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第109話





 ミーティングより一夜開けて、本日より調査を開始した。

 

 まずは『暴れ牛』のジム。

 調査には、ジーナをつけた。

 とはいっても、ジーナに難しい事は分からないだろう。

 そこで、ジーナにはジム達がこなしている依頼を一緒にこなしてジムの人となりを確認して貰った。

 ジーナもこの街に来たばかりの新参者だ。複数パーティー参加OKの依頼に紛れ込む事が出来た。

 調査の結果は、


「ジムと言う男は確かに強い。しかし、頭を使うのは苦手そうだ」


 頭突きは得意らしいが、と補足をくれた。

 ジルのゴーストからの情報も似たようなものだった。典型的な『考えるより先に手が出るタイプ』だ。

 とはいっても、そういう演技をしている可能性もある。引き続き調査が必要だろう。


「今度は何をすれば良い?」


 ジーナも頭より体を動かすタイプだが、馬鹿ではない。

 しっかりとこちらの要望を伝えれば、現地でも応用を効かせて対応してくれる。

 ただ、どうするか悩んだらとりあえず体を動かしてしまうだけだ。

 

 前衛のリーダー向きだろうか。今度、ゴブリンの指揮を取らせてみるのも良いかもしれない。

 ジーナには引き続き、出来るだけ近くで対象を観察するように指示する。

 


 ジョンの調査にはケンタウルス夫婦を当てた。

 シロンは、流れ者達に直接ジョンの事を聞きに行ったようだ。


「俺達は亜人の中でも迫害を受ける種族だからな。ただの人間より流れ者に近いせいか、こういう所では受け入れられることが多いんだ」


 ホロンを残して1人で聞き込みをするのは念のためとの事だ。

 ホロンもただ待っているだけではなかった。

 シロンの持ってくる情報をしっかりと精査し、情報の信憑性をあげるためにシロンにどんな情報が必要かを指示していた。


 シロンの情報の収集の範囲と速度は素晴らしいものがある。ケンタウルスの面目躍如と言ったところか。

 ホロンの情報処理にも感心する。おそらく、2人は今までもこうやって情報を集めて生きてきたのだろう。


「ジョンという男は用心深いみたいだな。重要な案件にも側近を代わりに行かせて、自分はでてこないそうだ」


 ジョンはどうやら元々この街に居たらしい。錬金術師ギルドの騒動があってようやく名前だけは出てきたので勘違いしていたようだ。

 シロン達には深入りしすぎないように伝えて調査を続けさせた。




「やっぱり人使いが荒いじゃねぇか」


「そうかな?」


 『惨殺セロ』の調査はサイに頼んだ。

 本当はビルギットに頼んだのだがやる気ゼロだったのでサイにお守りを頼んだら、丸投げされたようだ。

 

