第9話
翌日、冒険者ギルドの受付に無事依頼を受注できたことを伝えに行ったヒビキは変な奴を見つけた。
依頼書が貼られた依頼板と受付を行ったり来たりしているそいつは、やや薄汚れたローブをまとい顔を隠している。
「なんだあいつ?」
少し気になったため、しばらく眺めているとステータスが表示された。
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エミィ Lv.3 錬金術師 14歳
体力
200
筋力
35
すばやさ
45
知能
90
運
75
『生産阻害の呪い』
効果 生産活動によって生み出されたものに呪いがかかる(小)
対象 本人(製作)
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ありゃ、『呪い』持ちだ。
しかし『錬金術師』か、冒険者ギルドではめったに見ない『職種』だ。
『錬金術師』は、あらゆるアイテムを作成する『職種』だ。
冒険者にとって必需品である『ポーション』や各種状態異常回復薬、
そして特殊効果アクセサリー等を作成することができる。
作れないのは、武器、防具でこれを作るのは『鍛冶師』の仕事だ。
『錬金術師』は、武器、防具に特殊効果を後から付与することができる。
もちろん、『鍛冶師』が最初から付与する物に比べると効果は落ちるらしいが。
「しかし、生産活動に『呪い』って致命的じゃんか」
戦闘職ではない『錬金術師』が冒険者ギルドいるのには訳があると思っていたが恐らくこの呪いが原因だろう。
もちろん、『呪い』持ちの冒険者が冒険者ギルドにいないわけではないが、これも稀なことだ。
考え事をしながら、彼女を見つめていたため視線に気づかれたのだろう。
エミィは警戒しながらこちらに近づいてくる。
「あの、『冒険者』の方ですよね?」
「ああ、そうだな。あんたは違うよな?」
そう言われてビックリしているエミィ。なぜ自分が冒険者でないと分かったのか分からないようだ。
「あんなに挙動不審でギルドの中を行ったり来たりしていれば目に付くさ。」
「でも、他の街から来た冒険者かもしれないじゃないですか。」
「よその街から来るほどの冒険者には見えなかったしな。
どっちかっていうと冒険者なりたてのルーキーみたいに見えたんだ。」
普通冒険者は、自分の生まれた街で冒険者を始める。わざわざ、別の街で始めるメリットがないからだ。
生まれた街なら、街の地理にも明るいし周辺のモンスターの事もある程度は見聞きしている。
そうして、一人前だと自負する冒険者がよその街に出て腕試しをするのだ。
つまり、あんなあからさまな初心者がよそから来た冒険者であるはずがないのだ。
冒険者になって1ヶ月ほどの自分が言うセリフじゃないなと思いながらエミィに答えた。
「そうですか。確かに私はまだ登録もできていないので冒険者ですらないのですが」
「そうなんだ? なら、受付でギルドに登録してからじゃなきゃ依頼は受けられないよ」
おせっかいついでに教えてやる。
「ありがとうございます。 登録が必要なんですね。」
「そう、受付はあっち」
リリがいるカウンターの方を指さした。
「登録に10ガルいるから準備しておきなよ。」
「お金がいるのですか!?」
おいおい、どんな田舎者か箱入り娘だよ。と、異世界人の自分が思うのも失礼か。
「登録だけは有料だよ。そうしなきゃ遊び半分で登録してくる奴が後を絶たないし、
ギルドカードだってただじゃない。」
ギルドカード発行料も含めて10ガルってのは良心的な気がする。カード再発行は100ガルって行ってたし。
「そんなぁ、10ガルって私の所持金ほぼ全部なのに。」
所持金が1000円って中学生か。
「まあ、無理なら依頼を受けるのをあきらめるしかないな。」
「私、どうしてもお金がいるんです!」
「いくらくらい?」
「・・・金貨15枚」
「そりゃ無理だ。いつまでに必要か知らんが金貨15枚もの成功報酬なんて、ドラゴン討伐でもなきゃ無理だ。」
「冒険者ならお金を稼げると聞きました。別に一回で稼げなくてもいいんです!」
この娘、冒険者に夢見すぎだ。
「そりゃ、一般の奴らに比べれば一流の冒険者は稼いでると思うよ。でも、けして簡単に稼いでいるわけじゃないんだ。」
冒険者を始めたばかりの俺だがそのくらいの事は身にしみている。
たとえチートな能力を持った俺でも一日で稼げる限界は、金貨1枚に届かない。
「で、でも、じゃあ、私どうしたら」
「う~ん、討伐なら討伐報酬と素材の売却でそれなりに稼げるけど」
とはいえ、金貨15枚なんて遠すぎる。
「わかりました。ありがとうございました。」
ふらふらしながらエミィは、受付に向かう。大丈夫かな。
「無理だけはすんなよ。俺、仕事で10日くらいいないけどその後なら相談乗るぞ。」
こちらを向いて、頭を下げてきたエミィに手を振って冒険者ギルドを後にする。
明日にはウェレオ村に出発するのだ。今から準備をはじめる必要がある。
すでに準備のために別行動のアイラと合流するべくヒビキは足を進めた。




