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氷渡り  作者: すぺーど
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第一話 運命 Ⅱ

すっかり遅くなってしまいました!申し訳ございませんッ!

 心の中で、苦悩したその全てを、ただ一言に押し込めて、万感の意を込めた言葉。

 その意は果たして届いたのか。

 

 微かな沈黙。そして、天照が少しだけ安堵したような気配を感じた。


『…随分と簡単に決めるものですね。てっきり、もう少し時間がかかるものと思っていましたが。』


「何?時間かけてよかったの?だったら幾らでも時間かけてやるわよ?…それこそ世界の終末

が訪れるまで』

 せいぜい皮肉っぽく聞こえるように言ってやった。

『それは困りますね…果たして貴方がそうするか、は別として』

「…ばれたか」

 私にとって絶対の価値がある『命』を対価として提示し逃げ道をふさぐ、そのやり方には正直言って多少ならぬ怒りを覚えた。だが、断れないと思ってしまえば境遇柄困っているらしき彼女のことを放っておくわけにもいかない、とどうしても思ってしまい、無下にするわけにはいかない。

 

 けど…本当はもっと違う理由だと、きっと私は解っている。





『……うわ、カワイソ』

『アイツ誰だっけ?……あー、涼城かぁ


—じゃぁしょうがないね。


『…っていうか…ざまぁ、って感じ?』


 



—  『……ごめん、なさい』  -




 

 過去の嘲笑と、天照のあのか弱い声。



 もしかしたら…と、そう思ってしまった時点で、私は、きっと、




 ………




 虚勢で装っていた態度を解いて、肩をすくめて応じる。


『では、私のパートナーとして以後協力していただける…ということで宜しいでしょうか?』

「ええ。…正直、神の仕事だとか介入云々とか全然実感ないんだけど、まぁそれでよければね」


 もっとも今更断るといわれると困るのはこちらなのだが。

『………』

「?」


『…ふぅ、これで、ようやく肩の荷が降りました…良かったぁぁー!』


 その、『運命』を統べるという八百万の神にはおよそ似つかわしくない、年頃の少女のような気の抜けた声に、


「…え、そういうキャラだっけ?」


 あっという間に、やり取りの間常に感じていた緊張感が全て崩壊していく。

 なんというか…色々と裏切られた気分である。

『…っぁ、と。…正直、こういうやたらに頭を使うこと、苦手なんです。…駄目ですよね、日々駆け引きばっかなのに。何時もは上手くよそおっているのですが…』

「はぁ…」


 もはやなんと返せばいいのだろうか。さっぱりわからない。なんとなく契約する相手を違えた気がした。


「で、でも、流石に契約内容までは変更されない…よね?」

 心配になってしまった。

『あ、…そちらは大丈夫です。天道に誓って、契約が履行され次第、叶えることを誓います。』

 しばしの沈黙。

『……あ、私でした』

 本当に大丈夫なのか?

「ん…まぁ、名に誓って…ってことで納得しとくわ。

 これで決まったわけだけど、他に説明しておくことはある?」


『そう…ですね。では一つだけ。

 あちらの世界は『魔法』を基調にしていると先ほど申し上げましたが、覚えていますか?』

「ええ。それがどうかしたの?」

『はい。『魔法』…そのもととなる『魔力』…それは科学と違って、それ自体に手を加えることでありとあらゆる可能性を生み出すものです。そのせいか、あちらでは概念のみの存在がしばし見られます。こちらの世界では精霊だとかあやかしと呼ばれているような存在がしばし見られます。それ自体は自然なものですので、不用意に始末せぬようお願いしますね。場合によっては小規模ながら秩序ちつじょの崩壊が起こる可能性がありますから。』

「心しておくわ。」


 そこまで聞いてからふと疑問が浮上する。

「ねぇ、このまま向うに送ったとして、私に魔法は使えるの?」

『あ、それは心配なならず。『神力しんりょく』は両界不変のことわりですので、少しコツを覚えればすぐ使いこなせるようになりますよ。』

 成程。それなら…何かあったとしてもなんとかできるだろう。何しろ神の力であるわけだし。

「ふぅん…わかったわ。他に言っておくことはある?」

『そうですね…では、一つだけ。

 後ろを向いていただけますか?』

 その言葉の意図は、果たして読めなかった。しかし待っても補足は入らない。

 仕方なく、その言葉が意味するもっとも単純な行動を実行した。…つまるところ、後ろを振り向いただけだが。


 そして、驚愕した。


 思わず嘆息する。


 先ほど立っていたところから、ほんの少し進み、上っただけ。

 にもかかわらず、視界は開け、

 舞い散る桜の向こうに、海を割って、まるで伝承の龍のように大地が一直線に伸びる幻想的な風景が姿を現していた。


『…如何でしょうか。これは天橋立あまのはしたてと言って、…あなたの世界では京都にあります。神話では伊邪那岐イザナギ様に関係の深い場所、と言われています。』


 聞いたことがあるような気がする。確か、これは、彼が天に登る為の梯子、と伝えられていた。


『事実は、私の窺い知るところではありませんが、それでもこうしてこの景色を眺めていると、不思議と…心が洗われる気がします。

 本来実影のない『鏡界』にこの景色を映しているのも、それが一つの理由です。』


『…わたしは、こうした美しい世界が、好きです。だからこそ、強く守りたいと思うのです。』


 人は、愚かである。

 それは、運命を眺めてきたこの神様にも、よくわかっているだろう。

 それでも、世界は美しい。

 

