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extra ツギハギ少女とアイビキ勇者  前編

本編、非常に難航しております。

なぜかこちらの方が筆が進みましたのでアップさせて頂きます。


extra  ツギハギ少女とアイビキ勇者



「それじゃあ、この街をしばらく頼むぞ。テオ」


 母さん達の知り合いが街の近くに引っ越して来て1週間くらい過ぎた頃、そう言ってヒビキ兄さん達がまたどこかへ出かけて行った。


「任せてよ。「俺」は、この街の勇者なんだから」


 ヒビキ兄さん達を見送って僕は今日の日課を始めることにした。

 まずは最近教えてもらった【魔法】の練習だ。


「えっと、ロウソクはどこだっけ?」


 僕には今、家が2つある。1つが天龍の街の中にある奇跡の家。そしてもう1つは、街の外に最近出来たゴブリン村の中の母さん達の家だ。

 ヒビキ兄さんから勇者の修行はゴブリン村でしなさいと言われているから今は母さん達の家にある僕の部屋で「魔法練習セット」を探している所だ。


「テオ、帰っていたの?」


「あ、ミラ母さん。うん。兄さんを見送ってきたんだ」


「そう」


 ミラ母さんは街で「天龍の薬師」って言うすごいお仕事をしている。

 街ではデトク先生と一緒に「病院」で病気や怪我の人達を一生懸命治してくれている。


「テオ、今朝の分の「ポーション」はもう飲んだの? 」


「あっ、ごめんなさい。まだです」


「先に飲んでおきなさい。修行はその後」


「はぁい」


 僕は元々変な病気だった。急に身体じゅうが痛くなってくる病気だ。でも母さん達と暮らすようになってから全然身体が痛くならなくなっていた。

 それは、毎朝飲んでいるこの「ポーション」というお薬のおかげみたいだ。

 

「テオ、今日も朝は【魔法】の練習かしら? 」

「うん。それで、お昼ご飯食べたらジーナさんと勝負だよ」

「そう、しっかり練習して当主さ、いえ、ヒビキさんみたいに強くなれるといいわね」

「うん」

 

 すぐに「ポーション」を飲んでいつもの練習場所まで走って行った。

「よし、がんばるぞ」


 ヒビキ兄さんは、なんでも出来るすごい人だ。でもすぐになんだかズルイ事をしてくる。

 1度、ヒビキ兄さんにズルイって言ったら、


「ならお前もやればいいだろ? 」


 って言われた。どうすれば良いのか聞いたら自分で考えろって言いながら【魔法】を教えてくれた。

 今、僕が使えるのは【火魔法】と【風魔法】の2つだけだ。あとは暗い小屋の中に閉じ込められた事もあったけど失敗だったみたい。

 ほかの魔法も教えて欲しいって頼んだらヒビキ兄さんの仲間のジーナさんに勝てたら教えてくれるって約束した。

 早速、その日の内にジーナさんに勝負を挑んだらボコボコにされてから、お前誰だっけ? って言われた。

 その日から毎日ジーナさんと勝負してたら最近ようやく名前を覚えてくれたんだ。

 今日もお昼まで【魔法】の練習をしてご飯を食べたらジーナさんに勝負を挑むつもりだ。


「うわっ!? 」


 余計なことを考えてたから僕が手から出していた火がすごく大きくなってしまって自分で驚いた。

 とっさに手で顔をかばったら次の瞬間、完全に火が消えてしまった。

 

「あぁ~、やっちゃった」


 ヒビキ兄さんに教えて貰った練習方法、出来るだけ大きな【火魔法】を出来るだけ強い【風魔法】で操る練習は少しでも集中力が切れると失敗する。

 ロウソクに火を着けない様にギリギリまで炎の塊を近づける練習だったけど、火が大きくなりすぎてロウソクが全部溶けてしまった。

 今ので今日の【魔法】は終わりだ。これ以上はどんなに頑張っても【魔法】が使えない。

 確か、ヒビキ兄さんは「エムピーが切れた」状態って言ってた。こうなるとしっかり眠るかエムピーを回復するポーションを飲まなきゃいけないらしい。

 ヒビキ兄さんからひとつだけそのポーションを貰っているけどこれは「緊急用」だから練習で使ったら怒られる。

 

「よし、ちょっと早いけどジーナさんの所に行こう」


 元々、朝の【魔法】の練習はジーナさんとの勝負で【魔法】を使っちゃいけない約束をしたから始めたものだ。


「ちょっとだけ走ろうかな」

 別にヒビキ兄さんの家に少しでも早く行きたい訳じゃない。絶対に違う!!




「勝負だ!! ジーナさん」


「なんだ、今日は早いな」


 ジーナさんはまだなにやら仕事中のようだった。やはりちょっと早かったかもしれない。


「まだお仕事中? 」


「あぁ、もう少しで終わる。お前の相手もご主人に頼まれた立派な仕事だしな」


 そう言ってジーナさんはすごく重たそうな荷物を軽々と持ち上げて倉庫の方に持っていった。


「よし、これで仕事は終わりだ。ラティア!! ちょっとテオと遊んでくるぞ」


「はい~。分かりましたぁ」


 遊びじゃないよ!!





