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第128話









「なに?漁に出られない、だと?」


 それなりに長い付き合いの部下が間抜けな報告をあげてきた。

 所詮チンピラに毛が生えたような冒険者崩れの男だ。多くは望めないのは分かっていたがこれ程とは思わなかった。


「船を出すための人手が全く足りません。今『東街』の波止場で働いているのは俺の部下達と数人の奴隷だけです」


 いつも参加する『東街』の漁師達がサボっているのか。


「なら、さっさと『亜人街』に行って残飯でもちらつかせて亜人共を働かせろ」


 犬猫並みの亜人に残飯とは言え食い物を食わせてやるのは癪に障るが仕方がない。

 しかし、部下は首を横に振る。


「亜人達には既に声をかけています。残飯どころかしっかりとした賄いと給金を準備しても誰も動きませんよ」


 部下が蔑むような目で私を見つめる。

 亜人が働かない?こいつは何を言っているのだ?


「ここもそろそろ潮時かな」


 部下が背を向けて呟いた。おそらく私に聞こえているのを分かって言っているのだ。


「一体、何が起こったと言うのだ!!」



------------


 最近、『西街』で亜人を見なくなった。

 あの畜生共は壁を作って隔離しても何処からともなく現れる害虫だ。

 ようやく自分達の身の程を知ったか。

 まぁ、私の『西街』には着飾った者が多く住む。

 いたたまれなくなって消えたのだろう。


「しかし、早朝だというのにやけに静かだな」


 大通りに人影は少なく、数日前にはあった活気が全く感じられない。


「な、なにが」


 起きているのだ?

 最後まで言葉に出来なかった。

 波止場には誰もいない。いつもならおこぼれを狙って辺りをうろつく本物の犬猫すら姿が見えない。

 ここはまさしく終わった場所だ。

 気づかないうちに私は地面に膝をついていた。


------------


 多くの人が集まる『亜人街』の広場で注目を集めている数人の女性。

 広場に集まっているのは亜人だけではない。

 『東西の街』の漁師や商人、はては貴族の姿すらここにはあった。


「「「救済を」」」


 ささやくような声。しかし、広場にいた者たちにその声はしっかりと届いていた。


「救済を!!」


 答える民衆。

 これは“救いの無い自分達に救済を”と言っているのではなく。

 “救いの無いこの世の中に我々が救済を与えよう”という掛け声だ。


 広場に集まった者たちは身分や種族は違えど全員が真っ白な布を右腕に巻いている。

 どんなに服がボロボロでもその布だけはしっかりと洗われているようだ。


 この街を始めて訪れてすでに一ヶ月が、『実験』を始めて3週間ほどが経っている。

 

 実験の内容は、

 『人族、亜人、モンスターの共存』だ。


 

 準備を終えて再びこの港町にやって来た俺達が始めにやったことが『亜人街』での炊き出しだ。

 炊き出し要因にヴァンパイアの若い娘を数人連れてきて積極的に亜人達と触れ合うように仕向けた。

 ついでに、炊き出しの調理には料理の上手いゴブリンに協力させてモンスターへの抵抗感が少しでも下がる様にした。


 ヴァンパイア娘達は美人揃いなので、亜人たちはほとんど抵抗無く『白髪』のヴァンパイア達を受け入れていった。

 一週間ほど炊き出しを続けた頃、ヴァンパイア娘達に自分達が『天龍教』の信者だと宣伝するように指示を出す。

 元々、亜人達は宗教嫌いか宗教の知識の無い者達ばかりだったのでここで宗教嫌いの亜人の何割かが炊き出しに来なくなった。


 また、この辺りから嫌がらせや暴力に訴える者達が出てきたがゴブリンシーフや俺達が影ながら排除した。

 あとは料理に【光魔法】をかけて、軽く良い気持ちにさせていった。


 この状態で、『天龍教』の教えを広めていく。


 『誰でも入れるし、入ったら『仲間』と助け合う。あとは臨機応変に』

 

 こんな信念の元で新しい宗教を広めていくことにした。

 白い布を腕に巻く。という識別方法は、いつの間にか信者の間で定着したルールのひとつだ。

 どうやら、ヴァンパイア娘達の『白髪』のイメージが元らしい。


 さて、『亜人街』から急激に広まり始めた『天龍教』は、『東街』『西街』にもすぐに飛び火した。

 元々、『東街』『西街』に住む人たちは『教会』の信者ではない。

 それを両当主が無理矢理改宗させていたため、当主に対する不満はかなり溜まっていたようだ。

 ヴァンパイア娘達は、そう言った街の住人たちの愚痴を聞き続け、少しずつ信者を増やしていった。


 その時も、ヴァンパイア娘達の背後には『ゴブリンヒーラー』を配置し【光魔法】による演出を行っていた。


 そして切り札であるビルギットに練習をさせていた楽器の登場だ。

 俺の知る限り最大の大きさの楽器、『パイプオルガン』だ。


 建物ひとつが楽器と言うスケールとその重厚な演奏で多くの人々が感動で涙を流していた。

 裏舞台では、パイプオルガンに空気を送り込む作業を続けるゴブリン達が倒れていたし。

 演奏するビルギットも演奏に【音魔法】を乗せていたので魔力が切れてはポーションで回復、を繰り返してへとへとになっていた。


 そのおかげか、今では1週間に一度の演奏日には人々が押し寄せてくるようになった。

 ビルギットは『奇跡の家の演奏家』などと呼ばれて、街を歩けないとぼやいているほどだった。




 さて本日は、その演奏日だった。

 回を追う毎に参加希望者が増えており、3回目の今回は『東街』『西街』から人が消えた。と誤解されるほどの集客力だ。

 演奏も無事終わり、現在は広場で『天龍の巫女』達のありがたいお話の真っ最中だ。


「もはや『亜人』なんて言葉は必要ありません。私達は皆『天龍教徒』なのですから」


「巫女様!!」


 後は『天龍』を支配するか眠ったままなんとかスキルだけでも使えるようにすれば、より強い結束が生まれるだろう。

 信者全員が『神の声』を聞ける宗教なんて他には無いだろう。




「さて、次は当主達か」


 今、アイラとエミィに両当主とのアポを取りに行かせている。

 無視しても良いのだが、丁度タイミングよく2人とも俺の欲しい物を持っていたので話し合いをする事にした。

 普通、奴隷の娘のアポなど一蹴されるだろうが『今日は大変でしたね。次はいつでしょう?』と言えばすぐに会ってくれるだろう。

 アイラとエミィは良い返事を貰って帰って来てくれるだろう。



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