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第169話

お待たせして大変申し訳ありませんでした。

待っていてくださった方が一人でもいらっしゃると信じて、更新を再開させていただきます。

1年ぶりで覚えてない、という意見が多かったので軽くあらすじ説明いたします。


ピノ→リザードマンの娘、シャーと鳴くのが魅力的

シオン→ビローの街の有力者の娘、中2脳が魅力的


あらすじ

冒険者の街で平和にすごしていたヒビキ達にケンカを売ってきた貴族に報復するため、相手の拠点であるビローの街で商売を始めたヒビキ達。

ヒビキ達の行動に気がついたノートル家の現当主であるゲイリー・ノートルは、友好のしるしとしてシオンを嫁として送り込んでくるが、シオンは中2病だった。


さぁ、どうなるか。


以上です。

あらすじ、修正いたしました。 ビグルではなく、ゲイリーでした。

申し訳ございません。

 撤収の準備も終了し、今日の昼にはみんなでこの街を立つ。これから、この街での活動は白磁の品への規制を表の理由に縮小していく予定だ。具体的にはピノの店への納品くらいになるだろう。

 あとはこの街に残る連中を含めた食事会がすみ次第、俺達は街を出る事にしている。


「別にそんなに急がなくても良いと思いますけど」


「いや、なんだか厄介事が舞い込みそうなんだよ。だから早くこの街を離れたい」


 この街に残るピノは未だに俺を引きとめようとして来る。しかし、このままここにいたら、ノートル家がらみの事件に巻き込まれそうな気がする。


「もう十分舞い込んで来ておる気がするがのぅ」


「ジル、口が過ぎますよ」


 ジルが言っているのはシオンの事だろう。ジルをたしなめてくれたエミィもこちらをやや不安げに見つめてきている。


「そんなに凄い人なんですか?」


 アイラはまだシオンに会っていないのでピンと来ないようだ。ちなみにシオンは今、サイと街の散策に出ている。



「で、どうするんじゃ?」


 ジルが聞きたい事はもちろんシオンをどうするか、と言う事だろう。


「出来れば、この街に置いて行きたい。そうなるとピノに面倒を見て貰うことに」


「お断りいたします」


 きっぱりとピノに断られてしまう。


「彼女は私の競争相手ですので。私の心はそれほど広くはありません」


 確かにもっともだ。これは正妻に側室の面倒を見させるような鬼畜の所業だ。しかもピノは正妻ですらない。


「それとも新しい妾にここでの規則を教えてやれ、という事ですか? でしたら少々厳しく指導することになりますが」


 変身薬で人の姿になっているピノからシャー、と聞こえるはずのない声が聞こえてきた。やはりピノに預けるのは無理か。


「まぁ、良いではないか。どうにもならなければ、村に連れて行くしかあるまい? それにわらわはあの娘なら案外上手くやれると思うがのぅ」


「ここに彼女を残しているのがノートル卿に知られれば気を悪くするのは間違いありませんね」


 楽観的なジルの意見と現実的なエミィの意見が両方ともシオンを村に連れて行くべき、と言っている。


「アイラはどう思う?」


 せっかくなのでアイラにも意見を聞いてみる。隣でルビーがビローンと縦に伸びて自己主張しているがとりあえずアイラが先だ。


「えっと、シオンさんに決めてもらうのはどうでしょうか? まだ村に行くことを伝えていなかったと思いますので」


「確かにまだ村のことを話してないな」


 別に隠していた訳ではないが、ゴブリン村や天龍の街の事はまだ話していない。これは無意識の内に彼女を部外者だと感じているからかもしれない。

 それにシオンも俺の所に嫁ぎに来たといっても、いきなりビローの街を離れるとは考えていない可能性もある。この街には彼女の実家もあるのだから安心感も違うだろう。


「案外、移動の話をしたら実家に帰るかも知れないな」


「それが1番穏便かも知れませんね。ノートル卿も娘さんをそんな辺境に連れて行かれるのには難色を示すでしょうし」


「なんじゃ、連れていかんのか?ゴブリンだらけの村や亜人だらけの街を見てあの娘がどんな反応をするのか見たかったんじゃがのぅ」


