50,初めての……。
目の前には様々な依頼の紙が貼られている。
森での薬草採取から魔物討伐、魔物の皮や爪などの納品依頼まで様々だ。
だがそのどれもが街中で可能なものではない。
街中で可能な物は基本的に数日がかりだったり、専門知識や技能が必要なものばかり。
ファンタジーな世界で最初のクエストといえばやはり薬草採取だろう。
だがこの薬草採取。実は結構難易度が高いらしい。
オレが受けることができる最低ランクの掲示板には3枚だけ薬草採取の依頼が貼ってあるが、他のランクのところにはその3倍から4倍の薬草採取の依頼が貼ってあったりする。
どうやら安全な領域に生えているような薬草は効果自体がしょぼくて数が必要らしく、すでに取り尽されてしまっているらしい。
比較的弱い魔物がいるエリアの薬草も同じで取り尽されている。もう少し考えて採取すればいいのに、と思うが今更だろう。
というわけで薬草採取は割と高いランクの掲示板にも貼られるくらいの物になっていたりする。
もちろん高いランクになるにつれて品質や数が求められる。
オレが受けられる最低ランクのFでは品質も数も求められない。とにかく規定数取ってくればいいだけだ。もちろん品質がよければ報酬追加もある。
だがさっきも言ったように近場の安全地帯には薬草はもうない。
なので受けたとしても結構強い魔物がいるところまでいかないといけないのだ。
「だめだめだめ! ワタリちゃんにはまだ早いよ! それにネーシャちゃんはどうするの?」
「それなんですよねぇ……。この薬草採取の依頼を受けたらネーシャ連れて行けないし、どうしよう」
「だからこっちの依頼を受けてみたらどうかな?」
「治療院のお手伝い……ですか……」
「5日かかるけど、別に実際に治療するわけではないし人を直接助けられるしいいと思うよ!」
「でもここに悲鳴や臓物に強い人って備考が」
「あ、ほんとだ……。だめねこれ却下。えっとー」
「あはは……」
こんなやり取りをしているのだから今居るところは当然冒険者ギルドだ。
ネーシャの経過を見ながら街中で済ませられる諸々の作業を終えるのになんだかんだで時間がかかり1週間もかかってしまった。当のネーシャは心配していた後遺症もなく欠食児童だった見た目もどんどん改善してきている。
今現在は海鳥亭でアルから言い渡されたお勉強をしているのでつれてきてはいない。
街についてから今まで支度金代わりのお金を食い潰すだけで増やせていなかったことからそろそろ依頼を受けるべきだと判断したのだ。ネーシャも安定してるし。
いつも通り朝のランニングをして朝食を食べてのんびりしてから来たのだが、狙い通りに空いていた。
なので今は手が空いているというエリザベートさんと一緒に初めての依頼を物色している。
しかしこれがなかなかどうして……。
基本的に屈強な荒くれ者集団を相手に出される依頼なので、力仕事や力量が求められる物ばかり。
最低ランクFなのに討伐系があるのがいい証拠だ。
その討伐系もラージラビットやビッグマウスなんて雑魚の依頼は一個もない。
最低でもびびっとウルフの牙10本とか、スマッシュマウスの尻尾20本とかだ。
スマッシュマウスは尻尾の先に金槌のようなハンマー型の骨を有する体長80cmくらいの大型のネズミの魔物だ。
このハンマーがやばいらしくて、直撃すると大きな岩すら粉砕する威力があるらしい。
しかも動きはそこそこ素早い。
そんなやつの尻尾を20本が最低ランクなのだ。
確かにこれじゃ子供どころか普通の大人でもやっていけない。
その代わり討伐や納品系の報酬は最低ランクでも銀貨で1桁以上の報酬だ。
薬草採取も納品に属するので銀貨1桁だ。
というわけで依頼を受けるにしても時間がかかって低賃金――討伐系に比べれば――の依頼か、ネーシャを連れて行けない危険な依頼かのどちらかしか選択肢がない状態だ。
