み込まないよう心がけた。彼はずっと笑顔だったが目の奥で悲しんでいるように感じられた。彼は恐らく今まで壮絶な人生を送ってきたに違いない。そう思い始めた。
それから私は彼と遊ぶ機会が増えていった。13回目のデートで私達はマリーゴールドの花がたくさん咲いた公園で話をしていた。私は花が好きだった。彼もまた花が好きらしい。いつか花屋になるのが夢だと言っていた。別れ際に私は彼からキスをされた。私は彼を好きになってしまった。俺はこのままではまずいと思い最後の決断をすることにした。