 ジルの奴、そんな事を考えていたのか。アイラに意見を聞いてみて良かった。


「それじゃ、シオンが帰ってきたら移動の話をするか」


 その時に、多少村や街の不便な点を強調して話せば、都会育ちのお嬢様ならきっと来るのを拒んでくれるだろう。


「結婚についてもはっきりしておくべきか?」

 こちらは結婚するつもりは無いのだ。それもはっきり伝える必要があるはずだ。

「正式に婚約を行った訳ではないのでおそらく『事実婚』で構わないと考えているのではありませんか?」


「事実婚?」

「はい。貴族の【結婚】にはリスクが多いですから」

 日本でも戦国時代によくあった、政略結婚と言うやつか。しかしその場合だと結婚した事実が重要であり、ほとんどの場合だと夫婦仲は冷めていたりするはずだ。事実婚は真逆の言葉なんじゃないか?


「【結婚】してしまうと、色々と制約が出来てしまいますから」

 なるほど、こちらの世界の【結婚】は法的な強制力とは別に【契約】による物理的な強制力を負わされるわけか。人質として送った身内が【結婚】してしまい、有無を言わさず相手の味方になってしまえば、政略【結婚】の旨味が無くなるわけだ。

「だからこそ、『事実婚』と言う形で情に訴えるのか」

「はい。その通りです」

「そんなんじゃ誰も【結婚】なんてしたがらないんじゃないのか?」

 嫌な話だが【結婚】するメリットが無さすぎる気がする。

「そんな事はないじゃろ? 【結婚】してから身籠った稚児の方が丈夫で才気溢れると言われとるからのぅ」

 【結婚】によるなんらかのボーナスが発生しているのだろうか? ただの迷信と言う可能性もある。とは言え、生まれてくる子供に少しでも影響がある、と信じられているなら、【結婚】してから跡取りを望む者が多いのは当然だろう。


「ご主人様の生まれた所では違いましたか?」


 エミィが不思議そうにたずねてきた。


「【結婚】はあったけど『事実婚』は無かったな。【結婚】ももう少し気軽なものだったよ。好きな人同士が家族になる、ってくらいの認識かな」

 田舎育ちなら【結婚】にそこまで慎重にはならないだろうからそんなに変ではないだろう。


「私の生まれた村もそうでした。でも、村長の息子さんの【結婚】の時はお祭りみたいでした」

 アイラが俺の言葉に賛同してくれた。やはり、一般的にはその程度の認識なんだろう。


「村と街の差なんだろうな」


「そうなのかもしれませんね」


 アイラ達と結婚について話し込んでしまった。サイ達を追い出してからしばらくたつが、なんだか道を歩く人が増えたような気がする。


「隣の領地の領主軍が街の近くまで来ているそうです」


 アイラが人々の会話を聞き取ってくれた。領主軍と言うのは領地を持った貴族達が公金を使って編成している軍の事だ。

 もちろん、領地の大きさや特産品によって軍の規模を国に規制されているがほとんどの領主が私兵と領主軍を分けていない。


「おかしいですね。ビローと隣の領主はそこそこ仲はいいですが、人の噂になるほど街の近くに軍をよこすなんてあり得ません」


 エミィによると普通に侵略行為と見なされる、とのことだ。


「えっと、隣の領地でうち漏らした魔物を追って来ているそうです」


「それこそおかしいです。普通、領外に出た魔物なんて押し付ける事はあっても、深追いなんてしません」


 そりゃそうだ、無理して魔物を討伐してもいい事なんて何もない。


「魔物の大きな群れは討伐済みみたいです。個別に逃げた魔物の討伐依頼を冒険者ギルドにお願いしているみたいです」


「ずいぶんと、気配りの出来る軍だな」


 うち漏らした魔物の群れだけでなく、散り散りに逃げた魔物まで気にするとは。


「ありえません。絶対に何か裏があるはずです」


「裏?」


「はい。おそらく、ただの魔物ではないのでしょう」


「たとえば、どんなやつだ?」


「人を大きく成長させる魔物。呪いをかける魔物。あとは貴重なアイテムを落とす魔物。こんなところでしょうか」


 なるほど、経験値とアイテムか。しかし、


「呪いをかける魔物を追う理由が分からないが」

 