まだネーシャは海鳥亭に長時間1人にするのは気が進まない。
今回は依頼を受けるだけなので1時間もかけず帰るつもりなのでお留守番なのだ。
かといって低賃金の依頼はアルとエリザベートさんのタッグによる息の合ったコンビプレイでオレの手が届かない掲示板の上の方に移動させられてしまったので詳しく確認もできない。
どうやら基本的に低賃金の依頼は重い物を運ぶ系の依頼らしい。
そんな依頼は受けさせられないというのが2人の共通認識。
でもオレのステータスなら多分楽勝なんだけどなぁ……。
アルもわかってるはずなのにおかしい……。
結局アレでもないコレでもないと、40分くらい悩んだ結果……。
「ワタリちゃん。冒険者やめましょう!」
「えー」
「ワタリ様、エリザベートの意見に賛成にございます」
「えー」
「ほら、ワタリちゃん。うちに住み込んで私が可愛がるという職業はどうかしら!」
「エリザベートさん " が " 可愛がるんですか?」
「そう! 毎日綺麗な服を着せて! 毎日一緒にお風呂入って! 毎日――」
トリップしてしまったエリザベートさんにそれはペットですから、と突っ込みを入れたが聞いていない。
アルもさっきまでタッグを組んでいた相棒を凍えそうなほどの冷たい目で見下している。
ほんと仲がいいんだか悪いんだか……。
とりあえずトリップしている人とそれを見下している人の隙を突いて1日くらいで終わりそうな調査系の依頼が隠れるように貼ってあるのを見つけた。
人足仕事系が次々と2人の手により手の届かないところに移動したおかげで見つけたのだが、ソレをさっと取って受付に持っていってやったのだ。
「「あっ!?」」
2人の声が重なって聞こえた時には、時すでに遅し。
すでに依頼の受付を済ませたオレの手にはクエスト発行完了の紙が握られていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「というわけで、このラッシュの街から北に6時間ほど歩いたところにある採掘場周辺に出没する岩食いペンギンを調査しにいきます」
「ワタリ様、私は反対にございます」
「もう依頼受けちゃったんだから反対は禁止」
「ですが……」
「き・ん・し!」
尚も食い下がってくるアルに強めに言うと肩を落としてシュン、としてしまった。
アルは最近どうもエリザベートさんに感化されたのか過保護なほどに心配性になってしまっている。
オレのステータスや戦闘能力がそこらの冒険者に負けない程度はあるのは知っているだろうに。
しかも今回受けた依頼は最低ランクのFで調査だけでいいし、もし討伐したとしても追加報酬がもらえる類の依頼だ。
心配したエリザベートさんが如何に岩食いペンギンが恐ろしいかを語ってくれたので大体の特徴と弱点まで判明している。
岩食いペンギンは石材を食べる害獣だ。
魔物なので害魔物か? いやすでに魔物な時点で害だからどうなんだろうか。
まぁそんなことはいいとして、この岩食いペンギン、主食が石材なのでラッシュの町並みを見て分かるように採掘場周辺の石切り場が街の近くにあるのでそこに多く出没する。
とはいっても近場の方ではすでに討伐も終了していて今回受けたのは少し遠目の石切り場。
歩いて6時間もかかるところなだけに規模もそれなりに大きなところで、出没している岩食いペンギンも数が多くまずは調査をすることになったというわけだ。
だが相手は魔物なので一般人では無駄に殺されに行くだけだ。
調査は遠目からある程度の数を把握するだけでいいのだがこの岩食いペンギン、一般人が目視できるような距離だと襲い掛かってくるらしい。
なので最低でも調査して逃げきれる、もしくはそのまま討伐できるような人材が必要と冒険者ギルドに依頼が来たというわけだ。
ちなみに歩いて6時間かかる距離なのに調査なので期限が2日だ。
