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幼女と執事が異世界で  作者: 天界
第1章
5/182

5,初戦闘 vsビッグマウス




 触れる者全てを切り裂けそうな、剣呑とした光を瞳に宿した執事は流れるように肯定していた。



 剣呑執事から渡されたチュートリアル最後のクエストの紙には、今オレがいる――獣の窟と呼ばれる大草原に住むビッグマウスを一匹倒せと書いてあった。

 まだここまではいい。ビッグだろうとネズミはネズミだ。夢の国に住むあの伝説の白と黒のネズミだったら、一発アウトだったがそんなわけがないだろう。せいぜいドブネズミの大型版って感じなんだろう。

 こんな序盤で一撃必殺のネズミが出てくるわけがない。出てきたら泣く。恥も外聞もなく泣いて命乞いする自信がある。助けてミ○ーちゃん!


 ビッグなネズミが対象だというのは問題がない。では何が問題か。それが大事だ。

 クエストの紙に書かれた備考の項目が、重大な問題だ。

 紙にはこう書かれていた



 備考:スキル取得、ステータス割り振り強制禁止



 そう、スキル取得とステータス割り振りの強制禁止だ。つまるところオレは幼女の肉体で初期装備としてもらった装備で、ビッグマウスを倒さなければいけないということだ。

 幼女の力ではやばいから、スキル取得やステータス割り振りでなんとかしようって話だったじゃないか! そういうことを教えるためのチュートリアルだろう!

 なのになぜだ……スキル取得やステータス割り振りを教えるためのチュートリアルで、最後のクエストだろうが、なぜそれらを強制的に禁止されなければいけない!



「アル! 質問だ。なぜスキル取得とステータス割り振りが禁止なんだ!?」


「このクエストはワタリ様の初期状態での力を体験して頂くのが目的となります。よってスキル取得及びステータス割り振りは禁止となっております。

 クエストはすでに発行されましたので、禁止状態はすでに発動しています。クエストの破棄もできません」



 剣呑な瞳の輝きはどこへやら、至って平然と朗々と答える執事がそこにいた。

 つまり、スキルやステータス割り振りでの恩恵ってのを体感できるように、今の力をわかってもらうということか。理には適っている。適ってはいるが……それで死んだら元も子もないんじゃ……。なんせオレは幼女だぞ。ビッグなネズミなら死闘を演じちゃう可能性大じゃね?

 しかもクエスト破棄禁止かよ! 一旦破棄して準備整えて再挑戦ってわけにはいかないのか……。



「もう一つ質問だ。禁止なのはスキル取得とステータス割り振りのみだな?」


「答えは是。その通りにございますが、私に戦闘行為を強要することはできません。私は盾となることは可能ですが、戦闘は行えませんし、現在はチュートリアル中ですので、ご容赦を」


「ちっ」



 ばれてーら。アルはオレの従者だって言ってたからな。付き従う者ならば、主人を身を挺して守るべきだろうから、盾として使おうと思ったのに……。

 しかし、戦闘もできないのか。これは本格的に自分の身は自分で守るしかないのか。困ったな。



「ふむ……わかった。じゃぁビッグマウスの情報を教えてくれ。それくらいはいいだろう?」


「答えは是。ビッグマウスはランドール大陸西部に多く出現します。体長50cmほどの大きさのネズミ科に属する生物に似た魔物にございます。体毛は薄茶色。

 攻撃方法は強靭な前歯による噛み付きの他には、体当たりがございます。その他特殊スキルは所持していません。

 主に群れで行動しますが、獣の窟では単独行動する固体が多く見られます」


「噛み付きと体当たりか。噛み付きは皮の篭手で防げるレベルか?」


「答えは是。皮の篭手に噛み付かれた場合は、容易に防ぐことができるでしょう」



 なるほどな……さすが序盤の敵。初心者装備で十分対応できるレベルか。皮の篭手で防げるなら皮より遥かに堅い木の脛当てでも防げる。

 あとは同種を攻撃したら、近場に同種がいたら襲ってくるかどうかだな……。



「もう一つ質問だ。単体でいるビッグマウスは攻撃されたら、近くに同種が居た場合そいつも襲い掛かってくるのか?」


「答えは否。獣の窟にいる単体のビッグマウスは攻撃されても、同種が反応して混戦となることはありません。同種が攻撃され反応することをこの世界では " リンク " と呼びます。

 ですが、群れで行動しているビッグマウスに関しては、一匹に攻撃を仕掛けると群れ全てがリンクします。

 群れと単体との区別は、寄り集まっているか単体でいるか、となります」



 よし、これで群れにフルボッコされることはなさそうだ。あとは慎重に一匹だけでいるやつを、不意打ちして一気に倒しちまえばいい。幼女の力では、先制して有利にことを運ばなければどうしようもない。



「わかった。……よし、その辺にネズミはいるんだな?」


「答えは是。その通りにございます」



 緑の海を適当に見渡しながら問いかけると、どこからどう見ても執事の外見の従者――アルは変わらない声音で答えてくる。

 まさか序盤でこれほど緊張する戦いを仕掛けることになるとは、思ってもみなかったな……。だが、これをクリアすればスキル取得とステータス割り振りが可能になるはずだ。ならばやり遂げなくてはならない。

 オレがこの世界で生きていく為に、乗り越えなければならない試練なのだ!



