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幼女と執事が異世界で  作者: 天界
第1章
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6,素材とアイテム



 頭の中で鳴り響いたファンファーレのようなラッパの音は、まったく動かなくなったビッグマウスを警戒しているため……無視することにした。


 死んだ振りの可能性を考え、慎重に接近する。


 近寄って確認するとビッグマウスに突き立てた短剣は、どうやら首に当たったようだ。ほとんどちぎれかけた首からほんの少しだけ血がでている。

 引き抜く時に傷を大きく広げたのか、短剣の刃以上に大きな傷になっている。

 傷の割には明らかに出血量が少なすぎる。ネズミとはいえ、体長50cmにもなる大きさだ。血流の関係でこれだけの傷があれば、大量に血が出るはずなのだが……。


 そんなことを思考していると



「お見事にございます。さすがは我が主。まさか一撃で倒してしまうとは……。

 このアル、ワタリ様の力を侮っておりました。謝罪いたします」



 音もなく現れた執事――アルは深々と頭を下げていた。


 まぁ幼女の見た目だしな。気持ちは分かる。

 しかし、こいつチュートリアルしてたところにいたはずなのに……。しかもここまで来るなら草の中を通って来なければ、無理なはずなのにまったく音がしなかったぞ。服にもまったくそんな痕跡ないし。オレなんてマントに草つきまくりだぞ。


 短剣に付いた微量の血を振って落とす。油も付いただろうから手近な草で刀身を拭って鞘に収めた。現状では草以外だとマントか服で拭くしかないから仕方ない。匂いがついては敵わない、それはいやだ。

 もっと入念なタッチアップやホーニングは安全な場所についてから、器具を購入できたらやろう。1回使っただけだし、タッチアップもこの程度で十分だ。

 マントに付いた草を払いながら、頭を上げたアルが接近してくるのを待つ。



「これ、倒したのか? 首をかなり深く切ったはずなんだが、血がほとんど出ていない。どういうことだ?」


「答えは是。そのビッグマウスは死亡しております。

 出血量に関しては、魔物は血液をほとんど持たないが故の結果となります」


「血液をほとんど持たない? そんな生物が存在するのか? じゃぁどうやって酸素や何やら体中に供給するんだ?」


「答えは是。魔物とはそういった生物にございます。

 酸素などの生物が生きていく為に必要なモノは、代わりに魔力で補っております」


「魔力……そうだったな。ここは異世界。魔法があるんだから、そういうこともあるか。

 あ、もしかして魔力でそういうのを補っているのが、魔物って呼称される生物なのか?」


「答えは是。さすがにございます、ワタリ様。

 仰られた通り、魔力で生命の維持を補っている存在を魔物と呼称します」



 ずいぶん生々しいファンタジックだが、理屈的には十分納得できる。魔物と動物の区分もわかりやすい。見た目では分かりにくいが、明確な違いがあるのは研究者にとっては非常に有用だ。

 まぁオレは研究者じゃないから、別にどうでもいいけどな。



「それではワタリ様。クエストはこれにて完了でございます。おめでとうございます。

 報酬をお渡しする前に、倒したビッグマウスに手を翳し、 " 解体 " と声を発するか、心の声を発してください」



 淡々と、祝福しているようにはとても聞こえない声音で言われるが、別段オレも嬉しくないのでどうでもいい。それより解体……まさか肉になるとか? しかも捌かなくていいとか、超簡単じゃね?



「解体!」



 死んでいるビッグマウスに手を翳し言い放つと、ビッグマウスの体が一瞬で消滅し、先ほどまでビッグマウスの死体があったところには、小さな肉の塊と小さな結晶の様な物が残っていた。少量ではあるが出ていた血も綺麗に何もなくなっており、まさに魔法のような光景だった。



「お見事にございます。倒した魔物はこのように解体することにより、素材とアイテムを残すことがありますが、必ず残るというわけではございません。

 特に素材の方は比較的残りやすいですが、アイテムは希少となります」



 解体によって出現した小さな肉の塊は地面に直接置かれている。正直葉っぱとか皿とかに置いてほしかった。解体なんて便利なのがあるならそれくらいおまけしてほしいものだ。血が残っていたら血塗れの肉の出来上がりじゃないか。


 小さな肉の塊を持ち上げてみると、割と軽い。見た目に反して中身はすかすかなのだろうか? まぁネズミの肉だしな。うまくはないだろう。食料がないからありがたいことには変わらないが、仕方ない。

 地面に接していた面を見てみたが、やはり砂がこびり付いている。軽く払ってアイテムボックスと念じる。

 出現した黒い穴に肉を突っ込むんで入れると、閉じろと念じてアイテムボックスを閉じた。


 小さな結晶の様な物は縦に長い単結晶のようで、薄い緑色をしていた。

 二つある太陽の光を反射して、仄かに青味がかってすら見える。

 不思議な結晶だ。綺麗だがこれが何なのかよくわからない。宝石の類だろうか? 魔物を倒すとお金を落とす的な?

