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第163話





「何か言うことはあるか?」


 目の前の強敵は昨日までの男とは比べ物にならない程の気迫を感じる。


「いや、そのぉ」


 その気迫に押されて俺の身体は萎縮してしまいその場を一歩も動けなかった。


「なんだ?何か言いたいことがあるのか?言ってみろ。貴様の運命は変わらんがな」


 強敵(フレイ)の背にゴゴゴ、と言う擬音まで見えそうなほどの圧迫感を感じてしまい後ろに下がろうとして壁に阻まれてしまう。



「フレイ、もうそのくらいにしてくれるかしら?ご主人様は今、私の為にお疲れなんだから」


 エミィが俺にスッと寄り添いフレイに睨みを聞かせる。


「どけ、エミィ。その男に一言言ってやらねば私はおさまらんのだ」


「そう言うな、フレイ。主もお主には感謝しておる。しかし、それを上回るほどにエミィを心配しておっただけの事じゃ」


 ジルもエミィに加勢してフレイをなだめにかかってくれている。

 そもそもフレイがこれほど怒っている理由は極めて明確だ。

 俺が、街をウロウロしているフレイの事を忘れてエミィ達といちゃついていたのが原因だ。


「いや、その、すまん」


 夜中に半泣きになりながら帰ってきたフレイが俺達の会瀬を目撃してブチキレた。


「私は、薬の、効果が、切れて、『アイラ』の姿を、保てなくなっても、どうにか、仕事を、こなそうと、頑張ったんだぞ!!」


 えずきながら怒るフレイを前にしては、俺も大人しく説教を受けるしか無いと観念した。

 とは言え、


「それに、流石に一晩中説教を続けるのはやりすぎじゃろぅ?」


 ジルの言葉にうんうん、と周りの連中も同意してくれている。


「ふん、仕方がない。今日はこの辺りで勘弁しておいてやる」


 どうやら許してくれたようで、フレイはすっかり定位置となった壁に背を預ける。


「それで、これからどうするんだ?」


「とりあえず、あの『審査官』への『お礼』を考えてるんだけど、今は『身重』なんで一旦あっちに戻る事にするよ」


 今日の昼には天龍の街へと出発して『身軽』になったらすぐに始めるつもりだ。

 そもそもその為に天龍の街(あっち)に戻りたいと言うのもある。


「『戻る』、か」


「フレイ?」


「いや、何でもない。村の連中を何処かに解放する、と言うことだな?」


「ああ、この街にはもう住めないからな」


 一応、村は焼き払われた事になっているので『村人』達がウェフベルクに居ては騒ぎになってしまう。

 まぁ、いつかは拠点をあちらに移すつもりだったので良いきっかけと思うことにしよう。


 その事についてはギーレンにはすでに話をつけてある。

 俺がこの街から出ていくこと、今後は商取引中心の付き合いになる事を伝えると、彼は非常に面白い顔をしていた。

 彼からすれば俺との関係はすっぱり切れるか、しっかり親密になるかが望ましいのだろう。

 とは言え、契約の事もあるので、完全に放置もしたくはない。

 その葛藤があの表情に現れているのだろう。


「具体的には何をするんですか?」


 エミィに促されて作戦の概要を説明する事にした。


「あの男が住んでいる都市に復讐するつもりなんだが」


「都市の連中を皆殺しにでもするのかのぅ?」


 なにやらジルが物騒な事を言い出したので否定しておく。


「違うよ。殺しはしない」


 ついでにこれからの活動資金も手に入れてしまおう、と言う一石二鳥の作戦だ。








 『審査官』を追い返して1週間ほどが経過した。

 奴を徹底的に追い詰めるのに準備が必要な為、この1週間は街造りに専念していた。

 


