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第63話







 とりあえず、基本に忠実に街の人達から情報を集めてみることにした。


『ここは、セルヴァの街です』


『見慣れない顔だね。旅人さんかな?』


『町長の家は、この道の先だよ』


『うーん、困った、困った』


『こんにちは、旅人さん。町長さんの家にはもういった?』


『ああ、困ったなぁ』


 なんと、話しかけた街の人の約半分が町長に並々ならぬ興味を持っており、町長に興味の無い人の半分以上が困っていた。


「どんな、街だよ」


 とりあえず、最も話に出てきた町長の家を訪ねてみる。

 もしかしたら町長はまともに話してくれるかも知れない。


『父は、街の外れにある古い館に行くといって2日も戻りません。旅人さん、父を探してくれませんか?』


 なぜ、いきなり町長を訪ねてきた他人に町長を探させるのか?

 そもそも、2日も父親を放置するこの娘はなんなんだ。

 ゲームでは気にもならなかった事が気になってしまったのは、実際に歩きまわって『おつかいクエスト』をこなしているからだろう。

 ゲームでは『YES』か『NO』しか言えない。場合によっては『はい』か『YES』から選ぶしかないこともある。

 

 とりあえず『おつかいクエスト』をこなしていく。

 まずは、古い館に町長を探しに行く。町長の家からたったの10分で到着した。

 古い館に入ろうとするが扉に鍵がかかっており入れない。

 ぐるりと館を回ると、中に人影があるので開けてくれるように言ってみたがなんの反応も示さなかった。

 試しに館の扉を思いっきり蹴飛ばしたが傷つきもしなかった。

 仕方がないので【操力魔法】で扉の鍵をあける。中に入るとエントランスにメイドと執事が何も言わずに空中を見つめて立っていた。

 まるで人形だ。いや、おそらく人形なのだろうが。

 どうやらここでも正規のルートでの入室でないためキャラクター達が動いていないのだろう。

 館の探索を始めたがどの部屋にも鍵がかかっており、いちいち【操力魔法】を使うはめになった。

 探索を始めて15分ほどたっただろうか、町長らしい人を見つけたがこの人もやはり何も話してくれなかった。


「やっぱり、真面目に館の鍵を探さなきゃダメか」


 仕方なく街に引き返す。

 すると、街の人が増えていた。イベントが進んだためだろうか。


『やぁ、町長には会えたかい?』 


 俺はまずお前にあったことがないはずだが?


『館の鍵は、A男が持ってるぜ』 


 A男って誰だよ?何で館の鍵を探してるのを知ってるんだよ。


『ああ、困った、困った』 


 一生困ってろ。


『A男なら、B子のところに行くって行ってたな』 


 だからB子って誰だ!?


『A男、B子と最近うまくいってないみたい』 


 だからなんだよ!?


『ようこそ、ここはセルヴァの街です』 


 しつこい!!


