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第156話

間が空いて申し訳ありません。

投稿いたします。



「テオ、怪我を治して上げるからいらっしゃい」


「うん、ミラ母さん」


 ごくごく自然にテオをそばに呼び頭を優しく撫でながら治療を施すミラ。

 その姿は母性と慈愛に満ちておりテオもミラにされるがままになっていた。


「まったく、男が喧嘩に負けて泣くなんて情けないねぇ」


 ミラとの身長差を無くすためにその場で胡座をかいて座っているテオに『三巫女』の一人である『トワ』が話しかける。


「ご、ごめんなさい。トワ母さん」


「いいかい?泣いてる暇があるなら、どうやったら勝てるかを考えな。ちょいと、ミラ。頭の後ろにたんこぶがあるじゃないか。すぐに治してやんなよ。可哀想に」


 ややおばさん臭い喋り方でテオにお説教を始めたトワだったが、言動の端々からテオへの愛情が見え隠れしている。

 やはり、ヴァンパイアの女性は情に厚い、と言うのは本当なのだろう。


「大体、『エコー』さんは厳しすぎるんですよ。テオはまだ『勇者』の装備を使いこなせていなかったみたいですし」


 最後の一人、『シザ』がこちらに文句を言い始めた。

 とは言え、俺はすでに『エコー』からヒビキへと変身を終了させているので彼女たちも面と向かって俺を責めたりはしてこない。

 すぐに興味は『エコー』からテオへと移ってゆくのだった。

 

「テオ、装備の修理は私がしておくから気になることがあるなら言っておきなさい」


 シザの一言にテオが反応する。


「シザ母さんが『勇者』の装備の修理をするの?」


 テオの言葉にシザが胸を張って答える。


「ええ、もちろんよ。だって私は『天龍の鍛冶師』なんだから」


 『天龍の鍛冶師』

 これはつい最近シザに出現した新しい『職種』だ。


 元々、シザは『天龍の巫女』になる前は『鍛冶師』だったらしい。

 それを俺が『天龍の巫女』に転職させたのだが、身内の『鍛冶師』の数も限られていた為ちょくちょく『天龍の巫女』から『鍛冶師』へと転職させて仕事を頼んでいた。


 それがある日『天龍の鍛冶師』と表示されるようになっていたのだ。

 とは言え今の所、特に何らかの効果を確認できないでいるのだが、本人の希望で職種を『天龍の鍛冶師』に固定する事にした。

 もしかしたらこの状況を想定していたのかもしれない。



「すごい、すごい。流石、シザ母さん」


 その言葉に残りの二人が反応した。


「テオ。ミラ母さんは『天龍の薬師』でもあるのよ?怪我してもすぐに治して上げるから」


 ミラに新たに出現したのは『天龍の薬師』だった。これは最近よく会うデトクの影響が大きい気がする。


「ちょいと、二人ともずるくないかい?私なんて『天龍の宮大工』だよ?どうやってテオに説明してやればいいんだい?」


 トワには『天龍の宮大工』と言う職種が追加されていた。

 確かにトワには『奇跡の家』を立てる時にはお世話になっている。

 『奇跡の家』は言ってみれば宗教的な建築物と言えなくも無いので、『宮大工』と言うのはあながち間違いでもないかも知れない。


 


「それにしても、ちょっと怪我が多いわね。シザ、なんとかならないかしら?」


 ミラが心配そうにシザに頼っている。シザもなにやら難しい顔で頷いていた。


「そうだな。訓練の時は仕方ないとしても、実戦で大怪我でもしたら大変だ。何か考えておくよ」


「確かに怪我でもして帰ってきたら心配で倒れちまうからねえ」



 和やかに話を続けながらテオを引き連れて『奇跡の家』へと入っていく『三巫女』達。

 なにやらテオの装備についての事のようだったが、何をする気なのだろうか。

 『三巫女』の動向が気になったので俺も『奇跡の家』に歩を進めたその時、




「ギュラーーッ!!」

 