でもオレ達の場合6時間歩いていく必要はない。転移が使えるからだ。
月陽の首飾りも満タンなので連続転移しても問題ない。ぶっちゃけ回復力重視のスキル構成にすればすぐに満タンになるので使いたい放題だ。
なので期限が2日しかない依頼でも問題ないと判断して受けた。
ちなみに期限が少なめなので依頼料は調査するだけなのに銀貨20枚。はっきりいって破格だ。
なのにギルドが空くほど時間が経っているのに残っていた理由としてはまずこの片道6時間。
往復で12時間。朝すぐ出ても帰ってくるのが最短で夜付近になる。
しかも調査とは言え相手は大量にいる上に魔物だ。
短時間で決着がつけばいいがそうでなければ今日中に帰ってくるのは難しくなる。
夜になれば街道近くに出没する魔物も強力なものになるらしく、野営もきついしそのまま暗闇を歩くのは自殺行為だ。
石切り場の近くに小さな村があるらしいのでそこで一泊して帰ってくればいいんだろうが、そこまで行くのにソロでは安全性など諸々の事情から厳しいので通常は3,4人のPTを組んでいく。
そうすると分け前は当然減る。
宿泊費やその他諸々を考えると採算が合わないらしい。
じゃぁなんでこんな依頼が通っているか。
ランクを考えなければ馬車や馬持ちなどの足がある者ならソロで行って帰ってこれるからだ。
だが馬車や馬などの足は個人で持つには高すぎる。
なので普通は乗合馬車なんかを使うのだが、今日はそっち方面に出る馬車が故障してなくなったらしい。乗合馬車があるならソロでも2日あれば十分間に合う依頼だったがその馬車がなければ不可能となる。
そうするとFランクの新米は当然高い足なんか持っていないし、タイミングも悪く乗合馬車もない。
必然的にこの依頼は残ったというわけだ。
だが恐らく明日か今日の夕方くらいには故障した乗合馬車が復旧するからだろう、隠されるように他の依頼に埋もれていたのだ。なんというか姑息というか涙ぐましい努力というか。
なぜ依頼を受けて確保しておかないかというと、復旧するのが確定じゃないからだ。
もし受けておいて復旧しなかったら依頼失敗になる。それは出来れば避けたいのが普通だ。
そういう理由で残った依頼だがオレにとってはラッキー以外の何物でもない。
何度でも言うが、オレには転移という足がある。
連続転移も可能なのでのんびり行っても2時間かからないくらいだろうと予想できる。
問題はネーシャだが、行きも帰りも転移で比較的安全に移動できるので問題があるとすれば岩食いペンギンとの戦闘くらいだ。
もしアルとネーシャが巻き込まれるようなら、そこは先日誘拐犯6人を相手にして問題なかったアルの防御力に期待しつつ、速攻で転移して逃げればいい。
アルもそれは問題ございません、と言い切っていたので大丈夫だろう。
じゃあ何がアルを反対派に回らせているかと言うと、アルがネーシャを守る為にオレを守れないと主張し始めたのだ。
「ていうかアルはオレのスピードについてこれないから、守るのも難しくない?」
オレの一言でさっと視線を逸らしたアルだった。
最近アルが非常に人間味溢れる行動を取ってくれるので嬉しい、とか場違いなことを思いながら出発の準備を整えた。
初依頼は魔物の調査です。
でも討伐しても構いません。
無論討伐する気満々です。
でも危険そうなら調査だけして即効逃げるつもりでもあります。
アルがどんどん成長していますね。でもちょっとワタリちゃんの斜め上を行く成長のようで困った物です。
次回予告
1週間の間に何があったのかがついにわかります。
この1週間で一体何があったのか!?
こうご期待!?
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ご意見ご感想お待ちしております。
過剰な期待は禁物です。あくまで次回予告(笑)であることをご考慮ください。




