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第126話




 『グルスア港』、海へと伸びる2つの波止場を中心に発展していった港町。

 ここを治める領主は名君と名高い男で、彼は寝る間も惜しんでこの港町の為に働き続けているという。


「その為、この港町はいつも活気があり王国の大切な航路のひとつとして有名、らしいのですが」


 エミィが尻すぼみで教えてくれるが、とてもそんなすばらしい街には見えなかった。


「なんというか、街の人たちがギスギスしてないか?」


「さっきから周りの人たちにじろじろ見られています。」


 アイラがきょろきょろと周りを見渡すと、無遠慮に見つめて来る者から建物の陰からちらちらとこちらを監視しているような者までいる。


「あまり栄えているようには見えんのぅ。これならゲルブ湖の方が賑やかじゃった」


 交通機関の未発達なこの世界では、リアルタイムでの街の情報を手に入れるにはこうして現地に出向くしかない。

 事前情報とこれほど違う街の現状に、ある可能性を思いつく。

 

「とりあえず、情報収集だ。冒険者ギルドに行ってみよう」


 3人を促して冒険者ギルドへと向かう。

 さすがに地形が変わっている訳ではないので事前に用意した地図は役に立った。

 俺達はちゃんと冒険者ギルドへと辿り着くことができた。

 しかし、


「斬新な建物じゃのぅ」


 目の前の建物は、真ん中から真っ二つに裂かれ仕切を入れられていた。

 正面に2つの扉があり、その扉のどちらかを使って周りの冒険者達は中に入っていく。

 良く見ていると、建物の右の道から来た冒険者達は右の扉に左からやって来た冒険者は左に入っていく。


 そのルールに従うなら俺達は左の扉に入るべきなのだが、


「なんの意味があるんだこれ?」


「君達、もしかして他の街から来た冒険者さんかな?」


 頭を捻っていると後ろから声を掛けられた。


「ああ、この建物はどうなっているんだ?建物の右と左で設備が違うのか?」


「はは、そんな事はないさ。どちらも同じだよ。冒険者ギルドの設備はね?」


 含みを持たせて話す男の名前は、ディールと言うらしい。レベルは22。


「冒険者ギルドは、全ての冒険者に平等に接しなくてはいけないからね。とはいえ、やはりそこに居る冒険者の質で格に差が出てしまうんだよ」


 そう言いながら右側の扉の前まで誘導された。


「あっちのギルドにいる冒険者達は品が無いからね、君のように美人の奴隷を連れた冒険者はなにをされるか分からないよ?」


 扉を開けて中に入るように促される。特に不審な所は無いので建物の中に入ろうとする。

 すると、


「待つんだ!!君達は左側から来たのだろう?なら、こちらの扉から入り給え」


 別の男が俺の腕を取って中に入るのを阻止してきた。こちらもレベルは22。


「レグザ、邪魔するな!!」


「それはこっちのセリフだ。ディール!!」


 2人はその場で取っ組み合いを始めてしまった。

 ケンカを止めようか悩んでいると、ギルドの正面にある建物の間の路地から声が掛かる。


 

