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第162話-A

久しぶりの連日投稿。

皆さんお待たせして申し訳ありません。

今回も敵役視点のお話です。

次の話が今回の話のヒビキ視点となります。





  






 『決闘』当日、中庭に現れた奴の隣には案の定、『獣人』の奴隷の姿が無かった。

 もちろん、昨日の内に部下達に指示を出しておいたので『獣人』の動向もすぐに私に伝えられるだろう。


「ようこそ、冒険者殿」


 さて、あとは奴の『代理獣』が『亜人』の奴隷であれば完全に私の思惑通りだ。

 

「あいさつは良い。準備が出来てるならすぐにでも始めよう」


 奴は気がいているようでひどく落ち着きが無い。


「ええ、私の『代理獣』はすでに準備させています。それで、そちらの『代理獣』はどこにいるんです?移動に人手が必要なら手を貸しましょうか?」


 私は奴の隣に『亜人』の奴隷の他にはゴブリン一匹いない事を心底不思議そうに訪ねた。


「俺の『代理獣』はこの『ヴァンパイア』のジルだ」


 奴は少し声を張り上げてそう宣言する。

 これで私の勝利は確定だ。


「・・・『ヴァンパイア』ですって?」


 これまた、私は怪訝な顔つきで奴を睨みつける。少しはこういった芝居も必要だろう。

 優秀な私にかかれば内心を完全に隠したままこのように振舞うことも出来るのだ。


「ああ、ここウェフベルクでは『ヴァンパイア』は立派なモンスター扱いだ」


 領主殿もうんうんと頷いている。

 黒髪のヴァンパイアなどいるはずが無い、と拒否してもいいのだがあれが特殊な染料で染められている事も私は知っている。

 なんでも、奴の趣味だそうだ。


「そうですか、ではそちらの『お嬢さん』が戦うのですか?それは、さすがに・・・」


 このまますぐに『決闘』を始めても良いが、少しは難癖をつけておかなければ、怪しまれるかもしれない。


「なんの問題も無いじゃろ?」


 『亜人』の雌が前に出てやる気を見せてくる。

 奴も心なしかしてやったりと言った顔をしている気がする。


「仕方ありませんね。しかし、いくらなんでも『装備品』を着用しての参加は認められませんね」


 『亜人』奴隷は、手にガイコツを模った杖とややくたびれたローブをつけている。

 そのローブの下にも色々と隠し持っている可能性もあるので私の要求は至極当然のものだ。

 それが許されるなら私の『代理獣』にも沢山の『装備品』を与えて強化している。


「それは、」


 奴が困った顔をしている。当てが外れて動揺しているのだろう。


「どうしました?これは『神の采配』による審判なのですよ?棒切れなどの自然物ならともかく、人工物である『装備品』の使用など認められるはずがありませんよ?」


 奴と『亜人』奴隷が小言で何かを囁き合っている。

 少し話し込んでからまた『亜人』奴隷が一歩前にでて話し始めた。


「分かった。装備品を外して『決闘』に参加する。確認なのじゃがさすがに裸になれとは言うまいな?」


 なるほど。確かに獣はもちろん、多くのモンスター達も衣服はつけていないものが多い。

 ここでこの『亜人』を全裸で嬲り者にしてやっても良いが、あいにく私は『亜人』に欲情する変態では無い。


「もちろんです。何の力も無い布製の服でしたら身につけていて構いませんよ」


 それを聞いてホッとした顔の『亜人』奴隷がいそいそとローブを脱ぎ始めた。

 

「あっ、主よっ。これも持っていてくれるかのぅ?」


 ローブの下からは予想通り、いや、予想以上の量の『装備品』が隠されていた。

 よくもこれだけの量を集めたものだ。


「ふぅ、大分すっきりしてしまったのぅ」


 結局、『亜人』奴隷はローブの下に着ていた大量のフリルの付いた服も脱ぎ、半裸のような格好で落ち着いたのだった。


「どうじゃ、主よ。なかなかに扇情的じゃろぅ?」


 自らの主にしなを作って見せ媚を売る『亜人』奴隷。


「ああ、そうだな。でもジルはいつも綺麗で可愛らしいよ」


 それに歯の浮くようなセリフを返す奴。


「では、そろそろ始めましょうか?」


 すでに彼らがここに来てそれなりに時間が経っている。

 別にこの後に予定があるわけでは無いが、この連中と長く一緒にいる理由も無い。


「ちょっと、待った!!」

 

 中庭の入り口に人影がある。


「そんな、まさかあのお方は!?」


 私の口から思わずこぼれた言葉はまさに私の本心だった。

 確かにこの街の近くに遊戯迷宮ダンジョンを構えていると聞いていたがまさかお会い出来るなんて。


「しゃ、灼熱竜、様?」


「うん?まだ始まって無いよね?あぁ、よかった。やっぱり1人で朝起きるのは難易度が高すぎるよね」


 まさか、奴が遊戯迷宮ダンジョンを踏破した、と言うのは本当だったのか!?

