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第127話





 『西街』には海で取れる宝石を売る店があった。

 『東街』にはモンスターや奴隷を売る生き物屋が多く、『西街』には宝石店が多い。

 どうやら、どちらも当主の趣味のようだ。


「宝石か、わらわを飾るにふさわしい物があれば良いがのぅ」


 ジルはすでに購入する気満々のようだ。

 アイラとエミィも言葉にはしないがそわそわしている。

 興味はあるようだ。


「二人はどんな宝石が好み?」


 アイラが首を横に振り答える。


「私達には『魔宝石』がありますから」


 エミィも頷き懐に手を当てる。おそらくそこには俺が送った『魔宝石』があるのだろう。


「なんじゃ、主は2人に宝石を送っておったのか。ならば遠慮はいらんな」


 先程より大きな石を使ったアクセサリーを手に取り始めたジル。

 2人の未加工の『魔宝石』もそろそろ2人の魔力に馴染んだ頃だろう。

 魔法への抵抗力を高めるアミュレットに加工するにはいい時期かも知れない。


「ここで『魔宝石』の加工を頼もうか?」


 普通の宝石だけではなく海のモンスターから取れる『魔宝石』のアクセサリーもあるこの店なら問題なく仕立ててくれるだろう。


「加工の時にも『デート』をしてくださると約束しました」


 アイラが少し心配そうに俺の方を見る。

 エミィも同じようだ。


「そうだったな、すまなかった」

 

 俺は素直に謝る。2人との約束を忘れていた訳ではないが少し軽く考えていたようだ。

 彼女達にとっては大切な『約束』だったのだ。俺との約束を大切だと思って貰えているのはとても嬉しい。


「はい」


 アイラは笑顔で謝罪を受け入れてくれた。

 