 森の方から何かの鳴き声が聞こえてきた。


「あれ?この鳴き声は・・・」


 鳴き声のした方に顔を向けると、空に小さな何かが見えた。

 その何かはどんどんと大きさを増して行き、ついにはそれがなんなのかを判別できる距離まで近づいて来た。


「あれって、うちのグリフォン?」


 そしてその背に乗っているのは、俺の買い与えたメイド服を着た半魔族の少女。


「ラティア!?」


 グリフォンの背にしがみつく様にして乗っていたのは、ゴブリン村に居るはずのラティアだ。

 よく見ればメイド服はボロボロで、グリフォンの方もフラフラと頼り無く飛んでいる。


「おぉーい!!ラティア!!」


 手を大きく振って呼びかけてもラティアはグリフォンの背に顔を押し付けたままだった。

 しかし、グリフォンが俺に気がついたようでゆっくりと下降しながらこちらにやって来た。



「グィィィ」


 着地の瞬間に一度、バサッと大きく羽ばたき地面に着地を決めたグリフォンに駆け寄ると、やはりうちのグリフォンのようだった。

 しかも、


「こいつ、エミィが乗ってたグリフォンじゃないか」 


「ギィー」


 エミィの名前の反応したグリフォン。

 エミィとは昨日の昼に分かれてから会っていない。

 そのグリフォンにゴブリン村で待っているはずのラティアがぐったりして乗っている。

 つまり、


「村で何かあったのか!?」


 とにかく、状況の確認が最優先だ。

 未だに顔をあげないラティアの肩を軽くゆすり、声をかける。


「ラティア。おい、ラティア」


「うぅ、うぅ~」


 どうやらかなり消耗しているようで唸るばかりで一向に目を覚まさない。

 仕方がないのでラティアを『奇跡の家』で休ませることにした。







「おかえり、主よ。うん?それはラティアか?なぜここにそやつがおる?」


「話は後です。どうやら気を失っているみたいですね。ご主人様。私の部屋のベッドを使ってください」


 そう言ってすぐに部屋に向かうアイラとその後を追うジル。

 俺は軽く頷いてアイラが使っている部屋のベッドへとラティアを運ぶことにした。






「疲労が原因ですね。目立った外傷はありませんのでじきに目が覚めると思いますが一応【回復魔法】をかけておきますね」


 ミラにラティアの回復を頼むとそんな答えが帰ってきた。

 ミラもゴブリン村ですごしていたのでラティアとは顔見知りだった。診察を終えてどこかホッとしながら俺たちへ報告してくれた。


「そうか、ありがとう」


 すぐに飛んできて治療を始めてくれた彼女に感謝の言葉を告げる。 


「いえ、私もラティアさんにはお世話になりましたから」


 ようやく一息つけたので、色々と状況を整理することにした。


 今分かっているのは、


 ゴブリン村で何かあったのではないか?という推察だけだ。

 そこに、ルビーがエミィのグリフォンから聞き出した情報を付け加えていくと、



 ①ゴブリン村に誰かがやって来た。

 ②村にいたエミィが対応した。

 ③エミィがそのまま、その誰かに連れ去られた。


 と言うことらしいのだが、

 

 誰が、何の為に襲ってきたのか?

 なぜその伝言役がラティアなのか?


 と言った疑問が残る。

 

「うぅ、うぅ~ん」


 そんな事を悩んでいると、ラティアが目を覚ました。


「大丈夫か?」


「ここは? あれ!?ヒビキさん!? た、たいへんです!?村が、村が」


 ラティアは必死に状況を伝えようとしてくれたがどうにも要領を得ない。

 結局、グリフォンから得られた情報以上の事は分からないままだった。



「そ、そうです。領主様からのお手紙があるんです!!」


 そう言ってボロボロになったメイド服の中から手紙を取り出したラティアから手紙を受け取り中を確認する。

 すると、


「こ、これは!?」


「なんと書いてあるんじゃ?」


「すまん、字が読めない」


「アホか!?全く、なぜ手紙を受け取ったんじゃ?」


「いや、字が読めない事を忘れてて」


「そんなマヌケ聞いたこともないわぃ」


 元の世界では普通に字を読み書き出来たので、自然に手紙を開いてしまった。


「ジル、ご主人様になんて口の利き方ですか!!」


「この緊迫した状態であんなボケをかまされたら、誰だって罵倒したくなるわ!!」


 ジルが若干怒りながら俺の手から手紙をひったくり手紙に目を通し始める。

 ジルは『契約』のスキルを有効利用するためだろうか、文字の読み書きが出来る。


「なになに?親愛なる我が友人へ」




 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 親愛なる我が友人へ



 長々と前置きを書くつもりはないのでいきなり核心の話をさせてもらう。


 本日、私の執務室に来客があった。

 彼らは『教会』の『審査機関』だと私に名乗った。

 最近のウェフベルク周辺のモンスターの動向の調査と是正が目的らしい。


 もちろん、そんな話を信じるほど私は能天気ではない。

 おそらく、彼らの本当の狙いは『ゴブリン村』だ。


 ゴブリン村から輸出される『白磁器』や『青春薬』、『ゴブリン運送』による利益の横取りが主な目的だろう。


 彼らの訪問はそれを邪魔するな、と釘を刺しに来たのだろう。

 しかし、君が気に病む必要は無い。  

 

 元々、私は『教会』に良く思われていなかったのだ。

 この街での教会の立場は『神官派遣所』程度でしかない。

 これはよその街に比べて明らかに立場が低い。

 彼は隙あらばそれを是正しようと画策を続けていたが、私はそれをことごとく邪魔している。



 それはそうだろう?

 なにしろ『教会』の影響が強くなれば、私の街から『獣人』達が居なくなってしまうのだぞ?

 それはつまり、あの店が無くなる、という事だ。

 ミネアともロラとも会えなくなる、という事だ。

 そんなことには断じてさせるものか!!


 そもそも・・・・・


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 そこまで読んでジルの朗読が止まった。


「ジル?」


「ここから先は読みたくないのぅ」


 ここから先には『獣人』娘たちへの熱い思いが長々と綴られているようだった。


「とりあえず、相手は『教会』の関係者で、最終的に村を乗っ取るのが目的か」


 俺の言葉にコクコクと頷くラティア。

 どうやら、ラティアが出発する時には村の周りに包囲網が完成されつつあったらしい。



「やれやれ、それじゃあエミィを迎えに行くか」



 

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