 わからないことはチュートリアルブックの化身に聞いてみるのが一番だ。彼なら知っているだろう。こちらが聞かなければ必要最低限しか説明しない奴だが、頼る者が何もない現状では非常に有用だ。



「なぁアル。これはなんだ?」


「それは魔結晶にございます。武器や防具、稀に道具にも開くスロットに装着すると、付与能力を得られる希少なアイテムにございます。

 これを最初の一匹目で得られたワタリ様は大変幸運でございます」



 やっぱりレアアイテムか。しかも強化素材ってことか。

 装着ってどうやんだろ。オレでも出来るのかな? つか、これだと何の効果が付与されるんだろ?



「装着はオレでも出来るのか? 装着したらコレはどんな効果が出るんだ?」


「答えは否。装着は鍛冶師の職業に就き、専用の設備がなければ出来ません。

 装着後の効果はワタリ様の所持している特殊スキル " 鑑定 " により確認することができます」



 やはり鍛冶師じゃないとできないのか。しかも設備がいるのか。まぁ鍛冶師だったらそういう設備持ちが基本だろう。じゃなきゃ鍛冶できないだろうし。

 それより鑑定か。そういえば所持スキルにあったな、そんなの。



「んじゃ鑑定!」



 手に持つ青味がかった薄い緑色の魔結晶に意識を向けながら唱えると、何かが抜けていく感覚と共に、目の前にウィンドウが表示される。



        ■□■□■□■□■□■□■□■□■□


 魔結晶【鼠】

 ネズミ系魔物の体内で結晶化した魔力の塊。

 非常に希少で、魔結晶を生成するまでに到った魔物はかなり強くなる。

 空いているスロットに装着することにより、付与効果を与える。

 付与効果:敏捷+1


        ■□■□■□■□■□■□■□■□■□



 表示されたウィンドウの中には魔結晶の詳細が表示されていた。



 てか、かなり強かったのか、あのネズミ。一撃だったんだけど。

 あれ? もしかしてオレ強い? 名前通りに大口叩けるでかさだったけど、所詮ねずみだしな……。いやでも不意打ちだったしな。そういやクリティカルが存在するんだよな、この世界。つまりアレは偶々クリティカルで一撃で倒せたってことか。

 危ないわぁー。まじ危ないわー。普通に戦ってたら今頃肉になってたのはオレの方じゃねぇか!


 衝撃の事実に戦慄しながら、魔結晶の詳細に目を通していく。

 付与効果は敏捷+1か。まぁ序盤の雑魚でこの効果なら悪くないんじゃないか? 鍛冶屋見つけたら装着してみたいな。

 ……あ、スロットってどうやって確認するんだ? あ、鑑定があったか。



「鑑定!」



 短剣を引き抜き、鑑定を掛けてみる。

 またもや何かが抜けていく感触がして、ウィンドウが新たに出現する。

 どうやら鑑定は個別ウィンドウで一個ずつ出てくるようだ。魔結晶のウィンドウはもう読んだので閉じろと念じて消しておく。



        ■□■□■□■□■□■□■□■□■□


 銅の短剣 [空]

 武器種:短剣

 銅製の短い刀身を持つ扱いやすさと生産のしやすさから、初心者用の武器として人気がある。


        ■□■□■□■□■□■□■□■□■□



 ……お? なんか[空]がついてる。これがスロットか? この短剣……初心者用の割にはいいものなのかな? それともスロットなんて結構空いてるものなのか?



