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第37話

 『叡知の書』と話をしてみると以前の持ち主は確かに領主だったようだ。

 あらゆる決定を『叡知の書』にたくしていたそうだ。

 そのため、『叡知の書』の魔力が切れて頼る相手がいなくなった途端に領主を罷免されたらしい。


『彼は真面目であったが凡百であった』


 悲しそうに語る『叡知の書』。


『それで、新しき持ち主は我にどんな知識を望む?』


 言われて少し考えるが特に思いつかない。

 素直にそう答えると、『叡知の書』は困惑しているようだ。


『どのような知識でも手に入るのだぞ』


 試しにネクロマンサーについて聞いてみた。


『うむ、ネクロマンサーは【死霊魔法】を操る魔術師だ。【ゴースト召喚】と【ゾンビ召喚】が有名だな』


「【ゾンビ召喚】ってのは死体を使うのか?」


『そうだ。しかし、すでに存在するゾンビを召喚することもできる』


「うちのネクロマンサー、死体が苦手なんだが死体っぽくないゾンビとかいないか?」


『・・・【ゾンビ召喚】ではゾンビしか呼び出せない。しかし、ネクロマンサーは他のアンデッドを召喚することが出来る』


 ネクロマンサーはアンデッド族とのつながりが深い職種のようだ。

 ゾンビもゴーストもアンデッド族の中の種類らしい。

 そして、『叡智の書』が腐った体を持たないアンデットを教えてくれる。


『有名なのは、スケルトン、グール、ウィル・オ・ウィスプ、カースドアーマー等だ。アンデッドでは無いが、その昔ケルベロスを使役したネクロマンサーもいたそうだ』


 さすが、『叡智の書』だ。以前俺が思いついたデュラハンはカースドアーマーの一種とのこと。

 ウィル・オ・ウィスプは簡単に言えば鬼火とか人魂みたいなものか、見た目は完全に火の玉らしい。


「ちなみにケルベロスの使役方法は分かる?」


『我は『叡智の書』だ。我が持たぬ知識は無い。しかし、知識は万人に理解できる物でなければならない』


 つまり、分からないってことね。1人の天才の『なんとなく』は知識ではないと言いたいらしい。

 とりあえず今日のところはここまでにして俺は眠りについた。


「えっと、ジルが仲間になってまだ日も浅いがみんなに新しい仲間を紹介する」



 次の日、予定通りゴブリンの村についてから俺は『叡智の書』をみんなに紹介することにした。

 アイラはきょろきょろして新しい仲間を探している。

 エミィはなんだか少し怖い顔をしている。また増えた、と聞こえた気がしたが気にしないことにする。

 ジルは眠そうにあくびをしている。あまり興味が無いのだろう。


「おい、『叡智の書』あいさつしろよ」


『うむ、紹介に預かった『叡智の書』である。以後見知りおいてくれ』


「本が喋った。本って喋るんですね」


「・・・『知性ある物インテリジェンスアイテム』ですか?初めて見ました」


「うん?昨日の本か?昨日は喋る本は無かった気がするがのぅ」


 3人とも少し驚いているようだ。しかし、アイラの驚き方は少しずれている。というか、『知性ある物』っていうのか。


『ふむ、この者たちの反応もなかなかに新鮮であるな。さぁ、我に問うが良い。あらゆる知識を与えてやろう』


 そう言われて考え込む3人。


「・・・特に聞きたい事無いです」


「・・・そうですね、今のところ何か知りたいことはありませんね」


「・・・そもそも、初対面の『本』に何を聞けと言うのじゃ?」


『なっ!?』


 『叡智の書』がショックを受けている。昨日に引き続き自身の存在理由を否定され続けているからな。

 少しフォローするべきかもしれないな。


「あ~、そういえば最近、夜の体力が足りてないんだよ。なんかいい薬ないかな?」

 

