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第114話



 さて、ウィキーからの贈り物で少し横道に逸れたが、今日も戦力強化を怠らない。

 とりあえず、朝から村に来ていたグータラ竜にグリフォンの話をしてみた。


迷宮うちにいるような【守護者】のグリフォンは多分無理だよ。でも、普通のグリフォンなら手に入るんじゃないかな?」


 早速、一緒に来ていたアイリーンさんに頼んでグリフォンを手配してもらう。


「少々お待ちください」


 そう言って部屋を出ていくアイリーンさん。迷宮まで戻るならそれなりに時間がかかるはずなので気長に待つか、とお茶に手を伸ばした瞬間に扉が開かれた。


「お待たせいたしました。標準種のグリフォンでございます」


 右手の手綱で5羽のグリフォンを引き連れてくる。


「・・・仕事が早すぎませんか?」


 アイリーンはにっこり笑って答える。


「メイドですから」


 その台詞にショックを受ける我が家のメイドさんラティア


「ほ、本物のメイドさんって凄いです」


 今、少しだけアイリーンが胸を張った気がする。当然だが彼女も誉められれば嬉しいようだ。


「元々、【守護者】にはなれないので牧場で処分を待っていた仔達なのです」


 お安くいたします。とまたもや笑顔で言ってくる。

 アイラが今の話で悲しい顔をしながらグリフォンを撫でる。

 お前達も捨てられたの?


 確かにそう聞こえた。親をなくして村で厄介者扱いされた自分と重ねているのだろう。

 実際にそれほど高くなかった。グランタートルのピカソより単価が安い。

 結局エミィがもう2羽買うのでと更に安くして貰い7羽のグリフォンが村にやって来た。


「これで主力メンバー全員で遠出が出来るな」


 余剰のグリフォンもいるのでリーランやラティアやフレイを連れていくことも可能だ。

 早速、練習がてら何処かに行こうと話す。


「ここはやはり『エバー山脈』に行くのはどうでしょう?御主人様の求める空を飛ぶモンスターが数多く生息していますし」


 エミィの言う『エバー山脈』は、馬車で1週間ほどかかるがグリフォンなら日帰りも可能な距離らしい。


「折角の遠乗りじゃ、『グルスア港』の辺りでのんびりしたいのぅ」


 『グルスア港』もグリフォンなら日帰り出来るようだが、ジルは数日滞在することを考えているようだ。

 水辺のモンスターが良く捕獲されるらしい。


 空を飛ぶモンスターか、水辺のモンスターか。


「『ノトス遺跡』はいかがでしょう?」


 アイラの提案する『ノトス遺跡』には、珍しいモンスターやアイテムが眠っているらしい。

 『ノトス遺跡』は森の中にあり、エミィ達の提案する場所よりかなり近い。

 これなら朝から遺跡に向かって夕方戻り、次の日の朝また出発する、といった事が出来る距離だ。

 初めての騎乗にはお手頃かもしれない。


 ジーナにも意見を聞くがこの辺りの地理を知らないのでどこでも構わない。と答えられた。


「とりあえず、候補地の詳しい情報を手に入れてから再検討しようか」


 その3ヶ所は行く順番が入れ替わるだけで全て行くつもりだ。

 エミィに候補地の情報収集をお願いして休憩のために席をたつ。

 