「おにーさん、こっち」


 声のするほうに行くと、頭までフードをかぶった少女が手招きをしている。

 おっさん2人と少女なら、当然少女の後についていくべきだろう。

 少々、後ろからの視線が冷たいが気にせず少女の後を追い路地の奥へと進んでいく。


「おにーさんはよそから来た冒険者でしょ?」


 奥には手招きした少女と同じくらいの背格好の少年少女が8人いた。

 どの子もフードをまぶかにかぶって顔を見せない。


「ああ、なんなんだあいつらは?」


「教えてあげるからなにか食べ物をちょーだい」


 彼女達に食料を分けてやり聞き出した話は、俺の嫌な予感通りだった。

 名君によって栄えていた街が廃れた理由。

 それは、名君の死が原因だった。

 名君亡き後、この街を二分したのが『アダット家』と『ウベルド家』だ。

 跡継ぎの居ない名君の死後、波止場を管理していたこの2家がこの港町を仕切り始めたらしい。


 ところが、この2家。当代の当主が幼なじみで仲が悪く悪いことにどちらも『教会』の熱心な信者でもあった。

 彼らは街を3つに分けて、『東街』『亜人街』『西街』と呼ぶようにしたらしい。

 『冒険者ギルド』が2つに分けられていたのは東西での住み分けであり、ギルドは『亜人街』にあった。


「壁とかあったか?」


 俺達は『東街』から入り、『亜人街』のギルドまで来たが壁など無かった。


「ギルドの近くだけ壁が無いの。それでここから隣の街に行こうとすると『渦潮海団』と『高波水隊』がみんなに意地悪するの」


 さっきの2人はそのチームのリーダーらしい。見慣れない俺達を見て戦力に引き込むつもりだった様だ。

 レグザ率いる『渦潮海団』は『東街』の『アダット家』に雇われており、

 ディール率いる『高波水隊』は『西街』の『ウベルド家』に雇われているらしい。


 さっきのは、『東街』から来た俺を『西街』のディールが勧誘しようとしていたのを、『東街』のレグザが止めたと言うわけだ。

 しかし、自分の事だがたかが冒険者1人を引き込む為にリーダー同士が取っ組み合いのケンカをするとは程度の低い奴らだ。 

 

 この街には魚介を好む亜人が多く住んでいたので『亜人街』が最も人口が多いらしい。 

 2家が徐々に亜人の下働きを減らして行き『亜人街』には現在職を持たない亜人で溢れているとの事だ。

 ここから最も近い街はウェフベルクだが、多くの亜人たちは旅の支度も出来ずにこの街に居続けているようだ。

 

「つまり君達は」


 そう言いながらフードを捲ると子供達の頭には様々な獣耳が現れた。思ったとおり亜人だ。


「えっ!?あ、きゃっ」


 最初に俺を呼び込んだ女の子が慌ててフードをかぶり直す。


「なんでみんな耳を隠しているんだ?」


「おそらく、迫害を受けておるのじゃろぅ」


 ジルが少しだけ不機嫌そうに言った。ジルも人間に迫害を受けた事があるらしいのでそれを思い出したのだろう。

 この子達は『亜人街』の中で最も力が無い為に『亜人街』で最も危険な場所で日々の糧を得ようとしていたのだ。


 2家に雇われた冒険者の居るギルドなら金や物が集まっているはずだ。

 この子達はそのおこぼれを狙っているのだ。

 こんな生活を1年は続けているらしい。


「領主が死んで1年もの間、次の領主が選ばれない?」


 エミィが疑問を口にした。


「多分、そこだけは2家で協力しているんじゃないか?」


 2人とも『教会』の信者だ。おそらく『教会』に圧力を掛けて貰って領主代行や次の領主の就任を潰しているのだろう。

 仲が悪いとはいえ、その点では利害が一致している。今のうちに力を蓄えてなし崩し的に領主の座に着く、なんて事まで考えているかもしれない。


「いえ、話を聞いた限りでは2家は領主にはなれません。よくて代行か領主の補佐ではないでしょうか」


 色々と条件があるようだ。

 子供達に聞けるだけの話を聞いてその場を後にする。

 このままギルドに行けば自動的にどちらかの陣営に取り込まれてしまう。

 

 そういう権力争いには極力係わり合いになりたくないので3つの地区をブラブラして情報を集めることにする。


 まずは『東街』で海に出現するモンスターの事を聞いて周る事にした。


「海のモンスター?」


「あぁ、出来るだけ大きくて力が強いと助かるな」


「うーん、何年かに一度は『津波鯨タイダルホエール』とか『クラーケン』とかが揚がるけど最近はなぁ」


 生き物屋のおっさんが教えてくれる。

 どうやら、名君が死んでギルドが分断された事で大物の捕獲量は激減しているらしい。

 