 とっさに用件を考えたためこんな質問になってしまった。


『う、うむ。そうか、では『青春薬』などどうか?』


「『青春薬』?」


『そうだ、これを行為の前に服薬すればまるで、十代の頃のように次の日の朝まで疲れ知らずになる。ゆえに『青春薬』だ』


 『叡智の書』すげー。しかし、俺、十代なんだが。

 話を聞いていたエミィが『青春薬』の詳しい作り方を聞いていた。

 材料も比較的簡単に手に入るものだし、この前の市での買い物で買った物で作れるとのことで早速エミィが作り始めた。


『そういえば、昨日、持ち主が私に話していたネクロマンサーとはお前のことか?』


「なんじゃ、人のいないところでわらわの事を話しておったのか?」


『ああ、気持ち悪くないアンデッドの話をしてやった』


「そ、その事か。主よ、次からはわらわのいるときに話をしてくれんかのぅ」


「ああ、分かった。でも昨日も大したことは話してないぞ」


昨日話に出てきたスケルトンなどのモンスターをジルに教えてやる。


「確かに、骨や鎧なら大丈夫かもしれんのぅ」


 ジルには今日、アンデッド召喚に尽力してもらう。『叡知の書』にはジルに付き合って様々なアンデッドについてレクチャーさせる。

 アイラには配下のモンスター達のレベル上げをお願いした。

 デューオとルオはすでにレベル20を越えていてこの森のモンスターになら負けることはないだろうが、これから『魔物の荒野』を主な狩場にするなら少し力不足だろう。

 クインは、一対一なら恐らく問題ないだろうが、複数の相手に囲まれれば危険だろう。少しでもレベルは高い方がいい。

 エミィは、『青春薬』の量産に入ったので今日は村から出ないだろう。すごく熱心に作業をしていた。

 このあと街に戻って分かったことだが、『青春薬』は、錬金術師ギルドで高値で売れた。何でも、レシピが失われていて完璧な物を作ることができなかったのだとか。そんな紛い物でも貴族に大人気の商品らしく、レシピを売ってくれと頼まれた。いつの時代でも、どんな世界でも、人間の欲望は変わらないようだ。

 金貨50枚と毎月、薬の売上の1割を要求したら苦い顔をされたので、商人ギルドに持っていくと伝えたらすぐに承諾してくれた。

 

 俺は新しい魔法の習得を目指す。

 まず、簡単に手に入るであろう土魔法。

 地面に手をついて魔力を込める。すると、地面の中に力の流れがあることに気づいた。感覚で言えば数百メートル位下だろうか?

 これは地脈とか、龍脈と呼ばれるものだろうか?魔力で地脈に干渉してみるが、全く操れない。恐らく、規模が大きすぎるのだろう。力の流れの表面を

撫でるように掬い上げると地脈の力が少しだけ魔力についてきた。その魔力を地表付近の土に浸透させる。


「ほい!」


 掛け声とともに腕をあげる。するとまるで連動しているかのように地面の一部が隆起してくる。

 イメージさえしっかりしていれば掛け声も手の動きもいらないのだが、こうするのが一番イメージしやすかった。

 あと、地面から粘土質だけを取り出したり、鉱物だけを集めたりと土魔法は応用の幅が多そうな魔法だ。

 そして、俺的に今日のメインイベント。

 雷魔法の習得を開始した。


○用意するもの

『レモン』っぽい果物

数種類の金属の板

糸状の銀


 以上だ。

 まず、『レモン』っぽい果物を真ん中から切る。

 次に切断面に金属の板を2枚突き刺す。この時、突き刺す金属の板は2枚が違う金属になるようにする。これを複数個作る。

 最後に、銀線で金属の板をつなぐ。


 これで、『レモン』っぽい電池の完成だ。

 ドキドキしながら2本の銀線を一本ずつ掴む。

 触れた瞬間、ピリッとした気がして手を離す。


「こわっ!静電気より痛そうだなぁ」


 一度食らってしまうとなかなか手が出なくなる。

 しばらく、手を銀線に近づけたり離したりしていると、


「主よ、何をやっとるんじゃ?」


 急に後ろから声をかけられてビックリしてしまう。


「脅かすなよ、ジル!」


「別に脅かせるつもりはなかったんじゃがな。それより、何をしておるんじゃ?」


「新しい魔法の習得だよ」


『聞いたこともない修練方法だな。詳しく教えて欲しい』


 『叡知の書』が興味を持ったようだ。好奇心、いや、知識欲かな?