 お約束の行ったり来たりを繰り返して疲れ果てていると、怪我をした男が道の端で座り込んでいる。


「こいつも、イベントキャラか?」


「あんた、会話が出来るのか!?」


 反応がおかしい。いや、ちゃんとした反応と言うべきだろうか。

 どうやら男はここの住人ではなく、冒険者のようだ。


「ここに閉じ込められて4日になる。モンスターも出てこないし『守護者』もいない。上に戻るにしてもこの怪我じゃ地上まで持たないだろうし、途方にくれていたんだ」


 男は右腕を失っていた。応急処置はしっかりしていたようでかなり衰弱しているが命に別状はない。


「あんた、サイか?」


 ヤクゥに聞いていた兄貴の名前を出してみる。


「どうして、俺の名前を?」


「あんたを助けて欲しいという依頼を受けたんだよ」


「そんなわけない、俺にはそんな心配してくれる仲間なんていない。いたらこんなところまで一人でこない」


「心配してくれる仲間はいなくても家族はいるだろ?」


「まさか、ヤクゥ!?それこそ無理だ。あいつにそんな金あるわけない」


「ああ、だからお前にはここから出たら料金を払ってもらわなきゃいけない」


「後払いで受けたのか!?とっくに死んでいるかも知れなかったんだぞ!?」


「その時は、あの娘に体で支払ってもらうさ」


「お前っ!?」


 サイがものすごい顔で俺をにらんでくる。


「それだけ元気なら問題ないな。とりあえずポーションをやるからどこかで休んでろ」


 俺の様子から冗談だと判断したのだろう、サイは怒りを納めてポーションを受けとる。


「しかし、お前たち本当に兄妹か?」


 ヤクゥは普通の人間だった。しかし、サイには犬耳とふさふさのしっぽがあった。


「俺達は、孤児院の出なんだよ。ヤクゥは俺が孤児院に捨てられた日に一緒に捨てられてた赤ん坊さ」


 その日からサイはヤクゥの兄になったらしい。

 ヤクゥくらいの年齢ならすでに自分たちが本当の兄妹ではないと気がついているかもしれない。

 それでも、兄を救って欲しいと依頼を出したのだ。


「なるほど、良くできた妹だな」


「お前、ヤクゥに手を出したらただじゃおかないからな」


「あんなガキに何しろって言うんだよ?」


 サイを黙らせて、下層攻略のための情報収集を再開する。


『ようこそ、ここはセルヴァの街です』


『ようこそ、ここはセルヴァの街です』


 重要な役割を持っていないであろう女性、いや女性の姿をした人形に剣を向ける。

 用心のため愛用の刀は使用しない。

 こんな実験で使い物にならなくなるのは困る。


「せいっ!!」


 剣で人形の右腕を肘の部分から切り落とす。ぶしゃっと音がして切断面から大量に血液のようなものが流れ出る。


『ようこそ、ここはセルヴァの街です』


 腕を切り落とされた張本人は何事もなかったかのように同じ言葉を繰り返している。


「やっぱり、破壊防止の魔法はかかってないか」


 吹き出した血のようなものに少し顔をしかめてしまうがこればかりは慣れる事がない。

 この街には、非破壊建造物と普通の建造物の二種類が混在している。

 館の中にいた『町長』は非破壊建造物扱いだった。しっかりと試したので間違いない。

 確認したいことも確認したので、下層攻略を開始することにした。

 その方法は、


『主よ、わらわたちの方は準備完了じゃ。街からしっかりと離れた』


「よし、それじゃ始めるぞ」


 街全体をそよ風で覆う。かなりの規模なのでゆっくりと風を大きくしていく。

 ある程度風が大きくなったら、火を放つ。これも同じように時間をかけて育てていく。

 ゴウゴウと炎が燃え盛り、平和だった街を包んでいく。


 これほど大きな街に火を放ったというのに悲鳴や怒鳴り声一つ聞こえない。

 こんな状態であっても決められた動きを繰り返している。

 まさに人形の街の最後に相応しいのだろう。

 

 炎が街の外にまで及ばないように風で調整しながらゆっくりと待った。

 およそ、2時間ほどがたっただろうか。

 そこには、火を放つ前と全く変わらない建物と人々がまばらに残っていた。

 

「うん、これで少しはマシになった」


 俺たちも最初からこんな無茶をしたのではない。サイを見つけてから6時間ほど、真面目に『おつかいクエスト』につきあってやったのだ。

 それでも、未だに最初の目的である『町長』に出会えていない、どころか館に入るための鍵すら見つかっていないのだ。

 中層と同じで、問題が難しいのではなく問題を『見つける』のが難しいのだ。

 クエストに関係ないモブキャラや建物が多すぎるのだ。

 その証拠に、火を放って残っている建物は元の3割ほどだった。

 完全に火が消えたので、避難していたアイラたちを呼び戻し攻略を再開した。

 まず、焼け出されている『重要なキャラクター』を一ヶ所に集めた。

 次に焼け残っている建物に押し入り、建物内で生き残っていたキャラクターに斬りかかり、重要キャラか選別をした。

 さらに、家のなかにあった非破壊アイテムも拾って回った。


 非破壊キャラ数・・・68人

 非破壊建造物 ・・・23棟

 非破壊アイテム・・・13個


 全てを集め終えたらステータスチェックで人やアイテムの名前を調べる。

 それぞれの話を聞いて、関係しているもの同士を集めていく。

 ルーチンワークのように『おつかいクエスト』を消化してようやく『館の鍵』を手にいれた。

 館に鍵を開けて入ると、エントランスでメイドと執事が笑顔で話しかけてきた。


「「いらっしゃいませ、ようこそおいでくださいました」」


 どうやら、ようやく物語がスタートしたようだ。




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