第172話
またもや間が空いてしまいました。
申し訳ありません。
次こそはそれほど間隔をあけずに投稿いたします。
「さて、どうしたものか」
目の前には額を床に押し付けている犬獣人のサイがいた。
「すまん、ヒビキ。どうしてもほっとけなかったんだ」
見れば見るほど見事な土下座だ。どうやら、予定よりかなり多くの人材を当初の予算を超えて入手してきてしまったようだ。
「まぁ、気にするなよ。10人が20人になったって大したことないさ」
ゴブリン村にはまだまだ土地に余裕があるし、食料の備蓄も十分ある。
サイの性格を考えれば、奴隷商の店にいる『呪い』持ち全員を購入してくる、なんてことも十分考えられた事だ。いまだに土下座を続けるサイを立たせて、肩をポンポンと叩いて気にするなと伝える。
「とりあえず、寝床の確保が最優先ですね。天龍の街で寝具を買いそろえて来ますね」
エミィがすぐに対応を始めてくれる。
「私はラティアに夕飯を増やしてもらうようにお願いしてきます。あと、すぐに食べられる物が無いか聞いてきますね」
続いてアイラが部屋から出ていった。確かにみんな昼過ぎについてからまだなにも食べてないだろうから、お腹をすかせているはずだ。
「2人ともよろしくな」
これで部屋には俺とサイ、あとはソファで寝そべってダラダラしているジルだけだ。
「本当にすまない」
ようやく立ち上がったサイがまた謝罪を口にする。
「いや、気にするなよ。確かに少し多くてビックリしたが、失敗ってほどでもないだろ」
サイのこれまでの功績と比べたら、失敗とカウントするほどの事でもない。
「うじうじしても仕方がない。とりあえず、新入りに会いに行くか」
村の広場では、サイが連れてきた20人ほどの『呪い』持ちの奴隷達が待っていた。
「あ、サイのおじさん」
サイはすぐに子供達にもみくちゃにされてしまった。あの年頃の子供に好かれるのは、現役の兄だからだろうか。
サイを見ていると、一番前に立っていた狐の獣人の娘に見つめられているのに気がついた。
「あの、あなたがごしゅじんさまですか?」
若干返答に困る質問だ。契約では一応、彼女達の主人は俺になる。そうすれば彼女達のスキルが手に入るからだ。しかし、名目上は天龍教の物と言うことにするつもりだ。
そんな、少し複雑な話を彼女達に説明するべきか迷ってしまう。
「そうだ。こいつがお前達の主人になるんだぞ。ちゃんと挨拶しとけ」
「は、はい。よろしくおねがいいたします」
俺が悩んでいるとサイが答えてしまった。まあ、彼女達の主人が誰なのかなんて誰も気にしないだろうから問題はないだろう。
「よろしくな。俺はヒビキだ」
「はい。がんばってはたらきます。ごしゅじんさま」
「あぁ、呼び方はヒビキで良いよ」
「え、でも、それは」
「難しいなら、さん付けでもいいし、先生とか師匠でもいいぞ」
「せんせぇ?」
「ししょー?」
狐娘の後ろにいた幼さの残る獣人達が先生、師匠と不思議そうに口にする。こいつらには戦い方を教えるつもりだ。それなら先生や師匠も間違ってはいないだろう。全員からご主人様と呼ばれるのはさすがにまずいだろう。
「わかりました。センセー」
狐娘がそう答えると他の獣人達も俺のことをセンセーと呼び始める。
「ご主人様、干し肉とパンが準備出来ました。こちらにお持ちしますか?」
「そうだな」
周りを見渡すと、干し肉とパンと聞いて目を輝かせる子供達に取り囲まれていた。
「ここで食べるから持って来てくれるか。あとは、風呂の用意も頼む」
「わかりました。すぐ持ってきますね。お風呂はラティアさんが準備してくれてますのでいつでも入れます」
うちのメイドさんは中々に優秀なようだ。そのあと、言葉通りすぐにやって来た食料を適当に配り食事を始めることにした。
「このお肉すっごくおいしい!?」
「がふがふ」
「うわーん、パンがなくなったぁ!!」
どうやら柔らかいパンはあまりに抵抗が無かったために、早々に飲み込んでしまいパンが無くなった、と騒いでいるようだ。
しかし、あれだけ騒いでいるのに、大皿においてあるおかわり用のパンと干し肉には誰も手を出そうとしない。
「どうした?足りないならもっと食え」
「そのお皿のごはんはセンセーの分じゃないの?」
狐娘がおそるおそる聞いてきた。
「まぁ、俺も足りなきゃ食うけど、全部は食べきれないよ。無くなったらまた持ってくるし、遠慮せず食えよ」
そこまで言っても誰もなかなか手を出さない。仕方ないので干し肉を掴んで近くにいた狐娘に押し付けるように手渡した。
「センセー?」
「いいからさっさと食べなさい」
ようやく一口食べた狐娘を見て、他の子達も大皿に群がり始めた。彼女達が落ち着いたのは大皿がからっぽになってから30分ほどたってからだった。
食事がすんだら次は風呂だ。俺はアイラとラティアに子供達を任せることにした。
「やはり、子供の世話は女子に任せるのが一番じゃのぅ」
自身も女子であるはずのジルがぬけぬけと言ってのける。とはいえアイラもラティアも子供達の扱いが非常にうまい。二人とも兄弟姉妹はいなかったはずだが、これが母性というものなのだろうか。
「くふふ、心配せんでも主との稚児ならわらわがてずから育てるからのぅ」
「別種族との子供は出来ないんじゃないのか?」
「なにをいっておる。テオがおるじゃろ?それにフキとソラのところにも確かややごが産まれたじゃろ?それに子が出来んようなら主を吸血鬼にするという方法も。あぁ、それは無理じゃったかのぅ」
フキとソラ?そう言えば確かに最近会ってないが、えっ!?あいつら付き合ってたのか?というか、子供!?
「う、産まれたのは人魚とハーピーどっちなんだ?」
「さて、わらわも直接見た訳じゃないからのぅ。気になるなら調べようか?」
「いや、明日直接会ってくるよ」
これは一度確認にいく必要がある。サイが連れ帰ったもう1つの集団の様子も見に行くつもりだったし、明日は朝から街の方に行ってみることにしよう。
「ただいま戻りました」
そんなことを考えているとエミィが帰って来た。どうやら寝具の調達はなんとかなったようだ。
「おかえりエミィ。街の方はどうだった?」
「はい。たいした混乱は無かったようです。今は皆さん宿屋で旅の疲れを癒しています」
「そうか」
サイが連れ帰った冒険者達には街の入口すぐの所に建てた専用の宿泊施設に寝泊まりしてもらっている。これは冒険者達にとっても便利な立地なので特には文句も出なかったようだ。色街や酒場を隣接させたのも多少は関係しているはずだ。
「ふむ、冒険者と言うのはいやはや欲望に忠実じゃな。早速色街に繰り出した奴等がおるな」
日頃から街の様子をゴーストを使って調べさせているジルが呆れたように呟いている。
「しかし、あの色街は村に近くていかんな」
「そうですね。少し夜の警備を増やしたほうがいいかもしれません」
なぜかこちらを見ながら2人が相談を始めた。俺も冒険者だし、今回来た奴等と交流が必要だと思う。人と仲良くなるには酒か異性の話をするのが一番効率的だ。ダカラオレハワルクナイ。
「とりあえずしばらくはわらわ達のうちの誰かが四六時中張り付いておけば良かろう」
「はい。アイラにも相談して割り振りを決めましょう」
どうやら冒険者達との交流はしばらく先になりそうだった。




