第84話
サラからの依頼で採取したプール草だが、俺が知らないだけでこの森にはいくらでも生えている草らしい。
ただ、使い道は今のところ教会で作られる『滅魔薬』位らしい。
「とりあえず、魔力を吸収するなら吸収する魔力に偏りをつけてみるべきか」
自然の状態では闇か光にしか染まらないプール草だが、ある属性の魔力だけがある環境でもそうなるのかを試すことにした。
本当は、ビニールハウスでも作りたかったが、透明なビニールもガラスも用意できなかったので諦めた。
代わりにすり鉢状の穴を掘り、傾斜に畑を作り、その穴に魔力を注ぎ込むことにした。
魔力に重さがあるのか分からないが、そもそも空気より軽いなら地上に魔力は無いだろう。
とりあえず【火魔法】と【風魔法】の畑を作り、管理をゴブリンメイジたちに任せた。
どの魔法でも良かったのだが、『火炎旋風』の弟子としてはこの二つには思い入れもある。
星くずのペンダントも渡しておいたので魔力切れの恐れは無い。
次は、【闇魔法】と【光魔法】の畑を作った。これは必然的に俺が直接管理する事になる。
とりあえず全力で魔力を穴に流し込んでおいた。
【光魔法】の方は白いモヤがかかり、【闇魔法】にも黒いモヤがかかった。
「あとは、残った闇のプール草か」
薬といえばこの人(?)、『叡智の書』の出番だ。
『ふむ、プール草か。『滅魔薬』の材料となる物とならない物がある』
「それは知ってる。他の知識をくれ。できれば材料にならない方」
『邪神教の儀式にプール草を使った薬を使うらしい。なんでも、モンスターをより強力にする薬らしいが』
邪神教の人間ならまだ生き残りがいる。少しは協力的になった奴もいるので詳しいことはそいつに聞いてみるか。
『あとはそのまま煎じて飲めば魔法を取得できるなどという与太話もある』
それは、なかなか興味深い。ゴブリンメイジの覚える魔法をコントロールできるのは嬉しい。
「その話、詳しく話してくれ」
『と言われてもな、普通の場所に生えているプール草ではなく、特別な環境で育ったプール草を食べなければ効果が無いとも言われている』
やっぱり、環境に偏りがあると闇、光以外にも葉に溜め込む性質があるのだろう。
あの畑には期待しておこう。
『叡智の書』からの情報を元に捕らえた邪神教の中でも、儀式の管理を担当していた男と話すことが出来た。
お目当ての『狂化薬』と呼ばれる薬の他にも色々と怪しい薬を教えてもらった。
やはり、闇魔法を吸収したプール草はそういった薬に頻繁に使われているようだ。
死体に振り掛けるとゾンビになって復活する『ゾンビ薬』。
人間をモンスターに変える『魔薬』。
飲めばその日の夜に体が露となって苦しんで死ぬ『夜露死苦』。
など、様々な薬の作り方が分かったが、今簡単に作れそうなのは『狂化薬』くらいだ。
それも、飲んだモンスターはしばらくすると死ぬらしいので村人で試すわけにもいかない。
「狂化薬、なんとか副作用無くせ無いかな」
とりあえずエミィに素材を渡して『狂化薬』を作ってもらった。
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狂化薬+4
効果
モンスターに飲ませると実力以上の力と姿を得る。
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そこからさらに【選別】で成分を分離する。
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強化薬+4(闇)
効果
一時的にモンスターのステータスが上昇する。
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驚化薬+4(闇)
効果
モンスターに飲ませると秘めた力を発揮する事がある。
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狂化薬は、無理矢理別の姿にしてそれをさらに強化してしまうので服用すると死んでしまうのだろう。
さっそく、森にいたモンスターに強化薬と驚化薬を飲ませて見た。
強化薬では、
オーク LV.13→Lv.15(約1時間で元に戻る)
オーガ Lv.32→Lv.38(約1時間30分で元に戻る) etc.
驚化薬では、
オーク → オークリーダー スキル 【指揮官】入手
オーガ → イッカクオーガ スキル 【咆哮】入手
何体か試したが、強化薬は試したモンスター全てに効果が出たが、持続時間はバラバラだった。
驚化薬は10体ほど試して、効果があったのは2体だけだ。
秘めた力がないと効果を発揮しないのだろう。
服用後も苦しむ様子も無いので、数があるなら村のゴブリン達にも配るのだがプール草をかなりの量使うのでプール草の安定供給が必要になってくる。
観察を終えたモンスター達は、ゴブリンたちの戦闘訓練に協力してもらった。
念のために連れてきたミノタロウの無双を見る羽目になってしまった。
「ミノタロウ、強いよなぁ」
「恐縮です」
モンスターを蹴散らして返り血だらけのミノタロウを【水魔法】で洗ってやりながら会話する。
「お前の装備も何とかしてやりたいんだが」
ミノタロウの装備は迷宮に居た時と変わらない。バリスタ攻撃の痕やセルヴァとの戦いで革鎧がボロボロだ。
しかし、ミノタロウには【自己再生】があるのでどうしても後回しにしてしまう。
「自分、まだまだ大丈夫です。心配してくれてありがとうございます」
オーガの素材も手に入ったので、ミノタロウの『ゴブリン運送』の制服を作るのも悪くないだろう。
しかし、今は質より量が欲しいところだ。定期便も2つに増やすなら今のメンバーではつらい。
そうなると制服はゴブリンに回すべきかも知れない。
悩みどころだ。いっそミノタロウには別の装備を準備してやろうか。
「うーん、周辺のオーガを狩り尽くすのもありかもなぁ、荒野のほうにはまだ結構オーガいるみたいだし」
「ボスなら簡単に狩ってしまうんでしょうね」
「いや、探すのが大変だろうなぁ、索敵系のスキルが欲しいところだなぁ」
「アニキ達に手伝ってもらいましょう」
アニキと言うのはゴブリンたちの事だ。まあ新入りだし、間違ってはいない。
ちなみにヴァンパイア達は、同期扱いで名前で呼んでいるらしい。
「いや、あいつらにも仕事があるし、ラルがいない今は総動員は避けたいな」
「そうですね、ラル兄貴は出張中でしたね」
日程的にすでにブレトには着いているだろう。滞在期間も含めてあと一週間ほどで戻ってくるはずだ。
「あいつらが戻ってくればまた、新入りが増える予定だ。良かったな後輩が出来て」
「俺も、先輩ですか。緊張します」
でかい図体のくせに繊細なやつだ。
村に戻るとなにやら騒がしい。なにかあったようだ。
俺はミノタロウと目配せし、急いで村に帰る事にした。