「アル。これを見てくれ。この[空]がスロットか?」


「申し訳ありません、ワタリ様。ご自身のウィンドウは他人には見ることができません。

 ですので、ワタリ様がご覧になっているウィンドウを、私が見ることは適いません」


「ありゃ、そうなのか。

 んじゃ鑑定使ったら短剣に空って書いてあったんだよ。それがスロットか?」


「答えは是。武器の名称に続いて表示されているものはスロットにございます。

 スロットに魔結晶を装着しますと、空の部分が装着した魔結晶の名称の後に続く文字になります」



 自分のウィンドウは自分にしか見れないのは、ちょっとめんどくさいな。可視化とか出来ないんだろうか。まぁ、スロットだってことがわかったからいいか。

 しかし鑑定を使ったから分かったけど、スロットがついてるなんて見た目だけでわかるものなのか? もしくはみんな鑑定スキル持ちってことなのかな? 生まれた時から使えるスキルってやつなのかな。



「なぁアル。鑑定って誰でも使えるの? スロットって見た目とかで簡単についてるかどうかわかるのか?」


「答えは否。鑑定は創造神様が贈られたワタリ様専用の特殊スキルにございます。

 スロットは見た目では判別不可能でございます」


「鑑定も贈り物だったのか。なんだ、ずいぶんおまけが充実してるじゃないか。いいことだ。

 幼女なのはいただけないけどな!」



 贈り物ってことは、人前で鑑定とか言ってたらだめだな。念じても使えるのかな?



(鑑定)



 一旦短剣のウィンドウを閉じると、再度短剣に鑑定を使ってみる。また何かが抜けていく感触がしてウィンドウが開かれる。


 どうやら念じても使えるようだな。これなら問題はあるまい。

 他人にウィンドウが見れないなら、ウィンドウを見る仕草をしてても、何のウィンドウを見ているのかわからないからな。

 ていうかさっきから鑑定使う度に何か抜けていってるんだが……。なにこれ? 魂的な? 危なくね?



「あ、MPか!」



 手の平をぽんと叩いて、納得がいったジェスチャーを思わず取る。

 静かに佇んでいる執事からは特に何も反応はないが、そんなことはどうでもいい。


 えーと。メニュー開いてステータス開いて……。確かにMPが減っている。10あったMPが7になっている。

 鑑定3回使用で消費は3。つまり鑑定一回の消費MPは1か。燃費はそれほどよくないな。最低数が1っぽいから仕方ないのだろうけど。

 しかし、いちいちステータス開くのにメニュー経由しなきゃいけないのがめんどくさいな。ショートカットできないかな?



(ステータス)



 一旦ウィンドウを閉じると、今度はステータスと念じてみる。

 すると目の前には先ほども表示されたステータスウィンドウが出現する。どうやらショートカットも可能なようだ。

 チュートリアルでは教わらなかったことだから、これは応用なのだろう。チュートリアルで教わるのは基礎の基礎だしな。アルを責めるわけにはいかない。



 じゃぁ他にもスキルウィンドウとかアイテムウィンドウとかも、ショートカットで出せるんじゃないだろうか?



(スキル)



 念じてみるが、スキルウィンドウは表示されなかった。念じる名称が違うのかと色々試してみたが、結果は同じだった。どうやらスキルウィンドウはメニューを経由する必要があるようだ。めんどくさいがそれほど頻繁に使うわけでもないし、まぁよしとしよう。

 アイテムウィンドウに関しても同じだった。アイテムはアイテムボックスもあるから、スキルとしてはかぶるから念じてもだめなんだろうな、と適当に推測して納得しておいた。

 だが、一応静かにしている執事に聞いておくことにする。



「アル、質問だ。ステータスウィンドウはステータスと念じて、ショートカットできたがスキルやアイテムは無理だった。ショートカットできないのか?」


「答えは是。ステータスウィンドウのみがスキルとして機能します。

 スキル取得ウィンドウとアイテムウィンドウはスキルとしては機能しません」



 念じて効果が発揮するのがスキルって分類なのかな? アルの話を聞く限りではそんな感じだ。

 まぁ別にスキルじゃなくても使えれば問題ない。ただ単にものぐさなオレが楽をするためにあったらいいなってだけだからな。


 そういえば、アイテムボックスの容量はもういっぱいだけど、魔結晶どうしよう? 肉は腐らないように時間が停止するアイテムボックスに入れておかないといけないし。でもこれレアアイテムっぽいし、ポーチに入れてて無くしたら目も当てられないしな……。

 あー……初心者ポーションをサックに入れとくか。


 アイテムボックスを念じて、初心者ポーションを取り出すとベルトのサックに収納する。

 そして魔結晶をアイテムボックスに突っ込んで閉じる。これで完璧。



「よし、じゃぁ続きを話してくれ。報酬だったよな?」


「答えは是。では僭越ながら続きを」



 質問には淡々と朗々と。それ以外はオレの邪魔をしないように静かに佇んでいた執事に続きを促すと、執事――アルは肯定し静かに話し始めた。



ポーケットの中には、ポーションが1つ。

ポーケットを叩くとばしゃだばー。


プラスチックなんて高尚なものはありません。


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