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第150話









 診察を始めて1週間ほど経ち一段落付いたので、今度は面談希望の商人達との話し合いの場を設けることになった。


「この度は、我々との話し合いの場を作って頂きありがとうございます」


 テーブルについているのはミラ達3人と商人が4人の計7人。

 俺は会談の護衛としてジルと共にミラ達の近くで仁王立ちしている。


「巫女様におかれましては益々のご活躍、誠に喜ばしく・・・」


 長々と美辞麗句を並べている狐獣人が商人代表のようだ。

 彼は商人達の中でもダントツに若く、力に溢れているように感じた。

 他の商人達からも一目置かれているようでミラ達との交渉も完全にこの男主導で行われていた。


 話し合いの内容は、食料などの消耗品の買い付けの事だ。

 現在はエミィがハーピー達を使って街の商店から直接購入している。

 そして今の俺たちの活動資金は『ゴブリン運送』と『白磁器』の利益から捻出されている。

 おかげで今のところ儲けはほとんど溶けてしまっている状態だがそれもこの会談が終われば人手にも資金にも余裕が出来るはずだ。

 なにせここにいる商人の内、2人は『商人ギルド』に所属しているエリート商人だ。


 この世界の『商人』とは全員が個人事業主の事だ。

 自分の財産である商品を店で販売、もしくは馬車で移動しながら売り歩く行商を行って利益を出している。

 もちろん下働きなどもいるが、そう言った者たちは『商人』ではないらしい。

 

 そして、『商人ギルド』とは『商人』達がさらなる利益を得るための互助組織だ。

 その活動は多岐に渡るが最も注目すべきはギルド員への商品売買だろう。

 行商人にとって荷馬車が空荷のままでの移動はまさに死活問題だ。

 しかしいつも信用できる仕入先を確保する事は非常に難しい。

 そこで、ある程度の規模の街にはギルドの駐在員を常駐させ、その街の特産品をいつでも準備できる状態にしておく。

 これによって行商人は空荷の心配をしなくて済む上、別の商人も駐在員という形でその街で店を持つ事が出来る。


 もちろん、誰でも『商人ギルド』に加入出来る訳ではない。

 加入方法はギルド員にも秘密らしく、ある日ギルドから加入のお誘いがあるのだそうだ。


「では、遅くなりましたが最後に自己紹介をさせて頂きます。私、キーヤと申します。以後商品のご用命は私にお声をかけて頂ければさいわいです」


 キーヤは『商人ギルド』に加入している2人の内の一人だ。

 既に他の3人の商人の紹介は取り扱っている品と共に行われている。

 会談も終盤となっていたこのタイミングでこの自己紹介。これでは他の商人へ直接商品の買い付けを頼むのを躊躇ってしまうだろう。

  

「早速、早馬にて商品を届けさせるように手配させて頂きます」


「少し、お待ちください」


 これで会談も終わりだろう、とキーヤが閉めにかかるがミラがそれを遮った。

 

「なにかご不満がございましたでしょうか?」


 キーヤが怪訝そうにミラを見つめる。


「いえ、量も値段も満足のいく物でした」

 