「海岸に人を何人か回してくれ。出来れば力のある奴がいい」


「少し待て。今どこも人手が足りていない」


「海岸での作業なら『人魚』達に協力して貰うのはどうだ?」


「なるほど。海上での作業に割いている人員を海岸まで戻せば、よしそうしよう。『人魚語』を話せる奴を呼んでくれ」


 どこも活気づいているのはいい事だが、おかげで『ゴブリン村』の連中を紹介する暇もない。


「街の外に急に村が現れたんだが、いつの間に作ったんだ?」


「知らん。護衛のゴブリン達の村らしいから前からあったんじゃないか?」


「なに?街の外にゴブリンがいるのか!?」


「そのゴブリン達に仕事を頼めないか?」


 『亜人街』の頃からゴブリン達に慣れていたお陰か、怖がるどころか積極的に交流を持とうとする者が大半だった。


「木材が足りない。石材が足りない。コンクリートが足りなーーい!!」


『必要な物は購入するか、自力で手に入れるしかあるまい』


 おかげで『天龍の宮大工』である三巫女のトワは終日てんてこ舞いだった。

 建築に当たって『叡智の書』に伝えておいた俺の出来る限りの建築の知識を使っているためか、建材にコンクリートを使用した建物が乱立しつつある。

 住民のほとんどが力の強い『獣人』達だからだろうか、恐ろしい速さで建物が建っていく。


「あぁ、当主様。当主様ご要望の『工場』とやらを建設し終えたって連絡が来てますぜ」


 まさに部屋の中で踊るように行ったり来たりしていたトワが俺に気づいて報告をしてくれた。


「全く、あんなデカブツ作れなんて無茶言われたときゃぁ、ぶん殴ってやりたくなりましたけど。やってみりゃぁ楽しかったですわ」


「そうか、楽しかったか。なら、もうひとつ行ってみようか?」


 カラカラと笑うトワに感謝の言葉を伝えながら、次の仕事を投げる。


「もうひとつ!?今度は何作れってんですか!?」


「『工場』から給水所」に水を流せる管を通せ。3日で出来るよな?


「み、3日!?そりゃ、無茶ってもんですよ!?第一、どこも人手不足ですし」


「これが出来れば『飲み水』の運搬の仕事を無くしてやる。なんとか頼むよ」


「そりゃ、ホントですかぃ?」


 海岸線に幅広く街造りを進めている『天龍の街』だが、現在、人、物、金、と色々な物が足りていない。

 中でも、最も深刻なのが『飲み水』だ。


 目の前は見渡す限り水に溢れていると言うのに飲むわけにはいかない。

 今は、商人から『飲み水』を大量に購入しており、しかもそれを点在する給水所に補充して回っているので人と金、両方を圧迫している。

 今は少しでも資金が欲しいのでこう言った所からコスト削減を行うことにしたのだった。




「よし、じゃあルビー、アイラ。頼んだぞ」


「はい、お任せ下さい。ルビー、頑張りましょう」


 ビョンビョンと伸び縮みを繰り返してやる気をアピールするルビー。

 街の近くの森の中で目当ての物を探すためにルビーとアイラを連れて散策を開始する。


「ご主人様、ありました」


 散策を開始してものの10分ほどで見つけたのは、


「おお、確かに『スライムの泉』だ」


 ブレトの街の近くで見た事のある『スライムの泉』とは2回りほど大きい。

 周辺にいるスライムも初めて見たルビーよりかなり大きい。

 

「じゃあアイラ、【調教】よろしく」


「はい。お任せ下さい」


 アイラは、すぐにその場にいるスライム達を配下にして【調教】を始めた。

 スライムであるルビーがいるおかげで【調教】は非常にスムーズに進むだろう。

 これで、明日の朝から『飲み水』に困ることは無いだろう。

 



「一体、どんな【魔法】を使ったんですかぃ?当主様」


 配管の作業の為に朝から『工場』にやって来たトワに早速『水』を振舞ってやると、こんな事を言い出した。


「【魔法】か。そうだな、【水魔法】の応用で…」


「そんな訳無いじゃないですか。なんですかこの『量』は!?」


 まだ何も置かれていない『工場』の端からドバドバと大量の飲料水が湧き出してくる。

 しっかりと冷たい冷水は余分な細菌の繁殖を防いでおり、喉越しも爽やかだ。


「こんな大量の水に【魔法】なんてかけたら、あっという間にミイラになりますよ!?」


 トワが非常にしつこいので、『浄水槽』を見せてやる事にした。


「こ、これは?」


 海から海水を汲み上げてるのは、半透明な水色の粘液の管。

 汲み上げられた海水から『塩分』などの不要な物と『温度』を【濾過】する半透明な黄色い粘液の管。

 濾過され飲料に適した水に『圧力』をかけている白い粘液の管。


「紹介するぞ。水色の奴が『ドレインスライム』。黄色が『フィルタースライム』。白いのが『ポンプスライム』だ」


 本当は1匹で済ませるつもりだったのだが、どうにもスライムの物覚えが悪いので役割分担させることにした。

 やはりルビーは特別なようだ。


「こいつらの餌は魚とかで良い。でも勝手に海から餌を取って食べるように躾けたから時々様子を見てやるだけでいい」


 非常に便利な浄水施設の完成だ。


「次は『工場』の中身をなんとかしないとなぁ」


 水の確保が済んだのでいよいよ本格的に『工場』を稼働させるために必要な物をピックアップするのだった。



   


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