「これなどよさそうじゃのぅ」


 少ししんみりした空気をジルの声が壊してくれる。

 ジルは、糸で大小の宝石を無数に繋ぎ、その糸で全身を覆うようなアクセサリーと読んで良いのかも分からない物を選んだようだ。

 しかも、おそらくこれは、


「これだけで寝間着にもなる優れものじゃ」


 もちろん今は服の上から着ているのでなんの問題もないが、大事な所が大粒の宝石と飾り糸だけで構成されている。

 胸を隠すの宝石がピンクダイヤとかやり過ぎだろう。


「これなら、わらわだけでなく主も喜ぶじゃろ。誰も損をしないのぅ」


 くふふ、っとジルが笑う。

 もちろん元から店にあった品だ。

 『西街』の当主や取り巻きがたまに買っていく人気商品らしい。


 値段は思ったほどではなかった。

 使われている宝石のほとんどが、普通ならクズ石扱いされる物なのだそうだ。


「どうじゃ?」


 ポーズを取って俺にアピールしてくる。


「ジルにも『魔宝石』を買おうと思ったんだけど、そっちの方が良いなら買うよ」


「わらわとしては、デートにも興味があるんじゃがのぅ」


 つまり、自分ともデートをした上で『魔宝石』を買え、と言うことか。


「分かったよ。じゃあそれはお預けだ」


「うむ、仕方ないのぅ」


 仕方ない、なんて言いながら嬉しそうにアクセサリーを外すジルがなんとなく可愛く見えてしまった。


『私も見たい~』


 桶から手を伸ばして展示してあるアクセサリーを掴もうとするセレン。


「宝石の良し悪しが分かるのか?」


『馬鹿にしないでよ。このお店ではあれが一番良い品だわ』


 セレンが自信満々に指差す先には、小さい木箱に入れられている。


 中を見なくても分かる、と言うことか。ステータスを確認すると、



******************************************

星くずのアンクレット


******************************************


 なるほど、『人魚』の感覚は侮れないようだ。


 店員に購入したいと伝えると、


「申し訳ありません。こちらの品は『ウベルド家』当主様よりサイズの仕立て直しを依頼された品ですのでお売りする事は出来ません」


 また当主か。別にあっちは俺達の事なんて知らないだろうが、嫌がらせを受けている気分だ。

 代わりにこちらはいかがでしょうか、とすかさず別のアンクレットを進めてきた。

 仕方がないのでひとつ買うことにし、セレンにプレゼントする。


『本当にくれるの?』


 すでに胸にぎゅっと抱いて返すつもりは無いくせにそんな事を聞いてくる。

 頷いてやると嬉しそうにどこにつけるアクセサリーなのか聞いてきたので、『足首』だと教えてやる。


『えっ、あし?私、足無いよ・・・』


 悲しそうな顔を見ていられなくなったのでセレンからアンクレットを取り上げて尾びれの部分に着けてやる。


「これで良いだろ?」


『うん、ありがと!!』


 桶の中でバシャバシャはしゃぐので周りが水浸しになってしまう。


「こら、暴れるな。すまない、すぐに店を出るから」


 店員に謝ってすぐに店を出る。

 店員はにこやかに、ありがとうございました~、と返事を返してくる。


 海に面したこの街は、商品をやや高い位置に置く。

 床が濡れる程度の浸水など日常なのだろう。


「さて、次は『亜人街』か」


 おそらく最も治安の悪い街だろう。

 セレンには悪いがこのまま付き合って貰う事にした。

 ケルピーもアンクレットもセレンが最初に気がついた。『人魚』の感覚なら『亜人街』でも何か見つかるかもしれない。


 セレンにもう少し付き合って欲しいと頼むと、


『いいよ~、ヒビキといると面白いし陸の上でも安心だから~』


 軽い感じで承諾された。




 冒険者ギルドまで戻り『亜人街』へ入る。

 すると、先ほどの子供達が俺達を囲んできた。


「おにーさん、『亜人街』に用事?案内するから食べ物ちょーだい」


 道案内と街の状態を確認するのにも良さそうなので雇うことにした。

 

「なんなら硬貨で払おうか?」


 銀貨を一枚渡すがすぐにつき返された。


「お金はいらない。すぐ大人に取られるしお店は私達に食べ物を売ってくれないし」


 現物支給が良いと言われたのでまた食料を分けてやる。

 旅用の保存の効く『マナカープ』の燻製だ。


 猫獣人の子供は大興奮だったし、他の子たちも無心で食べていたので美味しかったのだろう。

 ただ、街に入ってすぐの大通りに近いところで子供達が我慢できずに食べ始めてしまい周りからかなり視線を感じた。

 どうやら腹を空かせているのは子供だけではないようだ。


「『亜人街』にも店はあるか?」


「あるよ!!この大通りを歩いてたら3軒くらい!!」


 自信たっぷりに指を4本立てて胸を張る。

 欲しい物を手に入れるにはそこで物々交換をするのが主流らしい。


「この街の店でも硬貨は使えないのか?」


「使えるよ」


 先程の子供達の反応からそう感じたが、違うようだ。


「でも私達、おつりとか分からないから」


 いくらでも店主に騙されてしまうわけだ。だから金より食べ物が欲しい。

 

 子供達の案内でその店に行ってみることにした。





 道中、何度か食い詰めた亜人たちに襲われたが返り討ちにした。

 さすがに殺そうとした奴らを助けてやるほど俺は優しくない。 


『人間は怖いね』


 桶で縮こまって顔だけだしたセレンが小声でつぶやく。

 先程、子供達にコレも食べて良い?と聞かれて危うく齧られる所だった。

 やめろと言っても聞かなかった奴には魔法で気を失わせた。

 倉廩実ちて礼節を知る、と言うやつだ。

 