 

「さて、この辺でいいか」


 ジーナさんが少しだけ家から離れて僕の方を向いた。


「さあ、どこからでもかかってこい」


「いくぞぉ!! 」


 僕は全速力でジーナさんに突進していく。


「ふんっ!! 」


 ジーナさんは僕の両肩に手を当てて僕の突進を受け止めていた。


「おぉ、相変わらずすごい力だ」


 そんなこと言われても嬉しくない。僕は全身にぐっと力を入れて更にジーナさんを押し込もうとするがびくともしない。


「ほれ、もう少しだ。頑張れ」


「ぐぅ、ギィーー」


 ジーナさんは全然力を入れてるようには見えないのにどんどん押し返されていく。


「なんでぇ!! 」


 こうなると何も出来ない。僕はずるずると押し返されて行くだけだ。





「お前は力の使い方がドヘタだな」


 こんな風にジーナさんにダメなところを教わるのが1試合ごとの決まりになっていた。


「だってジーナさん全然動いてくれないんだもん。きっと僕よりジーナさんの方が力があるんだよ」


「いや、そんな事は無いぞ。私は見ての通り、か弱い女の身だからな」


 どこがか弱いんだろう。


「なんだその眼は? 私は本当にお前より力が弱いんだぞ」


「うそだぁ」


「本当だ。お前が力の入れ方が下手なんだ」


 色々と難しい事を説明された。重心がどうだの、テコの原理だの。どの話の最初にも「ご主人が言っていたんだが」がついている。


「いいか? つまりはそういう事だ」


 この人もきっとしっかり内容を理解している訳じゃない。でもそれを身体で理解しているんだ。


 


「ジーナ、ラティアがご飯だって言ってるよ」


「おぉ、リーラン。すまない」


 急に胸が高鳴る。

 きっと後ろから声を掛けられたからびっくりしただけだ。別に彼女の声に反応した訳じゃない。


「テオ、お前もこのまま家で食べていくだろ? 」


「えっ、良いの? 」


「あぁ、どうせ昼からもやるだろ? それならわざわざ戻らなくてもいいじゃないか。なぁ。リーラン? 」


「別に、家は近いんだしどっちでもいいよ」


 僕がどっちでお昼を食べるか、彼女は本当に興味が無いみたいだ。


「お、「俺」も別にどっちでも」


「うん? どうした? 」


「な、なにがぁ!? 」


「いや、急に慌てだしたのはお前だろ」


「そんな事ないぜっ」


 ふう、なんとかごまかせた。


「なんでも良いから早く帰ろう。私、お腹減ったよ」


「あ、そういえば「俺」も腹減ったなぁ。これはすぐに飯を食べなきゃ。よし、近いからヒビキ兄さんの家で食べよっと」


 けしてヒビキ兄さんの家で食べたい理由があるわけじゃない。

 あれ? なんだかリーランが不機嫌そうにこっちを睨んでる。そんなにお腹が減ってたのかな?


