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第68話





 俺の手が柄に触れると剣が一瞬だけ光を放った。

 ぐっと力を込めて鞘から抜くとあっけなく剣は抜き放たれた。


「あれ?そんなに綺麗な剣だったかな?」


 セルヴァが不思議そうに剣を見つめている。

 俺も改めてセイケンを確認した。


**************************

 星剣



【星屑の癒し】

 星に宿る魔力を持ち主に与える。


【星の輝き】

 ★6等星  方角を見失わなくなる。

  5等星  位置を見失わなくなる。

  4等星  夜目が利くようになる。

  3等星  自分の周りの温度が常に快適な温度になる。

  2等星  一定以下の攻撃を無効にする。

  1等星  あらゆるものを切り裂く力を得る。  


**************************


 あぁ、聖剣じゃなくて星剣ね。

 昔の勇者が使っていたんだから『聖剣』でもあるんだろう。

 なにが原因か分からないが、今の俺では6等級の効果しか使えないみたいだ。

 ちなみに今俺が向いているほうが北だ。



「それね、流れ星で作った剣だって言い伝えがあるんだよ」


 隕鉄ってことか?それなら聖剣みたいにいわくつきになるのもうなづける。

 

「でも、あんまりいい剣じゃないよね」


「どうしてだ?」


「だって、剣としてはそこそこの切れ味しかないよ。ドラゴンの鱗を何とか切り裂くくらい」


 ドラゴンを傷つけられたら十分な気がするが。


「それに能力だって微妙だし。魔力の回復とかいらないよね?魔力なんてそうそう無くならないし」


 ドラゴンらしい意見と言えるのだろうか。


「お父様もこの剣をどこかで見つけてきてそのまま私にくれたんだよね。好きにしろってさ」


 ドラゴンにとってはこの『星剣』に価値を見出せないようだ。


「ならこれを貰っておく」


「いいの?もっとすごい武器あるよ?山を斬る剣とか、海を割る剣とか、あとは絶対に心臓を貫く槍とかかな。さすがにドラゴンスレーヤーはあげられないけど」


「これでいい」


「そうか、ヒビキは無欲だね」


 剣を手にしてアイラたちのところに戻るとそれぞれ欲しい物が決まったようだ。



 アイラは、小さな宝石のついたペンダントを選んだ。

 エミィは、よく分からない錬金術の本を数冊選んだ。

 ジルは、ドラゴンが作った酒を数本選んだ。

 サイは、恐縮しながらも金貨を数枚握り締めていた。


「じゃあ、遅くなっちゃったけどお茶でも出すよ」


 そういってセルヴァが案内したのは管理層からさらに扉で移動した先にある居住区だ。

 宝物庫を管理層においているのは、お宝目当ての冒険者がもし仮に管理層まで来たときに管理層で満足して貰うためだそうだ。


「自分の住んでるところにまで入られるなんて考えたくも無いからね」


 応接室でまったりとお茶を飲みながら雑談を始める。

 ドラゴンの居城がめずらしいのかアイラやエミィはきょろきょろしている。

 ジルはしっかりとお茶とお菓子を楽しんでいる。

 サイはもうついていけないとばかりに開き直ってお茶を飲もうとしている。

 片腕が無いため悪戦苦闘しながらカップに砂糖を入れてカチャカチャとかき回している。

 ルビーの前にもお茶とお菓子が置かれていた。ルビーはサイよりも器用に触手を伸ばしてカップを傾けお茶を体に取り込んでいる。


「アイリーンさんとセルヴァは、ご家族かなにかですか?」


 唐突に俺が話をふる。セルヴァとアイリーンは主と従者と言うには砕けすぎている。


「そうですね、親戚というのが正しいでしょうか」


 人間であるアイリーンの母親が迷宮に引きこもったセルヴァの面倒を見ていたらしい。

 それが30年ほど前、当時25歳だったアイリーンのお母さんはセルヴァの様子を見に来たセルヴァの兄に見初められ伴侶となる。

 それから5年間、この迷宮で愛をはぐくみアイリーンが生まれた。

 アイリーンが生まれて6年ほどするとセルヴァの兄もドラゴンの里に戻る必要が出てきた。

 元々、セルヴァの面倒を見るのが仕事のアイリーンの母親はここに残り子育てをしながら大きな子竜セルヴァのお守りをしていたと言う。

 そして、アイリーンが成人(この世界でも20歳が成人)するとすぐに旦那のいるドラゴンの里に向かったとのことだ。


「えっと、つまり叔母さん(セルヴァ)(アイリーン)の関係?」


「お、おばさんとかいわないでくれるか!?私はまだ220歳だぞ!?」


 さすがドラゴン。ヒキコモリ期間も80年と半端なければ寄生先も二世代を経るか。


「働け、ニート」


 にーと?と可愛く首を傾けているセルヴァ。


「そういえば、ヒビキは『加護』を持ってるんだよね?どう?神殿で新しい力は手に入った?」


「え!?」


「何?どうしたの?何も手に入らなかった?それともまだ分からないだけかな?」


「いや、手に入れた。神殿に行くと力が手に入るのか?」


「あれ?知らなかった?絶対じゃないけど神様が力をくれるんだよ」


『YES』


 思い出したように【神託】が下る。

 これからは定期的に神殿に行こう。ここは遠いからもっと近くの神殿を探さなければ。


 出されたお茶とお菓子がなくなった頃、そろそろ帰ろうかという話になった。


「も、もう帰るのか?」


「あまり長居しても迷惑だしな」


「そんなことないのに」


 セルヴァがおろおろし始めたがサイをヤクゥのところに戻してやらなければならない。


「ですが、今迷宮の外は夜です。明日の朝から出発されたほうがよろしいのではないでしょうか?」


 迷宮の中では時間が分かりづらい。外はどうやらすでに夜のようだ。


「そ、それがいい。明日の朝出発するのがベストだ。それで、朝寝坊したらもう一泊くらいしていけばいいよ」


 アイリーンさんのお言葉に甘えてドラゴンの居城で夜を過ごすことになった。

 それにしても朝寝坊したら次の日に出発って『明日から頑張る』みたいな考え方だな。





 次の日、朝寝坊などせず早朝から街へ向けて出発する。

 見送りにわざわざ二人とも迷宮の外まで出てきてくれたがいいのだろうか?


「どうしてもいくのかい?」


「ああ」


「そ、そうだ。今度は私がヒビキに会いに行くよ。いいだろ?」


「俺はいいけど」


 ちらりとアイリーンさんを見るとこくりと頷いている。問題ないようだ。


「じゃ、じゃあ今から行くよ。ヒビキと一緒に」


「セルヴァ様」


「ひゃい!!」


 馬車に乗り込もうとしたセルヴァはすごすごと戻っていった。

 色々あったがウェフベルクに出発だ。

 ピカソがのそのそと歩き出し、迷宮から段々離れる。


「きっと行くから。すぐ行くからぁ!!」


 後ろではぶんぶんと音が聞こえる位にセルヴァが手を振っている。

 こちらも軽く手を振り返す。

 こうして俺達の初めてのダンジョン攻略は終了した。



 


 街について久しぶりに宿のベッドでゆっくりと楽しんだときに気がついた。

 『星剣』は、『聖剣』であり、『性剣』でもあったことに。



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