 灼熱竜様は、既知であるあの男を応援に現れたというのか!?


 しかし、様子がおかしい。

 確かに灼熱竜様は奴の事を見つめているが、どうもご機嫌を損なってしまわれた様子だ。


「なんだよ。せっかく早起きしたのに」


 そういって、それ以上は奴に目もくれず中庭の隅に置かれたベンチに腰を下ろして静かになってしまわれた。


「しゃ、灼熱竜様?なにかお気に触ることでもございましたでしょうか?」


「あぁ、いいよ。気にしないで。『審問』頑張ってね」


「は、はぃ!!」


 まさか、灼熱竜様に激励を頂けるとは。つまり灼熱竜様は奴ではなくこの私の応援に駆けつけてくれた、という事だ。

 これは、俄然やる気にもなって来た。

 こいつらとの『決闘』などさっさと終わらせて、灼熱竜様と少しでもお近づきにならねば。




「それではこれより『代理決闘』を始める。両者、『代理獣』を前に」


 領主殿が声を張り上げて『代理決闘』の開始を宣言する。

 私はすぐに部下に指示を下して檻の中から『ペット』を中庭に解き放つ。




「シューーンィ」



 檻の中でフラストレーションが溜まっていたのだろう。

 すぐさま飛び出して図体の割りに可愛らしい泣き声をあげる私の『ペット』。

 魔鎧犀ハードレザーライノーにはあらゆる【魔法】に対する高い耐性と【魔法】の発動を嗅ぎ分ける嗅覚。

 そして【魔術師】が【魔法】を放つのに必要な集中力を与えない突進力がある。

 他の職種の冒険者達でも手を焼くこのモンスターは【魔術師】にとっては天敵とも言えるモンスターだ。


 仮に私の精鋭部隊が相手であっても犠牲は覚悟しなければならないほどのモンスターだ。

 さあ、『亜人』奴隷はこのモンスターを相手にいつまで逃げ回れるかな?










「ほっ、」


 『決闘』が始まっていったいどれほど時間がたったであろうか?

 すぐに体力の限界が来ると思われていた『亜人』奴隷が驚異的な粘りを見せている。

 いや、それどころか。


「なんじゃ?もう疲れたのか?だらしが無いのぅ」


 とうとう魔鎧犀ハードレザーライノーの足が止まり突進をやめてしまった。

 ゼェゼェと息を吐きその場で『亜人』奴隷を睨み続けている事からどうやら戦意は失っていないようだ。

 しかし、どういうことだ?

 あの『亜人』奴隷はまだ一度も【魔法】を使ってこない。

 まさか、魔鎧犀ハードレザーライノーがどんなモンスターか知っていたのだろうか?

 そんなはずは無い。私ですらこの個体を手に入れるまで見たことも聞いたことも無かったモンスターなのだ。


 私の部下の中にも知っている者は1人も居なかった。

 