「ふむ、じゃあ急いで戻るとするか」


 ジーナさんが声を出して僕達を先導しだした。

 本当に強くて頼りになるお姉さんだ。







「ごちそうさまでした」


 みんなでお昼ご飯を食べてから手を合わせてごちそうさまを言う。

 これは母さん達もやっていたが、この村ではゴブリン達までやっている。

 食事を作ってくれた人や食材に感謝を忘れない為のものらしい。


「はい、お粗末さまでした」


 この家のメイドのラティアさんが笑顔で返答してくれた。

 僕はこのあいさつがすごく好きだ。母さん達にごちそうさまを言うと、今のラティアさんみたいににっこりしてくれる。

 だから僕もごちそうさまを言う時は出来るだけにっこりして言うようにしている。


「テオ、腹もふくれたし行くぞ」


「え、もう」


「十分ゆっくりしただろ。それとも昼寝でもするか? 」


 なんだかすごく馬鹿にされた気がしたので、すぐに席を立ってジーナさんに続いた。

 別に少しくらいお喋りをしたい相手がいた訳では無いのでなんの問題もない。

 またいつでもチャンスがあるなんてちっとも思っていない。




「やぁ!! 」


「遅い。そんな攻撃では当たってもやれんぞ」


 昼からもジーナさんに勝負を挑み続けるが1発もかすらない。どんなに力を込めて木剣を振るっても全く触れられる気がしない。


「ほら。そこと、そこ。あとはここ」


 パンパン、パンといい音で右手首と左の腿、そして頭を棒状の物で叩かれた。


「痛っ」


「痛くないだろ」


 更に別の所を2ヶ所叩かれてまたパンといい音がする。


「ジーナさん、それ使うのやめようよ!! 」


「なにを言う? これならいくら叩いても怪我をしないんだぞ」


「でもなんかやだよ」


 ジーナさんがさっきから使っている「武器」は「ハリセン」と言うらしい。叩かれたら凄い音はするけど全然痛くない。

 でも、叩かれる度にすごくいやな気持ちになる。


「叩かれたくなければ」


「避ければいい、って言うんでしょっ」


 なんとか顔を狙って来た上から振り下ろしを避けることに成功した。

 この隙に出来るだけジーナさんの近くに行かないといつまでも「ハリセン」の餌食だ。


「おお、避けたな」


 ジーナさんはなぜかよけられて嬉しそうにしていた。しかしすぐに追撃をかけてくる。


「くっ、このぉ」


 ジーナさんが「ハリセン」を使っているので僕にとってはチャンスのはずだ。

 なぜなら、ジーナさんは僕の木剣を防ぐ事の出来る武器を持っていないのでかならず僕の攻撃を避けなければいけない。

 僕の方は「ハリセン」を受けても怪我すらしないのでガンガン責め立てることが出来る。


 そのはずなのに……

 ジーナさんの攻撃が僕の身体にあたる度に僕は動きを止めてしまう。そのせいでジーナさんは僕の攻撃を全部簡単に避けている。


「なんで? そんな柔らかい物で叩かれただけなのに!! 」


「しっかりと武器の芯でお前を叩いているからだ」




「よし、今日はこの辺にするか」

 結局、その日も僕はジーナさんに1回も攻撃を当てられなかった。


「あ、ありがとうございましたぁ」


 僕はヘトヘトになりながらも街の方へ向かおうとする。

 足はふらふらだし、歩くのも億劫だけど僕にはまだこれから用事があるので仕方がない。


「テオ、どこに行くんだ? 」

「今日はデトク先生の所に行く日だから……」

「そうか。気をつけて行ってこいよ」


 僕をこんな風にしたのはジーナさんのくせに。




 僕は村から街へと移動して、街1番の大通り、「タケノコ通り」を歩いている。

 この通りは街で1番早くに出来た道だ。

 ヒビキ兄ちゃんがこの通りを眺めながら、「まるでタケノコみたいにニョキニョキ生えてくるな」って言ってたらいつの間にかみんながここを「タケノコ通り」と呼ぶようになってた。

 僕の目的地はこの「タケノコ通り」の1番奥にある1番大きな建物、「病院」だ。

 ここに何日かに1回、デトク先生の診察を受けに来ている。


「先生、こんにちは」


 僕が「病院」に到着すると、デトク先生がちょうど建物の入口で立っていた。


「やぁ、こんにちはテオ。体調はどうだい?しっかり薬は飲んでいるかい? 」


「うん」


「そうか。それは良かった。君のお母さんならまだ中で仕事をしているぞ」


「違うよ。今日は先生に会いに来たんだよ」


「うん?そうか。今日は診察の日か。なら診察室で待っていてくれ。私はちょっと野暮用を終えたらすぐに戻るよ」


「はぁ~い」


 デトク先生とお別れして「病院」の中に入る。「病院」はとっても大きいけど何度も来ているから道には迷わない。

 すぐにデトク先生の診察室まで到着する。


「あれ?中に誰かいる? 」


 扉の先に人の気配がある。でも先生は中で待っていろと言っていたから入ってもいいよね?


「おじゃましまぁす」


 一応、あいさつをして中に入る。

 すると、


「先生?もう戻ったの? 」


 中には、洋服を脱いだ女の子がこちらに顔を向けようとしていた。


「あぁっ!? 」


「えっ? あっ! 」


 すぐに悲鳴があがると思ったけど、女の子は自分の洋服で身体を隠して僕を睨んできた。


「ご、ごめんね。見ちゃうつもりは無かったんだけど……」

 

 僕は出来るだけ丁寧に裸の女の子、リーランちゃんに謝った。


「……」


「えっと、その」


 でもリーランちゃんは何も言わずに僕を睨み続けている。


「……」


「ほ、本当にごめんなさい」



 何度謝ってもリーランちゃんは黙ったままだった。この気まずい空気を何とかしてくれたのは、野暮用を終えたデトク先生だった。


「おや?2人で何を見つめ合っているんだ? 」


「……別に」


「そうか。君達は2人共、村に住んでいるから仲が良いと思っていたんだが」


「仲良くなんてない」


「え、うん。そうだね」


 リーランちゃんの言葉に少しショックを受けるが、確かにリーランちゃんとは仲は良くない。ほとんど喋った事も無いんだから当たり前だけど。


「それはすまなかった。リーラン、薬を塗るから肌を出して。テオ、すまないが彼女の治療が終わるまで待ってくれるか? 」


「う、うん」


 すぐに部屋から出て乱れた息を整える。

 初めて見た彼女の裸はたくさんの傷痕があって、それでもとっても綺麗だと思った。


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