8,スキルと取得 Part,1
目の前に浮かぶウィンドウには、オレのステータスが表示されている。
所謂ステータスウィンドウだ。そのステータスに新たに追加された項目はウィンドウを挟んで片膝立ちをして、こちらに熱い視線を送っているチュートリアルブックの化身――アルを、オレが所有したことを示していた。
従者は所有物扱いなのだろうか。いや単に所有としか書いてないから物扱いというわけでもないのかもしれない。
夥しい光と共に擬人化した時からオレに仕えるって言ってたのに、今所有した状態になったのはなぜだろうか?オレが彼のことを認めたから? さっきまではロリコン疑惑で警戒してたしな。十分ありうる。
「なぁ、アル。今確認したらステータスに所有があって、おまえの名前が書いてあるんだが。さっきまでこれはなかったんだよ。もしかして、オレがおまえを認めたから所有になったのか?」
「答えは是。その通りにございます。
突然のことにワタリ様は警戒なさっておいででございましたので、私を従者としてお認めになられていなかったのかと愚考致します。
ですが、ワタリ様は認めてくださった。故の所有。光栄の至りにございます」
片膝立ちのまま頭を垂れるオレの所有物。物扱いじゃないけど、所有してんだからどう扱おうとオレの勝手だよね。まぁとりあえず、彼にはオレの身の回りの世話をしてもらおう。
戦闘やなんやはオレの担当らしいしな。
「では、ワタリ様。さっそくですが、奉仕の許可を頂けますか?」
「ん? あぁいいけど。何を奉仕すんだ? こんなところで」
スッと立ち上がったアル。やはり地面についていたはずの膝には砂や汚れは一切ついていなかった。一体どういう構造してんだあのズボン。
「ワタリ様は草の中を通ってきた際と先ほどの戦闘で、多少汚れてしまいましたので綺麗にさせて頂きたいのです」
「あぁ……っていっても別にそこまで汚いわけでもないぞ? 草の中通ってきたって言っても草は払ったし、戦闘っていっても短時間だったからそれほど汗も……」
「ワタリ様。僭越ながら申し上げます。ワタリ様の麗しい、並ぶ者のない美貌には些細な汚れすら、許されるものではございません。
故に私はワタリ様の従者として、決死の覚悟でその汚れを排除しなければなりません」
剣呑とさえ言える鋭い視線を向けてくるアルだが、言ってることは要はいつでも綺麗にしておきましょうね、ってことだ。おまえはお母さんか何かか。
まぁ綺麗にするのは別にいいが、潔癖なまでにそれをやられると鬱陶しいから、最初に線引きをしっかりしておくべきだな。
「まぁ言いたいことはわかった。今後とも自分の言いたいことははっきり言っていいけど、汚れとか外で活動すればどうしたって付くんだ。ある程度は見逃してくれ。
特に安全性が確保できてないところで、服を脱いで洗濯するなんて不可能だしな。とりあえずは安全なところまでは我慢してくれ」
「了解いたしました。ですが、汚れを落とすのに服を脱いで洗濯する必要はございません。
私の持つスキル " 浄化 " を使用しますれば、ことは一瞬にございます」
ほぅ……こいつスキル持ってんのか。従者だしな。そういう必要最低限のスキルは持ってて当然か。
「そういうことなら頼むかな。確認するが、このままでいいんだな?」
「答えは是。そのままワタリ様は動かないでいてくだされば問題ありません……終わりました」
アルが両手をオレに翳した瞬間、オレの体から淡い光がほんの少しだけ出て……一瞬で消えてしまった。
なんだかちょっとさっぱりした気分だ。これが浄化なのだろうか。
麻製っぽいズボンの膝のところに、叩いて落ちなかった土が少しだけ付いていたのに、それもなくなっている。戦闘で少しかいた汗も綺麗に消えている。マントの下の麻製っぽい長袖を確認するついでに、金貨の入った巾着袋をポーチに突っ込んでおいた。
しかし、便利なスキルだ。スキルウィンドウを流し見したときにはなかったと思うが、条件を満たしていなかったか、オレには取得できないスキルなのか。まぁアルが使えるんだから特に問題もないだろう。
「うん、さっぱりした。ありがとう。これはいいスキルだな。
風呂要らずだろうが、オレとしては風呂には汚れを落とすために入るわけじゃないから、また別問題だな。
ところで他にどんなスキルを持ってるんだ? 他にもあるんだろ?」
「答えは是。私の現在所持しているスキルは浄化と " 念話 " にございます」
「念話? オレのスキルウィンドウにはなかったやつだな」
「念話は所有している者とPT編成をした者に対して使える――一定条件下にある場合のみ、使えるスキルにございます。