 『惨殺セロ』は、定期的に冒険者ギルドにやって来ては素材の大量納入を行っている。

 出所不明の品物を何度も提出し、入手先を訪ねるとニタリと笑うのだそうだ。


「正直、かかわり合いになりたくないタイプだわ」


 サイに無理はしなくて良いと伝えると、仕事だしなぁ。と謎のやる気を見せる。

 サイはすぐに苦労をしょい混むタイプだ。

 遊撃部隊の指揮を取らせればうまく立ち回ってくれるだろう。



 さて、3人の身辺調査を軽くやって貰ったわけだが、


「本命セロ。2番人気がジョンで、大穴がジムかな?」


 謎の大量納入が密売品の更なる横流しの可能性がある。

 ジョンは姿すら見せないというラスボス仕様だし、ジムは面倒見の良いおっさんってのが真実ではないだろうか。


「あ、おっちゃんと言えば」




「で、俺を思い出して出てきたわけだ」


 前回冒険者ギルドに来た時、シチューのおっちゃんは生憎と出掛けていていなかった。


「おっちゃんにただいまを言ってなかったからな」


「そりゃどうも」


「あれ?機嫌悪い?」


 ブスッとふて腐れた顔のおっちゃんは昼間から酒を飲んで真っ赤になっている。


「呑みたくもなるわぃ。狩りもスカったし、アイテムは高くなるしで大損よ」


 突っ伏してオイオイ泣き始めるおっちゃん。よしよしと肩を叩いてやるが手ではじかれてしまった。


「重症だね、こりゃ」


 仕方がないのでおっちゃんのヤケ酒に付き合うことにする。

 俺が酒を呑みだすと、おっちゃんの機嫌も直ったのか肩を組んで歌い出した。


「俺たちゃ~♪ 冒険者~♪ 西へ東へその日暮らし~♪」


 なんともらしい歌である。


「東のお宝だれのもの~♪ 西の墓地には相棒眠る~♪」


 いつの間にか大合唱となっていた。よく見れば昼間からふて腐れて飲んでいた冒険者(だめにんげん)の多いこと。


「それにしても多すぎないか?」


 規則正しい生活とは無縁の冒険者だが、昼間から酒を飲む奴等はごく一部だったはずだ。

 しかし、酒場は日没後のような賑わいを見せている。


「なんで狩りに失敗したか、だとぉ?」


 酒臭い息を吐きながらおっちゃんが答える。


「モンスター追い詰めたと思ったらいきなり逃げられるんだよぉ」


 他の酔っぱらいに聞いても似たような答えが帰ってきた。

 モンスターを見つけるまではいつも通り、しかし追い詰めて行くと急に姿を消してしまうらしい。

 村に戻って、冒険者として生計を立てている一部の吸血鬼達に話を聞いた。


「確かに最近、取り逃がしが多いですね」


 冒険者吸血鬼のリーダー、ヴェルゴードが答えてくれた。


「なんと言いますか妙な感じではあるのですが、ダメージを与えた手頃な個体がいつの間にかいなくなっているのです」


 ヴェルゴードまでなんとも曖昧な回答をする。


 仕方がないので自分で確認することにした。パートナーはアイラのみだ。

 エミィは、一連の錬金術師の事件で錬金術師として血が騒いだのか、『叡知の書』と一緒に部屋にこもって作業中だ。

 ジルは面倒くさいからパスと、何体かのゴーストの指揮権を俺に譲渡して2度寝してしまった。

 俺も【死霊魔法】が使えるのでジルが召喚してくれればゴーストやスケルトンを操ることができる。


 久しぶりの『魔物の荒野』でのモンスター狩りが楽しみなのかアイラがウキウキしている気がする。


「楽しそうだなアイラ?」


「申し訳ありません。ご主人様と2人だけで過ごすのが久しぶりで」


 ウキウキの原因は俺だったようだ。

 アイラの足元でルビーがアイラに軽く体当たりしている。


「ごめんね、ルビーを忘れてた訳じゃないのよ」


 どうやらルビーが仲間外れにするなとアイラに抗議したらしい。

 アイラがルビーを撫でてやると嬉しそうにプルプルしている。


 俺がアイラを『魔物の荒野』に誘う時も、畜舎でこんなふうにデューオ達を撫でていた。

 シャープウルフのつがい、デューオとルオは現在畜舎で安静にしている。

 正確にはルオが安静にしなければならず、そのそばをデューオが離れないのだが。


 そう、ルオは妊娠していた。

 迷宮から帰ってからどうもルオの体調が優れず、デューオが周りに攻撃的になったのでルオのステータスを確認すると状態異常【妊娠】とあった。

 【妊娠】が状態異常というのはなんとも言いがたいが、そうなっているので仕方ない。

 俺が触ると【妊娠】が消えてしまう恐れがあるで慌ててルオ達から離れ様子を見ることにしたのだがすぐにルクスがやって来て世話役のゴブリンに任せきりになってしまった。


 ウェフベルクでの御前試合が終わって戻って見ると可愛い赤ん坊が4匹生まれているのを見た時はなんだか感動してしまった。

 モンスターの繁殖に興味が湧いたので今度エミィと調べてみようと思う。


「おしゃべりはここまでだな。正面から足の速いのが何体かこっちに来てる。真っ直ぐこっちに来てるし、鼻が良いのかな」


 すぐにアイラとルビーが戦闘態勢を取る。俺も星剣と愛刀(ぜつむ)を構え炎弾を撃ち込む。

 現れたのは『ラピッドリザード』体長2mほどの走るトカゲだ。肉は淡白でササミのような味らしい。

 最大の特徴は、カンガルーのような尻尾を利用した前蹴り。威力はもちろんカンガルーの比ではないが。

 まともに食らえば金属鎧を通してでも内蔵破裂を起こすほどの威力らしい。


 「グギャ」


 炎弾を避け、いきなり前蹴りを放ってきた中央の一体を攻撃を避けながら絶霧で斬りつける。

 結構深く斬ったはずだがのたうち回るだけでまだ生きている。

 とはいえ戦闘続行は不可能だろう。残りは3匹。

 アイラは、2匹のラピッドリザードを速さで圧倒しその場に釘付けにする。その隙に残りの一匹をルビーが補食している。

 あっという間に残りは2匹。

 