「まぁ、そろそろ本気でやるつもりだったし、構わないけど」


 そう答えて勢いで銀線を掴む。


「ぎゃっ!! ぐぅぅ~」


 今度は銀線を離さずに耐えた。

 すかさず銀線に魔力を通し、電流と同調させた。

 電流はいくら魔力を注いでも逆に流れたり出来なかった。ただ、流れる量と速さは操れるようだ。

 電気の根本的な性質は変えられないようだが、電圧や電流は操れるようだ。

 早速使ってみるために俺は立ち上がり、近くにあった木に向かって電撃を流そうとする。しかし、手のひらに魔力が貯まって行くだけで全然電撃が出ない。

 魔力も段々と抵抗が増えて手のひらに流れなくなっていく。

 やはり、漫画のようにはうまくいかないのか。

 そんなことを考えていると、手の魔力が急に抵抗を失い、一瞬閃光が走ったかと思うと次の瞬間、

 ズドンッと、ものすごい音とともにマトに選んだ木が根本からへし折れて倒れてきた。


「うわっ、あぶねぇ!」


 間一髪避けるのに成功し、木を確認すると折れたところから煙があがっており、所々焦げていた。


「すごいな、こりゃ~」


「なんじゃ、今のは!?」


『確認した。【雷魔法】と判断する。持ち主は勇者だったのか?』


「すごいのぅ、これが勇者の【雷魔法】か!」


「いや、【電撃魔法】って言うみたいだ」


 ステータスを確認すると【電撃魔法】と表示されている。

 雷と電気って結局同じものだよな?

 じゃあ、『雷撃』と『電撃』だとどっちが強そうかと聞かれたら『雷撃』だと思うけど。


「多分、勇者の【雷魔法】の劣化魔法だよ」


「劣化でこれか?食べ物で遊んどるだけにしか見えんかったが、こんな魔法を習得するとはのぅ」


『【電撃魔法】とは聞いたこともない。勇者以外が【雷魔法】を習得すると言う話も聞いたことがない。我は『叡知の書』失格だ』


 『叡知の書』がなにやらへこんでしまった。

 【雷魔法】は勇者が選定されてから覚える魔法らしい。

 そんなもの受けた覚えはないから、俺は勇者ではないが。

「それより、ジル。アンデッドの召喚はどうだったんだ?」


 ジルがにたりと笑って俺に答える。


「くふふ、知りたいか?ならば見せてやろう。わらわの忠実なるしもべを!!」


 ジルの体から魔力がほとばしる。

 それに呼応するようにジルの近くに別の魔力の渦が発生し、中心から腕が生えてきた。

 渦が大きくなるにつれ中身が見えてくる。

 中にいるのは、スケルトンだろう。すでに出てきている白い骨だけの腕を見れば分かる。

 渦の直径が2メートルくらいになりようやく完全に姿を現したそれは、無骨な野太刀を肩に抱えた骸骨の剣士だった。

 体は骨だけだが要所に金属鎧をつけている。

 骨だけのくせにがっしりとした印象を受け、頼もしさすら感じる。


「どうじゃ、強そうじゃろ?主もこいつには勝てんかものぅ」


 ステータスを確認すると、『スケルトンウォーリア』と表示されている。レベルは30。

なるほど、俺が勝てないとは言うだけはある。


「わかった、手合わせしようじゃないか」


ジルの挑発に乗ってやることにする。







  

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