このように一定条件下で使用可能となるスキルは所持スキルには表示されません」
【これが念話にございます。使用方法は念話が可能な者の顔を思い浮かべ、念話と心の声で発声すれば使用できます】
「へー便利なスキルだな。MMOの個別チャットみたいなものかな」
突然頭の中で何かウィンドウのようなものが開き、そこからアルの声が聞こえる。ウィンドウのタイトルバーには、念話:アル|(従者)と書かれている。まるでMMORPGでよく見た、個人間での専用チャットのようだった。
もしかしたら、念話中にはこのウィンドウが開きっぱなしになるのか? 話が終わった今でもウィンドウは開きっぱなしだ。
念話ウィンドウに意識を向けて念じてみる。
【あーあー聞こえるかー?】
【答えは是。よく聞こえます、ワタリ様】
【あーやっぱりこのウィンドウに意識向けて話しても念話が可能なようだな。やっぱり閉じるときは閉じろってか?】
【答えは是。その通りにございます。
念話は複数の者と個別に話す時に便利なように、ウィンドウ表示となっております。複数の者と同時に話す場合はウィンドウのタイトルバーに、念話の繋がっている者が全て表示されます】
【なるほど、ほんと便利だな。だが念話つなげっぱなしだと疲れたりしないのか?】
【答えは是。単独、短時間の念話でしたら、スタミナをほとんど消費しませんが、長時間に亘ったり、複数人数の念話はスタミナをそれ相応に消費します。ご注意くださいませ】
【あいよ】
念話ウィンドウを閉じてスタミナの消費具合を確認してみたが、数値化されていないので感覚でしかわからない。とりあえずわかる範囲ではまったく消費していないように感じる。
確かに短時間ならほとんど消費しないのだろう。今程度の時間なら気にするようなレベルではないということだ。
必要な時に念話を使い、普段は喋れば特に問題はなさそうだ。
「ところで、PT編成もスキルウィンドウにはなかったのに念話みたいに使えるけど、所持スキルに表示されないタイプか?」
「答えは否。PT編成は冒険者Lv1を取得するのが、取得条件となるスキルでございます」
冒険者か。やはりそういう職業もあるんだな。
そして職業を取得するのが条件のスキルもあるのか。ということは職業を取得して、且つその職業に就くのが条件のスキルもありそうだな。
便利スキルはできる限り欲しい。生存率を上げる行為は出来る限り行っておきたいからな。念話にしてもそうだ。これがあれば猿轡を噛まされたり、声が届かない場所にいてもアルと会話できる。それだけでオレの生存率は大幅に上がるだろう。
「他にはどんな便利スキルがあるんだ? っていうかおまえ2種類のスキルしか持ってないのか? オレみたいにこれから取得していく感じか?」
「答えは是。私の現在所持しているスキルは2種類のみとなります。
ワタリ様同様、私もスキルを取得することが出来ますが、残りポイントが0ですので現在は取得できません。
便利なスキルと申しますと、どのような用途がよろしいですか?」
「んー用途ねぇ……オレの生存率を上げたり、生活に便利だったりかな?」
「仰られました条件ですと、単独転移、気配察知、敏捷増加、HP増加、MP増加、初級魔法:体力回復、初級魔法:火、初級魔法:水、アイテムボックス拡張などが該当致します」
「気配察知で敵を先に見つけて、単独転移で逃げるってわけか。
転移で逃げる以外に敏捷増加で逃げ足を、HP増加でダメージを受けられる幅を広げる。
各種魔法を使用するためのMP増加ってところか。まぁ無難だな。
魔法の火と水は、生活にも使えるような物なのか。それは盲点だったな。魔法といえば戦闘って感じだと思ってたよ。
アイテムボックス拡張は取ろうと思ってたし、聞くまでもなかったな」
「さすがワタリ様でございます。私の挙げたスキルですぐさま活用方法を見出す頭脳、この不肖アル。感服いたしました。
初級魔法でしたら、生活にも活用できると愚考致します」
「いや、別にこの程度で感服されてもなー……まぁでも褒められると普通に嬉しいな!」
ちょっと褒められただけで調子に乗ってしまったのは、これは仕方ないだろう。眩しそうな羨望の眼差しを向けてくる従者も一役買っている。
「よーし、じゃぁパパちょっとスキル取得しちゃおっかなー」
気分よくメニューウィンドウを開いて、スキルをフォーカスして選択する。
表示されたスキルはいつ見ても多い。これだけスキルがあると、ある程度取るものが決まっていても少し迷ってしまうな。
だが、オレにはスキルリセットがある。取りすぎたりいらないスキルだとわかったら、リセットしてしまえばいいのだ。実に簡単である。