 すぐに俺とルビーが加勢に入り残りの2匹も片付ける。周囲を確認して打ち洩らしが無いことを確認して一息つく。


「うーん、何事もなく片付いてしまった」


 件(くだん)の不思議現象は現れず。現れたのは『ラピッドリザードのモモ肉』のみ。


「毎回起こる現象では無いということでしょうか?」


 肉を拾いながらアイラが答える。

 そうかもしれないと思い、その日は1日狩りをし続けたがおかしな現象は一度も起こらなかった。

 村に戻ってアイラと一緒に風呂に入ることにした。


「お背中流します」


 お風呂でもアイラはご機嫌だった。ここで理由を聞くのはさすがに野暮だと分かるくらいには成長している。


 アイラと向かい合って湯船に浸かる。俺もアイラも黙ってしまったが沈黙が苦になるような関係ではない。

 心地の良い静寂が暫し流れる。気がつけばアイラは俺に寄り添うようにしなだれかかってきた。

 初めての日をなぜか思い出す。2人のくちびるが自然と近づいていく、


「お兄ちゃん、お帰り~♪」


 飛び込んできたのはリーランだった。くちびるは、・・・残念触れてなかった。


「リーラン、湯船に浸かる前に体を洗いましょう」


 アイラは不機嫌になることもなくリーランの世話を始める。

 仲良く話をしながらリーランの体を洗ってやるアイラ。リーランは、手術痕が敏感なのか触れられる度に笑いながら逃げようとする。

 そんなリーランをサッと洗い上げて、今度は仲良く3人で湯船に浸かる。


「お兄ちゃん、どこいってたの?」


「近くの荒野でモンスター狩りだよ」


「次はリーランも行きたい!!」


 リーランの実力を考えれば問題ないが、一応危険ではあるのでリーランを諭す。


「遊びじゃないし、危ないからリーランが大人になったらな」


「むぅぅ」


 子供扱いされてふくれるリーランをアイラが慰めている。

 リーランがのぼせてしまったのでアイラがリーランを連れて風呂を出る。

 俺はもう少しだけ長湯してでることにした。



 風呂を出てすぐにアイラがまだいた。どうやら誰かと話しているようだ。


「アイラ殿はご主人の入浴の供だったのか」


「ええ、良いお湯だったからジーナさんもどうぞ」


 会話の相手はジーナのようだ。ところがジーナは何かを悩むような顔をしている。


「私が入って良い湯殿はどこなんだ?」


「ここで構わないわよ?」


 基本的に人間型の風呂は俺と同じここだ。


「奴隷がご主人と同じ湯殿を使うのか?」


「はい、私も今使っていたじゃないですか」


「そうか、今夜は私も閨に呼ばれるのだな」


 何か勘違いしているようだ。まぁ、ウェフベルクで『全滅』の評判を聞いてきたのだろう。

 最近は村にリザードマンまで住んでいるのだから節操無しとは思われているんだろうな。


「ご主人様に抱かれるのがお嫌ですか?」


 誤解を解かずに質問するアイラ。


「いや、そうではない。ご主人は強くて優しいお方だ。ご主人に買われたのは望外の喜びだ。どちらかと言うと私を抱いてもらって楽しんでいただけるか不安なんだ」


 恥ずかしながらこういった事は初めてでな。とやや顔を赤くして答えるジーナ。


「大丈夫です。ご主人様は『ベッドの中では優しくありません』から」


「そうか。うん?優しくないのに大丈夫なのか?」


「はい。そんな余計な事、考えられなくされてしまいますよ」


 とてもにこやかに答えるアイラ。ジーナは良く分からないようだが、そうか、と呟いてアイラに礼を行って立ち去って行った。


「という訳なのでご主人様、今夜はジーナさんを可愛がってあげてください」


 俺に気づいていたようだ。アイラに分かった、と答えて夕食を食べに並んで歩く。

 アイラはエミィのように嫉妬しないのだろうか。


「もちろんします。でも、ジーナはもう家族ですから」


 知らずに声が出ていたのだろうか、アイラが答える。

 夕食を済ませて1人で自室でくつろいでいると、ドンドン、と強めのノックが鳴り響く。

 入室を促すと、ガチガチに緊張したジーナが入ってきた。


「ほ、ほ、本日は、私のよう、ような、げ、ゲセン?の者に寵愛を賜りまして、えっと、続きは~」


 ジーナはあれだ、バカワイイと言う奴だろう。

 思わず抱き寄せて頭を撫でてしまった。


「ご、ご主人、まだ、あいさつがすんでないぞぉ」


 少しだけ抵抗するジーナを組伏せるとビックリした顔をされた。


「どうした?」


「いや、男の下になるのが初めてでなんだか新鮮だ」


「そうか、これから良くあるから慣れてくれよ」


「よ、良くあるのか!?」


 それ以上しゃべれないように口を塞ぎ、ジーナに覆い被さるように体重をかけてジーナの身動きを封じていく。

 こうして、ジーナはこの夜に女になり家族になった。

 その日を境にアイラたちが色々とジーナに吹き込んでいるのを良く見かけるようになったのは言うまでもない事だ。



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