「なんならこいつはどうだい?安くしとくよ」


 おっさんが指を指したのは生簀の中の『人魚』達だ。

 この世界には『人魚』が2種類存在しているようで『人魚(亜人)』と『人魚モンスター』と表示されている。 

 しかし、同じ生簀に入れられているところを見るとひとくくりで『人魚』になっているようだ。

 俺も違う生き物だと分かった上で見比べなければ違いに気がつかなかっただろう。




「これって同じ生簀に入れて大丈夫なのか?おい、大丈夫か?」


 生簀の中の唯一の『人魚(亜人)』に話しかけてみると、ビックリした顔をされてしまった。

 

『もしかして私の言葉が分かるの!?』


 俺が頷くと顔を覆って泣き出してしまった。

 他のみんなにはキィーキィー言っているだけに聞こえるようだ。エルフの時と同じだろうか。

 『人魚モンスター』にいつ食われるか分からない状況というのは、人間が裸で猿の群れの入った檻に入れられるのと同じような恐怖だろうか。


『お願い、助けて!!』


 お礼はするというのでおっさんに購入すると伝える。

 ついでにおっさんに話を聞くと『人魚』に小船を引かせてモンスターを狩るスタイルがこの街ではスタンダードらしい。

 やはり、船はモンスターに引かせる物の様だ。


「じゃあ特別に一番でかいのを選んでやるよ」


「いや、そこの端で小さくなってる奴がいい」


「あれかい?あれは弱ってるからすぐ死ぬかもしれないよ」


「その時はその時だよ。あれが気に入ったんだ」


「変わってるな。まぁ、あれなら大銀貨で3枚でいいぞ」


 すぐに手渡し『人魚』を購入する。

 しかし、店から運び出すのに『人魚運搬機』などというふざけた物を買わされた。

 なんという抱き合わせ商売だ。

 『人魚運搬機』は、深さ1mほどの木桶に車輪が着いているだけの物だ。こんな物に大銀貨1枚とはボッタクリもいいところだ。


『本当にありがとう、私はセレン。あなたは?』


 俺の押す『人魚運搬機』の中から身を乗り出してセレンが訪ねてきた。


「ヒビキだ」


『ヒビキ!!良い名前ね』


 セレンには【音魔法】と【水魔法】のスキルがあった。

 【水魔法】は当然だが、【音魔法】はやはり、


「・・・歌かな?」


『歌!!大好き!!』


「船とか沈めるのか?」


『なんのこと?』


 どうやらとぼけている訳ではないようだ。


「俺の知ってる人魚は歌で船を沈めるんだよ」


『ひどい!!それじゃモンスターじゃない!!私たちはそんな事しないわよ!!』


 どうやら、モンスターの方は歌で船を沈めるらしい。

 



 セレンを運びながら歩くのは目立つかと思ったが、周りにモンスターを桶に入れて運んでいる奴らが結構いる。 


『あ、あれ!!ケルピーだわ』


 セレンが指指す方にはひときわ大きい桶に入った馬に似たモンスターが居た。全長5m程だろうか。


「ケルピーですね。とても力の強いモンスターだと聞いています」


 大型船を海に引き込んだという話もあるらしい。


「あのサイズでか?」


 魔法を使うとしてもあのサイズで大型の船を沈められるとは思えない。


『あの轡でケルピーを縛ってるみたい』


「おそらくアイテムで封じているのでしょう。大きさの証言が大きく異なるとの事らしいので」


 サイズもコントロール出来るわけだ。


「エミィ、あれに『天龍』を引かせられないかな?」


 エミィが一瞬考えて答える。


「おそらく可能です。御主人様の魔力供給があれば問題ないと思います」

 

 そこまで聞いて、早速ケルピーを引いていた男に購入したいと伝える。


「あぁ?ダメだよ。これはもう売約済みさ」


 なんと『アダット家』がこのケルピーの購入先らしい。

 仕方が無いので引き下がる。


「ダメだった」


「まあ、あれほどのモンスターじゃ主でなくても欲しがる輩は多かろう」


「他で売って無いか探してみましょうか?」


 ジルとアイラが俺を励ましてくれる。


「ケルピーはそんなに数のいるモンスターでは無いので無理でしょう」


 エミィが首を振って否定する。


「仕方ない。諦めて次に行こう」


 俺たちは『西街』へと移動を始めた。


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