 腰に括り付けてある銅の短剣を鞘から抜き放つ。

 ずっしりと重いというわけでもなく、銅という金属と幼女の手には、短剣というより小剣というに相応しい大きさの割には……比較的軽い。



 ヒュッ。シュッ。



 マントをつけたまま2度短剣を振ってみるが、これといって邪魔にもならないようだ。


 短剣も手にしっくりと馴染むような感触で、扱いやすい。

 元の世界でナイフ術や剣術は、指南書を読んで素振りをしていた程度だ。その経験が生きているのか、はたまた異世界へ転生したからなのか、十分に戦えそうだ。


 目指すは一撃で首を落とすことだが、幼女の力ではまず無理だろう。ならば出血の酷くなる場所――急所を狙って失血死を狙う。不意打ちから狙える最大効率といったところだろうか。

 相手が生物である以上、血を多く失えば必然的に弱体化し、死に至る。



 短剣を何度も振り、イメージトレーニングを実際の動きに合わせていく。

 数十回の素振りを終えると、多少息が上がってしまった。

 この程度で息が上がるとは……緊張しているのか。いや、これは幼女のスタミナではこの程度ということだ。

 気をつけなければいけない。昔の調子で行動してはすぐにスタミナが尽きることだろう。コンパクトにスタミナの消費を極力抑え、且つ素早く。

 幼女のメリットは体の小ささ。俊敏に動くには自身の体重が軽いことは有利なことだ。



 イケル。



 だが、油断はしない。持てる力と戦略を駆使してヤツを狩る! 打倒ネズミ!



 閉じていた瞳をゆっくりと開ける。心が決まった瞬間、生き物を殺める行為――戦闘を行うという罪悪感は消し飛んでいた。







  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







 前方の少し開けた空間。そこにヤツは居た。


 草の海の中には局所的に開けた空間が、多数存在しているようだ。今いるのはその中の一つの近場の草の中。チュートリアルを受けていた場所から歩いて5分程度の距離だ。

 屈んでいると草の丈はオレの肩近くまで達する大きさだ。これだけの大きさがあれば十分に身を隠すことができる。風下にいるというのも隠密行動の基本だ。

 隠密行動の効果は目測5m先の大きなネズミが、警戒していない様子から明らかだろう。


 大きなねずみ――ビッグマウスは今地面を掘っているようだ。巣でも作っているのだろうか。ネズミの生態など欠片も興味はないが。

 ヤツはこれからオレに殺されるのだ。巣を作っている行為はただの隙にしかならない。いいぞもっとやれ。


 息を殺して音を立てないように……ゆっくりと接近する。


 きっちりと境界線があるかのように、草の生えなくなった場所までは普通に歩けばほんの数秒で到達可能だ。だが、今は隠密行動中。極力急いではいるが、音を立てないためにはゆっくりにならざるをえない。


 草の境界線に到達する。まだヤツは巣作りに夢中だ。


 ここから急速接近し、一撃を見舞い一旦離脱する。失血死が狙いなので追撃する必要はあまりない。むしろ反撃されてこちらがダメージを受けるのは極力避けたい。なんせ相手は野生動物。どんなやばい病気を持っているかわかったものじゃない。

 先制攻撃で狙い通りの効果を得られなければ追撃の必要もあるが、その時は相手の挙動に気をつけて、防具で相手の攻撃を極力いなしながら戦う。

 幼女の体では攻撃を受け止めるのは危険だ。もし押し倒されたりしたら脱出が困難になる。

 受け流し、いなし、隙を突く。まさに短剣で突く。傷を蓄積すれば失血死は早まる。

 ヤツがもし逃走したとしても深追いは禁物だ。窮鼠猫を噛むということわざもある。

 それにここは草の海だ。追うのは難しい。例え血が目印になろうとも、だ。

 血の匂いは他の肉食動物を引き寄せる。ネズミを追ってネズミよりもっとやばいのと出くわすのは意味がないどころか、こちらの命が危ない。



 作戦は決まっている。さぁ……文字通り狩りの時間だ!


 草の境界線から一気に駆け出す。

 草とマントがこすれる音と、地面を蹴り上げる音でヤツ――ビッグマウスに気づかれるが、ヤツが行動を起こす前に接近は完了していた。


 振り下ろされるは逆手に持った銅の短剣。

 柄の先を持ち手を持った手とは逆の手で押さえ、一気に突き立てる。



 感触は生々しい。肉を裂き、骨に達する感触。



 生物を傷つける罪悪感は、分泌されたアドレナリンによりもたらされた興奮と、隠密行動と戦闘の緊張により塗りつぶされている。

 突き刺さった短剣を躊躇なく引き抜き、背後へと跳躍し距離を取る。

 視線はビッグマウスから離す事はない。幼女の自分にとって油断など出来る相手ではないのだ。


 短剣を引き抜いたことにより、栓がなくなり大量に噴き出すはずだった血はほとんど出ていなかった。傷が浅かったか? だが、骨に達した感触はあった。ではなぜ?


 そんな思考が脳裏を高速でよぎったが、ビッグマウスの発した小さな呟きのような断末魔の声に意識を引き戻される。



 そしてそのままビッグマウスは地面に倒れ込み……動かなくなった。



 パパラッパッパ、パッパラー。


 何の前触れもなく、突如として頭の中に響いたラッパの音に飛び上がらんばかりに驚いたが、ビッグマウスは何の反応も返さなかった。



先手必勝。一撃必殺。

首を切ったら、とっとと逃げろ!


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