「えっと、呪いをかけたい人がいたり、呪いがかかった人がいるので」


 魔物を利用して呪殺、もしくは解呪するわけか。


「名目上は、『呪い』による混乱を防ぐため、ということになっています」


「これは、なにかやっかいごとが起こる前に村に戻ったほうがいいかな」


 街に人が増えれば問題も増える。当然のことだ。なにかに巻き込まれる前にさっさとこの街から出たほうがいいだろう。

「ちょっとサイ達を探してくる。悪いが撤収の準備を頼めるか?」


「かしこまりました。いつでも出られるように準備しておきます」

 エミィは俺の考えている事が分かったようで、すぐにゴブリン達に準備を急ぐように指示を始めてくれた。

「わらわは特に準備するものもないからのぅ、主に付き合うぞ」

 長椅子でだらしなく寝転がっていたジルがひょいっと立ち上がりそばに来た。

「私はグリフォン達の用意をしておきますね」

 アイラがペコリとあたまを下げて店の裏手の馬小屋のほうへ向かった。


「さて、どこから探すかな」

 店を出てすぐにある大通りで左右を見渡しながら誰に聞かせる訳でもない呟きを漏らすとジルが答えてくれた。


「そうじゃのぅ、とりあえず騒がしい方へ向かえばよかろう」


「なぜだ?」


「そりゃ、あのお嬢が大人しくしとるとは思えんしのぅ。だからこそ主もお嬢を黒腕のにまかせたんじゃろ?」

 なるほど、その通りだ。俺はジルに言われた通り、大通りで最も賑わっている市場へと向かうことにした。



 門前市場は、ビローの街で最も賑わっている市場だ。貴族や大商人といったいわゆる権力者達の多いこの街では弱い立場の者はトラブルに巻き込まれる事が多い。そのため、街には入らず門の近くで露店が開かれるようになったのがこの門前市場の始まりらしい。