 店に到着して中に入ると店内には以外にも品物に溢れていた。


「クソガキどもが!!金もねぇのに店に入るんじゃねぇ!!」


 店主は禿げ上がった頭を真っ赤にして俺達を怒鳴りつける。


「違うよ!!おにーさんはお金持ってるもん!!」


 その言葉で店主がジロリと俺を見る。


「いらっしゃいませぇ~ どのようなお品をお探しであそばされますでしょうかぁ~?」


 変な敬語を話しながら揉み手をしながら近づいてくる。

 奴隷を3人連れた冒険者の若造。つまりはカモが来たと判断したようだ。


「別に目当ての品は無いよ。モンスターとの戦闘に役立つアイテムでもあれば見せてくれ」


「なるほどぉ、かしこまりましたぁ~」


 無駄に言葉尻を伸ばす喋り方に少しイラッとしたが気にせず待つことにする。


「こちらはぁ、さる有名な魔術師の弟子の友人が~」


 よく分からない説明をしながらただの杖を持ってくる。

 有名な魔術師の弟子の友人って、もはや魔術師ですら無い可能性があるじゃないか。


 俺の反応が悪いのを見て慌てて次のアイテムを持ってくる店主。


「なんと、これはとあるモンスターの角から削りだした穂先でして」


 とあるモンスター、ステータスには『角犬ホーンドッグの槍』と表示されている。

 効果も何も無いただの槍のように見える。


「エミィ、角犬ホーンドッグって知ってるか?」


「はい、たまに街中でも見かける犬ですよね?」


 どうやら戦闘力は皆無で街中でも野良の動物達との生存競争にも負ける犬らしい。

 生まれたときは50cmほどの角を頭に持つが、そのせいで難産になることが多く母体は出産後息絶える事が多いらしい。

 しかも、頭蓋骨と一体化している角は武器どころか攻撃されればとたんに脳への衝撃に繋がる弱点となり生後1年ほどで生きている個体の頭には角が残っていない。

 むしろ、さっさと折れたほうが弱点が減り生存率が上がるらしい。

 なんとも悲しいモンスターである。


 そんな悲しいモンスターの角を削りだして作った穂先。その角は柔らかく、ナイフ一本でサクサク削ることが出来るらしい。

 実戦で使えば一撃で穂先が折れること間違い無しの一品だ。


 今回も反応が悪い俺達に対して、店主は次々にアイテムを紹介していくがどれもステータスで確認した内容と食い違う。

 店主を無視して店内を散策すると店の端に埃をかぶったアイテム達があった。

 何の期待もなくステータスを確認すると、


『聖銀の軽鎧』

『ドワーフ綱の良剣』

『魔力炉』


 中々のラインナップだ。


「この辺のアイテムは?」


 店主に確認すると嫌そうな顔をされた。やはり価値に気がついているのだろう。


「お客様ぁ~、その辺りは二束三文でも売れない、ガラクタでございますですぅ。お客様ほどのお方が気に止める物ではありませぇん」


 演技かと思ったが、どうやら本気でガラクタだと思っているようだ。

 

「この辺のガラクタをまとめて大銀貨1枚で買おう」


 驚いていたが、エミィが愚痴るように御主人様はガラクタを集めるのがご趣味なんです。とアシストしてくれたので問題なく購入出来た。

 さすがに店の中でルビーに荷物を預けられないので着いてきていた子供たちに荷物を運ばせた。

 もちろん、報酬は食べ物だ。

 

 ガチャガチャとガラクタが音を立てるが、誰も気にも止めない。

 注目を集めないのは、食べ物でないのが大きいだろう。


 『亜人街』の端、三方を建物の壁におおわれた空間にガラクタを運び込む。

 アイラとルビーが一番奥に入る。その間に【土魔法】で壁を作り子供たちからガラクタを回収していく。

 この時も預けたガラクタを盗もうとした子供いたので容赦なく気絶させて放置した。


 『人魚』の時もそうだったが、仲間が気絶させられたのに他の子達はあまり反応を示さない。

 どうやら仲間意識は低く、ただ一緒にいるだけのようだ。

 

 ガラクタを全て回収し終わると子供たちを解散させた。

 そして、又一週間後に別れた場所に来るように伝える。

 この街は、これから俺がしようとしている事にはいい環境だ。

 一度村に戻り、準備を整えてから実験を始めよう。


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