アルが提案したスキルを基本として、いくつかのスキルを取得することにした。
まず、敏捷増加Lv1を取得すると、敏捷増加Lv1があったところに敏捷増加Lv2が表示されていたのでそれも取る。同様にして敏捷増加をLv5まで取得すると、かかったポイントは20だった。
Lvが表示されているスキルはやはりLvがあがるごとに、必要ポイント量が増加していくようだ。だがLv5くらいまでなら問題はなさそうだ。
他にも取るスキルがあるし、とりあえずLv5でやめておこう。
同じようにしてHP増加をLv5まで取り、MP増加は魔法を試すためにもたくさん取っておこうと思い、どんどん取得していった。
MP増加はLv10まで取得すると表示されなくなってしまった。これが限界レベルなのか、取得条件を満たしていないのか。
ちなみにMP増加をLv10まで取るだけに使用したポイント量の累積は91。Lv10まで上げるとちょっとポイント量が多いな。やはりある程度で抑えておかないと、他のスキルを取得することが難しくなりそうだ。
他のスキルが取得できなさそうなら、まずMP増加からリセットしよう。
とりあえず、ここまで取得してステータスを確認してみることにした。
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BaseLv:1 職業:町民Lv1
HP:200/200
MP:130/130
筋力:10
器用:10
敏捷:35
魔力:10
回復力:10
運:5
状態:健康
所有:アル|(従者)
所持職業:町民Lv1 戦士Lv1
残りポイント:372
所持スキル
成長率増加Lv10 スキルリセット ステータス還元
ウイユベール共通語翻訳|(自動筆記翻訳付き) 鑑定 クラスチェンジ
敏捷増加Lv5 HP増加Lv5 MP増加Lv10
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HPの初期値は50だったから、HP増加Lv5で150の上昇か。消費したポイントは20だったから、単純にステータス割り振りするより効率がいい。
敏捷の初期値は10。敏捷増加Lv5で25上昇。かかったポイントは20だから、やはりこちらも効率がいい。
MPの初期値も10。MP増加Lv10で120上昇。かかったポイントは91だから、同様だな。MPも自然回復で回復したのかMAXになっている。もしかしたら増加スキル取得で回復したのかもしれないが、スキルリセットがあるオレだとそれはMPが無限となるから自然回復だろう。
ステータス割り振りより、スキルで増加を取得した方が効率がいいのはなぜだろう? Lvごとで一定量あがる代わりに調整が利かない。ステータス割り振りは1ずつ割り振れるから調整できる。調整できるメリットはなんだ? スキル取得条件とかか?
他には、BaseLvが上がらなければポイントが増えないわけだから、BaseLvが上がっても必要量のポイントに達せず、且つ次のレベルアップまで時間がかかる場合、我慢できないやつも多いのではないだろうか。
効率は悪くなるだろうが、自身の強化は出来るわけだしな。無駄にはならない。次のレベルアップまで我慢して、レベルが上がる前に死んだら元も子もないしな。
この世界は弱肉強食っぽいし、ポイントを大事に取っておいて使えずに死ぬ奴も多いのかもしれない。
ステータス割り振りするよりは、ひとまず増加系スキルを取得した方がよさそうだな。
大体増える数値も確認できたし、他を取得してしまうか。
メニューを念じてスキルをフォーカスし選択。
ひとまず増加系は後回しにして、初級魔法:体力回復、初級魔法:火、初級魔法:水を取得。合計32ポイントの消費。
単独転移にはLv表示があったが、Lv1でどこまで転移できるのかわからない。わからないなら聞けばいい。チュートリアルブックの従者がいるのだからな。
「アル、質問だ。単独転移Lv1ではどこまで転移できるんだ?」
「申し訳ありません、ワタリ様。単独転移Lv1の説明の記載はチュートリアルブックにはございません」
ありゃ……初期状態で取得スキルリストにあったから、てっきりチュートリアルブックに記載されているようなスキルかと思ったが、そうではないようだ。何かしらの条件を満たして取得可能になっていただけの、初歩ではないスキルということか。
まぁ一旦取得して試してみればいい。いらないようならリセットしてしまえ。
単独転移Lv1を取得。消費ポイントは10。
さっそく単独転移Lv1を使用してみることにしよう。
スキルを選ぶ時間が一番楽しい時間です。
ご意見ご感想お待ちしております。