「ではなんでしょうか?」


「購入については問題ありません。次は私どもの商品を買って頂きたいのです」


 そう言ってミラがいくつかの物を取り出した。


「これは『ゴムバンド』と言います」


 テーブルの上に置かれた物の一つはゴム製のロープの両端に金属フックが取り付けられた『ゴムバンド』だ。

 以前、ティルさんに作って貰ったゴム弾と同じ素材で作った物だ。

 『ゴブリン運送』を始めた時にラル達が不便そうだったので作った物だ。

 今回の資金不足をかんがみて、売れそうな物は全部売っていく事にした。


「なるほど、荷物の固定などに使うものですね。これは便利だ」


 少し触っただけで用途を見抜く辺りやはり侮れない奴だ。


「次は『天龍焼き』です」


「ほう、これが噂の」


 『天龍焼き』などと大仰な名前が付いているが、要は『かまぼこ』や『ちくわ』などの海産物の練り物だ。

 薬草採取で振舞って以来、何かにつけて差し入れとして『信者』達に配っていたのだがいつの間にか『天龍焼き』と言う名前が定着していた。

 これが売れそうな物、2号だ。

 実際、商人達の反応は好感触だ。下手をすれば『ゴムバンド』より反応が良いような気がする 


「余談ですが『天龍焼き』に使用する『塩』も商品として準備できます」


「『塩』ですか!?」


 調べて分かったがこの世界で『塩』と言えば岩塩から採取するのが一般的なようだった。

 その為、これほど海に近い所で『塩』を用意出来るなどとは思いもよらなかったのだろう。

 需要があるようなら塩田を作って『塩』の量産を始めるとしよう。


「最後になりますが、」


「はい、もう何が来ても驚きません」


 これまでもそれほど驚いていたようには見えなかったが、キーヤなりに驚いていたのだろう。

 そんな彼の前に入れ物に入れられていた『黒い粉』を差し出す。


「これは?」

 

「『砂鉄』です」


 ざわっ、と他の商人達まで息を呑んだ声が聞こえてきた。


「今、なんと?」


「これは『砂鉄』です」


 この世界には『魔鉱石』という鉱物がある。魔力を帯びたそれらはモンスターから入手できる。

 つまりモンスターの群れは『魔鉱石』の鉱床だという事だ。

 これでは普通の金属の出る幕は無いかに思われるが、そうではないらしい。


 俺やアイラ、ジルはもちろんの事、並みのモンスターなら圧倒できる。

 あまり戦闘が得意とは言えないエミィでさえも余程の事がなければモンスターがそれほどの驚異とはならないので失念していた。


 一般市民にとって、街の外にいるようなモンスターは1対1で勝てるよな存在ではない。

 その為『魔鉱』製のアイテムのほとんどが冒険者の物になる。

 第一、街での暮らしで『魔鉱』を使うほどの道具は必要ない。

 そりゃあ、『操火の鉄鍋』とか『操水のコップ』なんて物を作れば非常に便利だろうが。


 つまり、一般の生活では普通の金属にちゃんと需要がある。

 それもそれなりの値段になる。

 なぜなら『砂鉄』の採取が非常に手間がかかるからだ。

 川辺で砂鉄を多く含みそうな土を採取し、それを川の流水で選別する。

 一度で得られる砂鉄はごくわずかだ。


 しかし、俺には【電撃魔法】がある。

 まずは2mほどの長さの金属棒に銅線を巻きつけて薄い布で覆う。

 後は金属棒を浜辺に置いて銅線の両端に【電撃魔法】を流して歩けばすぐに大量でそれなりの純度の『砂鉄』が手に入る。

 もし俺一人で間に合わなければ、【電撃魔法】を込めた『魔鉱石』で『操電の電磁石』でも量産しておけば作業能率は爆発的に上昇する。

 この装置の良い所は、俺が【雷魔法】のような【電撃魔法】を使っている事がバレにくい所だ。


 さて、つまり『砂鉄』は非常に価値のあるお宝であるわけだ。

 それを目の前でこんなに無造作に扱われてキーヤ達が戸惑ってしまう。


「わ、分かりました。これらの買取の価格を検討させて頂きます」


「よろしくお願いいたします。良ければこれらの商品は、サンプルとしてお持ちください」


「よろしいのですか?」


 元々そのつもりで用意した物だ。

 『ゴムバンド』と『天龍焼き』は全く未知の品物であり、『砂鉄』はかなりの金額が動くはずだ。

 どれも実物を目で確かめたくなるはずだ。

 

「では至急検討させて頂きます」


 商人たちが一斉に立ち上がりそそくさと部屋を出て行く。

 誰がなんの品を担当するか、と言った事を仲間内で決めるためだろう。


 とは言え、これらの品の生産はどれも街がある程度完成してからだ。


「もう少しで新天地に到着だしなぁ」


 そう、あと2日も歩けば新天地にたどり着く。

 出発の時、あれだけ演出したので到着時にも色々考えなくてはならない。



 そんな事を考えていると、デトクの助手の一人が血相を変えてミラを呼びに来た。



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