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第157話

更新遅くなりまして申し訳ありません。

次話はもう少し間隔縮められると思います。











 ソーラ教会審査機関。

 一般の信者たちにはほとんどその存在を知られておらず、その構成員もほぼ表に出てくることがない。。

 

 男が所属しているのはそんな所だった。


「ギーレン殿、本当に彼の居所を知らないのですね?」


「いい加減にしてくれますか?もう数えるのも馬鹿らしいほど同じやり取りをしているでしょう?」


 その男に言葉をかけられたこの街の領主であるギーレンはややトゲのある言葉で男を責めるが当の男は飄々(ひょうひょう)としている。


「そうですか、残念です。私としてはこんなくだらない仕事はさっさと片付けて帰りたいのですよ」


 こんな獣臭い街になど、一秒でも長く居たくはない。

 取り繕ってもいない男の顔にはそう書いてあった。

 勿論、今は言外に匂わすだけに留めてはいるがそれも口には出さない。と言うだけのことだ。


 その証拠に、この男が街で駐留を始めてわずか数日のうちに多数の苦情と嘆願書が領主の邸宅へと届けられている。

 苦肉の策として彼の連れていた『審査機関の職員』達だけは、過剰な武力の所持を理由になんとか街の外へと追いやっている状態だ。


 それでも『教会』の役職持ちで『貴族』でもあるこの男だけは領主の邸宅へと招き入れざるを得なかった。


「私としても早々にお帰り願いたいところだよ」


 聞こえても構わない。そんな気分で投げやりに呟いた言葉は、どうやら男の耳には届かなかったようだ。

 なんの反応も示さず、別の話題をギーレンに投げかけた。


「それにしても、ヒビキ、と言う冒険者はどんな輩なんです?」


「・・・資料は提供しただろう?」


「ええ、確かに頂きましたが、信憑性に欠ける資料のようですので」


「どういう意味だね?」


「いえ、ね?この資料の作成者に『獣人』が混ざっているんですよ。ただでさえ信者でも無い者達の資料で信憑性が薄いというのに、そこに『けもの』まで混じっていたら信じるに値しないでしょう?」


 内容も眉唾物ですし、と男が続ける。

 ギーレンは一瞬、激昂しかけたがなんとか怒りを飲み込み出来るだけ冷静に答えようと努力した。


「そう、か。では信じる必要もないだろう。申し訳ないが私の手元にある資料はそれだけだ」


「分かりました。仕方がないですからこれを元に検証してみます」


「検証?」


「ええ、罪状を色々と、ね? なにせ財産を没収しなければいけませんので」


 つまり、この男はこういったのだ。

 ヒビキの財産を没収するために罪状をでっち上げる、と。


「やはりあんたはヒビキの敵になるつもりか」


 先程よりも小さく呟いた声が彼に届くはずもなく目の前の男はこれから手に入る利益にニヤニヤしているだけだった。

 とは言え、彼のお気に入りエミィを捕らえた時点でこの男はヒビキに敵と認識されているはずだ。今更その程度の事では結果は変わらない。

 ギーレンはすぐさま、ヒビキの怒りがこちらに飛び火しないように準備を始めるのだった。









 グリフォンに乗って森の上空スレスレを飛んでると、前方にウェフベルクの城壁が見えてきた。


「もう少しだな」


「主よ、少し速度を落として高度も下げるぞ」


 どうやらジルのゴースト達がウェフベルクの周辺に展開していた部隊を確認したようだ。


「村を包囲している、って話だった気がするんだが」


「村の周りにも4~5人の集団がいくつか徘徊しとるようじゃが、どうやら村にたどりつけておらんようじゃな」


「村にたどり着けていない?」


 確かに村は森の中にあるので一見分かりづらいが、本格的な斥候相手に見つからないで居られるとは思えない。


「ご主人様、おそらくウィキーが彼らを惑わしているのでは無いでしょうか?」


 なるほど、この森と同化しているアルラウネのウィキーならそんな芸当も可能かも知れない。


「グリフォンで直接村に降りるのはまずいか」


 俺の言葉にアイラもジルもうなづいてくれる。


「それじゃあ、先にウェフベルクに向かおう。ギーレンと一度会っておきたいし」


 村の皆が心配ではあるが、『教会』の斥候が未だに森の中をうろうろしている事から、大規模な戦闘にはなっていない、と判断すべきだろう。


「では領主の館へ向かうのか?」


「いや、出来れば目立たないように接触したい。多分、ギーレンの近くには『教会』関係者がいるはずだ」



 手紙には『親愛なる我が友人』と書いてあり、俺の名前は書かれていなかった。

 同じくギーレンの名前も無く、万が一この手紙が第三者に渡っても問題ないように書かれていた。

 これはこの手紙が誰かに見られる可能性がある事を考えての事だろう。


 こうなると、手紙の大半の『獣人』娘への熱い思いも目くらましの為の手段なのか、と考えてしまうのは考えすぎだろうか。


「なるほどのぅ。あのオヤジも中々抜け目ないのぅ」


 ジルがニヤリと笑いギーレンを褒める。


「領主の館に『教会』の人がいるという事は、エミィもそこにいるのでしょうか?」

 

