182,エピローグ
2話連続投稿です。
とある日、最大級のランクを誇る迷宮――トレーゼが消滅した。
様々な噂が飛び交いながらも真実は闇の中。誰も知ることはない。
異世界から選ばれた存在がこの世界――ウイユベールの勇者達が成し得なかった事を成しえたために……いや本当のところは怒りに任せてアレを徹底的に叩き潰したが故に迷宮の核である大魔石すらも消滅させてしまったからとは、誰も知ることはない事実である。
あの日誕生した新たな勇者の存在を知るものは少ない。
書き換えられた所有者権限は彼の肉体を維持するためだけにそのままになっている。
故に勇者の装備全てが彼のためだけに稼動し続けている。
彼の傍には1人の美しい幼女が常に寄り添っている。
眠り続けるこの数ヶ月の間、ずっと寄り添い続けている彼女こそが眠る主の代わりに勇者の装備を操り続け、その生命を維持している存在だ。
魔王を瞬殺出来ても、邪神結晶を完膚なきまでに粉々にして消滅させる事が出来ても、最大級の迷宮を消滅させる事が出来ても。
たった1人を救うことが出来ない。
ただ見守り続ける事しか出来ない彼女だが、彼女以上のことが出来る者はこの世界には存在しない。
故に彼女に全てを託されている。
見守り続けて数ヶ月。
幼女の成長は打ち込まれた因子により完全に止まっていたが、流れた時の分だけ彼女の漆黒の髪だけは伸び続けている。
願掛けのように伸ばし続けている髪が、眠り続けている彼の顔を覗き込んだ拍子に顔にかかる。
それはいつもの事であり、いつもとは少しだけ違う出来事でもあった。
ほんの少しだけの小さな反応。
ずっと傍に居続け、見守り続けていた彼女がその反応を見逃すはずが無い。
瞬間、全ての勇者の装備の祈りを起動させる。
全ての条件をクリアした彼女にしか出来ないことだ。
様々な祈りが効果を示し、彼の肉体へと染み込んで行く。
そして最後に次元に干渉した祈りにより勇者の装備の封印が解除され、彼の肉体から1つの本が浮かび上がってきた。
それはまさに彼という存在の全てが詰まった、彼そのものであった。
「……もう1度」
彼女の半分近くもある大きな本――彼を愛しそうに抱きかかえ、小さくも決意に満ちた声が紡がれる。
本を高く掲げた彼女はあの時と同様に名を与え、彼ともう1度この世界を歩む事を心に刻む。
前の彼と寸分違わず同じになることは決してない。
その事をしっかりと理解しながらも彼に会える事が嬉しくてたまらない。
邪神すらも消滅させる小さな幼女と、全ての勇者の装備の所有者となった執事の物語はこの異世界――ウイユベールでもう1度、新たに紡がれる。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
肉体の維持を勇者の装備を使わなければ出来ないほどに損傷してしまったアルには最早知識の、思い出の欠片も残っていません。
例え真の勇者となろうとどうにも出来ない事は多くあります。
でもワタリちゃんは決して諦めない。
まだまだ幼女と執事の物語は紡がれていくでしょう。
『幼女と執事が異世界で』これにて終わりです。
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