「さて、どうしたものかのぅ」


 とはいえ『亜人』奴隷に魔鎧犀ハードレザーライノーを倒す術が無い事には変わりは無い。

 このまま続けていれば集中力を欠いた瞬間にこちらの勝利で『決闘』は終わるのだ。


「ジル、そろそろいい頃合だぞ」


「おお、そうか?」


 奴が『亜人』奴隷に何かを呟いた次の瞬間。

 私の魔鎧犀ハードレザーライノーが宙を舞っていた。


「はっ!?」


「くふふ、このまま『空中ハメ』じゃ」


 そして魔鎧犀ハードレザーライノーはそのまま命尽きるまで一度も地に足を着ける事は無かった。











「『決闘』の結果、背信行為は不問とする。『審査官』は速やかに冒険者ヒビキの財産への一切の審議を取りやめる事」


 領主殿の言葉に頷く事しか出来ない私はすぐに1人の部下に『ゴブリン村』の解放を、もう1人の部下に『ゴブリン村』があると思われる周辺へ攻撃を指示する様に伝えた。

 『村』の所在があやふやなのでこんな指示になってしまうが、森を焼き払えば『村』もひとたまりも無いだろう。

 もちろん、先に到着するのは攻撃を指示した部下の方だ。

 少々強引だが、村の連中が抵抗した、とでも言っておけば問題あるまい。

 自分の物にならないなら奴に無傷で返してやる必要など無いのだから。





「ほ、報告します!!」


「なにがあった?」


 しばらくして村の解放を指示した部下が血相を変えて戻ってきた。それはそうだろう。村についたら村が無くなっていたのだから。


「む、村が」


「村がどうした?」


 思わず笑ってしまいそうになるのを必死で堪えて続きを促す。


「村が跡形も無く消えています」


「どう言うことだ?」


 分かっている事を聞くのも面倒だがこいつの口から『仕方なく反撃して返り討ちにした』と伝えれば角は立つまい。


「分かりません!!」


 分からない、だと?マヌケが。

 『魔術小隊』の隊長にでも話を聞いてこなかったのか?


「『魔術小隊』は何と言っていた?」 


 仕方が無いので、こちらから聞いてやる。


「分かりません!!」


 こいつはどこまで使えないのだ!!


「今すぐ戻って隊長に確認して来い!!」


「無理です!!」


 さすがにこいつを殴り飛ばしたくなったが寸でのところで我慢に成功した。


「・・・何故だ?」



「『魔術小隊』の姿もどこにも見当たらないのです!!」


「なんだと?」


 攻撃後に勝手に撤退してしまったのか?あとできつく叱っておかなくては。


「ここでは、埒が明かない。『村』に行ってみないか?」

 

 奴が生意気にも私に意見してくる。しかし、言っていることは正論なので、今回は奴の意見に従うことにした。









「なんだ、これは?」


 『村』があったと思われる所には何も残っていない。森の中に大きな『空白地帯』が存在するだけだった。


「『審査官』殿、どう言うことだね?」


 領主殿が私を問い詰めるが、私にもなにが起こったのか分からない。

 この『空白地帯』は『魔術小隊』の攻撃の痕ではない。

 それぐらいしか分からないのだ。


 そして、部下が言っていたように『魔術小隊』の姿も見えない。

 街の近くにある駐屯地にも寄ってみたが『村』の周辺に居た者たちは誰一人として帰っていなかった。



「これは問題だよ。幾ら『決闘』に負けたからと言って『村』を焼き払うなんて」


「待ってください。これは私の部隊の仕業ではありません」


「では誰がこれやったというのかね?小細工などせずにさっさと隠した『魔術小隊』を連れてきたまえ」


 そういって領主殿は街へと戻っていった。


「よくも『村』をやってくれたな」


 奴がのっぺりとした表情で私を睨んでくる。

 その雰囲気に圧されて後ずさりしてしまう私。


「こんなやつにエミィを預けておけない。今すぐ返してもらおうか!!」


「ま、待て。彼女は屋敷に居るんだ。戻ったらすぐに引き渡すよ!!」


 今、私の周りには数人の部下しかいない。

 いつの間にか合流していた『獣人』の奴隷を含む奴らとやり合うには全く戦力が足りない。

 『魔術小隊』が消えたとはいえ、街に戻ればもう少しは戦力が整う。

 それに奴らに【錬金術師】の居所は分からない。

 いくら、屋敷の持ち主であるギーレン殿の協力があったとしても見つかるはずが無いのだ。





「おかしい、彼女が部屋にいない。きっと、私達が『村』に出かけている間に逃げ出したんだ!!」


 部屋の中まで奴らに見せて、【錬金術師】がいないことを伝えて慌てる振りをする。

 あとは幾ら屋敷の中を探しても【錬金術師】は見つからないはずだ。

 今回は【錬金術師】を手に入れただけで満足するとしよう。

 『魔術小隊』が居なくなった事も気になるが『彼女』さえいれば再建も可能だろう。


 そんなことを考えていると、

 スッ、と奴が前に出て来て私の首に掛けてある『ペンダント』を鎖を引きちぎって奪っていった。


「そ、それは!?返せ!!」


 私が『ペンダント』を取り戻そうと手を伸ばした時にはもう遅かった。

 一瞬まばゆい光が起こったかと思えば、次の瞬間には今まで居なかった【錬金術師】の女がそこに居た。



「じゃあ、俺はこれで帰るよ。あとは領主様に任せるんでよろしく~」


 手を軽く振りながら、奴隷達を連れて去っていく『冒険者ヒビキ』。

 

「や、奴は、何者なんだ?」


「おや、知らずに手を出していたのか?彼は『全滅』と呼ばれている冒険者だよ?彼に敵対したんだから文字通り『全滅』しなかっただけマシだと思いなさい」


 そう言いながら領主殿は今回の『審査』に対する賠償の話を淡々と進め始めるのだった。




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