 『教会』関係者、と言う言葉にアイラが反応するが、俺は首を横に振る。


「分からない。少なくともギーレンはエミィの居場所を知らないようだけど・・・」


 エミィの居場所に見当がついているなら、手紙に多少なりともエミィの所在を匂わす文を入れてくるはずだ。

 しかし、今のところエミィの情報はラティアからのみだ。


「とは言えギーレンは『教会』関係者の近くにいるはずだ。多少の情報は掴んでいるかもしれない」


 俺達は、そう結論付けて街の周辺に展開している部隊に会わないように森の中にグリフォンを降ろし徒歩でウェフベルクまで近づくことにした。

 部隊が森側の門の外に展開していたため、かなりの大回りになってしまい、街の中に入れた頃には顔を出したばかりだった日が真上まで昇ってしまっていた。


「さすがに街の中に変化はない、か」


 ざっと見渡した周囲に大きな変化は見られない。

 もっとも、俺が街に戻らなくなって一月も経ってはいないのだから当然と言えば当然だ。


「いや、主よ。どうも嫌な空気を感じるぞ」


「はい。皆さん、私達を遠巻きにして見ています」


 ジルは経験で、アイラは鋭い感覚で街を満たしていたモノを感じ取っているようだ。

 確かに、言われて辺りを見回して見るとちらほらとこちらの動向を探る奴等がいることに気がついた。


「なんだ、あいつら。『教会』の奴らか?」


「どうじゃろうなぁ。わらわの感覚ではあれは厄介者を見る眼じゃな」


 そう、積極的にこちらを害しては来るまいよ。

 と、面倒そうにジルが答えてくれた。

 おそらくジルにはあんな目を向けられた経験があるのだろう。


「私達だけではなく、門から入ってきた人みんなに警戒してるみたいです」


 アイラがジルの言葉を補足してくれる。

 そこまで聞いてある事が思い浮かんだ。


「そうか、こっちの門は直接スラム街に通じてるのか」



 潜んでいる奴らに気を取られて気付くのが遅れたが、周りの建物は破損が目立ち、その建物に潜んでいる者の服装もツギハギのしすぎでどれが元の布なのか分からなくなっているようなものがほとんどだ。


 どうりで『教会』の連中がこちらに人を割かない訳だ。

 こちら側の門では補給にかなりの支障をきたしてしまうのだろう。

 彼らの狙いの『村』も森側の門の方が近いので無理をして街を包囲する理由も無いのだろう。


「そもそも、高慢ちきな『教会』の連中がこの辺りに近づくとは思えんよ」


「そう、ですね」


 『教会』の機関に所属しているのだから、元から身分が高いか才能を買われて出世したか、のどちらかだろうがどちらであっても好き好んでスラムに近づくとは思えない。



「まあ、この場合はラッキーかな?『教会』の連中にも見つかる心配もないし、周りの奴らだってわざわざ『教会』に俺達の事を垂れ込もうだなんて思わないだろうし」


 とりあえず、このまま街の中心にある領主の館を目指すことにした。

 もちろん、出来るだけ目立たない様に大通りを避けてコソコソと進む。




「コソコソしてるつもり、だったんだけどなぁ」


 裏通りに入ってものの10分ほどでガタイの良い野郎どもに周囲を取り囲まれてしまった。

 

「やはり、わらわほどの美人を連れて歩くのは無謀じゃったかのぅ」


 ジルのすごい所は、これを本気で言っている所だろう。

 もちろん、ジルが美人であることは否定しないが。


「あの、私たち急いでいるんです。通してください!!」


 アイラが一人の男に話しかけるが、男は首を横に振るばかりで退こうとはしない。


「強行突破しかないか」


「ちょっと待て、『全滅』!!」


 出来るだけ簡単で派手な音や光の出ない方法を本気で検討していると、どこかで聞いた事のある声が聞こえてきた。

 声のする方に顔を向けると、そこには懐かしい顔がいた。


「おっさん?」




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