 今では多くの商人達が集まり、安心して商売を行えるほどの発言権を持っているらしい。そのおかげか、門の行き来を妨げるほどの活気がここにはある。


「俺たちの店もここに出したほうが良かったかな?」


「エミィも言っておったが、ここでは駒の一つも売れんじゃろ」


 確かにうちの店はここにあるどの店よりも客単価が高いだろう。ギーレンに頼み込んで紹介状を書いてもらってようやく街の中に出店させてもらえたわけだし。


「でもピノの店はこっちのほうが向いてるんじゃないか?」


「それもエミィと相談しておったぞ。こっちの市場では、新規の店の立ち入るスキが無いそうじゃ」


 たしかに露店を含めれば百にも届きそうな店の数だ。ここになんの後ろ盾もない店が参入しても埋もれてしまうだろう。


「護衛の冒険者なら街の中にいるし、あまり依頼人から離れられないだろうからそれなりに客はくるって事か」 


 すぐに大儲けは無理でも、徐々にお客は増えそうだな。近くて便利なコンビニを味わってしまえばそれがない生活にはなかなか戻れないものだ。

 そんな事を考えていると目の前の人だかりから大きな罵り声が聞こえてきた。


「だらぁ、てめえ!!くぉろされてぇのかぁ!!」


「そんな事言ってないだろう。そのお嬢さんは俺のツレだから勘弁してくれって言ってるだけさ」


 必死になだめようとしている方の声は聞き覚えがある。どうやらジルの予想は当たっていたようだ。ジルの方を見ればにんまりと笑いながらこちらを見ている。


「だらぁ、ちょっしくれっとぶっころっぞ、あぁ!?」


 なんと言っているのか分からない言葉を叫び出したゴツい体格の男が腰の剣を抜き放った。


「だからなんでそうなるんだよ」


 もう一人の男、つまりサイが生身のほうの腕でガシガシと頭をかきながらもしっかりと義手でシオンを守りながらため息をついている。

 どうでも良いがさっきからゴツい男はなぜ話しはじめに毎回、だらぁ、を入れてくるのか。そんなことが気になってしまい、いまいち緊張感がない。

 まぁ、サイも落ち着いているのでたいした相手ではないのだろうと分かっているというのも緊張感のない理由の1つだろう。


「だらぁ!!」


 とうとう、剣を振り上げてサイに斬りかかる男。掛け声まで、だらぁなのか。


「よっ、と」


 サイはその剣を義手の腕部分で受け流そうとする。流石に義手でもマトモに剣を受け止めれば衝撃で身体に痛みを感じるだろうから当然だ。


「だらっしゃああ!!」


 ここで男が掛け声を変化させてきた。いや、そんな事より剣の軌道を無理やり変えて正確に義手の手首部分を狙っている。

 しかし、


「痛っ」


 義手の手首に激突した剣はガァーンと鈍い音を立てて跳ね返っていく。流石にサイも痛かったのかやや顔をゆがめている。


「なんだらぁ!? おぶぅ!!」


 男の方は跳ね返って来た剣の腹に顔をぶつけて鼻血を出しながら倒れてしまった。おそらくサイの義手を鎧だと勘違いして薄い鉄板の下にある生身の手首を切り落とすつもりで剣を振り抜いたのだろう。

 しかし、実際のところ可動部とはいえ義手は金属の塊のような物だ。文字通り刃が立たたず勢いよく跳ね返った訳だ。


「いてて、あ、お嬢は大丈夫か?」


「え、ええ。平気よ」


 さすがに剣で斬りつけられたせいかやや大人しいシオン。さて、そろそろ声をかけるか。


「サイ、無事か?」


「ヒビキ?いるなら助けろよ」


「今来たところなんだよ。それで、なにがあったんだ?」


「いや、お嬢が道の真ん中で金貨なんて取り出すから、ガラの悪い連中にからまれたんだよ」


「だって、あそこのお店で金貨を銀貨1枚で売っていたから」


「金貨を銀貨1枚で?」


 何を言っているのかよく分からない。仕方がないのでサイに説明を求めることにした。


「国営店で売ってる金貨を模した食べ物の事だ。最近流行ってるらしい」


 国営店と言うのは確かその名の通り国が運営している店の事のはずだ。売っているのはすべて本物のドロップ品。それを保証するための国営、と言うことらしい。確かに普通に手に入る天然の品よりドロップ品のほうが品質が上だ。しかし、普通の人にはそれが見分けられない。そこで国営店の出番と言うわけだ。


「食べ物を金貨と間違えたのか?」


「いや、確かによく似てるんだ。さすがに持てば偽物だと分かるんだが、金貨を見慣れてない奴らなら見間違えるかもしれない」


 金貨によく似た食べ物。まったく想像も出来ない食べ物だ。


「食べ物で銀貨1枚は結構高いな。そんなに売れないだろ?」


「それがかなりの人気でな。今日店に入荷するまでは品切れ状態だったらしいぞ」


「そんなに旨いなら食ってみたいのぅ」


「そうだな。準備を任せたアイラ達にもお土産として買って帰るか」


 国営店などと言えば、高級な店を想像するかも知れないがただの木造の建物だった。とはいえさすが国営。門前市場の一等地である門のすぐ横の壁にくっつくように居を構えていた。


「すみません。金貨みたいな食べ物ってありますか」


「いらっしゃい。お客さんの探してるのはこれのことだね」


 店と門の壁は中で繋がっているようで、店員はカウンターの奥の石壁側にある扉を開けて中から商品を取り出してすぐに戻ってきた。


「これが金貨みたいな食べ物?」


 そこにあったのは確かに金貨のような食べ物だった。


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