 ほんの少しだけ、彼女の思いを感じることができた。気が、した。


『…ところで、そう聞くということは、貴方も聞きたいことは全て聞き終えた、と解釈してもよろしいのでしょうか?』


 逡巡の末、万感を込めて。

「…ええ。大丈夫よ。」

 小さく首肯する。

『わかりました。それでは、これから、向こうの世界へと渡るための儀式を行います。………と言ってもどちらかといえば制約に近いものですから、別に身構える必要はありませんよ。』

 というか神職でもない私に本格的なものをやらそうとしてもできないには決まっている。なにしろ蝋燭を頭に刺すくらいが想像の限界なのだ。それはもはや神職でも何でもないか。

『では、準備は宜しいですか?』

 何のだ。

 とまぁ脳内で天照を茶化すのもほどほどに。

「ええ。始めて」


『……では、行きます』


 そう、天照が宣言すると同時。

 す、と空気が変わる。

 微かに肌が粟立つのを感じた。

(…これが、天照の本気…)

 その力を感じて。そしてこれとともに歩むのだと実感して。


 改めてこみ上げる感情で、 握りしめた手には汗が浮いていて。


 そしてふと、自分と天照(正確にはその本殿ごと)を包む形で、淡い光の輪が現出しているのに気付く。

 いや、言う端から、次々と新たな線が浮き出てくる。線は二重に、内側の線は交差して、六芒星ろくぼうせいを形作る。

(魔方陣…!)


『八百万が一人、『運命』、天照の名においてここに誓う!』


 言葉に反応して、二重円の内側に次々と文字が浮き出ていく。そしてそれは淡く、しかしそれでいて力強く、水色の光を放ち、浮き上がり、そして疾走する車のタイヤのように、不思議な回転で回りだす。


 いつしか、舞い上がった桜が私を包んでいた。


 ただなんとなく、高鳴る鼓動を感じていた。


『…我が持てる全ての加護は彼のもののために、我が持てる魔力は…て…の………』


 しかし。


 天照の凛と張り上げられていた誓いの声は、突如ノイズのような音に遮られる。

「…?」

 ふと走った雑音ノイズ。それを感じてからそう遠くないうちに、強烈な違和感が襲う。立っていられない程の眩暈に、気づけば顔を覆って倒れこんでいた。

「…ッ!」

 何かが、おかしい。


「天照!…天照!居るんでしょ?どういうこと!?」


 私の声は、答えを得ずに虚しく消えた。

 鮮やかだった世界が、次々と黒雲に塗りつぶされる。


「―ッ」


 何も、何もない。傍にいたはずの声さえ届かず、暗闇は際限さいげんなく恐怖を思い出させて精神を壊そうとする。

 天照の残滓のように微か光る陣に、すがるように手を伸ばす。


「…嫌……嫌だ…」


 それでも闇は晴れることなく、


「もう嫌……やめて………嫌」


 容赦なく私をむしばんで。





『……ふぅん、やっと動いたのね。…相変わらず腰が重いわね、あのヒキコモリ』


 瞬間、嘘だ、と思った。

 けど、聞き間違いと断じるには、ここは静かで、そして余りにも克明にその声を響かせた。


 私の、声……?



 でも


『まぁでも流石にやるわね。これだけ複雑なのよく組んでられるわ。』


 でも。


 いつか小さなラジカセから聞こえた私の声は、




 これほど冷たかっただろうか…?


『ま、詰めが甘いからこんなことになるんだけどね。


―一応言っておくわ、ご愁傷様』


 瞬間、首筋を冷たい風が撫でた。


 そして世界が紅く染め上げられた。


『ッ!』


 陣が、変容へんようしていた。


 水色に光っていたそれが、次々と紅い光と競り、負け、消えていく。止まった陣が、間に歯車ギヤのような光を押し込まれ、異音とともに強引に回りだした。


『―雨!氷雨!』

「天照!?」

『大変です、何かが、強引に術式に干渉して―!』



『…へぇ、思ったより抜け出すのが早かったわね…でも、手遅れ


 私の『運命』を弄んだ罪…座して受けよッ!』



 ピキ、と



 わずか鳴った音に、再びの静寂が生まれ、

 遅れてふと、手足に冷たさを感じて、


「…え?」


 そして―遅れて下げた視線の先で、手足が凍りついていることに気づいて。


 パキ、とまた音。


 氷が、少しずつ速度を増しながら、身体を這い上がる感触に冷感だけではないものが全身を駆け巡り、


「嘘…嫌…ッぁ」


 しかし、叫ぶより先に、顔が、口が、氷に覆われ、何もかもが閉ざされる。


 そして、次の、ピシ、という音で、


 恐怖は、絶望へと転じた。




 死の淵で、私は思った。





―なぜ、自分は生き返りたいなどと願ったのだろう…



 


 








というわけで、氷渡りでした。

これから学校の方がひと段落するのでしばらくこっちの方に集中できると思います。

アイデアはいくつかあるので、どんどん書いていけたらなぁ、と思っています

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