 外の空気を吸いに家の外まで出ると、どこからかハープの演奏が聞こえる。

 おそらくビルギットだろうと、近づいてみるとおかしな事に伴奏が増えた。


「うん?」


 少しだけ早足で音のする方へ向かうと、想像通りビルギットがいた。

 しかし、ビルギットの手には楽器がなかった。

 演奏していたのはゴブリン達だった。その手には不恰好ながらハープが握られていた。

 どうやら自作したらしい。ゴブリンの大きさに合わせたサイズのハープ。

 ステータスを見ると『アーティストゴブリン』と表示されていた。

 もちろん、エミィの弟子の陶芸家の『アーティストゴブリン』ではない。


「ヒビキも演奏を聞きに来たの?」


 ビルギットは、顔もこちらに向けずにゴブリン達の演奏に聞き入っている。

 俺も、ああ、と短く返事をして演奏に集中する。

 今流れているのは、悲しげな曲だ。

 望郷を促すゆったりとしたメロディーは、時折音を外しながらも聴く者の心を打つ演奏だった。


 曲が終わると、ビルギットが軽く拍手をする。

 この世界でも感動すれば手を叩くようだ。

 俺も、ゴブリン達に拍手を送る。ゴブリン達は嬉しそうにはしゃいでいる。


「私が1人で演奏しているといつの間にか集まってきたのよ」


 気がついたら楽器の作り方や演奏の仕方を教えていたわ。と苦笑しながら話してくれた。


「ここは、凄いわね」


「何が?」


「誰も私を特別扱いしないのよ。良くも悪くも、ね?」


 朝起きて、早起きのゴブリン達に挨拶されて、

 昼まで二度寝して、半魔族のメイドに起こされて、

 夜までゴロゴロしたら、ヴァンパイアにおやすみを言われた。


 こんな生活は初めてだ、と今度は楽しそうに話す。

 

「このまま、ここに居着いちゃおうかしら」


「そうなると、お前もお客様じゃなくて身内だからな。コキ使うぞ」


「あはは、人間に虐げられるのには慣れてるよ~」


 さらっと重い話をされてしまった。これじゃあ俺の方が悪者ではないか。

  

「でも、ヒビキから他の娘みたいに扱われるのは嬉しいかな」


「別にビルギットを特別扱いしたつもりはないけど」


「じゃあ、あなたの音を教えて?」


 真剣な顔でビルギットがこちらを見つめてくる。


「私も私の音をあなたに教えるから」


 新たに『アーティストゴブリン』になったゴブリン達は、新しいスキルを持っていた。

 【演奏】と【楽器作成】だ。


 【演奏】は、楽器での演奏の技術をあげるスキルだ。

 【楽器作成】は、エミィの【アイテム作成】の劣化スキル、いや特化スキルだ。


 俺は、【楽器作成】でヴァイオリンモドキを作成して俺の世界のクラッシクな曲を適当に【演奏】した。

 ビルギットは、【演奏】よりもヴァイオリンモドキに興味を持ったので彼女にヴァイオリンを渡して【音魔法】のレクチャーを受けた。


「ヴァイオリンって言うの?この楽器」


「ああ、俺がそれっぽく作っただけの偽物だけどね」


 ビルギットが俺を真似てヴァイオリンを構えて試しに音を奏でる。


「ハープに比べると難しいわね。でも、似てるところもあるわ」


 俺には、弦を使う、位しか共通点が見つからないがビルギットはヴァイオリンをすぐに扱えるようになった。


「ヴァイオリンなら、ハープとは違う【音魔法】ができそう」

 

 話ながらヴァイオリンを弾くビルギット。


「【音魔法】は、楽器に魔力を込めて音を出す瞬間に音に魔力を乗せるの」


 単音を長く弾きながら魔力を込めるビルギット。

 なんとなく気分が高揚した気がする。


「単音ずつの『音』の効果なんてすぐには理解できないから、始めは効果のわかっている『曲』を丸暗記するのよ」


 今度はアップテンポな短い曲を繰り返し弾く。

 高揚感が更に増して、ステータスを確認すると【戦意高揚】と表示され、パラメーターも僅かに上がっている。


「すごいな、でもこれじゃ敵もパワーアップしちゃうんじゃないか?」


「始めのうちはそうなるわ。でも慣れてきたら魔力でしっかり対象を意識して弾けば大丈夫よ」


 音は丸暗記で構わないなら、録音して曲を流す瞬間に魔力を込めれば俺でも使えるかもしれない。

 しかし、蓄音機ってどうやって作るんだ?

 俺は、ビルギットのハープに魔力を込めて弦を弾く。

 拡がっていく音に自分の魔力を感じたのでステータスを確認すると【音魔法】を習得していた。


「あら、もう音に魔力が乗ってるわね。人間にしては優秀ね」


 その後は、ビルギットにいくつか曲を教わったが【演奏】の補助があっても【戦意高揚】の一曲しかまともにひくことができなかった。

 俺にはあまり音楽の才能は無いようだ。



「当主様。おはようございます!!」


 年若いヴァンパイアの美女達に挨拶される。


「ああ、おはよ~」


 俺が手を振って挨拶を返すと、美女達はキャーッと黄色い声をあげている。

 男としては美人にそんな反応をされるのは嬉しいが、彼女達が本気ではないのはわかっている。

 でなければヴァンパイアの男性に毎夜後ろから刺されているだろう。


「申し訳ありません、当主様」


 気がつくと後ろにヴァンパイアの実質的なまとめ役であるヴェルゴードが膝をついて頭を伏せていた。


「あの者達にはあとでキツく言っておきますので、どうかお許しください」


 俺はため息をついて首を横に振る。


「別に問題はないぞ。俺に親しみを持ってくれているからこそのあの行動だろう?」


「はい。ですが」


「良いんだよ。俺は王様じゃない。この村の"父親"みたいなもんさ。娘がじゃれてくるのを怒る父親がいるか?」


 むしろ泣いて喜ぶ父親が大多数だろう。


「我らを家族と呼んでくださいますか。身に余る光栄であります」


「お前は、"長男"なんだから、下の子の面倒を頼むな」


「かしこまりました」


 ヴェルゴードは最後の方で少し鼻声になっていた。

 こいつはちょっと思い込みが激しいところが玉に傷だが部下からの信頼も厚い。

 ヴェルゴードの肩をポン、と叩いてその場を後にする。



 少し長くなった休憩を終えて部屋に戻ってみると、フレイが居た。


「日帰りなら私も行ける。連れていってくれ」


 どこからグリフォンの情報を聞き付けたか疑問に思ったが、こいつはゴブリン達と中がいい。

 畜舎のゴブリンにでも聞いたのだろう。


「まだどこに行くかは決めてないぞ」


「『エバー山脈』がいいと思うぞ」


 エミィと同じ意見だった。

 詳しく聞くと、『エバー山脈』を舞台にした物語があり、フレイはその物語のファンらしい。


「あぁ、怪鳥に襲われる馬車を救う放浪の騎士。ハーピーの群れに勇敢に立ち向かう老戦士。『ここは儂に任せて先に進みなさい!!』あの台詞には心打たれたものだ」


 恐ろしく分かりやすい死亡フラグだな。ついでに馬車には亡国のお姫様でもいたんじゃないかと訪ねると、


「なんだ、ヒビキも読んでいたのか」


 正解だったようだ。


「ハーピーがいるのか?」


「はい、いるようです。冒険者ギルドでも定期的に討伐依頼が出ています」


 『エバー山脈』を越えた所には有名な鉱山があるらしく定期便が走っている。

 ハーピーは人肉を好むらしく被害が後を断たないのだとか。

 この世界のハーピーは亜人ではなく完全にモンスターらしく、言葉が話せないらしい。

 しかし、【魔物使い】には人気のモンスターで繁殖用の翼を折ったハーピーまで売りに出されているらしい。


 戦力増強としてもハーピーは魅力的だ。なにより、一部とはいえ女性の姿のモンスターは目の保養になる。

 ハーピーの事を聞いてからエミィの視線が若干怖いが、気にしない。

 今度はモンスター娘ですか、とか聞こえるが気にしない。



 結局フレイの押しに負けて初の遠乗りは『エバー山脈』に行くことになった。

 目的は、グリフォンでの移動と戦闘に慣れることと飛行戦力の確保だ。



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